おがわの音♪ バックナンバー · 2020/04/12

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（米中争覇）情報戦　ＣＩＡに中国スパイ、十数人が命落とした

朝日新聞デジタル

2020年4月12日

ジェリー・チャン・シン・リー元職員＝１７年１０月、ＡＦＰ時事

「この１年で、３人が中国のためにスパイをしていたことが明るみに出た。悲しいことに、いずれも情報機関にいた者たちだ」
　米バージニア州の連邦地裁。昨年１１月、スパイ罪に問われた中央情報局（ＣＩＡ）元職員ジェリー・チャン・シン・リーの公判に臨んだ検事は、こう言って厳罰を求めた。

　米国では昨年、５月にＣＩＡ、９月には国防情報局の元職員が実刑判決を受けた。

中でも禁錮１９年の実刑判決を受けたリーの事件の衝撃は大きかった。

諜報分野における米中の対立は、米ソ冷戦の再来そのものといえる状態にあることを浮き彫りにしたからだ。
　判決などによると、香港出身で米国籍を持つリーは、１９９４年からＣＩＡ特殊要員として東京や北京などで勤務した。２００７年にＣＩＡを去った後、１０年４月に中国の情報機関員と接触。米国の機密を渡して数十万ドルを受け取った。
　深刻だったのは、リーが渡した情報にＣＩＡ工作員や協力者の名や特殊な通信方法が含まれていたことだ。

１７年５月、米紙ニューヨーク・タイムズは、米国が中国内に張った諜報網に起きた異変を報道。１０年から１２年の間に十数人のＣＩＡ協力者が殺され、ある者は見せしめで政府庁舎の中庭で射殺されたと伝えた。

　米中双方の政府関係者は、粛清は「リーが中国側に提供した情報がきっかけだ」と口をそろえる。

　今回の事件は「米国史上最悪のスパイ犯」と呼ばれたオルドリッチ・エイムズの事件に比される。冷戦時代、ＣＩＡの対ソ連防諜部長だったエイムズは、ＣＩＡ協力者の名をソ連に密告。それによりソ連軍幹部ら１０人以上が処刑された。
　いずれ覇権を争う相手として米中がせめぎ合いを始めたのは、「２０００年代初めごろだった」と、元ＣＩＡ当局者は話す。
米歴代政権は、米主導の国際秩序を支える存在へと導く「関与政策」をとってきた。

しかし、その間、中国との暗闘を重ねた米情報機関は、厳しい中国観を固めた。

　トランプ政権はＣＩＡ長官だった国務長官のマイク・ポンペオ、国防総省顧問のマイケル・ピルズベリーら情報機関出身者らを重用。

「米国は中国にだまされてきた」（ピルズベリー）という強烈な対中不信がホワイトハウスに持ち込まれた。
　不信に基づく情報戦は、新型コロナウイルスを巡っても繰り広げられている。＝敬称略（ワシントン＝編集委員・峯村健司）