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医師が教える「コロナ感染データ」の正しい見方

誤読、デマを防ぐためのヒント

山田 悠史 : 米国内科専門医
2020年04月13日

コロナウイルスの有用な情報を提供するアメリカのジョンズ・ホプキンス大学のウェブサイト。サイトの活用の仕方・数字の解釈の仕方をご紹介します(写真:Rawpixel/PIXTA)

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。さまざまな機関が調査し、情報を発信していますが、感染流行の早期から有用な情報を提供しているのが、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のウェブサイトです。高頻度で更新される独自の「COVID-19マップ」など、注目してきた方もいるのではないでしょうか。

このサイトは当初、すべて手作業で各国の発表するデータを回収して作られていたようで、1日2回の頻度で更新されていました。

今現在は一部自動更新などのシステムを導入していますが、当時の作業量はすさまじいものだったでしょう。
データを見ることは、事実を知り、現状を把握することにつながります。

世界的な状況を把握したいとき、このサイトのデータは大変有益といえます。
ただし、こうしたデータの見方には少し注意と工夫も必要です。

そこで今回の記事では、このウェブサイトの活用の仕方、数字の解釈の仕方をご紹介します。このサイトにとどまらず、コロナウイルス、また医療関連のデータを正しく把握するヒントにしていただければと思います。



*COVID-19マップの見方

まずは、ウェブサイトをご覧ください。
この中で、最もよく閲覧されているのが、「COVID-19マップ」でしょう。

ここにはたくさんの数字、そして国名が示されています。左側”Confirmed Cases”というのが、これまでに確定した感染者数の合計を示しており、感染者数が多い順に国名が記されています。現状では、アメリカ、ヨーロッパ諸国、中国、イランなどの国に多いことがわかります。
これらの数字は、国ごとの感染拡大の規模感、過去にどれくらいの方が診断されているのかを知るのに役立ちます。定期的に見てみると、世界的な感染状況の大まかな推移が概観できるでしょう。各報道で取り上げられる国というのは偏りがあるかもしれませんが、それぞれの国の現在地を俯瞰する、報道で取り上げられない国の現状を知るという点でも参考になります。
しかし、注意点もあります。この数字から各国を比較して、各国の感染状況の深刻さや政府の対策の良しあしについて、そのまま評価することはできない、ということです。


理由は大きく2つあります。
1つは、国によって検査方針が大きく異なるからです。同じヨーロッパでも、軽症者には検査を行わない方針の国もあります。

感染流行が急速に進んだ国では、そもそも検査が間に合っていないケースもあるでしょう。

逆に、ドイツのように、検査を重視して軽症者にも積極的に行っている国もあります。これにより、「診断数」には大きな差が生じてしまいます。
もう1つは、感染流行の「時間のズレ」です。いま感染者が少ない国でも、これから流行するだけなのかもしれません。

例えば中国からの感染者の流入のタイミングが遅れた国や、ごく早期から何らかの対策を打ってきた国では、今後遅れて感染者が増える可能性があります。現状の感染者を見て「成功している」「失敗している」と評価をしていると、後から振り返ったときに評価を間違っている可能性があるのです。
実際に、振り返れば、このパンデミックの始まりの段階では、誰もがアメリカやイタリアでこのような状況になることを予想しておらず、中国だけでダントツ感染者が多い状態でしたね。また数カ月すると、分布が大きく変わっているかもしれません。
このような理由から、これらの数字を見て、「日本は大丈夫」と安心することもできないことがわかります

*医療リソースの消費が大きな国はより多くの支援が必要
この数字の規模感は、隣の世界地図に円の大きさで表示されています。

れを比較することで、これまで診断された方の数の比較ができます。
これまた同じ理由で単純比較してはいけませんが、各国でどれくらい医療リソースが消費されてきたかがわかります。

円が大きな国には、それだけすでにリソースの消費や経済的打撃があり、より多くの支援を必要としていると言ってよいでしょう。

もし、今まさに病気で苦しんでいる方の数を知りたい場合には、”Active Cases”という場所をクリックすれば、そちらのほうが正確です。

こちらの数では、これまで診断された人数から、すでに治癒した方、亡くなられた方の人数が引き算されています。


このすでに治癒した方、亡くなられた方の数字は、世界地図の右側に表示されています。

いちばん右側の治癒した方の数字は、このマップの中で唯一、皆にとって明るいニュースかもしれません。

いちばん上の国は感染がいちばん初めに起こった中国になりますが、すでに7万7000人を超える方が治癒していることがわかります。

多くの方が、長い戦いを経て、よくなっておられるという事実はどの国にとっても、支えになるのではないかと思います。
一方で、その隣には最も悲しい現実である、死亡者数も列記されています。

イタリアやスペイン、フランスではすでに1万人を超える方が亡くなっている現実がわかります。
これらの死亡者は、診断されてからさらに1週間や2週間、あるいはそれ以上経ってから残念ながら命を落とすという結果になっているはずですから、左側の地図でActive Casesという円が非常に大きい地域では、この後、遅れて増えてくることが予想されます。タイムラグを意識して数字を見る必要があります。

*データセンターの見方

次に、データセンター(Data Center)というところに目を移してみましょう。

こちらには、新規感染者の推移を確認できる”NEW CASES”と各国での死亡率を確認できる”MORTALITY ANALYSES”の2つのページが用意されています。


まずはNEW CASESのほうから見ていきましょう。

これを見ると、新たに診断された患者数の各国の日ごと(正確には5日ずつ)の推移がわかります。

いちばん上の比較のグラフを見ると、アメリカで飛び抜けて感染者が急増してしまっているのがわかります。

逆にヨーロッパ諸国はそれに比べるとカーブはなだらかに見えますね。


*感染からカウントされるまで約2週間のタイムラグがある

ここでも、タイムラグがあるということに注意が必要です。

人は感染してから、無症状の潜伏期間を経て、さらに症状が出てしばらく経ってから、病院を受診して診断を受けることになります。このため、感染成立から約2週間遅れでカウントされることになります。
現在の感染の流行状況を表してはおらず、このギャップが、各国が政策決定に頭を悩ませている大きな理由の1つです。
このグラフの下には、国別の状況を示したグラフも見られます。

ここでのポイントは5日ずつのまとめになっているということ。

1日単位では検査の提出数などのぶれもあるので、1日単位の増減を比較するとより不正確になりそうですね。このため、5日ごとで見ています。

最近、東京や大阪の数字が日ごとに報道されるのを目にしますが、それだけで一喜一憂するのは誤解のもとです。
これを見ると、大変な状況を経験し続けているイタリアやスペインでもカーブが比較的、平らになってきていることがわかります。
一方、イギリスやアメリカではまだまだ急増しているのがわかり、少なくとも2週間前までは爆発的な感染拡大が起こっていたことがわかります
繰り返しになりますが、現在の様子がはっきりわかるのは2週間後です。

2週間後のデータが低下傾向を示していれば、振り返って、感染はおさまってきていたとわかるわけです。
次に死亡分析(MORTALITY ANALYSES)のほうに目を移してみましょう。


ここでは、各国での死亡率の違いを知ることができます。
死亡率というのは、分子が死亡者数、分母が診断された方の数で、割り算をした値になります。このうち、死亡者数は比較的正確に割り出せていると思いますが(実際には国によりその定義が異なるのですが)、分母の患者数は、先ほどの話と同様、検査の方針によって大きく変わります
検査を積極的にやればやるほど分母が大きくなるため、例えば、検査を積極的にやっているドイツでは、死亡率がとても小さくなっているのがわかります。
このように、数字だけを単純比較して、この国は医療の質がいい、悪い、というような評価をすることはできません。


「検査数」という偏りを取り除いてみたい場合には、人口10万人中の死亡者数を表示することもできるようになっています。

これにより、各国で、人口の大小を取り除いたうえで、どのぐらいの規模で死亡者が出てしまったのかが比較できます。

こちらの場合、検査方針のばらつきの影響も取り除けるものの、例えば高齢者に感染が広がれば広がるほど死亡率が上昇する、医療機関がパンクしてしまえば同様に死亡率が上昇する、など複数の要因が影響を及ぼすことになります。
さまざまな要因でこの数字は変動しうるので、1つの要因だけを切りとって、この国は致死率が高いから、医療の質が低い、医療崩壊だ、と一意的に解釈してしまうと誤解が生じてしまいます。

*データは参考程度にとどめ、今できることを淡々と

コロナ感染が世界中で深刻化する中、正確な情報にアクセスし、データを読み解くことの重要性は増しています。

しかし、数字の見方を間違えてしまうと、状況判断を見誤る可能性があります。
情報収集は必要ではありますが、「データを見すぎない」ということも、このような中では意識しておくべきです。

前述のとおり、解釈の妨げとなる数多くの因子を調整して読み解くのは簡単なことではありませんし、情報を集めすぎたことにより、不安が膨張しすぎてしまうこともあります。
数字を見るとついつい比較したくなるのが人間のさがですが、安易に比較して、自分なりの考察をSNSなどに投稿すれば、それはたちまちデマの温床になります。これらのデータは参考程度にとどめ、今できることを淡々と続けていくことが大切です。


高学歴でも「学ばないおじさん」の目に余る怠惰

中卒でも学ぶ意欲があれば組織のリーダーに

横山 信弘 : 経営コラムニスト
2020年03月13日

「会社を立ち上げたとき、ヤンキーや暴走族しか当社には来てくれなかった。しかし、そのヤンキーや暴走族の1人は今では製造部長で、もう1人は東京支社の支社長をやっている」ある大企業のA社長は、うれしそうにそう話した。

元ヤンキーだった彼らが入社して30年近く経った後、この会社は世界的企業になった。

彼らは今や会社の屋台骨を支える幹部に育ったということだ。
A社長は「彼らは今も基本的にあほですが」と言うが、彼にとっては痛快にちがいない。
就職すら危ぶまれた中卒や高校中退の若者が、数十年後には、名高い大学を卒業して入社してくる社員たちが慕う組織のリーダーに育っていったのだから。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成するコンサルタントだ。

多くの経営者から「経営目標を絶対達成したい」という相談を受ける。
にもかかわらず、勤勉な40代、50代の管理職や経営幹部と出会うのはまれだ。

 

*企業では「黒字リストラ」が出てきている

今年の1月初旬、「黒字リストラ」の記事を執筆したところ、とても大きな反響があった。

「黒字リストラ」とは好業績でも、人員削減に着手する企業が後を絶たない状況を意味する。
2020年1~2月に早期・希望退職者を募った上場企業は延べ19社にのぼる(東京商工リサーチ調べ)。

この中には増収増益で、今後を見据えた「先行型」リストラも見受けられる。
こうした「黒字リストラ」は今後も続くどころか、加速していく可能性が高い。
バブルがはじけたころの「赤字リストラ」は、55歳を超える定年間際の社員が対象だった。

まだ働けるのに肩を叩かれるのは、さぞかしつらいことであっただろう。
だが、高額の退職金で食いつなげるかもしれないと思えば、悔しさも幾分は和らいだのではないか。
ところが現代のリストラは、まったく様相が違う。現在の希望退職者のボーダーラインは「45~50歳」。さらに今後、一段引き下げられ「40~45歳」になることも考えられる。
50代はもちろんのこと、30代も40代も、うかうかしてはいられない。
そんな「黒字リストラ」が相次ぐ中、50~60代の管理職で、高給取りなのに、会社への貢献度が低い男性社員もいる。ちまたでは彼らを「働かないおじさん」と呼ぶそうだ。
このご時世、「働かないおじさん」と言われてしまっては即アウトだと言える。
ただ、それよりも私が危惧するのは、「学ばないおじさん」だ。

働かないおじさん」の問題はわかりやすく、多くの人が識別できる。
一方でより深刻なのは、社会に出てから仕事に直接関わる「実務」の勉強以外、まったく自己研鑽しようとしない「学ばないおじさん」のほうだ。
2年ほど前、とある会社の営業本部長に「横山さんの本を買って勉強したいのですが、なにせお金がないので」と言われたことがある。
私の本を買って読まなくてもいい。しかし、たかが1600円程度の書籍だ。
私はこの本部長の年収も知っていた。だから「お金がないからではなく、学ぶ気がないので本を買わない」という彼の本音もわかっていた。
このような姿勢の本部長が上司では、部下は育たないだろう。

 

*ビジネス書や新聞も読まない中間管理職

大なり小なり、ほとんどの中間管理職は、前述の本部長とそう変わらない。
コミュニケーション、マネジメント、リーダーシップ、ロジカルシンキングといった、一般的なビジネススキルに関わる研修をやっても、ほとんどの中間管理職は概念ぐらいしか理解していない。
当然、部下にレクチャーもできなければ、指導もできない状態だ。
また彼らのほとんどは3C(事業戦略立案の3つの基本要素=顧客、競合相手、自社)、SWOT(Strength「強さ」、Weakness「弱さ」、Opportunity「機会」、Threat 「脅威」)、などといった古典的なフレームワークの名前しか聞いたことがないというレベルだ。
中には知らなくて当たり前、ひどい場合は「知っていればいいってもんじゃない」と開き直る人も多い。
さらにはビジネス書も読まなければ、新聞も読まない中間管理職もいる。

ニュースはスマホでしか確認しないから、日々知りえる情報は強烈に偏っているように見受けられる。
そんな「学ばないおじさん」が組織のミドル層に巣くっていたら、外部からやってきた経営者(とくに外資系)に一発で退場させられるだろう。
私はかつて中央アメリカで青年海外協力隊として活動していたことがあるが、「お金があったら、食べ物よりも本を買いたい」と話す同僚もいた。
彼が日本企業の実態を知ったら、どう受け取るのだろうか。
私はヤンキーでも暴走族でもなかったが、家が貧乏で大学には行かせてもらえなかった。
それにもかかわらず現在私は、高学歴で、高難度の資格を持ったコンサルタントたちと一緒に仕事をさせてもらっている。夢のようで、すばらしい体験だ。大変ありがたい経験だ。
私は社会に出る前より、社会に出た後のほうがはるかに勉強した。劣等感があったせいか、ずっとその姿勢を絶やしたことはない。
そういう意味では、これからの時代、「高学歴」より「恒学歴(こうがくれき)」の人の時代なのではないだろうか。

 

*社会に出た後も勉強し続けることが大切

恒学歴」とは高い学位を持って社会に出た人ではなく、社会に出てからも恒(つね)に学んできた歴史のある人材のことだ。昔から「高学歴」という響きに私はあこがれを抱いてきた。
しかし長年現場にいて、あまりに「学ばない高学歴おじさん」を目にしてきた。
ますます不確実性の高い時代に突入するからこそ、「高学歴」よりも同音異義の「恒学歴」のほうが企業には求められているのではないだろうか。

 



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