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ブラジルも仲間入り「コロナ爆発4カ国」共通点


 科学を否定し、陰謀論受け入れる指導者たち
                                               The New York Times

 

2020年06月07日

ブラジル、アメリカ、ロシア、イギリス。新型コロナウイルスの感染がこのところ最も激しく拡大した4つの大国には共通点がある。反エリートの看板を掲げるポピュリストの男性指導者が国の運営を担っていることだ。
ジャイル・ボルソナロ、ドナルド・J・トランプ、ウラジーミル・V・プーチン、ボリス・ジョンソンである。もちろん国が違うのだから、これら4人のリーダーにもたくさんの違いがある。とはいえ、4人はどれも似たような路線を掲げている。『民主主義の死に方』の共著者で、ハーバード大学の政治学教授、ダニエル・ジブラット氏が「急進的な右派非自由主義ポピュリズム」と呼んでいるものだ。
これは偶然の一致ではない、と多くの政治学者は考えている。非自由主義のポピュリストは、科学的な見解をはねつけ、陰謀論を奨励する傾向がある。

科学を否定し、ウイルスを軽視

 「彼らは、ほぼすべてのタイプの知識人や専門家を始終ののしっている」と語るのは、ジブラット氏の共著者、スティーブン・レビツキー氏だ。レビツキー氏によれば、これらのリーダーは「自分たちには専門家に欠けた常識的な知恵のようなものがあると主張しているが、コロナ対策にはあまり役立っていない」。

 ブラジルでは、ボルソナロ大統領が保健相を解任し、各州に外出禁止令の解除を繰り返し求めてきた。アメリカでは、トランプ大統領が専門家の見解を2カ月近くも否定し続け、ウイルスは「奇跡のように消えてなくなる」とまで予言した。イギリスのジョンソン政権は当初、他国がロックダウン(都市封鎖)に動いているにもかかわらず、社会生活を維持するよう人々に促していた。

 さらに4人の指導者はマスクの着用を拒み、握手を続けるなど、個人的な感染予防策に関するガイドラインも無視し続けた。

 同様のパターンは他国にも広がる。例えばイランだ。イスラム法学者が最高指導者として君臨する同国では、過去2週間に人口5000万人以上の国としては5番目に速いスピードで感染が広がった。保健衛生の専門家によれば、警告を無視して経済の再開を急ぎすぎたのが原因だ。感染拡大の勢いが6番目に速かったメキシコでは、ロペスオブラドール大統領率いる左派のポピュリスト政権が次のようなポスターを掲示していた。ウイルスは「no es grave」(深刻ではない)。 

危機の緊急性に気づくのが遅れた

 各国のコロナ対策をランク付けする学術研究によって、政府の対応遅れがウイルスの拡散を大幅に加速させたことが示された――。そう語るのはオックスフォード大学ブラバトニック公共政策大学院で同研究を主導するトマス・ヘイル氏。同氏によれば、大規模感染を引き起こした国に共通するのは、「危機の緊急性に気づくのが遅れた」点だ。 

対策に腰の重い指導者は「経済を優先しなければならない」という理屈を持ち出すことが多い。しかし、経済と公衆衛生の間のトレードオフは現実には存在しない可能性がある、と科学者やエコノミストは指摘する。というのも、経済正常化への最短ルートは、ウイルスの拡散をコントロールすることだからだ。

「公衆衛生と経済の間に緊張関係が存在すると考えるのは間違っている」と、コロンビア大学の疫学者、ワッファ・エルサーダ氏は語る。 

非自由主義的なポピュリストと対照を成すのが、女性リーダーだ。女性が政権を担っている国はウイルスとの戦いに成功しているケースが多いということは、これまでも一部で指摘されてきた。その好例が、ドイツ、ニュージーランド、台湾である。 もちろん、ポピュリストの指導者と感染爆発の間に100%の相関関係が成立するわけではない。ハンガリーのオルバン首相やフィリピンのドゥテルテ大統領は非自由主義のポピュリストだが、コロナには迅速に対応した。両国の感染者数は一見したところ、比較的低位にとどまっている。オルバン氏もドゥテルテ氏も政敵の弾圧を強めるのにコロナを利用した。 世界的なパターンには例外がつきものだが、それでも「パターンは現に存在する」とレビツキー氏は話す。「ポピュリストは専門家嫌いで、専門家に頼るのを好まない。そして専門的な知見に基づかない対応は、コロナでは命取りとなる」。 

国家運営ができていないとコロナも終わらない

 ポピュリストの指導者でも、イギリスのジョンソン首相やトルコのエルドアン大統領のように、最近はコロナ問題に真剣に向き合い始めた者もいる。アメリカではトランプ大統領が対応をほぼ毎日のように変更しているが、州知事が多くの決定を下す連邦制のおかげで、悪影響はだいぶ薄められている。

それでもヘイル氏は、ポピュリストが率いる国のほうがコロナに苦戦し続けることになるのではないか、とみる。

「いま経験しているのは第1波にすぎず、収束までの道のりは長い。これは私の強い直感だが、結局は国家運営が本当にしっかりした国こそが(コロナに)最もうまく対応できた、ということになるはずだ」

 

(執筆:David Leonhardt記者、Lauren Leatherby記者)
(C)2020 The New York Times News Services


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