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Zoomだけじゃない!リモートワークの新「神器」

SlackやTeamsが急成長、固定電話も家で応答 

中川 雅博 : 東洋経済 記者
2020年04月06日

マイクロソフトのチャット・ビデオ会議ツール「Teams(チームズ)」の画面。左上の人の名前の横に小さく手のマークが見えるが、これが年内に実装される予定の「挙手」機能だ(写真:Microsoft)

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京都を中心に、リモートワークや在宅勤務が、働き方の新たなスタンダードになりつつある。

この流れでいち早く注目を浴びたのが、ビデオ会議システムの「Zoom(ズーム)」だ。

アメリカのズーム・ビデオ・コミュニケーションズのエリック・ヤンCEOは4月1日、1日当たりの利用者数(無料も含む)がこの3月に2億人を突破したことを明らかにした。1000万人だった2019年12月から脅威の急成長だ。

一方、ユーザーが急増しているのは、ズームだけではない。

 



*「Teams」は1週間で1200万人増加

マイクロソフトのチャット・ビデオ会議ツール「Teamsチームズ)」は、全世界の1日当たりの利用者数(アクティブユーザー)が3月11日時点で3200万人だったが、3月18日には4400万人と、わずか1週間で1200万人増えた。さらに10万人以上の利用者がいる顧客企業の数もこの1週間で14社から20社に増えた。

日本マイクロソフトはTeamsに関する記者会見をTeamsを介して開催。

山崎善寛・Microsoft 365ビジネス本部長が業況を説明した(画像:Microsoft)

日本マイクロソフトの山崎善寛・Microsoft 365ビジネス本部長は、「日本国内のユーザー数は公表していないが、3月中旬の1~2週間で過去最高の伸びとなった」と語る。チームズではチャットやビデオ会議のほか、社外の取引先ともワードエクセルなどの文書を共有できる。「1つのツールで多くの業務をカバーできるのが強みだ」(山崎氏)。
チームズではリモートワークで使える複数の新機能も発表した。例えば、2020年内に提供を開始するリアルタイムのノイズ抑制機能。家で仕事をしながらビデオ会議に参加する場合、生活音が入ってしまわないよう、人の声以外の音をクラウド上で抑制処理する。
大人数でのビデオ会議では発言が交錯しがちだ。発言したい人が発言できるように、挙手ボタンを押せば、参加者全員にその人が挙手していることがわかるようにマークが表示される機能も追加された。



SlackのバターフィールドCEOがツイッターに投稿した社内チャットの画像。同時接続ユーザー数の新記録が時々刻々と塗り替えられている様子がわかる(画像:ツイッターアカウント @stewart)

一方、ビジネスチャットツールの「Slackスラック)」を手がけるアメリカのスラック・テクノロジーズは、2019年10月に全世界の1日当たりの利用者数が1200万人に達した。それとは別に同社は今回、スラックに同時に接続したユーザー数を公表。3月16日に1050万人だったのが、3月25日には1250万人まで増加した。
また、新たにスラックを導入した企業・団体の中で1週間で2日以上利用した社数を示す社内指標は、3月10日時点の前週比でイタリアは120%、日本は34%、韓国は33%増加したという。そこから半月以上経過しているため、世界各地で一層増加しているとみられる。
スラックのスチュアート・バターフィールドCEOは3月26日、この間社内のリモートワーク移行をどう進めたか、スラックのユーザーが急激に増える中でどう対応したかといった事細かな経緯をツイッターに投稿した。
「2020年度の第3・第4四半期は有料課金企業数が5000社ずつ増えた。ただ今進行中の2021年度第1四半期はすでに9000社増えた」
「ユーザーはより多くの時間をスラック上で過ごすようになった。1日当たりのメッセージ送信数はこの間に20%増えた」


*Slackはユーザー数増が収益に直結
ユーザーや導入企業の増加が意味するものは、マイクロソフトとスラックで大きく異なる。

チームズはマイクロソフトの業務ソフト群Office 365(オフィス365)」に含まれており、オフィス365の導入企業ではいつでもチームズを使える状態だった。チームズのユーザー数が増えても、すでにオフィス365としてのライセンス収入が入っているため、収益面での貢献は小さい。

Slackはチャットだけでなく、連携する2000以上のアプリをチャットから呼び出すことができ、参加者と共同作業もできる。さながらバーチャルオフィスだ(画像:Slack)

一方のスラックチャットツールが主事業であり収入源。

無料プランもあるが、利用人数が増えたり、大企業がコンプライアンス要件を満たそうとすると、有料プランとなる。

人数が増えれば増えるほど利用料金も上がるため、有料課金ユーザー数の増加がそのまま収入増につながるのだ。
ユーザー数の急激な増加は、こうした開発会社にとって手放しで喜べるものでもない。

昨今のチャットやビデオ会議のサービスは一様にクラウド型だ。

アクセスが増えれば、ネットワークやデータセンターの増強が必要になる。ビデオ会議の増加によって世界的に通信量が増えており、アメリカのネットフリックスやグーグル傘下のYouTube(ユーチューブ)といった動画配信サービスは初期設定の配信画質を落とす措置をとっている。


特にマイクロソフトは2019年11月にチームズアクセス障害が発生したばかりだ。

これについて日本マイクロソフトの山崎氏は、「コロナウイルスに関する報道が出始めた頃から、アメリカ本社のエンジニアリングチームが各国に状況を確認し、どの程度の増強が必要か検討した。日本でもビデオ会議が増えているため、ネットワークや(データセンターの)ハードウェアの処理能力の増強を進めてきた」と話す。
チャットやビデオ会議だけではない。リモートワークのハードルになりがちなのが、オフィス固定電話にかかってくる電話への対応だ。普段から携帯番号で連絡を取っている場合は問題ないが、固定電話の利用が多い場合はクラウドが活用できる。
マイクロソフトのチームズでは、チームズ上で電話をかけたり、取ったりすることが可能だ。

日本マイクロソフトはソフトバンクの電話網とクラウドシステムをつなぎ、通話を可能にしている。

足元では在宅勤務への急な移行を余儀なくされている企業が増えていることを受け、「この機能を無償で提供できないか、ソフトバンクと交渉中だ」(山崎氏)。

*固定電話をクラウド移行する意味
アマゾンのクラウドサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」を活用し、独自に電話システムを構築した企業もある。

AWSの導入支援を手がけるサーバーワークスだ。AWSにはもともと、「Amazon Connect(アマゾン・コネクト)」というコールセンター向けサービスがあり、指定の電話番号にかかってきた電話をPCなどのブラウザ上で取れるというものだ。
かけてきた相手の電話番号を営業支援システムの「セールスフォース上の顧客リストと自動的に突き合わせて、誰が電話をしてきたかもわかる。

AWSのAI(人工知能)による文字起こし機能を使えば、会話内容も自動で記録できる。サーバーワークスでは実証実験を重ね、実際に成約するケースも出てきたという。

TSグループでは入社式をリモート開催し、入社手続きも新入社員の出社なしで行った。SmartHRには雇用契約などをオンラインで締結するなどの機能がある(写真:SmartHR)

さらに、入社式をズームチームズなどを活用して開催する例が出てきている。ただ、対面で入社手続き書類を受け渡したり、押印が必要という企業も少なくない。
医療・介護の人材紹介・派遣大手のTSグループは4月1日、ズームを活用したオンライン入社式を開催。入社手続き書類の対応のため、クラウド型人事労務ソフト「SmartHR」を導入した。オンライン上で雇用契約書の締結が可能になったほか、従業員本人がスマートフォンやPCから従業員情報を入力するだけで入社手続きに必要な書類を自動作成し、役所への電子申請ができるため、対面での受け渡しや押印は不要だという。
コロナショックでリモートワークを強いられたことで、かえって対面で仕事をする意味を考え直す局面にきている。

さまざまなITツールを使いこなせるかどうかが、あらゆる企業の競争力を左右する時代になった。





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