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コロナ「第2波」絶対来る前提で欠かせない


町医者の機能拡大と検査の集中・選択が必須だ

 

発熱している患者をどうやって見つけるか。
答えは「体温計による検温」だ。
「何を当たり前なことを?」と思うなかれ。体温計の歴史は100年ちょっとだ。

19世紀後半ドイツで開発され、日本では北里柴三郎の尽力で現テルモ社が製造を始めた。初期の「水銀体温計」は、製造に精密技術を要する。破損後蒸発する水銀が人体に有害との理由で、現在医療現場ではほとんど使用されていない。
その後、無害で大量生産可能な「電子体温計」が開発された。正確だが計測に時間がかかる実測式でなく、時間が節約できる予測式がもっぱら普及している。「非接触式体温計」は、検温の効率化と感染対策には有効だが、外気温の影響を受けやすく、顔面の温度が上がる人、すなわち高熱の人にしか向かない。
つまり、体温計による検温は必ずしも正確性を追求しているわけではないのだ。

非接触性と腋窩式で1℃の誤差が発生することもある。それほどの誤差が発生しうるにもかかわらず、生命を脅かす新型コロナウイルス感染診療の入り口として、体温計は当たり前に採用されてきた。

日本は第1波が収束しつつあるが…

日本国内における新型コロナウイルス感染による総死者数は6月10日時点で1000人弱。絶対数として決して少なくはない。ただ、東アジア全般に言えることだが、日本の致死率は決して高くない。人種として免疫を保持していたのか、ウイルス自体のゲノムタイプが異なることに起因するのかは、まだ完全には解明されていないが、欧米や中南米、ロシアなどと比べて被害が少ないことは間違いない。感染者数も減少し、元の日常に戻りつつある。しかし、各地で院内・施設内感染は勃発している。非常に不気味だと言わざるをえない。 

新型コロナ肺炎に限らず、肺炎の管理は、一刻を争うので医療従事者の消耗は激しい。ほかの患者に対する医療も手薄になる。救命できるはずの命を助けられなくなる。これが医療崩壊だ。ここに院内感染が加わると、大惨事になる。 

アメリカのメディアの分析では、アメリカ国内の新型コロナの死者約11万人のうち、約3分の1が高齢者施設で亡くなっている。また、WHO(世界保健機関)の専門家は、ヨーロッパで亡くなった人の約半数が介護施設で暮らしていた人たちだと指摘している。高齢者施設内では感染が一気に拡大し、致死率は非常に高い。 

医療崩壊させないためには、重症入院患者を減らすことと、院内・施設内感染を防ぐことが必須だ。 

入院患者を減らすためには、患者を重症化させないことが必要だ。この役割は町医者が担うことになる。院内・施設内感染の制御は、「診断」と「隔離」に尽きる。これは教科書的常識だ。 

コロナ診断で現在最も優れている検査はPCRだ。だから、症状があり、感染が疑われる患者には当然PCR検査が行われる。日本のPCR検査数は10万人当たり190件である(5月時点)。イタリアは同3000件以上、韓国の同1200件に比して圧倒的に少ない。入院患者が増えて医療崩壊につながったり、検査技師の被曝の危険性が懸念されたりなど、さまざまな否定論が飛び交った。政府による検査拡大の号令後も、それほど検査数は増えていない。 

PCR検査拡大に対して否定派の意見も承知のうえで言えば、私は「第2波」到来に備えて、PCR検査能力を格段に増やす必要があると考えている。「第2波」はわれわれがこれまでに経験したウイルスより凶暴な「株」かもしれない。アジア型と欧州型で死亡率があきらかに異なっている。「第2波」を、前回同様「民度」だけで乗り越えられるかどうかは不明だ。被害を最小限にとどめるにはどうすればいいだろうか? 

キーワードは「町医者の機能拡大」と「検査の選択と集中」である。

心筋梗塞の患者がコロナ陽性だったケースも

症状のない入院患者はどうするか。当院パート医師の報告によると、心筋梗塞で救急搬送された患者が、コロナ陽性だった。こういう経験を見聞すると、病院は救急患者を受け入れることを躊躇するようになる。必然的に「たらい回し」が起こる。このようなケースへの対策として、入院時すべての患者にPCR検査をすることが望ましいと考える。もちろん、胸部CTやその他の検査も併用したほうがいいだろう。多くの病院でそのような体制がすでに取られている。 

感染の恐怖と戦いながら、献身的に治療に専念する医療従事者のお陰で、重症入院患者数も減り続けている。日本の死者数の少なさは、病院の医療従事者のレベルの高さに依るところが大きいことは間違いない。 

「第1波」に対して町医者の現場はどうしていたのか。具体例として当院の対応をお伝えしたい。 

「蔵前協立診療所」は、東京都台東区にある。患者さんの平均年齢は73歳。大半が、生活習慣病などの慢性疾患の患者さんである。常時50人ほど在宅診療もしている。 

新型コロナ感染症の流行が拡大し始めた3月後半から、ゾーニング下で、新型コロナ感染が疑われる患者さんをのべ70人近く診療してきた。「やっと診てもらうことができた」と感極まる人も少なくない。PCR検査に至ったのは20人、そのうち陽性は在宅診療をしている81歳の男性だ。コロナ肺炎が疑われ、受け入れ病院が決まるまで8時間かかった。このケースは「たらい回し」として複数のメディアで取り上げられることになった。 

その他、臨床所見と現病歴から、コロナによる肺炎が強く疑われた80歳男性は、入院し、「偽陰性」として対処された。1カ月ほどで退院し、現在在宅診療をしている。 

台東区は、検査依頼から検査までの流れが非常にスムーズになってきている。第2波への備えが十分だとは言いがたいものの検査までのハードルは確実に低くなってきている。 

逆説的だが、実はPCR検査にそれほど固執していない。PCRはあくまで補助的な検査という位置付けだ。症例経験を積めば、重症化が懸念される患者を見極めることができる。PCR未検査の外来患者であっても、発熱患者の8割は何らかの感染症だから、自己隔離や安静は必要だ。インフルエンザ患者を含め、どこもそうしてきたはずだ。 

通常業務とは別に、軽症者が隔離入所しているホテル業務にも有志で参加した。5月30日勤務当日、患者は9人のみだった。経験数としては少ないが「外来で診ることができる」という確信を得るには十分だった。 

発熱患者を診療した翌日に必ずフォローの電話をしている。これだけで患者さんはかなり安心する。「安心」は自然治癒を促す。コロナ関連の情報蔓延で、みな想像以上に疲弊している。「診てもらう」ことによる安心感の効能は想像以上に大きい。「エビデンス」で表すことのできない医療が存在することは臨床医ならみな心当たりがあるはずだ。

町医者がコロナ患者を診察するのは十分可能

不安を払拭できるよう、繰り返し科学的な説明をし、理解してもらうしかない。少人数の患者向け勉強会も開催している。所内で明るい雰囲気を作ることも大切だ。毎朝のミーティングでスタッフ一同、考えを確認・共有している。地道な努力が奏功したのか、患者さんからPPE物資や防護用パーティションをたくさん寄贈してもらった。幸い、それほど患者も減ることがなく、ここまで来ている。 

以上の経験から「町医者がコロナ患者を診療することは十分可能である」と考える。スタッフ全員、感染制御のスキルも確実に向上している。ゾーニングもPPEも工夫次第だ。当院も、ずっと過渡期だ。コロナでない発熱患者の治療機会を逸することも避けなければならない。医師が及び腰になり、臨床経験を積まないことこそ、社会的損失だ。病初期に診療をしなければ、有効薬の投与開始も遅れることになる。 

全国の町医者が尽力すれば、入院患者を減らすことはできるはずだと確信している。 

院内感染は、コロナ感染患者受け入れによるほかの患者への感染が問題だと考えられがちだが、それは必ずしも事実ではない。感染者とわかっていれば、隔離すればいいだけだ。 

問題は「後ろから撃たれる」ケース、つまり、無症候性感染者からの感染だ。無症候性感染者が低免疫患者に感染させてしまうのだ。 

医療従事者の感染もかなり確認されている。日経ヘルスケアの調査では5月27日時点で判明しているPCR陽性者は、医師155人以上、看護師520人以上だった。スタッフに端を発し、院内感染を起こしているケースの報告も少なくない。 

院内感染だけでなく、施設内感染も多発していて、施設休業も相次いでいる(約900施設)。5月1日時点で全国の介護施設や高齢者住宅で70人死亡している(感染者479人)。実際はもっと多いかもしれない。事業所閉鎖をおそれて、自然死として扱っているケースもある。実際の現場からの声で耳にすることもある。 

医療従事者、介護従事者は患者と濃厚接触せざるをえない。高齢者と接する機会の多い人たちは、症状の有無にかかわらず、定期的に検査をしたほうがいい。万が一PCRで陽性となれば、無症状であっても休養する。陰性化すれば業務に戻ればよい。 職員800人中80人がPCR陽性であった永寿総合病院のケースでも、有症状者は数人であり、全員が職場復帰していると聞く。短期的には戦力はダウンするが、決して喪失するわけではないということだ。 

医療・介護従事者に定期的な検査をする必要性は?

6月1日、訪問看護やケアマネの事業所に声をかけ、緊急講座を行った。事前アンケートで、定期検査の必要性を問うたところ「是非、検査をしてほしい」という希望や「陽性だった場合に、他職員に迷惑をかけるから検査したくない」という本音を聞くことができた。 

潜在的に多くの従事者が「感染しているかもしれない」「感染させるかもしれない」という恐怖を抱えながら、業務を行っているのだ。講座後、定期検査を要望する人が大半となった。 

無症状の職員に病院内で検体採取することは、それほど困難ではないはずだ。通常検査機器は施設内にないだろうから、解析のみ外注すればいい。パラメディカルにも定期的に検査することで安心して業務をしてもらう。患者も安心だ。風俗産業で働く人たちも感染チェックを定期的に行っている。自分と客の身を守るために必要なのは同じだし、参考にできるだろう。 

当院でも、5月中旬に職員全員にPCR検査を施行した。全員「陰性」であった。掲示したところ、患者からも好評だった。近日中に全員抗体検査も行う予定である(参考論文「Universal weekly testing as the UK COVID-19 lockdown exit strategy」 The Lancet 2020年5月2日)。 

国内の新型コロナの全感染者の6分の1以上が医療・介護・障害福祉セクターで生じているとされている。感染制御を含め、介護従事者の医学知識は十分とは限らない。介護従事者を全力で守る必要がある。そのためには定期検査が重要だ。高齢化が世界一進んでいる日本では介護崩壊は国家沈没と同義だ (「Presymptomatic SARS-CoV-2 Infections and Transmission in a Skilled Nursing Facility 」NEJM 2020年4月24日)。 

全国の介護事業所数は約5万~6万戸で、これは歯科クリニックの数とほぼ同数だ。厚労省が「歯科医によるPCR検査拡充」を発表した。歯科医が検体採取することは、技術的には十分可能だと考える。ただし、対象は無症状の介護従事者に限定する。ほとんどが、陰性確認となるはずだ。「業務許可」というお墨付きを与える役割だ。当然歯科医の収入にもなる。医師との連携が深まるはずだ。 

検査キャパはどれくらい拡大したらいいか。最低1日に40万件処理する能力を期待する。医療・介護従事者を合計すると約400万人だ。そのうち、実働人数は7割程度の280万人。毎週検査すれば、1日当たり40万件という試算だ。検査精度の問題は、定期検査で補えるはずだ。 

例えば、「6月15日陰性、22日陰性、29日陰性」と書かれたプレートをスタッフが首にぶら下げる。これだけで患者もスタッフも安心できる。検査の間隔は、感染の趨勢に応じて変えればいい。 

検査コストの問題は需要増が解決するはずだ。感染者だけにフォーカスした検査であれば、感染者数が減れば、無駄になってしまう。今後「ウィズコロナ」としてやっていくなら、検査がカジュアルになる必要がある。そして、非常に由々しき問題だが、コロナに感染することが犯罪者のように扱われ、医療従事者が不当に差別される風潮がある。これも、検査がカジュアルになることで緩和されていくはずだ。 

第2波に備えた態勢整備が急務だ

エボラ出血熱が世界的な大流行である「パンデミック」になる可能性は極めて低い。なぜなら、ローカルの段階で患者が死んでしまうからだ。逆に言うと、パンデミックになるのは「元気な運び屋」がいるからなのだ。パンデミックが想定された段階で、市中感染より、院内・高齢者施設内感染にこそ、対策を強化するのが望ましかった。院内・施設内感染はまだ制御しきれていない。第2波に備えて直ちに体制を整えたほうがいい。 

目の前の患者を無症候性感染者として、持続可能な感染制御をしつつ、できる限りコロナ感染疑いの患者を診療する。それが町医者に課された第2波への使命だ。 

PCR検査は「体温計による検温」と同じような位置付けにしたほうが望ましい。これは決して荒唐無稽な話ではない。アメリカ・ニューヨーク州は介護施設の職員に対し、週2回のPCR検査を義務付けた。中国・武漢では、最大1日147万件PCR検査を行った。中国の友人の話では、北京では3000~4000円で希望者全員検査してもらえるそうだ。この価格なら自費による隔週検査も現実的だ。

また、ノーベル経済学賞受賞者のポール・ローマー氏は1日2000万件のPCR検査が必要だと試算している。実現性はともかく、健常人を対象に検査をガンガンやって、経済活動に寄与してもらおうという意図だろう。 

たとえ、ウイルスが凶暴化しようと、町医者の機能を拡大し、PCR検査を「体温計」レベルの当たり前な検査にすることで乗り越えられるはずだ。もはや体温計がない施設は考えられないはずだ。 

もちろん、さらに簡易で安価で精度の高い検査法の開発が望まれるのは言うまでもない。時間の経過とともに問題は解決されていくことは、過去の発明品すべてに共通することである。

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