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「倒産ドミノ」回避後に迫る景気後退の超危険


すべての企業を救う「しわ寄せ」は国民に行く

2020年05月20日

日沖 健 : 経営コンサルタント

過去を振り返ると、国・自治体の政策は副作用を生んだり、逆効果になることがたびたびありました。

今回は大丈夫でしょうか。

国中を挙げて「とにかく倒産させるな!」の大合唱の中で見落としがちな企業支援施策の副作用・問題点と今後の対応について考えてみましょう。

「危ない企業はすべて救え!」が国の方針

2月以降、国・自治体は企業を支援する施策を導入してきました。

融資・補助金・給付金・出資・減税など様々でまさに百花繚乱という感じですが、私の理解では目的・方針・手段はかなり首尾一貫しています。

目的:企業の倒産とそれによる失業の阻止
方針:倒産の危機にあるすべての企業を救おう!
手段:融資・補助金など資金繰りの支援

3つのうち、方針「倒産の危機にあるすべての企業を救おう!」という私の理解には、異論もあるかもしれません。
緊急融資では、売上高の減少など経営状態の悪化の他に、「中長期的にみて、業況が回復し、かつ、発展することが見込まれること」(日本政策金融公庫・新型コロナウイルス感染症特別貸付)などが条件にされています。
持続化給付金でも、中小企業であること、売上高が減少していることのほかに、「今後も事業を継続する意思があること」が申請の条件になっています。どの施策にも一定の条件が付いています。
ただ、緊急融資では、麻生財務相が3月6日談話で金融機関に「事業者の資金繰り緩和に向けて全力をあげて丁寧かつ迅速に取り組むこと」を強く要求しており、金融機関は原則として融資に応じています。
無担保の融資制度も多く、信用度が低い企業にも門戸を広げています。持続化給付金では、私の知る限り、申請者が今後の事業継続を意思表示すれば、申請段階でその真偽までは確認していません。というより、確かめようがありません。
このように、本来は一時的に経営状態が悪化した企業を救うはずが、実質的に「倒産の危機にあるすべての企業を救おう!」という方針になっているのです。そして、広く国民を巻き込んだ緊急事態ということもあって、マスコミでもネットでも、この「すべてを救え!」という政策への批判はあまり聞こえません。

3つの副作用と問題点

「すべてを救え!」の支援は、間違いなく倒産防止に効果を発揮します。倒産の減少は経済・国民生活にプラスです。しかし、国・自治体の政策には、マイナス面が付き物。長い目で見て、禍根を残すことはないでしょうか。3つの副作用・問題点が懸念されます。
第1に、「持続化給付金での不正受給」です。中小企業庁は「申請に不審な点があれば調査する」としていますが、明らかな不正はともかく、たとえば、計画倒産をたくらむ悪徳経営者が持続化給付金を受け取った後、「事業を続けようと思っていたけど、やっぱりダメになっちゃいました」と言えば、不正を追及するのは困難です。
近年、事業承継が問題になっており、400万社に及ぶ中小企業経営者の相当数が事業を継続するべきか悩んでいます。知り合いの70代の商店主は、「後継者不在で、近いうちに廃業するつもりです。いますぐ廃業しようか、(持続化給付金を)200万円もらってからにしようか迷っています」と正直に打ち明けてくれました。
第2に、「緊急融資の不良債権化」です。今回の緊急融資、とくに無担保融資に殺到するのは、すでに借入金が多いため取引金融機関からの借り増しが難しく、資金繰りに困窮している企業でしょう。イコール、経営が苦しく、信用度が低い企業です。
こうした企業に融資を拡大すると、やがて大量の不良債権が発生するのは、少し性格が違いますが過去のバブルで何度も経験済み。今回の緊急融資も、相当な部分が不良債権化することでしょう。
1990年代、日本は不良債権処理に手間取り、長期の停滞に陥りました。現在、不良債権に対するセイフティネットは、当時と比べて格段に充実しています。それでも不良債権問題が浮上すれば、体力が弱い地方の金融機関を中心に甚大な影響が出ると懸念されます「『地方銀行の崩壊』コロナが映す暗い未来予想図」参照)。

👉 地域金融機関に求められる「3つの自助努力」

地域金融機関も「最後は何とかしてくれる」と行政に頼り切ってはいけません。次のような自助努力をすることが期待されます。

1.増資で資本を増強するとともに、貸倒引当金を積み増す
2.緊急融資では、企業の将来性や経営姿勢などを見極めて選別融資する。また、融資した後は、外部専門家を活用して融資先の経営改善の進捗状況をモニタリングする
3.地域の経済活動を支援する(もちろん感染には注意しつつ)

 

  こういう非常事態だからこそ、地域金融機関にも行政にも、そしてわれわれ国民にも、危機を直視し、冷静に対応することが求められます。

「経済の構造改革」阻害する危険も

第3に、経済の構造改革を遅らせてしまうことです。グローバル化・IT化の流れに乗り遅れた日本は、すでに1人当たりGDPなどの指標で先進国の座から転落しており、抜本的な構造改革を迫られています。
厳しい言い方になりますが、構造改革に対応できない企業には、退場してもらうしかありません。「すべてを救え!」の政策は、本来なら市場から退出するべき企業を温存し、構造改革を阻害してしまう危険性があるのです。
なお、すべての企業を救おう、融資が不良債権になったら銀行も救おう、となると、財政支出が膨らみ、国の財政悪化=将来の増税が問題になります。これが「すべてを救え!」という政策の最大の問題かもしれません。
ただ、「借金による財政支出の拡大は何ら問題ない」とするMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)も支持を集めており、限られた紙幅では議論の収拾がつかないので、今後議論が深まることを期待し、ここでは割愛します。
「すべてを救え!」という政策の副作用・問題点に、どう対応すればよいのでしょうか。すでに大々的に支援施策が展開されている中、今後、以下のような対応が必要です。

1:追加の資金繰り支援は、原則として行わない。行う場合は、厳格に審査を行い、事業に将来性があり、経営悪化が一時的だと認められる企業に限定して支援する。

2:すでに実行した融資・給付金の使い道や支援企業の経営状態をチェックし、経営指導を行う。不正には厳正に対処する。            国・自治体は人手・人材の不足で十分なチェック・指導をできないので、中小企業診断士など民間の専門家を活用する。

3:売り上げ回復で倒産を減らすことを目指して、経済活動を本格的に再開する(感染リスクには留意する)。                             そのために、販路開拓・新サービス創造といった前向きな事業活動を支援する。

デメリットは数年後に表面化する

この問題が悩ましいのは、政策のメリットとデメリットに時間差があることです。
「すべてを救え!」の政策は、倒産を減らすのに即効性がある一方、当面、問題は発生しません。短期的にはメリットだけです。
不良債権の発生、構造改革の遅れ、財政問題=増税といったデメリットは、この先2~10年という中長期的に表面化し、深刻化します。
今日この日を生きるわれわれ国民は、長期的なことをなかなか考えられません。情報や専門知識の制約もあります。どうしても目前にある短期的なメリットに着目し、「すべてを救え!」の政策を支持しがちです。ここは政治がリーダーシップを発揮し、短期のメリットの享受と長期のデメリットの克服をバランスさせることを期待しましょう。


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