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バッタ大量発生、農作物の被害拡大

アフリカ東部から南西アジアへ波及 

2020/3/3
日本経済新聞

バッタの被害に見舞われているケニアの様子 (今年2月21日)(写真:ロイター/アフロ)

アフリカ東部や南西アジアのインド、パキスタンで大量のバッタが農作物などを食い荒らす被害が深刻化している。群れの規模はケニアでは過去70年で最も大きく、エチオピアやソマリアでも過去25年で最大となった。パキスタンでは食料価格の急騰をもたらした。国連は「対応が遅れれば、食糧不足による人道危機をもたらす」と警鐘を鳴らしている。国連によると、最も被害が深刻なケニアでは1000億~2000億匹のバッタが約2400平方キロメートルの範囲で農作物を襲っているという。全て食い荒らされた場合は8400万人分の食糧が失われることになる。



国連食糧農業機関(FAO)はエチオピアやケニア、ソマリアでは約1200万人が食糧危機の状態にあると指摘。

ソマリア政府は2月に非常事態を宣言した。バッタはタンザニアや南スーダンにも飛来。すでに深刻な食糧不足に追い打ちをかけている。バッタの被害はアフリカ東部から南西アジアにも波及している。

FAOによると、パキスタンとインドの国境に近い地域では2019年8月ごろからバッタの大群が砂漠などに飛来した。

これらの地域では100億匹ほどが現在もとどまり、小規模な町の空をほぼ覆うほどの群れをなしているという。

パキスタンでは特にトマト、小麦、綿花に壊滅的な被害が出ている。

パキスタンのカーン首相は2月、大量のバッタによる被害を踏まえ、農作物や農家の保護に向けた緊急事態の宣言を出した。

インド西部グジャラート州では19年12月、クミンシードなどの種子を栽培する農地約1万700ヘクタールが被害を受けた。


バッタの大量発生の要因としては、近年の異常気象が東アフリカの砂漠に大量の雨をもたらし、良好な繁殖環境をつくったことが指摘されている。

FAOパキスタンのシャキール・カーン専門官は「温暖化に伴いバッタの繁殖期間が長くなり、過去にない大きな被害につながった」と分析する。内戦や資金不足で各国政府の駆除対策が著しく不足していたことも背景にある。

バッタは大群で1日150キロメートルほど移動できるとされ、さらに被害地域が広がる可能性がある。

ロイター通信によると、他にもサウジアラビアやイラン、イエメンの紅海沿岸でもバッタ襲来のリスクが高まっている。

FAOは「6月までにバッタの数が500倍に増える恐れがある」と警告している。
FAOは殺虫剤の散布や食糧支援などの緊急対策のため、必要な資金1億3800万ドル(約150億円)の拠出を各国に呼びかけている。

特にアフリカ東部では近年、大雨や干ばつにも見舞われ、不作が続いていた。

今春以降の収穫時期までにバッタによる被害を抑えられなかった場合、多くの餓死者が出る可能性もある。

(加藤彰介、ニューデリー=馬場燃) 

■概況

  • パキスタンでは、2020年1月以降、イランやインドで大量発生したサバクトビバッタ(以下バッタ)の侵入により壊滅的な農業被害を受けています。合計98万5,230haの農地で、バッタの群れが確認されています。そのうち約30万haには薬剤散布がされたものの、薬剤は人体にも影響があり農作物は廃棄しなければならず、収入が途絶する農家が後を絶ちません。バッタは産卵期に入り、今後、穀倉地域にさらなる被害が予測されています。
  • 東アフリカ諸国では、2019年12月以降、大量発生したバッタが農業地帯で多大な被害をもたらしています。害虫は1km²の群れが1日で35,000人分の食料を食べます。特にケニアでは、70年で最も深刻な被害とも言われており、北部、中部では7万haの農地や牧草地で被害が出ています。近年、干ばつや洪水の被害で苦しむ北部地域では、300万人以上が食料危機に直面しており、更なる悪化が予想されています。
  • また南スーダンでは、紛争による政情不安定や自然災害などにより、人口の55%にあたる約650万人が食料不足などの問題を抱える南スーダンにも脅威となることが予想されています。食料危機の深刻化や子どもの栄養状態の悪化を防ぐためにも、迅速な対策の必要性が、国際機関などによって指摘されています。

 



2020/4/6

森さやか  / NHK国際放送局 気象アンカー、気象予報士

新型コロナウイルスの拡大により人々の接触を少なくする努力が世界中でなされています。

人々が家にとどまることで好都合なのは、野生動物です。人のいない場所は、彼らにとっては楽園。普段なら人目をはばかって歩けない町中を、堂々と闊歩する動物も現れています。イギリス北部では、のんびり幸せそうに歩くヤギの集団、パリではイノシシの親子、チリではピューマ、そして奈良県ではシカが住宅地に出没しています。


バッタの脅威

この混乱に乗じてアフリカ東部で陣地を広げているのが「サバクトビバッタ」です。
2019年末頃から、ソマリアやケニア、エチオピアなど「アフリカの角」地域を中心に、数十年来で最悪のバッタの大量発生が起きていました。大きな群れだと、東京23区の4倍に匹敵する大きさで、その中には80億匹のバッタがひしめき、350万人分の1日の食糧を食べ尽くしてしまうといいます。
恐ろしいのはその大食漢ぶりにとどまりません。バッタの大群は一日で130キロも移動し、3カ月ごとに20倍のペースで増えていくのです。エチオピアで穀物の40%がバッタに食い荒らされてしまうなど、アフリカではすでに大変な食糧難が発生しています。 


繁殖環境によって集団行動をするバッタが発生する

 空が暗くなるほど巨大なバッタの大群が飛んできて農作物を食い荒らす。

昔から世界各地でバッタが大量発生し、人々を苦しめてきました。

普段は単独行動を好むバッタが集団行動するようになる変化を「相変異」といいます。

仲間が少ないときのバッタを「孤独相」、多いときのバッタを「群生相」と呼びますが、相変異はバッタの大量発生と重要な関係があります。

なぜ相変異が起こるのか。アフリカの半砂漠地帯に棲むサバクトビバッタを例に解説しましょう。


群生相になったバッタの成虫の群れ。
現地では殺虫剤を直接スプレーして対策しているが、防除費用は年間3億円にも及ぶ。効率のよい防除方法の開発が待たれている。

 いつも乾燥している砂漠ですが、雨季に雨が降ると、バッタのエサとなる草が生えてきます。バッタは、その先に雨が降っていることの多い季節風に乗って移動し、エサにありつきます。そして、お腹いっぱいになると卵を産み始めます。

雨は数日しか降らないので、草は1か月ほどで枯れてしまいます。

孵化した幼虫はその前になんとか成虫になるものの、その場では生活できず、新しいエサ場を求めて旅に出ます。

 ところが、珍しく大雨が降ると、草が枯れるのが遅くなるため、バッタは旅に出ずに数世代連続して繁殖します。

バッタの繁殖力は高く、あっという間に仲間の数が増えます。草が枯れ始めると、草が残っている狭い範囲にたくさんのバッタが集まってきて、ますます数が多くなります。

 仲間が多くなるとバッタの体に変化が起こります。仲間と群れるようになり、翅が長くなって飛びやすい体になります。これが相変異です。

実験の結果、バッタは仲間の姿や匂いではなく、ぶつかり合いに反応して相変異を引き起こすこと、そして、その接触刺激を触角で感じていることがわかってきました。 
 群生相になると1日に100km以上も飛び、途中で小さい群れ同士が合流し、群れはますます巨大になっていきます。バッタの大群は、大雨によって引き起こされた群生相の大集団なのです。(国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター・任期付研究員 前野ウルド浩太郎)



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