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コロナ後に鮮明化する米中対立と新興国の破綻連鎖 ほか


元国連紛争調停官 島田久仁彦
2020.06.05
・・・(中略)
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【米中対立の鮮明化】WHOを舞台にした米中対立は、アフターコロナ時代の医療・製薬・公衆衛生の覇権争いです。
アメリカ主導のCORD-19と、WHOが主導し実際には中国が引っ張るCOVID-19に対する国際枠組みの対立です。
WHOが舞台として、仮に票数のみで勝敗を決めるなら、中国の圧勝と言えますが(台湾参加問題については圧倒的多数票を獲得したことからも分かるように)、実際の影響力でいえば、アメリカ優位かもしれません。
それは、アメリカ側には、G7がいい例ですが、数は少なくとも経済力や技術力を兼ね備えた先進国が並んでおり、国際マーケティングという側面では、まだ中国の追随を許していません。
恐らく、新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬の開発・販売という点では、アメリカ側の“勝利”に終わるでしょう。
もちろん、中国サイドも黙って負けを受け入れることはないでしょうが。
次に3年余り続く貿易戦争の存在です。
これはコロナパンデミックまでの1月に米中合意の第1弾が成立し、アメリカが対中関税措置発動を猶予する代わりに、米国産農産物を中国が購入するという内容で落ち着きました。
しかし、【誰が新型コロナウイルスをばら撒いたか】という責任転嫁と情報工作の応酬によって、今、その第1次合意が反故にされる見込みです。
中国が米国からの農産物の輸入の約束を破棄するという内容です。
これはCOVID-19のパンデミックで需要がガタ落ちし、人の移動制限によって労働力不足が起き、長期的には供給力の低下にもつながりかねないという大きな恐怖をアメリカの農業界に突き付けることになります。
11月に大統領選挙を控えるトランプ大統領にとっては失うことのできない大事な票田ですから、トランプ政権に残された手は中国叩きの激化のみです。
それはさらなるバックラッシュを生むことになるでしょう。
例えば、アメリカビジネス界にとっても、また米市場に進出している中国企業にとっても、大きなジレンマに直面する事態を意味します。
貿易交渉の現場でよく口にされるジョークとして「中国でWin-Winの取引というのは中国側が2度勝つことだ」というものがありますが、米中対立の激化は米中双方にとってLose-Loseの様相を示すようになってきました。
アメリカやカナダから徹底的に行われるファーウェイ叩きは、アメリカのIT業界のパフォーマンス低下につながりますし、中国企業にとっては非常にスケール上魅力的な米国市場を失うことにもつながります。
アメリカ企業にとっては、政権の意向もあり、中国回避を行わざるを得なくなっていますが、中国を見捨てることも短期的には現実的ではなく、対中国マーケットについては中国で現地生産を続け、他に対しては中国抜きの供給網の確立を余儀なくされるという多方面での対応を同時に迫られるため、コロナで痛めつけられている経済をさらに鞭打つ恐れが増します。
アメリカで上場を果たしている有名中国企業にとっても大きなジレンマです。
先述のように米市場は非常に大きな市場で魅力的ですが、習近平国家主席と政権の意向には逆らえず、結果、米中ダブル上場という自国回帰を余儀なくされています。
これは一方では中国企業の競争力維持のための措置と考えられ、中国政府も側方支援するようですが、同時にダブル上場は一株当たりの価値を減少させる可能性が高く、それは投資家にとっては大きなリスクとなるため、下手すると世界を引っ張るレベルにまで成長した中国企業の成長の息の根を止めてしまうかもしれません(金融・株式の専門家の方、いかがでしょうか?)。
それでもアメリカとの対立構造を強めざるを得ないのは、習近平国家主席の国内での権力基盤がコロナ対策の失敗により揺るぎ始めているため、権威復活のためには、とにかくアメリカとの対立構造を鮮明化させる他ないとの判断だと読み解けます。
言い換えると、中国の成長を鈍化もしくは停止させる恐れがあっても、この機会を活かして、米欧との決別を画策するのかもしれないとさえ思われます。
それが鮮明化するのが5月28日に全人代で採択された【香港国家安全法】の制定です。
最新の分析では、早ければ6月末までの制定を目指すとのことで、つい先日も香港行政長官のキャリー・ラム女史を北京に呼びつけ、方針に対する全面的な支持を取り付けたことからも分かります。9月に香港立法府の選挙が行われますが、そこで香港の独立を目論むような民主派(背後にはアメリカ)が勝利するような事態を避けるため、アメリカでコロナ感染と国内に広がる人種差別に対するデモが激化している隙に中国共産党による香港支配を固定化してしまおうという狙いが見えます。
【香港国家安全法】の制定に対しては、アメリカも欧州各国も非難を強めていますが、アメリカの対抗策が激化する中、欧州各国は懸念を示しつつも、欧州の経済発展モデルに食い込んでしまっている中国を今失うことが出来ないというジレンマゆえに、中国の香港対策についてアメリカの報復措置に追随することはせず、あえて距離を置いています。
真偽のほどは分かりませんが、フランスの大統領外交顧問曰く「フランス政府としては、香港問題には口を出さない」方針が報じられました。
もし本当だとしたら、確実に米・欧の同盟内での分離が鮮明化してきています。
中国はこの“分離”に付け込み、アフターコロナの国際情勢における影響力の拡大を今、狙っているものと思われます。
それがWHOを巡る米中対立において、中国による支配を問題視しつつ、積極的な行動を取らない欧州各国の中途半端な態度にも見て取れます。
中国は一帯一路政策を通じた途上国の取り込みでアフリカ・東南アジアなどの票固めに入っていますし、その影響力はEUの弱点ともいえる中東欧諸国と南欧諸国にも及んでいます。
これはG7を巡る各国の対応のズレにも表れています。トランプ大統領は韓国やロシア、インド、オーストラリアを加えた拡大G7を提案するのに対し、欧州各国は、ロシアの招待はOKだが、G7への復帰は許さず、ましてや韓国とインドのG7の仲間入りは到底受け入れがたいとの姿勢で、「開催時期が変更されたとしても、アメリカの方針が変わらなければ、参加を拒否する」可能性にも言及しだしました。
今のところ【アメリカの忠実な同盟国】としてアイデアを評価しているのは、日本オーストラリア、そしてカナダで、すでに“同盟”関係にもスプリット(分離)が見えます。
ロシアは歓迎するどころか、態度を保留し、「G7はもう時代遅れで、世界的な議論はG20にするべき」とアメリカに牽制球を投げつけることで“拒否”し、アメリカとの対立軸を鮮明化させています。
とはいえ中国べったりでもなく、プーチン大統領のロシアは独自の軸を地政学上確保しようと躍起になっているようです。
支援やアメリカとの関係改善は、コロナで痛めつけられた経済状況からすると欲するはずですが、下がり続ける支持率を上げるためには、アメリカとの対立の演出が不可欠との判断をプーチン大統領とその側近たちは行っているようです。
今のところ、新型コロナウイルス感染拡大への恐れが残る中、9月開催の可否も不透明ですが、新型コロナウイルス感染のパンデミックは、戦後続いてきたG7の枠組みさえも崩すきっかけになってきたように思われます。そのG7の結束の弱化と分裂は、新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ新興経済国に止めを刺すことになるでしょう。
今週初め、レバノンエクアドルに続き、アルゼンチンデフォルト(債務不履行)に陥りました。
アルゼンチン政府当局は、外国の債権保有者との交渉を続けると発表していますが、貸し付けている(アルゼンチン国債を保有する)諸外国もコロナで経済が傷つく中、返済猶予に簡単に応じるわけにもいかないという状況が存在しています。
アルゼンチンの状況が改善しないとの見込みは、ブラジルやチリ、ペルーなどの近隣諸国経済にも大きなblowを打ち付けることになり、ラテンアメリカ諸国経済全体に悪影響が波及しかねない状況であるとの危機感が、IMFや世界銀行内で共有され始めましたが、すでに100か国以上から緊急支援要請が寄せられている状況では、ブレトンウッズ体制機関も打つ手がないとのことです。
その波はトルコや南アを襲い始めています。トルコリラや南アランドの対ドルレートの低下に歯止めがかからず、IMF内では“次にデフォルトになり得る国”として両国がレッドリストに入れられています。
トルコは中東諸国とアジア、アフリカをつなぐ経済的なハブの役割を果たし、新興国経済の発展モデルとしての位置を確立してきましたが、アメリカとの確執などを乗り越えてきたトルコ経済も、COVID-19の前にはひれ伏す一歩手前とのことです。
南アもアフリカの開発のエンジンとしての役割を担ってきましたが、同じくその威光も風前の灯火になってきています。
デフォルトやむなし”となってきている2つの地域大国に対し、ここでも米中の陣取り合戦が鮮明化しているようです。
器量設備や企業支援のために世界で13兆円規模のコロナ債が起債されるという、一見明るい話題にも見えるニュースが報じられていますが、民間ファンドからの出資を除くと、そのほとんどが国(途上国を含む)による国債発行による出資であり、すでに2020年と2021年で途上国の対外公的債務返済額が3兆ドル(321兆円ほど)に到達している状況下では、公的な支出でのコロナ債は、逆に新興国の首を絞める結果になりかねないとの懸念が膨らみ、そして米中によって分断される国際情勢の中、両国の陣地取り合戦と覇権争いが、さらに新興国の悲劇を増大させる可能性が大きくなってきているように思われます。
今のところ、このような国際情勢の中、日本は自国の立ち位置をハッキリさせていません。
国や政府を相手に何でも批判する・承認するという姿勢ではなく、「ダメなものはだめ、いいことは良い」というようにイシューベースの対応に徹して、地政学上の大波に飲み込まれないようにギリギリの線で踏みとどまっているように思われます。
日和見外交だとか、イニシアティブ・リーダーシップの欠如と批判する声も聞かれますが、私個人としては苦労の末、何とか独自の立ち位置を探る賢明な外交策ではないかと感じています。しかし、このイシューベースで対応する姿勢が通用するのもあとわずかの間かもしれません。
COVID-19の世界的なパンデミックは国際協調の下、深化してきたグローバリズムを停止させ、各国で進む自国第一主義や自国回帰の傾向を受けて、逆流しているように思われます。
そして米中というTwo Topsの国際体制が顕在化し、その他の国々は“どちらのブロックに属すか”を決めて行動しなくてはならないという対立構造に巻き込まれることになります。
結果として“モノ・コト”を実施するためのコストが上がり、経済的・社会的な格差も拡大し顕在化するものと思われます。
新型コロナウイルス感染拡大を受けて世界で進められた自粛生活は、リモートワークの可能性と質の向上、人とのつながりの重要性への気づきと再発見、新しい生活様式(特に精神的により豊かで余裕のある様式)への移行志向というポジティブな産物を世界にもたらしました。
またイノベーションを加速させたという利点もあります。しかし、それらの利点を大きく上回る懸念と分裂が私たちを襲ってきているのではないかと感じます。そのような中、いかに大波にさらわれ、溺れてしまうことなく、助け合いながら自分の立ち位置をちゃんと見つけていけるか否かの分岐点に私たちは立っているのだと思います。
私たちをいろいろな意味で豊かにしてきたグローバリズムは、今、終わりを迎えようとしています。

ROE・効率性重視では製造業が生き残れない理由

不確実性とダイナミック・ケイパビリティ 

中野 剛志 : 評論家
2020年06月09日

不確実性の高い世界で、製造業はどのような経営戦略をとるべきなのか(写真:yoh4nn/iStock)

新型コロナの拡大は、中国からの部材調達がストップするなど、サプライチェーンにも多大な影響を与えている。将来が予測困難な世界において、製造業はどのような経営戦略をとるべきなのか。
評論家の中野剛志氏が「不確実性」と「ダイナミック・ケイパビリティ」をキーワードに読み解いていく。


問題はパンデミックそれ自体ではない

*
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、世界の様相を一変させると言われており、早くも「ポスト・コロナ」社会の「ニュー・ノーマル(新常態)」についての議論が活発に行われている。
もちろん、そういう議論は必要である。ただし、問題の本質を見誤ってはならない。
例えば、中国武漢で感染爆発が起きた際、中国からの部材の供給が途絶したため、製造業のサプライチェーンを見直すべきだという声が高まった。その問題意識は正しい。しかし、中国から移した新たな製造拠点の国で、自然災害や戦争など別の危機が発生したら、再びサプライチェーンを見直さなければならなくなるだろう。
要するに、問題は、パンデミックそれ自体ではない。予測困難な激変が突然起きるという「不確実性」こそが、問題なのである。
「不確実性」には、パンデミック以外にも、自然災害、地政学的紛争、サイバーテロ、破壊的な技術革新、政治の不安定化など、いくらでもある。最近では、ブレグジットや米中貿易摩擦などが挙げられる。
われわれは、すでに「不確実性」に満ちた世界に生きている。しかも、近年、「不確実性」は著しく高まりつつある。今回のパンデミックは、そういう「不確実性」の1つにすぎないのだ。IMF(国際通貨基金)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事も、「不確実性が、ニュー・ノーマルになりつつある」と述べている(「世界経済のために強固な足場を見つける」IMF Blog 2020年2月20日)。まさに、そういう時代認識が求められている。
繰り返しになるが、問題の本質は、コロナウイルス感染症ではなく、「不確実性」にある。不確実性の高い世界を前提として、戦略を組み立てなければならないのである。
しかし、不確実性の高い世界では、将来予測がほぼ不可能であるがゆえに、有効な戦略を立案することは著しく困難なものとなろう。
例えば、製造業は、ある程度、将来を予測したうえで、技術開発や設備投資に踏み切るものである。しかし、将来が予測不能だということになると、リスクを負って巨額の投資を行うことは、およそ不可能になる。技術開発も設備投資もできないのでは、製造業は成り立ちえない。不確実性とは、製造業にとって最大の敵であると言っても過言ではない。
では、将来が予測困難な不確実性の高い世界において、製造業には、どのような経営戦略がありうるのであろうか。 


最も有効な生存戦略とは

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そこで『2020年版ものづくり白書』が着目したのは、現在、最も影響力のある経営学者の1人であるデイヴィッド・ティース教授(カリフォルニア大学バークレー校)が提唱する「ダイナミック・ケイパビリティ」論である。
「ダイナミック・ケイパビリティ」とは、環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力のことを指す。
ティースによると、企業の能力は、「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」の2つに分けられる。
「オーディナリー・ケイパビリティ」とは、与えられた経営資源をより効率的に利用して、利益を最大化しようとする能力のことである。それは、労働生産性や在庫回転率、あるいはROE(自己資本利益率)のような数値によって測定することができる。
オーディナリー・ケイパビリティは、言うまでもなく、企業の基本的な能力である。しかし、それだけでは、競争力を維持することはできない。なぜならば、環境や状況に想定外の変化が起きた場合に、どう対応すべきかについて、オーディナリー・ケイパビリティは、何も語らないからだ。
それどころか、オーディナリー・ケイパビリティが洗練され、精緻化されていればいるほど、それを変えるコストは高くなってしまうので、いっそう変化に対応できなくなる。
例えば、オーディナリー・ケイパビリティの観点からは、生産拠点を中国に集中させることは、正解だったのかもしれない。そのほうが効率的だからだ。しかし、その効率的なサプライチェーンが、パンデミックという「不確実性」によってもろくも崩れるのを、われわれは目の当たりにしたであろう。
そこで、「不確実性」に満ちた世界では、環境や状況の変化に応じて、企業内外の資源を柔軟かつ迅速に再構成して、自己を変革する「ダイナミック・ケイパビリティ」を高めることが必要となる。要するに、何が起きるか予測ができないのであれば、何が起きても迅速に対応できる能力を強化しておくことこそが、最も有効な生存戦略だということだ。


不確実な時代における経営戦略の「ニュー・ノーマル」

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慶応義塾大学商学部の菊澤研宗教授は、ダイナミック・ケイパビリティを説明するにあたり、コダックと富士フイルムを対比させている。
両社とも写真フイルムの生産販売で利益を得てきたため、デジタルカメラの普及によって苦境に立たされた。
コダックは、株主価値最大化を重視してオーディナリー・ケイパビリティに固執した結果、倒産の憂き目をみた。しかし、以前より、株主価値最大化よりもイノベーションを重視してきた富士フイルムは、既存の技術を再構成して新たな技術を生み出すことで、自己を変革して生き残った。富士フイルムは、まさにダイナミック・ケイパビリティを発揮したのである(「ダイナミック・ケイパビリティと経営戦略論」Harvard Business Review 2015年1月16日)。
このようなダイナミック・ケイパビリティこそ、コロナ危機を生き抜くうえで最も必要とされる能力ではないだろうか。「ポスト・コロナ」社会の議論が盛んだが、「ポスト・コロナ」社会の下で、相変わらず効率性やROEといったオーディナリー・ケイパビリティ重視の路線を継続するようでは、新型コロナウイルス以外の不確実性には対処できないだろう。
したがって、不確実性の時代における経営戦略の「ニュー・ノーマル」は、オーディナリー・ケイパビリティではなく、ダイナミック・ケイパビリティを重視する経営戦略となるであろう。
『2020年版ものづくり白書』は、製造業がダイナミック・ケイパビリティを構築するためには、どのような経営哲学、経営戦略あるいは人材が必要になるかについて、豊富な具体的事例やデータとともに詳述しているので、ぜひ、参考にしていただきたい。

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トランプが中国に覇権を譲る日〜WHO脱退、香港国家安全法対抗措置で袋小路へ

江守哲
2020年6月2日
トランプ政権が対中政策を強化し始めている。中国による香港への統制を強める「国家安全法」導入への対抗措置を打ち出し、WHOの脱退も表明した。すでに戻れない道を米国は進み始めている。それは「覇権国家を中国に譲る」という道である。
*
*米中関係の悪化
トランプ政権が対中政策を強化し始めている。
トランプ大統領は中国による香港への統制を強める「国家安全法」導入への対抗措置を打ち出した。香港に認めてきた優遇措置の撤廃に加え、「中国寄り」と非難してきた世界保健機関(WHO)脱退の意向も表明。対中強硬姿勢に拍車が掛かっており、米中対立が一層深刻化するとの懸念が高まっている。
トランプ大統領氏の強硬姿勢の背景には、11月の大統領選での再選をにらみ、「中国たたき」に活路を見いだしたい思惑があるとされる。5月29日の記者会見でも「中国は数十年間、米国を略奪してきた」と非難し、「歴代大統領とは異なり、公平で相互的な扱いを受けるために中国と交渉し、戦ってきた」と自賛している。
米政権内には、新型コロナウイルスをめぐる中国の対応への不信感が高まる中、ポンペオ国務長官ら対中強硬派とムニューシン財務長官ら穏健派に割れていた側近グループの間に「中国には攻撃的なアプローチを取るべきだ」という新たな共通認識が生まれているとされている。
トランプ政権が5月21日に発表した議会向けの対中戦略報告書では、中国の挑戦に対抗するため「競争的アプローチ」を採用すると表明した。歴代米政権の「関与政策」を批判した上で、「外交の効果がなければ、米国の利益を守る行動を取る」として、対決姿勢を打ち出している。かなり強行になってきているのがわかる。
*
*中国と本気で喧嘩したくはない?
5月に入って米商務省は、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)に対する輸出禁止措置を強化した。新疆ウイグル自治区のウイグル族弾圧に関与したとして、中国の33団体への禁輸制裁も発表した。また、国務省は中国人記者の報道ビザの有効期間を90日間に制限することを決めた。
ただし、外交実績である米中貿易合意を維持したいトランプ大統領は、中国との決定的な対立は望んでいないとみられている。対中批判を繰り広げた5月29日の記者会見でも、習近平国家主席の名前は出さず配慮を見せたとされている。さらに、会見後に記者団に「私たちは米中新冷戦の開始を目の当たりにしているのか」と問われた際にも、「中国には本当に不満だ」と述べるにとどめている。
トランプ政権は今回の制裁に関する措置を実施する期限は示していない。香港で操業している米企業は厳しい措置に反対を示しているため、時間を稼ごうとしている可能性がある。
トランプ大統領このほか、大学研究の保全に向け、リスクがあると見なす人物について中国から米国への入国を停止することも明らかにした。これに関連して、米政府が中国人留学生の学生ビザ取り消しを計画しているとされている。米国の大学院で学ぶ中国人3,000〜5,000人への影響が懸念されている。
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*中国企業の米上場廃止まで検討?
またトランプ大統領は、「米国民が中国企業に投資するリスクを回避するための方法を検証する」と表明。「投資会社は、共有する規則の下で運営されていない中国企業に投資する不当な隠れたリスクに顧客をさらしてはならない」とし、政権内の金融市場に関する作業部会に「米国の投資家保護を目的に、米株式市場に上場する中国企業のそれぞれの慣習を検証するよう指示した」と明らかにした。作業部会にはムニューシン財務長官、パウエルFRB議長、米証券取引委員会(SEC)のクレイトン委員長らが参加する。
トランプ大統領は厳しい姿勢を示しながらも、中国との対立が一段と精鋭化すれば、難航した協議の末にようやく得られた第1段階の通商合意が覆されると認識しているとみられる。香港には約1,300社の米企業がオフィスを構え、約10万人を雇用。大統領はこうしたことにも配慮しているものとみられる。
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*ついに世界保健機関(WHO)を脱退へ
さらに、新型コロナウイルスへの対応などをめぐって「中国寄り」と批判してきた世界保健機関(WHO)に対し、米国が求めてきた改革を行わなかったと指摘し「関係を断絶する」と断言し、脱退の意向を表明した。そのうえで、WHOへの資金拠出を他の国際公衆衛生活動に振り向けるとした。
また、いったん使用を控えてきた「武漢ウイルス」の名称も再び持ち出し、中国が新型コロナ感染を隠蔽したと改めて批判。香港の自治侵害に関わった中国や香港の当局者に対して制裁を科す方針も示した。
トランプ大統領は強硬姿勢を強めすぎることで、米国経済が悪化し、それが自身の再選を妨げることはしたくないという思惑があるのだろう。
しかし、進んだ道を戻るわけにはいかない。すでに戻れない道を米国は進み始めている。それは「覇権国家を中国に譲る」という道である。
*中国は強気姿勢を継続
中国の李克強首相は28日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の閉幕に当たって記者会見した。
新型コロナウイルス流行で落ち込んだ景気の回復に向け刺激策を打ち出す余地はあるが、大規模な措置は想定していないとした。湖北省武漢が発生源になった新型コロナの影響から中国経済は回復しつつあるが、第1四半期の成長率は前年同期比6.8%減少し、四半期の統計でさかのぼれる1992年以降で初のマイナスとなった。
また、今回の全人代でも19年ぶりに成長目標の公表を見送った。李首相は新型コロナ流行を制御できたとし、今年もプラスの経済成長達成に努めると表明。政府は必要に応じて支援するとし、「政策余地は備えている。タイムリーに新たな政策を打ち出すことは可能で、中国経済の安定運営を維持するためにためらわない」と強調した。一方で、経済成長率を重要視していることに変わりはないとした。
また中国は大規模な刺激策を必要としないものの、「例外的な状況で例外的な措置が必要となるため」流動性は増加すると指摘した。また、経済政策について、雇用安定と中小企業の存続など6つの優先課題に注力しているとした。政府は先に、20年の財政赤字見通しを対GDP比で少なくとも3.6%とし、昨年の2.8%から引き上げた。これは、政府活動報告で打ち出された財政刺激策の規模はGDPの約4.1%に相当する。
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*「香港国家安全法」を急ぐ中国政府
中国全国人民代表大会(全人代)は28日、「香港国家安全法」の制定方針を圧倒的賛成多数で採択した。香港国家安全法は、香港での分離や政権転覆、テロリズム、外国からの介入を阻止することを目的とする。全人代常務委員会による法案策定を賛成2,878、反対1、棄権6で採択した。
香港国家安全法の詳細は数週間内に策定され、9月までに成立する見通し。李克強首相は、国家安全法は香港の長期的安定と繁栄に資するとした。
香港特別行政区政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、全人代での採択を歓迎する声明を発表、「国家安全法は、香港市民の権利や自由に影響を及ぼすことはない」とし、「法制定作業のできるだけ早い完了」に向け香港政府が中国政府に全面的に協力する方針を示した。
香港では、中国政府による香港統制が強まるとの懸念が高まり、抗議活動が実施されている。中国当局は、香港の自治が脅かされることは全くなく、香港国家安全法の対象は絞られていると説明するが、米欧などは懸念を表明している。
中国による国家安全法の香港への導入方針について、香港の旧宗主国である英国は、「一国二制度の原則の土台を壊すものだ」と重大な懸念を表明。中国企業の次世代通信規格「5G」網参入をめぐるあつれきや、新型コロナウイルス感染拡大に絡んだ中国への不信が高まる中、今回の中国の動きを受け、対中関係の見直し論に拍車が掛かるのは必至である。
英中関係も冷え込む
経済の結び付きを強める英中関係は数年前、「黄金時代」とされていた。しかし、英国では昨年から今年にかけ、5G網の整備に中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)の参入を認めるかが大きな議論になり、対中関係の変調が鮮明になっている。
英政府は今年1月に同社参入を認めたが、通信網の中核からは除外し、ファーウェイ締め出しを求めた米国に配慮した。しかし、米国を失望させた上、国内では中国不信を強める与党議員らからも「最悪の決断」などと批判が巻き起こった。
そこへ新型コロナの世界的流行が発生。英国でも中国の初動のまずさが大流行につながったとの疑念がくすぶっている。ラーブ外相は4月中旬、感染拡大の原因について国際的な徹底調査を求めた上で、コロナ危機収束後の対中関係について「以前と同じに戻ることができないのは間違いない」と発言している。
一方、中国の李克強首相は28日、全人代の閉幕にあたって会見し、「中国と米国は互いの核心的利益を尊重し、相違に対処すべきだ」とした。李首相は「両国は互いを尊重し、平等を基に関係を築き、互いの核心的利益と主要な懸念を尊重し、協力を受け入れるべきだと私は信じている」としている。
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*SNSにも難癖
トランプ大統領は5月28日、SNS企業などを保護する法律を撤廃するか効力を弱める法律を導入すると表明し、大統領令に署名した。
ツイッター社は29日、ミネソタ州の黒人男性が警察官に押さえつけられた後に死亡した問題への抗議に関するトランプ大統領の投稿に「暴力の賛美についてのルールに違反する」との警告を表示した。トランプ大統領は同社の別の警告表示に反発し、SNS運営側の投稿への介入を阻止するための大統領令に署名している。
トランプ大統領は、一部が暴徒化して、非常事態宣言が出された同州の抗議に関して「これらの悪党は死亡した黒人男性のジョージ・フロイドの名誉を傷つけている。ワルツ州知事とさっき話をして軍は最後まで一緒にいると伝えた。どんな困難でも私たちはコントロールするが、略奪が始まれば、射撃が始まる」などと投稿した。
ツイッター社はこの投稿の上に、暴力を引き起こす可能性があるとして禁止されている「暴力の賛美」の警告を表示し、「公共性があると判断した」と引き続き閲覧できるようにした。トランプ大統領は警告を受け、「ツイッターは中国や急進左派民主党から出されたうそと宣伝については何もしていない。彼らの免責特権は剥奪されるべきだ」と投稿し、同社の対応を改めて非難した。
SNSにも難癖をつけるトランプ政権だが、ますます袋小路に入っていくだけであろう。まさに政権の負のスパイラルへの突入である。
*
*これから起きる歴史的大転換
全人代で賛成多数で採択された「香港国家安全法」に対する米国の対応だが、トランプ大統領も手札がなくなってきたようである。WHOの脱退も宣言した。ますます袋小路である。
米国の内向き志向は、米国の衰退をさらに加速させている。トランプ大統領の表情をみると、すっかり元気がなくなっているようにみえる。大統領選を前にすでに戦意喪失、このまま引退したいと考えているかのような精気のなさである。
米国から見れば、中国の独断は許せないだろうが、すでに中国は米国を超える力を備え始めている。米国はそれに気づいている。しかし、放置もできない。そこで、仕方なく圧力をかけているというのが現状である。過去の歴史は最終的には戦争で決着をつけるのだが、それも費用が掛かりすぎて現実的ではない。
しかし、2020年は歴史の転換点である。50年の景気サイクルであるコンドラチェフサイクルを当てはめると、今年がほぼピークに相当する。その前はハイテクバブルである。50年サイクルの4サイクル前の200年前は英国の産業革命である。この数年間で米国主導の資本主義経済の形は変わっていくだろう。
その結果、中国主導の社会資本主義が中心的な考え方になっていくだろう。それを採用し始めているのは、ほかでもない米国であろう。
新型コロナウイルスの感染拡大で経済が落ち込むことを避けるため、政府は国民に配給制とも言える資金供給を行った。これにより、個人所得が急激に上がっている。失業していても、たっぷりとお金が手元に入ってくる。仕事をする必要がないのである。そのお金で株式を買っている若者も少なくないようである。だからこそ、株価が上がっているのだろう。しかし、経済が止まり、企業業績が悪化する中、株価だけが上昇する。
まさに、ルービニ教授が指摘するように、経済実態と株価の乖離が拡大するだけである。それを示しているのが、バフェット指数である。
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*いずれ今の米国株は壊れる
このように考えると、いずれ今の米国株は壊れるだろう。
壊れなければなんでもあり、という話になる。輪転機を回して、その紙幣で株を買う。経済実態や企業業績は関係ない。そんな株価上昇が続くはずもないだろう。株価を上げることも重要だが、それ以上に重要なのは、米国経済の力を回復させることである。
しかし、これにも限界がある。米国民はすでに気力を失っている。また、安易な方に向かっている。製造業や物を作ることの重要性を忘れ、安価なものを輸入すればよいという発想が染みついている。そして、製造業から金融業に移行した。安易な選択だが、これが米国をいずれダメにするだろう。
すでにその動きは始まっている。そして、米国が中国に難癖をつければつけるほど、その弱点が浮き彫りになっていくだろう。ドルは依然として基軸通貨であり、当面もその地位を維持するだろうが、いずれはそうでなくなるだろう。
覇権国家としての地位を奪われれば、必然的にドルは基軸通貨ではなくなる。
中国がデジタル法定通貨の発行に向けて着々と準備を進めているがドルという基軸通貨に安住している米国はますます中国との距離が離れていくだろう。
現在はこのような覇権国家の移行期にあることを十分に理解し、中国批判だけを行っていると世の中の変化を完全に見誤ることを理解しておく必要がある。

日本経済、コロナで原爆も空襲もなく焼け野原へ。GDPマイナス25%の世界が来る

今市太郎
2020年5月29日
日本の4〜6月期GDPがマイナス25%になるとの衝撃的な予測が出ています。
実額としては20兆円近い消費の落ち込みになるわけですから、それはもうすさまじい数字であると認識すべき状況です。
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まもなく日本経済の悪化が可視化される
世界的に「経済の早期再開期待」などという浮ついた理由から、国内の株価も上昇を維持しています。
しかし、国内経済の前のめり再開のおかげで、いよいよ実態経済の悪化のひどさが可視化されてくることになりました。

そのため、これまでに正確に感じられなかったその壊滅的悪化ぶりを、ようやく多くの国民が身をもって感じさせられる時間がやってくることになりそうです。

四半期GDPは終わってから発表になる遅行指標ですから、正確な数字が示現するのは7月以降。

そもそも本当の数字がちっとも良くわからない疑惑の殿堂内閣府がまとめるので、手心が加えられる心配もあります。

GDPマイナス25%の世界が来る
米国アトランタ連銀が想定する4~6月のGDP縮減率はマイナス42%超という猛烈な数値になっていますから、日本で予想されている「マイナス25%」程度の数値はさらに悪化することさえ考えられる状況になってきています。
しかも、第2四半期の一時的な落ち込みだけで終わるかどうかは、まだ誰にもわからないのが実情。今年1年間の落ち込みは、我々が足元でほのかにイメージする内容より遥かに悪化することだけは間違いなさそうな状況です。
第2四半期だけで25%のマイナスGDPが示現した場合、実額としては20兆円近い消費の落ち込みになるわけですから、それはもうすさまじい数字であると認識すべき状況です。
国内の市場をネットのチャート上から見ている投資家にとっては、どうもまったくリアリティが感じられないものになってしまっているようです。
レイ・ダリオほか著名投資家は慎重になっている
年初まで人手不足がよく語られていましたが、足元ではもうまともなバイトすらなく、求人情報が掲載されても学生から失業者まで殺到することから、経済再開といっても収入を確保する手段が著しく限られている状況が顕在化しはじめているようです。
この3月、リスクパリティ戦略をとりながらも久々に巨額の損失を出してしまった世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターアソシエイツのCEOレイ・ダリオは、LinkdInのインタビューで、足元の状況が1933年当時の大恐慌の真っただ中の状況と酷似しており、すでに不況を超えてカネと信用を作り出すメカニズムが完全に崩壊したと語っています。
当然、株価が元に戻り、それを超えて行くには相応に時間がかかり、簡単ではないとの指摘もしています。
「歴史は常に繰り返す」とする見方をしているレイ・ダリオの視点は、国内外で中央銀行がなんとかしてくれるから相場は大きく戻し、この下落が最大のチャンスであるという見方をする投資家とはかなり異なるもの。
相場に精通して大きな利益を得ることができたエキスパートほど、今の相場の上げには追随していないことがわかります。

悲観と楽観で真っ二つに割れた金融市場
どうも足元の市場は、次の2つの層の人たちに分かれているように見えます。
それは、大恐慌を実感してこれからさらに厳しい状況が展開し、大きなパラダイムシフトが待っていることを予想・実感しはじめている層。
そして、実態経済はどうであれ相場は大きく戻すという楽観主義から、どれだけ危うくてもそれに賭けるしかない層です。
ここからの相場展開を想定するにあたって、このどちらの意識を強く持っていくのかは、投資の結果にもかなり大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
過度に悲観論を振りかざす必要はありませんが、さりとてなんの根拠もない楽観論だけで相場を買い向かうのも相当リスキーな時間帯が到来していることを感じさせられます。

日本が焼け野原になっているのが見えないのか?
AIやアルゴリズムが相場を先導するようになってから、ヒトの裁量取引ならとっくの昔に認識できたような事柄が、事実として示現してはじめて相場がその方向に動き出すという、妙な時間のズレがかなり示現するようになっています。
まさに足元の状況は、そのズレが最大に乖離した状況なのではないか?と強く実感させられます。
見かけ上の日本社会は店舗のシャッターが閉まりネオンが点灯していないだけで、正月かお盆休みが延長しているだけにしか見えません。
しかし現実は遥かに壊滅的で、原爆も空襲もないものの、その後に匹敵する焼け野原状態がすでに姿を現そうとしているように思われます。
緊急事態宣言が解除されたことで東京の経済再開が徐々に始まると、その状況はますます露わになることでしょう。
改めて、大恐慌という状況がどんなものなのか、再認識する必要がありそうです。

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