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想定外だらけ「次期米国政権」襲う4つの難題


これまでにないほどの危機に直面している

グレン・S・フクシマ : 米国先端政策研究所(CAP) 上級研究員
2020年06月10日
 

11月3日の大統領選まであと5カ月を切ったが、アメリカにおける2月以降の状況が、4つの大きなサプライズを生み出している。そして、こうした予想外の展開は、現職のドナルド・トランプ大統領と、対立候補のジョー・バイデン前副大統領のどちらが選挙に勝利するかにかかわらず、2021年1月20日に発足する新政権に4つの重大な課題を突きつけている。

バイデン、崖っぷちからの勝利

1つ目のサプライズは、2月29日に行われたサウスカロライナ州の予備選挙でバイデンが圧勝したことである。

3日のアイオワ党集会、11日のニューハンプシャー予備選、22日のネバダ州の党集会で連敗を喫したバイデンは、まさに崖っぷちの状態にあり、サウスカロライナ州で敗れていたら大統領選から撤退せざるを得ないと見られていた。
しかし、アフリカ系アメリカ人のジム・クライバーン下院議員とアフリカ系アメリカ人有権者の支持のおかげでバイデンは奇跡的なカムバックを果たし、一般投票の49%を獲得して決定的な勝利を収めた。
2つ目のサプライズは、3月3日のスーパーチューズデーまでに、バイデンは複数の重要な州の予備選挙で勝利し、その結果、エイミー・クロブシャー、ピート・ブティジェッジ、マイク・ブルームバーグ、トム・スタイヤー、ベト・オルークなど、民主党におけるかつてのライバルの多くからの支持を得ることに成功したということだ。
予備選挙のこれほど早い段階で、1人の候補者のもとにこうした結束が民主党でできると予測していた者はほとんどいなかった。むしろ観測筋のほとんどは、全国大会(もともと7月13~16日に予定されていた)に向けて党に深い亀裂が生じると予測していたし、「ブローカード・コンベンション」(仲裁集会)の可能性さえ指摘されていたのである。
民主党がこれほど早期にバイデン支持で団結できた1つの理由として、党内の多くが、穏健派の間で戦いを続ければバーニー・サンダースが党の指名を獲得することになるとおそれていたことがある。民主社会主義者を自称するサンダースが民主党候補者になれば、トランプが再選を勝ち取る可能性が高まるだろうと考えられた。
少なくともこれは、リチャード・ニクソン大統領がジョージ・マクガバン上院議員から地滑りで再選を勝ち取った1972年の大統領選や、ロナルド・レーガン大統領がウォルター・モンデール元副大統領から地滑りで再選を勝ち取った1984年の大統領選から、民主党員の多くが得た教訓である。
3つ目のサプライズは、3月下旬でもまだ予想されていなかった、コロナウイルス感染症(COVID-19)による荒廃である。公衆衛生の専門家は、近い将来に致命的なパンデミックがアメリカを襲う可能性があるとして警告していたが、これほど大きな被害をもたらすと予測していた者はほとんどいなかった。
6月初旬の時点で、感染者は約200万人、死者は11万人以上である。4000万人以上の雇用が失われ、失業率が数週間のうちに3.5%から15%近くまでに急上昇させた新型コロナは、第2次世界大戦後のアメリカ最大の危機であり、1930年代の大恐慌以来最大の経済的大惨事である。
4つ目のサプライズは、出来事としては意外ではないが、その影響は十分に予測されていなかった。

5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで、丸腰で手錠をかけられ、警察に拘束されていたアフリカ系アメリカ人男性ジョージ・フロイドが白人警官によって残忍に殺害された事件は、白人警官による丸腰のアフリカ系アメリカ人男性の殺害が相次いでいることに代表されるアメリカの人種的緊張の中で、最後の一押しとなった。
数日のうちに、抗議やデモは50州すべての600以上の都市や町、ほかの国々にまで広がった。

このようにして、人種的不平等、刑事司法、そして有色人種、とくにアフリカ系アメリカ人に対する警察の暴力の問題が、一夜にしてすぐさま対処が必要な喫緊の問題となったのである。

 

次期政権を待ち構える難題

大統領選挙で誰が勝利するかにかかわらず、アメリカの次期政権は、おそらくこの1世紀ほどにおける政権が直面したどれよりも困難な、大きな課題に直面することになるはずだ。

次の4つの問題には、時間、注意、資源をとくに集中的に配分しなければならなくなるだろう。
1つ目は、新型コロナによってもたらされた公衆衛生の危機をどう克服するかということである。

そのためには、感染例をゼロにすること、あるいは少なくとも大幅に減らすことが必要であり、ウイルスによる死者をなくすことが必須である。信頼性の高い検査を必要とするすべての人が受けられるようにするためには、資源を投入しなくてはならない。ウイルスの免疫をつけるためのワクチンや、患者の治療や回復に有効な薬剤の開発の迅速化には、政府と民間の協力も必要であろう。
さらに、一部の公衆衛生専門家が秋にアメリカを襲う可能性があると予測している新型コロナの第2波に対し、最大限の予防を見据えた対策を講じる必要もある。

毎年発生しているインフルエンザの流行と重なるようなことがあれば手に負えない事態となる可能性もあり、医師、看護師、病院施設、人工呼吸器、PPE(個人用保護具)などへの事前投資が新たに必要となる。
最後に、今後のパンデミックに対してアメリカがより効果的に対処できるようになるためには政府対応の改革が必要となるだろう。
2つ目の課題は、過去数十年で最悪の失業率となるであろうこの状況から、いかにして経済を立て直すかということである。伝統的小売業のような一部の産業では、新型コロナの第1波によって生じた損失を完全に回復することは困難であり、小売業は新たな形態を生み出す必要があるだろう。
2016年の大統領選挙では、民主党と共和党の双方が巨大なインフラプロジェクトを提案していたが、そこには交通インフラに関するものや、民主党では再生可能なクリーンエネルギーに関するものも含まれていた。

経済を活性化させ、新たな雇用を創出するために、次期政権ではこうした計画の復活や拡大が必要になるのはまず間違いない。

 

深刻化する格差問題

次期政権における大きな課題の3つ目は、人種間の不平等、刑事司法、有色人種、とくにアフリカ系アメリカ人に対する警察の暴力の問題に対処することである。

国勢調査局によると、アフリカ系アメリカ人の収入は、非ヒスパニック系白人の5分の3程度がやっとというところである。2018年の黒人世帯の平均収入は4万1400ドル(約450万円)で、白人世帯の平均収入は7万600ドル(約770万円)であった。
黒人と白人の貧富の差は、所得格差よりもさらに大きい。

2017年の連邦準備制度理事会によると、アフリカ系アメリカ人の純資産中央値は1万7600ドルで、ヒスパニック系を除く白人の17万1000ドルに対して10分の1に過ぎなかった。
新型コロナは、とくに有色人種に大きな打撃を与えている。

ニューヨークでは、黒人とヒスパニック系の死亡率は白人の2倍であり、シカゴでは黒人の死亡率は5倍にのぼる。

1つの要因として、黒人は白人よりも健康保険への加入率が低いことがある(2018年のデータでは、 無保険者は黒人12.2%に対し白人7.8%)。

こうした人種問題は、トランプ大統領と指名候補者のバイデンとの間で行われる大統領討論会において、ほぼ確実に中心的な問題となるだろう。
次期政権が直面する4つ目の大きな課題は、世界におけるアメリカの役割を再定義することである。トランプが再選されれば、彼は高い確率で「アメリカ第一主義」を継続し、2017年の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱や2020年の世界保健機関(WHO)脱退と同様に、国際協定や国際的機関からさらにアメリカを撤退させる可能性が高い。
バイデンが当選した場合、彼はアメリカの世界に対する関与を回復させ、そして、コロナウイルスとの戦いや、雇用創出に向けたさらなる輸出市場開拓のために、世界各国と協力しようとするだろう。

また、中国の台頭に直面している状況にあって、アメリカの国際競争力を高めるために、国内のインフラ、教育、研究開発、技術力の向上を図ろうとするはずだ。

ノーベル賞受賞物理学者のニールス・ボーアが1971年に皮肉として記したとされる言葉に「“予測”、とりわけ“未来”の“予測”は非常に困難だ」というものがある。

11月のアメリカ大統領選が近づく中、確かにその通りの様相を呈してきた。

コロナウイルス、経済、人種問題、外交問題などのいくつかの変数は、ホワイトハウスだけでなく上院や下院の選挙結果に間違いなく影響を与える。しかし、選挙結果は不確かかもしれないが、来年1月20日からのホワイトハウスの主が誰になろうと、その人物が大変な仕事を背負い込むことになるのは確実である。


迷走トランプ、宿敵バイデンに大差14ポイントつけられ再選ムリ?

2020.06.09

米CNNテレビが8日伝えた世論調査によると、11月の大統領選で民主党のバイデン前副大統領に投票すると答えた人が55%に上り、共和党のトランプ大統領と答えた41%を大幅に上回った。
その差は5月調査の5ポイントから14ポイントに拡大したと時事通信が伝えている。
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*トランプ大統領が大ピンチ
今秋行われる米大統領選で再選を目指すトランプ大統領に暗雲が立ち込めている。
バイデン氏との差が前回の調査より9ポイントも広がり、トランプ大統領にとっては苦しい展開となった。これは人種差別抗議デモに対して威圧的なトランプ氏の対応への批判が影響したとみられ、その差は今後も広がる可能性さえある。
時事通信によると、トランプ政権の支持率は前月比7ポイント減の38%で、不支持率は57%で、1期目の大統領のこの時期の支持率としては、再選を果たせなかったカーター、ブッシュ(父)両元大統領と同等だという。
*選挙集会を再開するトランプ陣営
この厳しい情勢を受けてか、米紙ポリティコ(電子版)などは8日、トランプ大統領の陣営が、新型コロナウイルスの感染拡大を受け自粛していた選挙集会を2週間以内に再開する方針だと報じた。
陣営幹部が数日中に再開案をトランプ氏に提示する見通しで、集会が開かれれば3月上旬以来となる。
具体的な集会の開催地や参加者のウイルス感染防止策は決まっていないが、トランプ陣営幹部は「(民主党候補に確定した)寝ぼけたジョー・バイデン(前副大統領)が夢想するしかないくらいの人出と熱狂を目にするだろう」と宣言したと時事通信が伝えている
*トランプ劣勢、バイデン有利という構図
大統領選まで5カ月を切る中、新型コロナウイルス、黒人男性暴行死事件に抗議する大規模デモ、悪化する米中関係など、問題が山積みの中、突き付けられた厳しい数字。果たしてトランプ大統領はどう動くのか。この報道を受け、ネット上でもさまざまな声が上がっている。 

トランプ落選は確実か。アメリカの理念を崩壊させた大統領の功罪

2020.06.09

 津田慶治

警察官による黒人男性殺傷事件に抗議する大規模デモに対し、人権無視とも言える軍による鎮圧を示唆したトランプ大統領に、国内外から非難の声が上がっています。この動きを受け「トランプ氏の再選は極めて困難になった」と持論を展開するのは、日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さん。
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*トランプ「再選不可」なら日本は?
米国内の抗議デモを、トランプ大統領が軍で制圧しようとしたため、マティス元国防長官にまで「国を分断させる」と非難された。これでトランプ再選は、ほとんど不可能になったようだ。その時の日本はどうするかの検討。
*米国および世界の状況
NYダウは、2月12日29,568ドルまで上昇して史上最高株価になった。
3月23日18,591ドルまで下げて、先々週5月29日は25,383ドルで、6月1日は91ドル高の25,475ドル、2日は267ドル高の25,742ドル、3日は527ドル高の26,269ドル、4日は11ドル高の26,281ドル、5日は829ドル高の27,110ドル。
黒人暴動やコロナなどの問題点があるが、経済活動再開期待で連日の大幅高になっている。
自宅でのリモートワークで、株を個人投資家が盛んに取引して、株価を上げている。実体経済とは関係ないような雰囲気になっている。
給付金で米国の個人所得は10%も増えているが、消費支出は14%も減っている。
結果、貯蓄が33%も増えた。この貯蓄で株投資をしているようである。
その上に、5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数は250万人増で、失業率は13.3%と大幅な改善となり、大幅高になった。
ナスダックは、2月19日の最高値9,838ポイントに迫る9,814ポイントになった。場中に9,845ポイントになり、史上最高値を抜ける場面もあった。
欧州では、欧州復興基金をドイツのメルケル首相が賛成して、かつECBは1兆3,000ユーロの金融緩和策を実施するなどで、欧州経済の落ち込みが限定的になったと、ユーロが上昇している。
メルケル首相は、EUの一体感を保持して、次の世界秩序の中心になることを目指しているように感じる。
米国の衰退がハッキリしてきたので、次に世界を支えるのはドイツであると見ているようだ。
しかし、「倹約4カ国」と呼ばれるオーストリア、オランダ、スウェーデン、デンマークは、欧州復興基金に反対している。
*日本の状況
日経平均株価は、2018年10月02日に24,448円でバブル崩壊後高値になり、3月23日18,591ドルまで下げて、先々週の5月29日は21,877円、6月1日は184円高の22,062円、2日は263円高の22,325円、3日は288円高の22,613円、4日は81円高の22,695円、5日は167円高の22,863円。
15週売り越していた海外投資家が、大量な買いに回り、日経平均株価が連騰に沸いている。
その上に、日本も自宅でのリモートワークで、個人投資家が増えて、株価を押し上げている。
2万3000円台に乗せると、コロナ下落前の水準になる。実体経済は悪いが、株価は高い状態になっている。
それと同時に、1ドル109円台と円安に向かっている。米国長期金利の上昇で金利差が拡大したことで、円安株高のリスクオン相場の形になってきた。
1次と2次補正予算で60兆円と大幅な財政出動をするが、年間予算は100兆円であり、大幅な増額になっている。3次補正予算の可能性もある。
しかし、この補正の税収はないので、すべて国債であり、その国債を日銀が無限大に買うという。
政府と日銀が一体で資金を作るということは、実質的に財政ファイナンスである。市中の通貨量が増えることになる。この面からも円安になる。
FRBの無限大の金融緩和で、日銀が何もしないと円高になるが、財政ファイナンスを行うことで、円高を止めて円安にしている。日米が協調的な金融緩和を行っているとも見える。
しかし、現在、このコラムで提案した大幅な財政出動を実行することで、大恐慌を止めるしかない。
というように、想定した円安である。
ハイインフレになる可能性もあるので、国民の皆さまは、株投資や海外投資をして、円で持たない方が良いことになる。
このためがどうか、日経平均株価も上がり、2万3,000円台直前となったのでしょうね。
*米国の抗議デモを武力で鎮圧か
ミネソタ州でのフロイドさんを窒息死させた警官に対する抗議のデモが米国全土に広がっている。
一部暴徒化して、裏にアンティファという中国の組織があるとして、このデモに対して、トランプ大統領は、「民生・軍隊など連邦政府の資源で利用できるものをすべて動員する」と警告した。
しかし、抗議デモに対して人種差別反対の見解もなく、人権擁護の言葉もなく、テロ組織の行為であり、軍を使った鎮圧をするとした。
その上、州兵を使わない州知事を非難した。
そして、平和的なデモを行っていたワシントンのデモ隊に対して、州兵が催涙ガス弾を発射しデモ隊を制圧している。
一部の過激な暴動に対する州兵の行為はまだ、許されるが、平和的なデモを力で制圧した。
これに対して、マティス元国防長官が「ドナルド・トランプ氏は、米国人を結束させようとしないばかりか、そのふりさえしない。
こんな大統領は私の人生で初めてだ」「それどころか、私たち米国人を分断しようとしている」と批判した。
これに続いて、マーク・エスパー米国防長官も反乱法を発動して連邦軍武隊を派遣し、デモを鎮圧することに反対すると表明。
エスパー氏は記者団に対し、「このような状況下で行政当局に対する支援を行うには、州兵が最も適しているとこれまで常に考えてきたし、今後も変わらない」と表明。「現役部隊の動員という選択肢は、最終手段としてのみ使われるべきで、最も緊急かつ差し迫った状況に限られるべきだ」とし、「われわれは現在、そのような状況にない」とした。
6月4日は、31年前に天安門事件があった日であり、平和的なデモ隊に中国人民軍が出て弾圧したが、これと同じようなことを民主主義国家の米国でも行うことになりそうになった。
トランプ大統領は、「人権」より「法と秩序」を優先したことで、香港での国家安全法を施行する上で、香港市民のデモを軍事力と警察力で完全に抑え込む習近平国家主席の「人権」より「法と秩序」と変わりがないことにもなる。
このような情勢で、政治的な発言を控えていた前・元米大統領4人が、記者会見を行い、暗にトランプ大統領の軍によるデモ鎮圧を非難した。
エスパー米国防長官も多くの米軍幹部から抗議を受けて、軍隊の派遣を停止したようであるし、軍隊の構成員に黒人が多く、抗議デモの鎮圧は、軍の中にいる黒人たちが反乱を起こす可能性もあった。
事実、州兵が抗議集会に同調して参加していた州もあるし、警察官が抗議集会で片膝を立てて座り、同調する姿もあった。
これと同じことが米軍でもおきる可能性が高いのは、米軍のトップ層まで黒人がいるからであるが、そうすると軍の反乱となり、米国の崩壊になる危険性も、歴史家で人格者のマティス元国防長官は見ていたように感じる。
軍隊はあくまで外の敵に使うものであり、国内のある勢力に使うときは、慎重に行う必要がある。
事実、ミリー統合参謀本部議長、マッカーシー陸軍長官、ギルデイ海軍作戦部長、ゴールドファイン空軍参謀総長などが「軍は米国民とともに」と表明して、トランプ大統領、総司令官の命令に従わないとした。
普通なら、エスパー国防長官と米軍幹部を大量に解雇すればよいが、それもできない。軍を敵にすると、クーデターやトランプ暗殺の可能性も出てくる。
というように世論が分裂した状態で、軍を使うことは難しい。
そのような基本的なことも知らないトランプ大統領は、大きな反発を受けることになったようである。
軍出動は、ローマ帝国の最後と同じになる。ローマ軍の主力がゲルマン民族になっていたが、ゲルマンの反乱にローマ軍が出動したが、逆に反乱軍になって、ローマ帝国は滅亡する。
このため、バイデン候補の支持率が急上昇している。トランプ大統領の支持率はコアな人たちであるので支持率40%と変わらない。
黒人層が大挙して、バイデン候補を支持し始めた。福音派の一部や共和党保守本流もトランプ大統領から離れたようである。
批判が大きくなり、やっと、トランプ大統領は、フロイドさんが受けたような暴力は許されないと発言。
法の下の平等な正義は、人種、肌の色、性別、信条に関係なく、全ての米国人が法執行機関から平等な扱いを受けることを意味しなければならない」と語った。やっとである。
というように、ローマ帝国崩壊と同じような米国の崩壊を目の前で見ている。米国の破壊者トランプ氏の破壊力はすごいことになっている。
米国の理念も潰し、米国の時代は過ぎ去った。
*日本の外交はどうするか?
トランプ大統領の「人権」より「法と秩序」の考え方に、ドイツのメルケル首相、カナダのトルドー首相も唖然としている。
このため、メルケル首相は6月に計画したG7首脳会議への出席を辞退した。
また、イギリスのジョンソン首相も、ロシアをG7に復帰させるというトランプの提案を拒絶した。
このようなことは、欧州の同盟国や友好国が、いかに米国に幻滅しているかを表している。
特にトランプ大統領の抗議デモに対する人権無視のデモ弾圧で、ダメ押しになったようだ。
ホワイトハウス周辺の平和的なデモ隊が「強制排除」されたことに、メルケル首相をはじめヨーロッパの複数のトップ層から非難の声が上がった。トルドー首相は、悲痛な顔をして「見たくないものを見た」とコメントしている。
逆に、いつも人権問題で米国から批判されてきた中国は、米国内の人種問題や人権抑圧を嬉々として取り上げ、イラン外務省の報道官は「国家による弾圧」に立ち上がった米国国民に同情の意を表した。
米国のデモ弾圧で、中国は香港デモ弾圧を正当化できることになり、天安門事件も正当化できることになってしまった。
また、中国は、米中貿易協議の第1段階合意の米国からの輸入を止めている。合意を破棄はしないで、米国の出方を見ている。
トランプ大統領も景気浮揚のためには、中国への輸出が必要であり、中国への非難をどうするのか、米中は腹の探り合いをしている。
米国の対中政策は、言葉上では非難しているが、まだどうなるのかわからない。
トランプ外交は、取引外交であり、主義主張がなく、成果があれば簡単に変わることが多い。
国内のデモ制圧や対中関係などで、トランプ大統領の支持率が少し下がり、バイデン候補の支持率が上がり、差は10%以上になっている。
このままであると、11月の大統領選挙で再選されないことになる。勿論、まだ5ケ月もあり、わからないが、トランプ氏が大統領では無くなることも視野にいれる必要が出てきた。
ということで、米民主党バイデン候補の対中政策がどうなるのかが、重要な外交政策決定のキーになってきた。
しかし、バイデン候補の対中政策が誰にも分らない。中国はハッカー集団を使い、バイデン候補のサイトに侵入して政策を探ったようである。
というように、中国にも分らないのであろう。
もう1つ、心配なのが米国の大統領が変わると、今まで進めてきた米国との約束がすべて反故にされてしまうことである。
トランプ大統領と進めてきた日米同盟の枠組みが反故になることもありえる。
しかし、同盟国や友好国から信頼されない、予測できない米国と日本が同盟しても、何も解決できない。中国に対抗することもできない。
中国対抗の効果的な国際秩序や規範も構築できない。
日本は、単純に米国との同盟関係を維持すればよいという事態では無くなってきた。
人権を旗印にできない米国の世界覇権は、失われようとしている。
日本は、ドイツなどの欧州や英国と緊密に連絡を取り合い、米国抜きでも国際秩序や規範を共同で決めていくしかない。
米国は当分、主義主張がない予測できない、取引での外交と割り切り、そのように見て、距離を置いた友好な関係を構築するしかない。
そして、バイデン候補の対中政策を見て、次の日本の外交政策に出るしかない。
そこまでは、中国に対する政策もあいまいにするしかないのかもしれない。
中国と米国が「人権」より「秩序優先」という同じムジナになったことで、正義の理念は消えた感じになった。
今までの世界正義の人権外交を日欧で引継ぐしかないようだ。

ポストコロナ「日米同盟に見えた大きな課題」

一段強化と依存できない分野の自立が必要だ

API地経学ブリーフィング
2020年06月15日

日米同盟は必要条件だが十分条件ではない写真は2019年9月の日米首脳会談、AP/アフロ)

米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
コロナウイルス危機で先が見えない霧の中にいる今、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

 


 *日米同盟の新常態を構想する必要がある

安保条約改定60周年の節目に、日米同盟はコロナ危機という「有事」に直面している。米中が国民感情を巻き込んだ新冷戦とも言うべき関係に変容する中、ポストコロナにおける日米同盟の課題が浮き彫りになってきた。
地政学的な対峙から地経学的対立へと拡大する米中の争点には、今回のコロナ危機と同様、日米同盟だけでは日本国民の命と生活を守ることが困難な分野が多い。中国の軍事力には日米同盟による抑止力が不可欠だが、情報操作や非軍事的手段には日本独自の対処力が求められる。日米同盟は必要条件ではあるが十分条件ではないことを理解しつつ、日米同盟の新常態を構想する必要がある。
アメリカは、2017年に公表された「国家安全保障戦略」の文書の中で中国を脅威の主対象に定め、コロナ危機以前から見られた中国のいわゆる「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略に対抗する態勢にシフトしつつあった。だが、コロナ危機はアメリカ軍に潜んでいた弱域を明らかにし、その軍事態勢の移行にも影響すると考えられる。
まず、軍事力の最も重要な要素である将兵が感染に弱く、この微小な敵によって最強のアメリカ軍の行動が大きく制限されることが証明された。ポストコロナの世界における軍事態勢では、バイオテロやCBRN兵器(化学、生物、放射性物質、核)への対応を「新常態」とせざるをえないであろう。無人化や遠隔操作による脆弱性の克服も優先課題となる。
アメリカ軍内部での感染拡大は、インド太平洋地域におけるアメリカ海軍のプレゼンスに空白を生んだ。今年3月に最初の感染者が出た空母セオドア・ルーズベルト(TR)は、艦長を含む約1100人に及ぶ感染者と1人の死者を出し、約2カ月間グアムに停泊せざるをえなくなった。感染拡大によって定期的な共同演習等も中止や延期を余儀なくされており、それによりアメリカ軍の即応態勢の今後が懸念される。
TRの艦内での感染は、指揮系統にない政権の高官にメールで事態に関する情報を発信した艦長の更迭と、さらに即断で艦長の更迭を命じたことへの批判が集まった結果、海軍長官代行の辞任に発展した。
懸念される政軍関係の混迷は、黒人暴行死への抗議デモの鎮圧にアメリカ軍部隊の動員も辞さないとしたトランプ大統領とエスパー国防長官の政権内での対立や、マティス前国防長官の大統領への厳しい批判等によって、よりいっそう深刻化している。

*下請け企業中心に軍需産業にも深刻な影響
アメリカ軍を支える軍事産業にもその影響は及んでいる。深刻なのはボーイングなどのプライム(完成機メーカー)が最終的に契約額の7割を依存する、下請け企業への影響である。これらの下請け企業はメキシコ、インドなど海外に多く所在し、エレン・ロード調達維持担当国防次官補は、4月20日、メキシコ政府に対しアメリカ向け軍需品の製造再開を要請した。
サプライチェーンの海外依存度は、航空機、造船、宇宙衛星の分野で高いが、すべての下請け作業をアメリカ内に移すことは不可能である。例えば、F-35ステルス戦闘機は米英伊等の9カ国が共同開発し、製造も各国が分担している。トルコが共同開発国から除外されたため、製造計画の遅れや部品供給の停滞がすでに問題となっていたが、共同開発国での感染拡大はF-35の供給網が持つ脆弱性を浮き彫りにした。
トランプ大統領はF-35に関し、「全部アメリカで作るべきだ。私が政策を全部変えてそうする」と述べた(5月14日)。アメリカ以外では最多の147機の調達を計画している日本にとって深刻な問題である。
いち早く感染を封じ込めた中国は欧米における感染拡大を自らにとっての好機と捉え、影響力の拡大を図ろうとしている。尖閣諸島では、5月8日から3日連続で中国公船が領海に侵入し、操業中の日本漁船を追尾する事態が起きた。3月後半には紅稗(ホウベイ)型ミサイル艇が東シナ海で4日間の実弾演習を実施、4月には空母「遼寧」が5隻の艦艇を伴って初めて沖縄・宮古間を往復している。
南シナ海においても、中国海軍によるフィリピン軍艦艇へのレーダー照射や中国公船がベトナム漁船に体当たりして沈没させる事件が起きている。さらに人民解放軍の公式サイト等では、台湾に対する武力統一をほのめかすメッセージが発信され挑発がエスカレートしている。
アメリカ軍も抑止力を維持するため、F-35を搭載した強襲揚陸艦を展開し日本や豪州などの同盟国と共同訓練を実施、また沿岸戦闘艦によるパトロールを行っている。アメリカ海軍は台湾海峡への艦船派遣を継続し、4月には中間線を越えて中国側を航行した。アメリカ空軍もアメリカ本土から日本周辺へB-1Bを飛行させ、航空自衛隊のF-15、F-2戦闘機と共同訓練を行った。
だがこれらの対応は、空母不在の穴を埋める緊急措置の意味合いが強い。前述の通り、アメリカ軍はインド太平洋地域の戦略態勢を対中シフトしつつあるが、道半ばだ。アメリカ海軍は空母機動部隊を11から9に2個削減しより小回りの利く戦闘艦艇を増強、海兵隊も地上戦闘即応態勢から海上作戦と呼応した部隊編制へと規模を縮小する計画である。
アメリカ空軍はグアムへの爆撃機駐留を取りやめ本土へ撤収済みだが、これらの動きはむしろ太平洋におけるアメリカ軍のプレゼンスを減らす方向に見え、批判と懸念が多い。
インド太平洋軍デービッドソン司令官は4月1日、200億ドルの追加予算によって、グアムの防衛体制強化、精密攻撃兵器の第一列島線配備、戦力分散基盤の構築等が必要であると議会証言した。
*莫大な国費と景気後退は国防予算を大きく圧迫
議会も対中抑止力を強化する法案を検討しているが、コロナ危機対応に投入された莫大な国費と危機後の景気後退は間違いなく国防予算を大きく圧迫する。その影響は長期化し、態勢構築が中倒れしたり、同盟国へのさらなる負担要求に転化したりするリスクは大きい。日本にとって日米同盟の抑止力は必要不可欠であり、アメリカ軍の態勢構築にはより能動的に関与すべきである。
中国の攻勢は非軍事の分野でも目覚ましい。中国の意図に沿わない国からの農産物の輸入禁止や高関税の付加、逆に中国からの輸出禁止や訪問制限など、2国間の関係をテコにした影響力行使を乱発している。
とくにコロナ危機に乗じたサイバー攻撃に関しては、米英両政府が最新情勢に関する共同報告書を発表し、注意喚起している。ワクチン開発などの最新情報が狙われており、アメリカの国家防諜安全保障局は4月15日、中国政府系のハッカー集団「エレクトリック・パンダ」が、機密情報の取り扱い資格を持つ医療技術系のアメリカ企業38社にサイバー攻撃を行ったと警告している。
ハッカー集団が狙う対象は、日本を含む多数の国の医療機関・医薬品、バイオ技術等の広範な戦略的分野に及ぶ。5月27日、赤十字国際委員会は各国政府に対し、病院や医療施設を標的とするサイバー攻撃への対策の強化を求める書簡を公表した。攻撃情報の共有等の国際協力は進められているが、この手のサイバー対処は各国の責任である。日本にとって独自の能力強化が求められる喫緊の課題である。
*日米同盟の再定義が必要
日米同盟は時代の変化に応じた再定義によって進化を続け、今や自由で開かれたインド太平洋の礎石として地域の安定を支えている。奇しくも60周年の節目に起きたコロナ危機は、同盟を原点に戻ってもう一度、再定義する必要性を突きつけている。
地経学的な米中対立の下では安保と経済の両立が重要だが、条約第2条にはすでに国際経済政策の整合と経済的協力の促進の規定がある。戦略物資の供給網から新興技術の管理など、2条関連の新たな課題は多い。必要条件としての日米同盟をさらに強化し、同盟に依存できない分野は自立した能力を保有する再定義が必要だ
コロナ危機はパックス・アメリカーナの終焉を早めよう。ベトナム戦争の戦死者の2倍に迫る一般市民の犠牲は、アメリカ社会に大きな後遺症を残す。再選最優先のトランプ大統領は中国敵視政策によって支持率回復を図ろうとし、日本に対して同調とより大きな防衛負担を要求するであろう。
しかしそれは、コロナ危機で顕在化した多くの課題に日米が協力して取り組み、ポストコロナの日米同盟を構想するチャンスでもある。日本は新たな地経学的脅威に対する独自の対応力の強化も必要だ。日米共に長期化が予期される極めて厳しい資源制約を踏まえると、従来の計画や発想に縛られない新たな思考が求められている。
    (文:尾上定正/アジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェロー、元空将)
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