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世界経済危機で経営者が犯しやすい10の過ち

コトラーが教える「乱気流」時のマネジメント

2020年03月23日

フィリップ・コトラー : ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院インターナショナル・マーケティング

                                                S・C・ジョンソン・アンド・サン・ディスティンギッシュド・プロフェッサー

予測不能な局面で、経営者が判断を誤らないようにするには?

新型コロナウイルスが世界経済に深刻な影響を与えている。

深刻な業績不振や操業停止に追い込まれる企業も多く、株価は世界中で大幅な値下げを記録している。「2008年のリーマンショック以上」ともいわれる未曾有の事態を前に、経営者はどうあるべきか。「近代マーケティングの父」とも言われるフィリップ・コトラーの著書『コトラーの「予測不能時代」のマネジメント』(東洋経済新報社)から、彼のアドバイスを紹介。


グローバリゼーションとテクノロジーによって、いま世界は「乱気流」という新たな時代に突入している。今日の変化のスピードと衝撃の規模は、いままでよりもはるかに大きい。
企業には、この乱気流のリスクから身を守り、不確実性に対処する仕組みが必要だ。



2008年にアメリカの金融破綻が突然発生したとき、わたしたちはクライアントや友人にこう尋ねられた。

どのくらい深刻なのか。どの程度続くのか」。

誰もが知りたがったのは、これが一時的な不景気なのか、深刻な景気後退なのか、それとも大不況なのかということだった。これと同じことを2008年10月に聞かれて、ノーベル賞受賞経験のある経済学者ゲーリー・ベッカーはこう答えている。
誰にもわかりません。わたしにわからないのは確かです」。

その真意は、知ったかぶりをする経済学者のいうことを信用してはいけないということである。
いま、乱気流という新たな時代に入っていることは事実である。それも、強度の乱気流である。ある時には9・11のようなテロが、またある時にはハリケーン・カトリーナのような大水害が発生する。サブプライムローンと不良債権が世界金融危機を引き起こすこともあるのだ。
今日、予想外の大きな衝撃が以前より高い頻度で起こるのは、経済や情報の巨大な流れを支えているグローバルエコノミーの相互関連性が高まった結果である。

 

*予測不能の乱気流が常態化した時代

世界は新たな経済ステージに突入した。各国の経済は互いに密接に関わり合っている。

商業活動は、インターネット携帯電話を通じて瞬時にやりとりされる情報に基づいて行われている。
この新たな経済ステージが、コストダウンや、製造・商品配送・各種サービスのスピードアップといった、すばらしい効果をもたらしている。しかし、これにはマイナス面もあり、リスクと不確実性の度合いがかなり高まるという事態に、企業と消費者は直面している。
一国のある出来事や変化──銀行破綻・株式市場や不動産の暴落・政治家の暗殺・通貨暴落のいずれであれ──がほかの多くの国々に広がって、予期せぬ大きな乱気流を引き起こしかねない。

経済のしくみ全体が渦に巻き込まれて、まったく思いがけない結果が生じるのである。
配送が遅れる、銀行が融資をやめて返済を迫るようになる、企業が従業員を解雇する、こうして、経済が急降下し始める。すると企業は、さらに慎重な判断を下すようになる。

新製品開発を保留にし、マーケティングと広告の予算を削減する。

用心深いあまり、当面の生き残りのみを考えて縮小化を行い、長期といえば投資回収を命じるくらいである。
乱気流はつねに、リスクと不確実性が高まることを意味する。

リスクという言葉は、数値予測ができ、保険をかけることができる不確実性を表すのに用いられる。

しかし、企業が直面するものには、保険をかけられないリスク、まったくの不透明さがつねに存在する。

企業は、高い不確実性をものともせず収益を最大化しようとするよりも、リスクを最小限にすることで、万が一最悪の事態が起こってもなんとか生き残れるような決断をするだろう。


*乱気流時代に犯しやすい過ち

乱気流が引き起こす不確実性について、唯一確実にいえることは、それが長引くにつれて人がより慎重になるということである。顧客が望んでいることを予測できなくなると、企業は自社のコアとなる基本方針を手放しがちである。
そうなると、乱気流は非常に危険な相乗効果を生む。

最も健全で信頼性のある企業でさえ、その安定した基盤が根底から覆され、一方そのトップも、健全な判断が下せなくなってしまうのである。
経済恐慌が広がって頂点に達すると、多くの企業が方針を変える見当違いの費用削減ばかり行う。

有能な人材を解雇し、リスクをとるのを嫌がり、技術・製品開発費をカットし、最悪なのは、不安に駆られたままで判断してしまうことである。

こうしたことは、企業にとって障害となるばかりか、破壊にすらつながりかねない。

出入り口をしっかり閉めて備えることがだけが、嵐を、それも予想できる嵐だけだが、乗り越える手段ではないし、企業の利益を真っ先に考えたものとも限らない。

はっきりいってしまうと、ビジネス界に乱気流が生じると、大抵の企業が次のような誤った対応ばかりするようになるのだ。

・コア戦略と企業文化を損なうような資産配分を行う過ち
・計画的行動ではなく、全社一律の経費削減をする過ち
・目先のキャッシュのために人材を使い捨てにする過ち
・マーケティング、ブランド、新製品開発の各経費を削減する過ち
・売上減少を挽回するために値下げする過ち
・販売関連費を削減することで自ら顧客から離れていく過ち
・社員研修や能力開発費を削減する過ち
・仕入先や販売業者を軽視する過ち

 

『ビジネスウィーク』誌がまとめたリストも見ておこう。

景気低迷期や乱気流期に対処しようとして、企業が犯す重大な過ちトップ10である。

景気の乱気流期に企業が犯す、新たな取り組みに関する過ちトップ10

①有能な人材を解雇する
②技術費を削減する
③リスク覚悟で思い切ったことをしない
④製品開発をやめる
⑤トップを成長志向型からコストダウン志向型の人物に代えてしまう
⑥グローバル化路線から撤退する
⑦重要戦略である新たな取り組みをトップが撤回してしまう
⑧業績指標を変更する
⑨協調路線よりも序列関係を強化する
⑩安全な場所に逃げ込む

 

予算が苦しいとき、企業がより保守的になるのはもっともなことだ。

しかし、リスク覚悟でやってみようとしない、製品開発に投資しない、協調路線の必要性を見誤る、こうした企業は、景気が上向きになったときに太刀打ちできなくなってしまう。
カオスには、いまがどんな状況であろうと、そこに機会を見出す企業に有利に働く傾向がある。

それが本質的に、いい意味での自然淘汰というカオスそのもののプロセスといっていいだろう。

そこでは企業の勝ち負けがはっきりと決まってくる。

今日トップにいる企業が明日にはトップではなくなっているかもしれないし、その逆もありうるのだ。


*厳しいときにこそチャンスがある

先のリストを見れば、新しい取り組みを続ける力があることこそが、競争力を維持し、ライバルに差をつけるために残された数少ない手段であることに気づくはずだ。新たな取り組みいかんで、業績・成長・株価が変わるのだ。
景気が厳しいときに研究開発や新製品開発に投資している企業は、引き続き収益を上げることになる。

上げるどころか、景気が最も厳しい時期に決まって現れて、なにか斬新なものを武器にライバルをほぼ間違いなく打ち負かす、勝ち企業となるはずだ。
例をあげると、アップルiTunes、iPodを発表し、全米に直営店をオープンしたのは2001年の不景気のときであり、景気が回復するや、ライバルを追い落として完全に返り咲いた。
ジレットの例もある。ひげそり用品の「センサー」ブランドを立ち上げたのは、1990年代初期の不景気の最中だった。1997年までには同社売上高の49%を、それまでの5年間に導入した新製品が上げるまでになっている。
また、インテルは、売上高の14%(2001年の利益の174%という途方もない額)を2001年の不景気時に投資し、もっと速く、もっと安く、もっと小型の半導体をつくる技術革新を目指した。そして予定よりも数カ月早く新製品を発売し、1996年以来最高の成長率を記録したと発表している。
アップル、ジレット、インテルのいずれも、景気乱気流期に企業が犯しやすい、新たな取り組みに関する過ちトップ10をひとつも犯していない。どの企業もそうあるべきなのだ。

 

*経営者にいま求められる勇気

不透明な時代に判断を誤ると、単に金で済む問題ではなくなってくる。

乱気流時代に価値の創造を忘れてしまうと、その企業が沈むだけでなく、そこで働いている社員も顧客も道連れにしてしまう。まずい決定や正しい判断力に欠けることがスパイラル効果となり、企業は安全な場所を目指して必死でじたばたもがく羽目になるか、悪くすれば、どうしようもない荒波にのみ込まれてしまうかもしれない。
業績が悪化するにつれ、つい厳しい経済環境のせいにしたくなる。

しかし、最も厳しい時期であっても、ライバル企業の中には他社をしのいでいるところもあるわけだ。

勝ち企業となって乱気流から抜け出る唯一の方法は、そのタイミングをつかむことである。

つまり、手堅く現実的な決断を下すことで、自社と自社製品が努力次第で生き残れる、ひょっとすると繁栄すらできるチャンスをもたらすのである。
乱気流経済で繁栄するには、単なる直感だけでは無理である。

必要なのは、新しいものの見方本腰を入れた計画、正しい戦略、そして、長年の時流に逆らって進む勇気である。

 


労働力としてのロボット台頭でロボットのための"人事部門"が必要に?

 

ロボットだからといって、管理リソースが不要なわけではない。

ロボットが増えれば、それを管理する部門が必要になる。

 

著者 : Daphne Leprince-Ringuet (Special to ZDNet.com)

 小売業者が実店舗と倉庫の両方に人工知能(AI)とロボットを導入することが増えており、ロボット労働力には新たな管理手法が必要になっている。

 近い将来には、人間の従業員を管理する人事管理部門だけでなく、人間以外の労働力の面倒を見るロボット管理部門も必要になるかもしれない
 Gartnerによれば、早ければ2025年にはロボット管理部門が出現する可能性があるという。

Gartnerのアナリストは、今後5年間のうちに、世界でトップ10の小売業者のうち少なくとも2社で、人事部門を改編してロボット従業員の管理に対応しなければならなくなると予想している。
 この部門は、AIの休暇やロボットの退職パーティーについて考えるわけではない。

ロボット管理部門に求められるのは、ロボットの調達やメンテナンス、トレーニング、税務、老朽化した機材の使用停止や廃棄などだ。
 特に小売業界にはAIを搭載したロボットが適しており、Gartnerの調査では、小売業者77%が2021年までにAIを導入する計画だと予想している。

結果が出やすい分野は、フロアの掃除やデータ収集、警備などだと考えられるが、Gartnerが第1のユースケースだとしているのは、倉庫におけるピッキング作業だ。
 大手小売業者はすでに、倉庫でのAIとロボットを大規模に利用することの有用性を証明している。

例えばWalmartは最近、同社がニューハンプシャー州に持っている2万平方フィート(約1860平方メートル)の倉庫に、ロボットで効率的なピッキングを可能にする「Alphabot」を導入したことを明らかにした。このシステムは、人間の労働者とロボットを組み合わせることで、1時間あたり800製品をピッキングできるという。
 同様に、米国の大手小売業者であるKrogerは2018年に英国のネットスーパーOcadoと、自動化された巨大なロボット倉庫を建設する契約を結んだ。

この倉庫では、食洗機ほどのサイズのロボットが1つの群れのように働いて、注文商品をピッキングして人間の従業員に引き渡し、人間の従業員が箱詰めを行う。
 小売業者のロボットに対する関心が高まっているのは、顧客から正確さとスピードの両立を求められているためだ。Gartnerのシニア調査ディレクターKelsie Marian氏は、「小売業界は、顧客体験が新たな通貨のようになる、前例のない変化の時代を迎えており、今後も変革が起き続けるだろう」と述べている。
 「新たなデジタル技術の導入と、絶えず変化し続ける顧客の期待は、今後も既存の小売業者に課題を突きつけ、人間と機械のハイブリッド業務モデルを模索することを余儀なくさせている」 (Marian氏)
 しかし、ロボット資源が成熟してきているからといって、人的資源が不要になるわけではない。

Marian氏は、現実は正反対だと述べている。今後、小売業界の労働者はロボットの同僚と一緒に働くことになり、この新しいパラダイムには、注意深い計画が必要になるという。
 同氏は、成功するためには、(人間か機械かを問わず)それぞれの仕事に合った候補を選ぶことが重要だと話す。「小売業者の最高情報責任者(CIO)は、効果の高い状態を維持するために、メンテナンスとパフォーマンスの監視を継続的に行っていく必要がある」とMarian氏は言う。

「それなしでは、チームの生産性が下がったり、顧客体験が悪化したりするだろう」
 その点では、Amazon成功例だと言えるかもしれない。

同社は、ロボットメーカーのKiva Systemsを買収した2012年からロボットの導入に取り組んでいる。

Kivaのロボットは、人間の従業員と連携して、Amazonの倉庫にある在庫のパレットを運んでいる。

同社は最近では、顧客に発送する商品のスキャンと箱詰めにも取り組み始めた。
 Amazonは、米国の55カ所のフルフィルメントセンターにロボットが導入されれば、最終的に1300人の従業員を置き換えることができると述べたと報じられている。

これは一見悪いニュースのようだが、同社は小売業者の「ラストワンマイル」問題を解決するためとして、退職して自前で配送事業を立ち上げる従業員に、最大で1万ドル(約110万円)を支払う施策も発表している。 2019年にこの取り組みが発表されて以降、多くの従業員が、この配送サービスプログラムに応募しているという。
 Gartnerのアナリストによれば、このような人間とロボットのコラボレーションは、将来、小売業者の間で主流のビジネスモデルになるという。

Marian氏は、「これは、ロボットが人間のチームとかみ合っていなければならないことを意味する。協力して効果的に業務を行えるように、双方がコラボレーションの仕方を学ぶ必要がある」と述べている。
 今後は人事部門について考え直すことが重要になるだろう。幸い、新しく設置されるロボット管理部門には、フィードバックへの対応や、社員教育のための書類仕事はあまり必要ないはずだ。



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