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COVID-19抗体検査キットの最近状況


新型コロナを15分で検出、クラボウが検査試薬キットを販売へ


近藤 寿成 スプール
2020.03.12

キット内容のイメージ(出所:クラボウ)

 クラボウは研究用に、新型コロナウイルスの抗体を15分で検出できる「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット」の国内販売を、2020年3月16日に開始すると発表した。中国の提携先企業が開発したイムノクロマト法の原理に基づく検査試薬キットで、中国における標準診断法の1つとして2020年3月4日に中国の診療ガイドラインに採用された。


「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット」の製品概要(出所:クラボウ)

約10μLと少量の血清や血漿(けっしょう)、全血を添加した後に、検体希釈液(専用試薬)を滴下すると、15分で新型コロナウイルス感染の有無を目視によって判定できるようになる。特殊な装置や専門知識は不要。現在日本で利用されているPCR法の遺伝子検査と比べて、検査の時間やコスト、作業スペースなどを削減でき、大幅な効率化が図れるとする。
 一般的なPCR法では、感染初期の患者に対しては、ウイルスの検出が難しいと言われている。それに対して今回のキットは、感染時に体内で生成される特定の抗体を検出するため、感染初期の患者も判定できる。PCR法が採取サンプル中のウイルス量に影響を受けやすいのに対して、血液中に抗体が存在すれば判定できる利点もある。その結果、サンプル採取方法や採取部位による偽陰性になりにくい。血液を使って判定できるので、検体採取時に懸念される検査作業者への二次感染のリスクも軽減できる。

 キットの種類として、感染の初期段階で生成される抗体「IgM」用の検査キットと、感染後長期間にわたって最も多く生成される抗体「IgG」用の検査キットの2種類を用意した。併用することで、より精度の高い検査が可能となる。いずれのキットも体外診断用医薬品ではなく、新型コロナウイルスの抗体の有無を見るための研究用試薬キットとしての使用に限定される。1キットで10検体分の試験ができ、価格はいずれも税別2万5000円。



新型コロナを10分で検査、中国の検査キットを塩野義製薬が導入へ

 

近藤 寿成 スプール 

2020.03.17

COVID-19抗体検査キットのキット内容イメージ(出所:マイクロブラッドサイエンス)

 塩野義製薬は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査キット導入に向けて、マイクロブラッドサイエンスと業務提携の協議を開始したと発表した。

 新たな検査法を活用した新型コロナウイルスIgG/IgM抗体検査キット「COVID-19抗体検査キット」を、マイクロブラッドサイエンスが中国企業のVazyme Biotechから輸入する計画。.
塩野義製薬はマイクロブラッドサイエンスやVazyme Biotechとの間で独占的供給契約が整い次第、必要とされる医療機関や検査施設、研究所などに検査キットを届ける体制を構築していく。
同時に、国や地方自治体などへの寄付を含む提供方法の検討も進める。


 現在、COVID-19患者を確定する検査法には、鼻腔(びくう)や咽頭から採取した検体からウイルスの核酸を検出するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法が用いられている。
PCR法は専用測定機を必要とするほか、検査結果が得られるまでの時間が比較的長いなど、簡便性や迅速性などの課題がある。
 今回提供されるCOVID-19抗体検査キットでは、新型コロナウイルス感染の初期に体内で産生される「IgM抗体」と、IgMより若干遅れて産生され増加する「IgG抗体」の双方を、免疫クロマト法(金コロイド法)で測定する。1滴の血液検体から測定でき、10分で検査結果が得られる利点がある。
Vazyme Biotechによる中国の臨床試験データでは、感度は94.03%で、特異度は97.02%だった。
 使用場面として想定するのはPCR検査前の「スクリーニング検査」である。
例えば空港や港などで検疫官(医師)の判断で実施する入国者の検査や、COVID-19患者が通う事業所や学校などの接触者の検査を想定する。
この他にも、亜急性期や回復期のCOVID-19患者の免疫獲得状態の把握や、COVID-19の疫学的調査や研究などにも活用できるとする。
 日本では慶應義塾大学の相川直樹名誉教授や感染症専門家などと協議を重ねている。既に東邦大学医学部微生物・感染症学講座の舘田一博教授の下、日本での検査を試験的に進めているという。


約10分で新型コロナを検出できる検査システム完成へ

河合 基伸 日経クロステック/日経デジタルヘルス
2020.03.16

キヤノンメディカルシステムズの等温増幅蛍光測定装置
(出所:キヤノンメディカルシステムズ)

 キヤノンメディカルシステムズは長崎大学と共同で、新型コロナウイルスの検査システムの開発に取り組んでいる。開発は最終段階に達しており、実用化の暁には「10分前後で検出が可能。感度も既存の検査とほぼ同等にできる見込み」(キヤノンメディカルシステムズ 分子検査ソリューション事業推進部長の後藤浩朗氏)とする。


 「きっかけは2020年2月1日の深夜0時に届いた一通のメールだった」――。

キヤノンメディカルシステムズの後藤氏は、検査システムの開発に着手した2月初旬を振り返る。

メールの送り主は国立感染症研究所の研究者。4年前のリオデジャネイロ・オリンピックで沸くブラジルで流行していたジカウイルス感染症(ジカ熱)対策に現地で一緒に取り組んだ。いわば“同志”からのメールは、新型コロナウイルスの検査システムの開発を要望する内容だった。後藤氏は「アミーゴに頼まれれば断る理由はない」と即座に社内の許可を得て開発に乗り出した。

 キヤノンメディカルシステムズが取り組んでいるのは、遺伝子検査の一種のLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法を基にした検査システムの開発である。
ウイルスの遺伝子から、そのウイルス特有の配列を増幅して有無を確認する。
既存のPCR(Polymerase Chain Reaction)法は、増幅の際に温度を上下させる必要があり、これが検査に時間を要す一因になっていた。一方のLAMP法は等温で増幅できるため、検査時間を短くできる。

前処理を含めても1時間程度
 LAMP法を基にした新型コロナウイルスの検査には、キヤノンメディカルシステムズの等温増幅蛍光測定装置を利用する。
この装置はジカ熱だけでなくエボラ出血熱の検査で実績があり、動物や植物の感染症検査にも広く用いられている。
 検査には、検査装置だけでなく、患者から採取した検体に加える「プライマーと呼ばれる試薬も欠かせない。
キヤノンメディカルシステムズと長崎大学は、複数の候補の中から最終候補となるプライマーを絞り込むと同時に、増幅する際の温度や時間といった条件の最適化に努めてきた。
当初は疑似検体を用いて実験していたが、現在は実際のウイルスを入手して実験している
これまでの実験の結果から、PCRと同等の感度を得られそうな感触を得ている。
 検査時間は10分前後になる見込み。前処理を含めても1時間程度で検査が完了するという。2015年にギニアでエボラ出血熱の検査を実施した際には、複数の検体をセットできる装置1台で8時間に約90検体を検査できた。
新型コロナウイルス検査で用いる装置は、約2倍となる14検体を同時にセットできるため、処理能力は約2倍を見込める。
 開発は最終段階に達している。新型コロナウイルスの検査マニュアルに記載されるなどして利用が認められた後、研究用の検査装置/試薬として早期に供給する計画だ。
キヤノンメディカルシステムズは生産準備を進めており、「各都道府県に1台程度の数であれば数カ月もかからず供給できる」とする。
 キヤノンメディカルシステムズの後藤氏は、新型コロナウイルスの検査だけでなく、その先の活用も見据えている。
日本の主要な検査拠点に装置が設置されると、別のウイルスが流行した際にもプライマーなどを開発することで早期に対応できるからだ。そのためにもまずは新型コロナウイルスで実績を示すことが欠かせない。

 


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