コロナ禍が鮮明にした「労働者の未来地図」


どの仕事が残って、どの仕事が消え去るのか

渡邉 正裕 : My News Japan編集長
2020年06月12日
新型コロナウイルスの蔓延で、私たちの仕事は今後どうなるのだろうか? どのような仕事が残って、どのような仕事が消え去るのか? この春に『10年後に食える仕事 食えない仕事――AI、ロボット化で変わる職のカタチ』を出版した渡邉正裕氏に、コロナ禍によってはっきりした仕事の未来図について語ってもらった。

テクノロジーの進化が変える職のカタチ

縦軸に「頭脳労働か、身体労働か」、横軸に「人間が強いか、機械が強いか」として、さまざまな仕事をプロットすると、テクノロジー進化の影響の受け方がよくわかる。
例えば、頭脳労働のホワイトカラー業務は、当然、「人工知能(AI)」の影響をまともに受ける。だが、その中でも人間の強みを生かせる仕事もあるし、生かせない仕事もある。
人間の強みを生かせる仕事は10年後も食えるが、AI・ロボットのほうが強い仕事は食えなくなる。これは、人間の手・足・耳・口・筋肉など「身体性」を不可欠とするブルーカラー的な業務でも同じだ。物理的なロボット技術進化の影響を強く受ける仕事は食えなくなる。


既得権組織は本当に変化しない 

政府のITがいかに絶望的なものか、という話は、著書や各種メディアでさんざん書いているとおりだが、危機に際して、予想どおり実害が出てきた。この数カ月で次々と明らかになったアナログ行政はひどいものだった。
「10万円給付」の実務が、マイナンバー情報と住民基本台帳(世帯主情報が載っているデータベース)がつながっていないために、世帯主でない個人が申請できてしまったり、職員が2人1組で目視で読み合わせて住民票コードを手で入力したりするなど、ほとんど官製コントのような状況になっている。
東京都の新型コロナ感染情報も、保健所と本庁の間が、手書きFAXという紙のやりとりなので、いちいち職員による転記作業が発生し、情報が遅く、しばしば間違って修正作業が発生し、ろくに機能していない。要は、昭和時代のまま平成の30年間、世の中が急速に進歩しPCが普及し、クラウドが発達したのに、何も手をつけずに放置していたのだ。
森永卓郎さんが、私の本を書評してくれた際に、こう書いている。
「特に素晴らしいなと思うのは、既得権をきちんと分析していることだ。いくら技術的に不要になっても、既得権で守られた仕事は消えないからだ」(日刊ゲンダイDIGITAL)
ITが機能しないことによって、現場の職員が余計に働く。その休日出勤代や残業手当は、税金から支払われる。現場にとってはボーナスであり、どんなに無駄な作業でも役人は既得権者の代表なので身分が保証され、職場に来ていれば失業することはない。
本来なら、こうした税金の無駄遣いや国民生活への悪影響(給付遅延、誤情報発表)について、為政者は責任をとって処分されるべきだ。それはマイナンバーを所管する高市早苗総務大臣であり、IT政策担当の竹本直一大臣であり、東京都なら小池百合子知事とIT担当の宮坂学副知事あたりだろう。
だが、日本は超無責任行政なので、誰にも責任はないことになり、うやむやなまま、この状況が10年20年後も、また繰り返されるわけである。実際に平成の30年間、何も進歩しなかったのだ。
この既得権エリアについては、市場原理が働かないため、一向に昭和時代のまま変わることはない。これは行政に限らず、準規制業種である医療機関や金融保険業界でも似たり寄ったりで、既得権には、そのガチガチ度合いにグラデーションがある。その要素を分析せずして、ITやAIが社会をどう変えるのかは論じられない。
感染症対策でこの間にキャッシュレスが進むかと思いきや、その動きは実に鈍く、私はクリニックで消毒した現金をお釣りで渡されたくらいだ。以前から、医療では衛生面が重要だからキャッシュレスにしたら、と提案しているのだが、これが半年たってもやってくれない。
手数料の高さや、8割が現金(老人ほど現金)という壁があり、デビットを普及させまいとする金融業界の既得権が絡んでいるとしか思えない。薬剤師や医師と患者を取り巻く日本のIT&AIも、著しく生産性が低い。 

AIにもコロナにも負けない、永遠不滅の人間労働 

一方で、「手先ジョブ」エリアの仕事は、コロナ禍によってUberEatsや宅配業者が街中にあふれたことで、物流センターのピッキングや積み込み、配送ドライバーといった手先ジョブが永遠不滅の人間労働であると、日常生活の中で改めて実感できたと思う。ドミノピザはコロナ禍の4月、正社員200人、アルバイト5000人を採用すると発表した。
道路工事が通常どおり行われているのは車を走らせればわかる。空調メンテ業を営む零細企業の社長は、いつもどおり仕事があり、「むしろずっと人手不足だったから、若手を採用するいいチャンスになりそうだ」とも話していた。
新たに露呈したのは、対人ワークが大半を占める「職人プレミアム」エリアの職業(料理人、ホテルマン、マッサージ師など)が、対人であるがゆえになくなりはしないが、感染症にはめっぽう弱い、という弱点だ。これは、本書の執筆時点では気づかなかった新しい視点だったので、ここに追記しておきたい。
いわゆるエッセンシャルワーカー(警察、消防、看護、介護、保育など)と呼ばれる人たちの大半が、ここである。介護業界も、デイサービスの利用頻度が半減して労働時間が減ったという。取材した介護福祉士は、施設勤務なので「怖いけど休むわけにもいかない。新規の受け入れや面会はストップしている」と嘆いていた。
クリニックを訪問する利用頻度が減り、医療機関の経営も圧迫されている。ただ、これらは、適正規模を上回っていた可能性が高いということでもある。不要だった来院、不要だったデイサービス利用が削られ、本当にエッセンシャル(必要不可欠)な労働だけが人間に残った、ということである。ぜい肉がそぎ落とされた格好だ。
このように言うと、さまざまな反論が出るだろうが、私はコロナ禍で今、変わったように見えるところも、5年後には元に戻っていると思っている。
実は「3密」空間でも、すでに満員電車は何の規制もなく、マスクと換気だけで普通に毎朝動いて支障が出ていないし、飛行機のエコノミークラスも、ソーシャルディスタンスなど無視で、隣の人と肘がぶつかる距離のまま座らされ、何時間も飛ぶことが許されている。
筆者も最近、実際に両隣から挟まれた状態で2時間超も乗ったが、とくに機内でクラスターが発生したとの報告もない。 

人間の根源的なニーズは減ることはない 

商店街にあるカウンターだけの飲み屋を外からのぞけば、すでに以前のとおりにすし詰め状態に戻っている。換気でドアが開放された結果、外から見やすくなったのが唯一の違いだ。1席空けたら経営が成り立たないので、なし崩し的に「隣席との距離については従来どおりでも可」で運用されていくのは確実である。要は、換気と従業員のマスク以外は、何も変わらない。
ただし、クラスター発生実績のある、リスクが高い一部の業態では、「質」の転換が進むはずだ。業態のマイナーチェンジが求められる。客にとってエッセンシャルなものに数が絞られる分、それに対応して提供者側が単価を上げるだろう。
コンサートは収容数を減らさざるをえないため、1席当たりの単価は当然上がる。「行けたら行く」程度の不特定大人数の飲み会はリスキーなので、出席回数が厳選されるようになる。共有のトレーニングジムは人数制限がかかる分、やはり高級化が進む。いわゆる接待を伴う「夜の街」業種は復活が難しいが、雇用全体からみたインパクトは軽微で、通常の生活者の日常には関係がない。
こうして市場原理で一部の特殊な業界では少数精鋭化が進むが、人間の根源的なニーズ自体が減るわけではない。海外旅行に行けなくなれば、国内に行く。外食の回数が減れば、1回当たりの支出は増やせる。顧客側が総支出額を減らしたいわけではない。そこに気づいて、提供者側が付加価値を付けられれば、元に戻るまでに5年もかからないかもしれない。

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