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新型コロナ「実効再生産数」を公開


 感染状況を示す指標、西浦・北大教授が監修


野村 明弘 : 東洋経済 解説部コラムニスト
2020年05月22日

 

東洋経済オンラインは5月20日から、リアルタイム性を重視した新型コロナウイルスの「実効再生産数」の掲載を開始した。

政府の専門家会議のメンバーである西浦博・北海道大学教授が考案した数理モデルを用い、報告日ベースによる簡易的な計算によって実効再生産数を計算している。
原則日次更新による実効再生産数を公開することで、広く国民が新型コロナの流行動態を理解する手助けになることを目指している。都道府県ごとの実効再生産数も公表しており、日々の意思決定を行ううえでの「ダッシュボード」の1つとして使われることを想定している。

実効再生産数を掲載する特設ページはこちらhttps://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/ )。

実効再生産数は現在、国民が新型コロナの流行状況を理解するうえで最重要な数値の1つとなっている(詳細については4月22日付『科学が示す「コロナ長期化」という確実な将来』を参照)。

 

実効再生産数とは何か

基本的な考え方はこうだ。
再生産数とは、「1人の感染者が平均で何人を直接感染させるか」を示すものだ。
再生産数には、基本再生産数(R0)と実効再生産数(Rt)の2種類がある。
基本再生産数は「感染者が、まだその感染症の免疫を1人も持っていない集団人口に入ったときに生み出す新規感染者数の平均値」だ。

いわば、その病原体が持つ「素」の感染力に相当する。

一方、実効再生産数は「実際に現実の社会で起きている再生産数」と言うことができる。

現実の世界では、感染症対策として手洗いやマスクの着用が増えたり、行動制限やロックダウン(都市封鎖)などが行われたりして、感染を減らす努力が行われる。
それに加えて、人間は感染から回復した後、免疫を獲得し、同じ病原体によって再度発症することはまれになる。

既感染者が増加すると再生産数は自然に低下するが、この事象を「集団免疫」と呼ぶ。先の感染症対策と集団免疫の効果によって実効再生産数は時間とともにダイナミックに変化する。

実効再生産数で重要なのは、それが1を下回るかどうかだ。
1人の感染者が生み出す2次感染者が1人未満になれば、新規感染者数は減少に転じることを意味するからだ。
実効再生産数においては、「1より大きい=新規感染者拡大」「1=新規感染者は横ばい」「1未満=新規感染者は減少」であることを覚えてほしい。

さて、ここからは東洋経済オンラインが掲載する実効再生産数を見るうえでの注意点を示しておこう。

 

「報告の遅れ」というバイアス

注意点は、大きく2つある。
今回の計算式を考案した西浦教授は「簡易的な計算のために報告日ベースの直近7日間の新規感染者数を使っている。

そのため、これによる実効再生産数では、週のうちの1日1日の増減など細やかなダイナミクスは相殺されてしまう」と指摘している。
もう1つは、報告日別の新規感染者データを使用することによる問題だ。
現実にはときどき報告の遅れが生じ、遅れた分が後に加算されるため、実態と異なる新規感染者の山が生じることがある。

これによって実効再生産数は実態とやや乖離することもありうる。

西浦教授は「このゴールデンウィーク中でも実際に東京都で報告の遅れがあり、その影響で実態とは異なる新規感染者数の山が少しできた」と語る。実

効再生産数のグラフを見ると、5月2日から小さな山ができているが、これは東京都の報告遅れによる影響だと考えられる。

いずれにしろ、リアルタイム性を重視し簡易的な計算となっていることによる制約があることは頭に入れておくべきだ。

しかし、「それでも新型コロナの流行動態を把握するには十分機能する」と西浦教授は語る。

西浦教授のチームが専門家会議などで公表している実効再生産数では、調査結果から発病時刻を推定したり、高度な統計処理を施したりしてより精緻な数値が推計されている。

行動制限など政府の対策がどれだけ効果を持ったのかを評価するために実効再生産数は使われてきた。
しかし、精緻に推計する分、時間はかかる。そのため、広く国民が新型コロナの流行状況を理解するために、より迅速に計算できる実効再生産数が求められていた。

先ほどのグラフを見ると、足下の実効再生産数は1未満でありながらも若干の上下が見られる。

このあたりの解釈は、先ほどの報告遅れのバイアスに加え、新規感染者の絶対数などとも併せて考える必要があるだろう。

例えば、実効再生産数1が続いたとしても、日々の新規感染者が500人のときと、数人のときでは状況は大きく異なってくる。

また新規感染者が1人から2人に増えた場合は、実効再生産数は2に跳ね上がる。

こうした事象はすでに都道府県別の実効再生産数で起きており、新規感染者数が非常に少ない状況の中では、実効再生産数の数値だけでなく、総合的に判断する必要がある。

 

実際の計算式はどうなっているか

最後に、専門性の高い読者のために、実際の計算式にも触れておこう。東洋経済オンラインが掲載している実効再生産数の計算式は、次のとおりだ。
 実効再生産数=(直近7日間の新規陽性者数/その前の7日間の新規陽性者数)^(平均世代時間/報告間隔)
平均世代時間とは、「感染源の感染から2次感染者の感染までに要する平均時間」を指す。東洋経済オンラインでの計算では、西浦教授のアドバイスに沿って5(日)をデータに使っている。報告間隔は7(日)だ。
実効再生産数とは本来、世代時間において2次感染がどうなったかを描くものだが、ここでは計算上、報告間隔ごとのデータを使っている。

そのため、「『報告期間の別で報告される患者数』を基に『世代時間の別で伝播が起こっている2次感染現象』を反映する実効再生産数を得るために、近似的な変換を行っている」と西浦教授は話す。
より詳細を知りたい方は、西浦教授の公開するGitHubリポジトリを参照してほしい。

 

東洋経済新報社

 


PCR検査を一手に引き受けざるを得ない状況に置かれている全国の保健所が、圧倒的な人手不足で崩壊寸前にまで追い込まれています。

日本の防疫の砦は、なぜこのような状況に置かれるに至ったのでしょうか。

 

「まずは保健所へ」という厚労省の怠慢

全国保健所長会の内田勝彦会長らは、オンラインによる記者会見を行い、全保健所を対象に行った緊急アンケートの結果を報告しました(調査期間は3月25日~4月22日)。
調査結果によれば、過労死ラインの月80時間を超える時間外労働が頻発し、土日の半日だけを休む以外はぶっ通しで働き、利用者から「電話がつながらない」「PCR検査が受けられない」などの不満や誹謗・中傷を浴びている過酷な労働状況が明らかになったといいます。
「とにかくマンパワーが決定的に不足している。いまは本当に人がほしい」と内田会長が窮状を訴えたように、とにもかくにも「人」が足りないのです。
人手不足のそもそもの原因は、1994年の行政改革で全国の保健所を徹底的に削減したことにあります。

1992年に全国852カ所にあった保健所は、2019年には472カ所と、実に45%も削減(厚生労働白書)

国は運営費助成金を削減して自治体に保健所業務の一部を肩代わりさせるとともに、保健所の広域化と統廃合、さらには人員削減を進めました。
件の会見によれば、感染症を扱う保健師は人口40万人規模の東京都葛飾区でたったの4人、大阪府枚方市でも5人しかいないとのこと。その少ない人数で、コロナ感染の電話相談に加え、検体運搬、感染疑いのある人の経過観察、感染経路や濃厚接触者の調査までの業務を行っているそうです。
コロナ感染拡大が始まった当初から、「PCRが受けられない」「なぜもっとできないのか」という不満が相次ぎ、専門家の先生たちも「保健師の補充、人員を増やすことを早急にやってほしい」と国に訴えてきました。

しかしながら、厚労省は地方自治体に「通達」を出すばかりで、具体的に動くことはありませんでした。
その結果、自治体ごとに対応が異なり、余裕のある自治体では他部所からヘルプが入りましたが、そうでない自治体では「電話が鳴り続けているのに誰も出ない」という異常事態が発生。

人を雇いたくてもカネがない、国からの補助金も出ない。しかも、保健所の保健師さんは、母子保健や精神保健福祉に関する
仕事も行っているので、それらの業務が手薄になる心配もありました。
さらに、厚労省はPCR検査の民間委託や、大学にお願いすることも行いませんでした。

一説によれば、コロナ対策は厚労省の管轄ですが大学は文科省の管轄のため、大学側が「手伝います!」と志願してもできなかったとも報じられています。つまり、厚労省は何ら「そもそもの問題」を解決することなく、「感染が疑われる場合は、まず最寄りの保健所へ」と言い続けた。
そして、コロナ感染が疑われる人たちは医療機関をたらい回しにされたうえ重篤化してしまったり、検査が受けられないケースが多発し、保健師さんたちが誹謗中傷を受けるという、理不尽が生じてしまったのです。
こんな緊急時でも「お上のお達し」と「縦割りの弊害」が出ているとは。情けなくなります。

問題はそれだけにとどまりません。

日本の感染症対策の専門機関である国立感染症研究所では、研究者が312人(2013年)から294人に削減され、そのうち任期付きが44人で常勤は3割程度です。おまけに厚労省職員の53%が非常勤職員で、他省庁と比べても非正規率は高くなっています。
つまるところ、効率化を進めてきたことで今回のような感染症などの危機にまともに対応できないほど脆弱化していたのに、国の対応はスピード感もなければ、どこか他人事で。

危機管理能力が著しく欠如していることが、さまざまな混乱をもたらしているのです。
コロナ感染は第2波、第3波も予想されているので、とにかくそれに耐えうるだけの準備を確実にやってほしいです。

 



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