GAFAはイノベーターではないという事実


GAFAはイノベーターではないという事実

 鈴木 博毅 : ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタント
2020年05月17日
 
 
 
 
 
世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス。このような緊急事態に対処するためにも、これまでの歴史の中で生まれた“戦略”の数々を学ぶことが大切だというのが、『3000年の叡智を学べる 戦略図鑑』の著者で、ビジネス戦略、組織論に詳しい鈴木 博毅氏です。
 人の一生で起こるかどうかわからないほど稀な出来事、長期スパンで生まれる現象は、日常の体験のみから判断はできません。だから、過去をより長いスパンで知っているほど「稀にしか起こらない可能性」までも考慮に含めてより安全な対策を取れるといいます。今回は、世界トップに君臨する4企業・GAFAの戦略を解説してもらいます。

今回ご紹介する戦略は「GAFA」、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンのものです。4社の世界戦略を解説した書籍『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、2018年の書籍ですが、改めて注目すべきだと筆者は考えています。理由は、コロナウイルスの惨禍が拡大したことで、従来とはまったく違う、新しい市場が生れつつあるからです。
世界規模で膨大な「衛生管理」の新需要が生まれ、日本でもマスク、消毒用アルコール類などは、品薄の状態が続いています。在宅勤務でオンラインミーティングが激増し、店舗ビジネスは通販を含めた新たな販促の手法の開拓が急務になっています。これらすべては予定していない衝撃であり、日本のみならず、世界中が必死で対処を始めている段階です。
人との接触をさけるため、通販で買い物をする人が激増すれば、この分野の雇用が増え、一方でコロナウイルスの影響で営業できない形態のビジネスからは、人材が流出する。
一方で、私たちが人間である限り、食事をして、住む場所を確保し、休息や社会的なつながりも維持されなければならない。人間である限り必要な活動はすべて、形や手法を変えながらも、継続される。そしてコロナウイルスで生まれた衛生管理を含めた膨大な新市場の存在。
今、私たちは突然に出現した、まったく新しい市場への対処に戸惑っている状態かもしれないのです。

世界を支配する4企業は「イノベーター」ではない?

 グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン。

今やだれもが知る、現代の消費社会を支配するほどの存在感を持つ、GAFAと呼ばれる彼ら4社の時価総額合計は約430兆円と、なんと東証一部上場企業の7割に相当します(2019年12月時点)。

先行者利益(先発優位)という言葉通り、新たな市場にいち早く参入した企業こそが有利であるというイメージがあるため、GAFAも新しい市場を最初に切り開いたイノベーターであると思っている人も多いでしょう。

ですが、4企業の成長の秘密を分析した書籍『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者、スコット・ギャロウェイは、GAFAの意外な側面を教えてくれます。

GAFAがいずれも最初のイノベーターではないという指摘です。グーグルは世界に最初に出現した検索エンジンではなく、アップルの前にPCを開発していた企業は存在しました。

アマゾンの前には、書籍をオンラインで販売する小売企業があり、フェイスブックの前には、草創期のSNSとして世界的な人気を博した、マイスペースがあったのです。

グーグルを例にとれば、1990年に世界最初と言われる検索エンジンArchieが登場、90年代半ばには、lycos、Yahoo!、excite、infoseekなど、複数の検索エンジンが共存していました。当時、各検索エンジンはユーザー獲得にしのぎを削っていましたが、グーグルの創業は1998年。現在は、世界中のキーワード検索でグーグルが完全に支配的な立場を築いており、90年代とはまったく別の風景が出現しているのです。

なぜ後発組であるGAFAが支配者となったのか

では、なぜ後発組である彼らが先発企業を打ち破ったのか? ギャロウェイは、この疑問に次のように答えています。

「ある業界のパイオニアが、うしろから撃たれることはよくある。四騎士たちもまた後発組だ(中略)。彼らは先行者の死骸をあさって情報を集め、間違いから学び、資産を買い上げ、顧客を奪って成長した」(前述書より)

巨大企業へと成長するカギは、先発企業の弱点を見抜き、なにより「その業界で姿を現しつつある支配的な力学」を最初に見抜くことなのです。言葉を変えるなら、最初のイノベーターになるよりも、先行者をよく観察して、彼らの弱点を見つけることで、支配者を目指すことが何より重要だということです。

その上で、GAFAはいずれも、ユニークな戦略を使い成長に拍車をかけています。

以下、ギャロウェイが指摘する、GAFAの予想外の成功要因の一部をご紹介しましょう。

予想外の成功要因① 「顧客レビューは、広告よりも強力だ」

ギャロウェイは、アマゾンについても興味深い指摘をしています。それは、「広告よりも購入者レビューのほうが、強力だ」とアマゾンが気づいた点です。

「ベゾスは、宣伝はそうしたレビューに任せられると気づいた」(同書)

また、アマゾンを使えば使うほど、個人の嗜好・好みをアマゾンは理解していきます。やがてアマゾンは、注文する前に私たちが欲しいものを届けてくれるかもしれない。ギャロウェイはこれを、「ゼロクリック・オーダーへの野心」と呼んでいます。まるで魔法のような、ゼロ・クリック・オーダーを実現する企業が出現するなら、それは間違いなくアマゾンが最初となるでしょう。

予想外の成功要因② 「高級ファッションブランドの戦略」

アップルは、高機能かつイノベーターの象徴とされる創業者のイメージがありますが、ギャロウェイは意外な点を指摘します。直営店と高級ファッションブランドの戦略です。

「アップルの店舗の1平方フィート当たりの売上げは約5000ドルで、小売業で最高である。第2位はコンビニエンス・ストアだが、そこには50パーセントの違いがある。アップルの成功の決め手となったのは,iPhoneではなくアップルストアなのだ」(同書より)

インターネットで販売するビジネスが増える中、評論家はジョブズの行動(アップルの直販店をつくる)を、大いに批判したのです。「ほとんどの専門家はあきれた。店舗なんて過去のものだと」(同書より)

しかし結果は、ジョブズの圧勝でした。

高級ファッションブランドと遜色ないスタイリッシュなアップルストアの存在は、アップルに顧客体験の完全なコントロールを可能にした上に、高収益という重要なプレゼントを同社にもたらしたのです。

ギャロウェイは、「セクシーな戦略」という言葉も使っています。アップルは、高級ファッションブランドの戦略を採り入れて、製品のアイデンティティを所有者と同一視させることに成功しました。iPhoneを所有することが、異性へ魅力をアピールすることにつながるようなブランド認知を獲得したのです。

予想外の成功要因③ 「メディアとプラットフォームの両方の魅力を兼ねる

フェイスブックは、人の知覚の最初の段階「認知を抑えているとギャロウェイは指摘します。友人や知人の投稿から、人々は多くのことを「知り」、反応をするからです。

「フェイスブックが特に大きな影響を及ぼしているのは、マーケティングの漏斗のいちばん上にある「認知」の段階だ」(同書)

この特性により、フェイスブックは規模とターゲティングを同時に達成する唯一の存在となっています。

18億6000万人ものユーザーを持ちながら、個人ごとの情報を実に細かく把握しているからです。人がつながることは、基本的な幸福感にも大きな影響を及ぼすとギャロウェイは指摘します。友人や愛する人とのつながりは、私たちが求めている基本的な欲求で、フェイスブックはそれを満たしてくれる存在なのです。

GAFAに学べること

GAFAが最初のイノベータ―ではなく、後発組であることは、彼らの現在の栄光に傷をつけるものではなく、むしろ学ぶべき点が多いことに注目すべきです。通常、先行する誰かが成功していて、それを目の当たりにすれば、「同じことをしてみよう」と思うはずです。

4社の成功から、まったく新しく生まれた市場にも、後発で飛び込んで支配者になるチャンスがあることがわかります。

コロナウイルスによる大激変で、日本企業はまさにこれから戦略眼を大きく試されるフェイズに突入していくのです。

逆にGAFAは、じっくり先行者の成功を観察して、あえて「彼らと違うことをする」勇気と叡智を持っていたと言えます。

GAFAは超一流の人材を継続的に取り込むことが、突出した成功には不可欠だと考えているとギャロウェイは指摘しています。自らの能力に絶大な自信のある人は、人と違うことを恐れない。

だからこそGAFAは、超一流の人材が集まる世界的な大学の近くで起業している。これも彼らが、「違う行動、違う思考ができること」を文化として重視する、つまり戦略思考をなにより大切にしていることを示しているのではないでしょうか。

後発組の有利さは、「そこにマーケットがある」ことを確認してから行動を起こしている点にもあります。

早すぎるという落とし穴を避ける慎重さがあるのです。ただし、先行者と同じことをしては絶対にいけません。

先行者を見たら、彼らの背中と行動をじっくり観察して「彼らと違う形で新市場に参入する」戦略を選ぶのです。支配者になる栄光と膨大な利益は、違う行動を取る勇気と観察力を持つ、優れた戦略眼のある後発組こそが手に入れるのですから。 


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