おがわの音♪ 第976版の配信★


日銀と政府の新型コロナ対策は間違っている

病気は深刻だが危機は過大視されていないか

小幡 績 : 慶應義塾大学大学院准教授
2020年03月25日

米連銀は無制限の異次元緩和に乗り出した。トランプ大統領も再選もかかっており、新型コロナウイルスに立ち向かう姿勢を見せようと必死。アメリカの「恐怖」から何を学ぶべきか(写真:UPI/アフロ)

3月23日、FED(米連銀)が三度(みたび)緊急措置を発表した。

国債や住宅ローン担保証券(MBS)の買い入れ量を当面無制限とするもので、無制限の量的緩和である。企業や家計への支援として、銀行の融資条件の柔軟な変更を認めるという細かな指示も発表された。
しかし、これに対し、株価はポジティブに反応せず、同日のNYダウ平均株価は一時900ドルを超え下落した。乱高下を繰り返し、結局582ドル安で引けた。

ドル円相場はドルが上昇、一時1ドル=111円台になった。それでも24日の日経平均株価は買い戻しが入り、23日比で1204円も上昇した。



*今の危機の本質とは何か?

24日の日本のマーケット関連のメディアでは、「株価は、アメリカ議会の大規模経済対策の議決がポジティブになされるまでは上昇しない」、などという市場関係者のコメントを報じていた。
これらをどう解釈するか。それが重要だ。
すべてではないが、凡庸なメディアや有識者の解釈は「金融政策はもはや無力だ。財政出動だけがこの危機を救える」、というものだ。「需要が消失しているから、直接需要を出す景気対策が必要だ」と。
間違いだ。
もう少しごく普通の目を持っている素人たちは「新型コロナウイルスに効果のあるワクチン開発の見通しのニュースや、『患者の増加が止まってきた』といったコロナに関する何らかの解決が果たされなければ状況は改善しないのではないか」、と思うかもしれない。
まともな意見だが、現在の危機の本質を捉えていない。
では、現在の危機の本質は何か。
それは、賢明な専門家やマーケット関係者が指摘しているとおり、流動性危機だ。
国債金利が世界的に上昇した。つられて、日本国債の10年物も売られ(利回りは上昇)、プラスの利回りがついた。

一方で米ドルが世界中で急騰。ドル円は前出のように1ドル=111円台となった。

世界中で流動性が求められ、国債が安全だろうが、現金でないものはすべて売り飛ばすということだ。

そして、現金の中でもっとも重要なドルに世界中の人々が殺到している。現金が、ドルが世界中で求められているのだ。
ここで注意しなければならないのは、投資家が「キャッシュイズキング」などといって、損失を少しでも取り返すために、次の投資機会のために現金化しているのではない、ということだ。

 

*中小企業の資金繰り倒産と失業を回避できるか

今危機に陥っているのは、投資家だけではなく、世界中の人々なのだ。
リスク資産に投資して、損失をこうむった投資家たちや、ファンドの解約のために資金の手当てに奔走している運用会社たちは、もちろん危機に陥っている。

だが、彼らのことなど構っていられないほど経済全体、一般の多くの人々が危機に陥り始めているのだ。
単なる株式バブル崩壊、リスク資産バブル崩壊から、実体経済の危機および、それによる金融市場の危機に変わってきたのだ。
危機は変わった。
今回避すべき最大の問題は2つだ。まずは中小企業の資金繰り倒産回避である。

アメリカでは、ボーイングに代表される航空機・エアライン会社、さらにホテル業界の超大企業も倒産危機に直面しかかっている。だから、同国議会はもめているのだ。ドナルド・トランプ大統領や共和党の打ち出す、日本円で200兆円超ともいわれる経済対策の半分以上はこのような大企業の救済に使われてしまうから、民主党は反対しているのだ(24日以降、上院で採決の可能性)。
大企業の救済は価値観や利害関係により、賛否は分かれるかもしれない。

だがいずれにせよ、企業倒産を回避すること、そのための資金供給、手当てが必要なのだ。

そして中小企業の連鎖倒産、それによる中小金融機関の破綻、これこそ回避すべきなのだ。

そして、もうひとつは失業回避、失業者の手当てだ。

だからアメリカでは「不況」ではなく「恐慌」という言葉が使われているのだ。
ここで、現在の重要なポイントは2つある。
第1に、日本銀行や日本政府の対応は100%といっていいほど間違っていること。
日本銀行がETF(上場投資信託)、上場REIT(不動産投資信託)の買い入れを倍増させるという緊急対策を打ち出したのは100%誤りだ。

株価対策は危機の本質と、もはや無関係なのだ。

したがって、FEDが緊急対策をして、流動性供給をしたのは正しいが、日銀が株式を買い入れているのは「180度」間違っている

 

*なぜ日本政府の経済対策は間違いなのか

一方、日銀ほど誰の目にも明らかな間違いではないが、日本政府の経済対策の議論やはり100%といっていいほど間違いである。日本政府はアメリカに負けじとばかりに大規模経済対策を打とうとしているが、それは消費喚起による景気対策であり、それも間違いなのだ。消費税減税国民全員に現金をばら撒くのも、役に立たないどころか、害悪なのである。
これは誤解を恐れずに言えば「日本の平和ボケ」や「日本の新型コロナ対応がある程度成功したと評価された」ため、危機感が薄いことから生まれているのかもしれない。

だが、重要なのは株価ではない。実体経済における倒産阻止、しかも日本の場合は観光や、海外の経済活動停止にともなう輸出激減などによる中小企業倒産を食い止めることだ。さらに、国内のフリーランスを含む、失業者増大の懸念なのだ。

ここで、なぜ日本がコロナ対応に成功したか、という議論は置いておくが日本社会の良い点が出ていることも事実である(個人的には、綺麗好きという国民性によると思っている。個人的な観察では「日本では公衆トイレで手をあらう人は5割」と書いたことがあるが、アメリカ在住時代は、自分以外に手をあらう人をみたことがなかった)。。
つまり、雇用のあり方、企業の雇用に対する考え方は、非効率なところもあるが、この場面では力を発揮している。

アメリカでは新型コロナ危機ですぐに解雇となってしまい、シカゴ連銀のジェームズ・プラード総裁ですら「最悪の場合、失業率が30%になる」という試算にまで言及している。

日本では一時休業させているのと対照的だ。アメリカのシステムの脆弱性があらわになったともいえよう。
さらに、検査率が高いからという理由はあるもののNY州では「まもなく医療機器が不足してしまう」と当局幹部が発言しているように、株価がどれだけ上がっても、基礎的な社会インフラが必ずしも万全ではないという問題点が明らかになった。

したがって、日本では、議論の焦点がフリーランスという制度的なところに行くほど、アメリカに比べて雇用不安が相対的には小さく、恐慌という意識が生まれにくい。
しかし、この「危機意識の薄さ」が、今後より大きなリスクをもたらす可能性がある。それは財政破綻危機だ。

もし、欧米が本当に恐慌になった場合には、もちろん日本経済への影響は大きい。

そのときに、日本でもタイムラグをともなって企業倒産が急拡大する可能性がある。

そのときこそ、財政出動が必要であり、中小企業だけでなく、大企業の救済が必要になる可能性があり、失業者に対する手当てや職業訓練対策で大規模な財政出動が必要になる可能性がある。
このように、株価対策が無意味であることは明らかだ。

アメリカの政策当局の恐怖感から学ぶ最大のポイントは、現在の需要消失に対する景気対策として、国民全体にカネをばら撒く給付金も、幅広く消費税減税をするのも間違いであるということだ。

 

*「恐慌の恐怖」の真犯人は「誰」か?

もう1つ、今論じるべき第2の重要な論点は、このような「恐慌の恐怖」を引き起こした危機の犯人は、新型コロナウイルスそのものというよりは、それに対する人々と社会の恐怖感であることだ。
今、このようなことは表立って誰もいえないようだが、この病気自体は、確かに怖い。

だが、依然インフルエンザとほぼ同等の病気と言えなくもない。違いがあるのは、初めての病気で「今後どうなるかわからない」という恐怖感だ。その恐怖感が、恐慌の危機をもたらしているのだ。
FED関係者までが失業率30%に言及し、IMF(国際通貨基金)ですら、「2007-2008年の金融危機(日本的に言えばリーマンショック)を超える危機だ」、という。普段メディアで危機を煽るようなことをしないグレン・ハバード元大統領経済諮問委員会(CEA)委員長やケビン・ハセット前委員長といった人々ですら、現在の危機を1930年代の大恐慌と比較している。
個人的には、中国や日本の状況を見れば、これは明らかに危機を過大推計していると思う。

だが、新型コロナウイルスの感染症としての今後の見通しに関係なく、明らかなのは、恐慌危機をもたらしているのは、人々と社会の恐怖感であることだ。
そして、この恐怖感に対しては、いかなる経済対策も論理も無意味だ。

この恐怖を除去することは、経済対策では不可能であり、ましてや景気対策でGDPを上げようとしても解決しない。

さらに、恐怖に陥っている人々は、現金給付を受けても活動を止めているわけだから、ほとんど消費のしようがない

確かに部分的に巣篭もり消費こそ増えているが、下手をすれば消費の目詰まりが起こり、買い占めや行列ができるだけで、ただの無駄どころか、逆効果になりかねない。
確かに「この恐怖感は、コロナウイルスに対するワクチンが開発されれば収まる」という議論は一見正しい。

だが、実際には正しくない。

かつてのSARSやMARSはワクチンが開発されなくとも、結局は収まった。

なぜなら、恐怖感は恐怖から生まれているだけであり、恐怖を感じなくなれば、ウイルスがこの世から根絶されなくとも、恐怖感から生じている経済危機は解決されてしまうからである。
このような状況で、本当に理論的に正しい経済対策は、過度に経済活動停止を求めずに、的確にピンポイントで対策をおこなうことである。

だが、政治家だけでなく普通の人々までもが、危機と闘う姿勢をみせないと非難される状況にある。

そのため、すべての人が過度で丁寧な議論と分析抜きの包括的な経済封鎖を求めることになり、政治家はこれに応じて、勇敢な姿勢をみせようとし、過剰な政策を打つことになる。
新型コロナウイルスはもちろん深刻である。

だが、それをさらに深刻にしているのは、病気そのものよりは、極端なSNSの炎上などに見られるような現代社会の病気や伝染病によるものなのである。これに関しては、いまのところいかなるワクチンも見つかっていないのである。


中国が無症状患者4万3千人以上を統計から「除外」報道

2020.03.23

香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)が22日、2月末時点の中国の新型コロナウイルス感染者4万3000人以上が感染者の統計から除外されていたことを明かしたと、時事通信産経新聞などが報じている。


*無症状者は感染者に含まず

感染者の統計から除外されていたのは、感染者全体の3分の1にもあたる「無症状者」、4万3000人以上。中国政府は無症状者は感染者に含めないと発表していたが、無症状者の数は非公開となっていた。

中国政府が2月末時点で公式に発表していた感染者約8万人とあわせると、12万人を超える。

 

*感染者との濃厚接触者も検査

中国では、感染者の濃厚接触者は症状の有無に関わらず検査しており、無症状の感染者もあぶり出される。中国国家衛生健康委員会は、陽性でも症状がなければ「病原体を広げる可能性は低い」としていたが、無症状の4万3000人は隔離され、医療監視下に置かれていた。

 

*封鎖措置解除の見通しなし

新型コロナウイルスの感染が最初に確認された中国・湖北省の武漢では、3月18日以降、4日連続で新たな感染者は「ゼロ」になったとしている。ピーク時には1日数千人の規模で感染者が増えており、街を封鎖する措置がとられていた。封鎖措置がとられてから今月23日で2カ月となるが、新たな感染者が14日以上出ていない地域では、各世帯1人のみ団地の外への買い物が許可されたという。しかし、住民の行動を厳しく管理する措置は続いており、武漢の封鎖が解除される見通しは立っていないとしている。

今回の、中国「無症状の患者は除外」報道に対して、日本のネット上では疑問の声や医療崩壊を防ぐためだと擁護する声など、賛否両論の意見があがっている。

 

☞ しかし、無症状感染者の数すら把握できてない日本。とやかく言えないが、いかが ??



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