技術者が令和に飛躍するための3つのポイント


マインドを変えて今までにない経験を積みキャリアを広げることで、令和は逆に、チャンスをつかむ機会がある時代となる。

2020年01月16日
[五十嵐弘司,ITmedia]

 令和に入り、デジタル化に代表される技術革新がこれまで以上のスピードで進むのは間違いありません。

そんな激変する環境下で、どのように仕事に取り組めばよいのか――。そんな不安を抱える技術者も少なくないでしょう。でも心配は無用です。

マインドを変えて今までにない経験を積みキャリアを広げることで、令和は逆に、チャンスをつかむ機会がある時代となるからです。
 デジタル化が進み、また新たな技術が次々と生み出され、企業はどこも事業構造を変革すること、さらにイノベーションを起こすことに躍起になっています。なぜなら、イノベーションを実現していかなければ、変化する市場で、もはや生き残ることもできないからです。

企業を成長させるためには、今後どんな技術が核となって事業が変わっていくのかを分かっている人が経営に携わる必要があるでしょう。これは世界を席巻するGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)の創業者が全て技術者であることからも明らかです。

 私が技術者にとって「今の時代がチャンスだ」と考えるのには、こういう背景があるからです。

ただ、技術者の多くは今のままの状態ではこのようなチャンスをつかむことは難しいでしょう。

今後はこれまでの技術者にはあまり必要なかった経営に関する経験や知識が求められるからです。
 味の素に技術者として入社した私は、拙著『技術者よ、経営トップを目指せ!』で、技術者がその垣根を破り、企業に、そして社会に貢献していくためにどう経営に携わっていくべきかを解説しています。ここではその中から、技術者が気を付けるべき3つのポイントを紹介します。



*自社のビジョンを考え経営計画を読み込む

 まず1つ目のポイントは経営の視点を身に着けることです。

一社員がいきなり「経営」といわれてもピンとこないかもしれません。

では具体的にはどうすればいいのか。まずは自分の会社が公表している中期経営計画などにあるビジョンと経営方針を読み込み、それらが腹落ちするか否か考えましょう。
 ビジョンや経営計画で自分の会社はどういう成長戦略を描いいるのか、自分が所属する部門はその中でいかに位置付けられているのかについて見ていきます。その際、自分がいま取り組んでいる業務は自社の成長にどのように貢献できるのか、という視点で読み込むことが重要です。

 技術者の中には自分の研究や技術開発のテーマにしか関心がない、それを続けていられればそれでいい、というマインドの人が少なくありません。でもそれでは令和の時代を生き残ることは難しいでしょう。

 例えば、世界一の自動車メーカーであるトヨタ自動車は経営戦略の柱の1つとして、移動手段をサービスとして提供する「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)を掲げています。MaaSでは自動車は単なる乗り物ではなくいろいろなサービスを体験できる空間となります。

そんな未来を描くトヨタで以前のような効率を追い求める技術分野だけで開発していきたいと思っても、それは難しいかもしれません。


 孫正義会長兼社長が率いるソフトバンクグループも、ずいぶん前から「データ活用の時代になる」と、社会や自社が目指す方向性を示し、通信事業にとどまらず新たな事業を生み出すために多様なベンチャーや企業との間でエコシステムをつくる『群戦略』を推し進めています。いまやソフトバンクグループは巨大なインキュベーション企業で、一昔前と姿が異なります。

このように自分の会社が発するメッセージと自分のやりたいことや価値観が一致しているのか、その中で自分はどう貢献していけるのか、そういった視点を養うことは今後、より一層大切になっていくでしょう。
 もちろん、自社のビジョンや経営戦略に関心を配り始める時期が早すぎるということはありません。

新入社員の頃から見ていけばそれに越したことはありませんが、少なくとも35歳~40歳、課長職に就くくらいからは必ず目を通し考える必要があります。
 というのも、50歳になってから「この会社には自分の居場所がない」と感じても、取れる行動には限りがあります。

35歳くらいの時点で、今の会社のビジョン実現に尽くすのか、別の道を探るのかを考えていくことが求められるでしょう。

 

*畑違いの分野に飛び込む

 2つ目のポイントが、あえて技術開発以外の分野を経験することです。

私自身も味の素に入社して以来、国内工場の生産管理やアメリカの工場長、本社の経営企画などさまざまな場所でさまざまな職種を経験しました。その結果、どうやって経営技術に生かすのか、または逆に、どう技術を起点にして経営していくべきなのかを考えるという感覚を磨くことができたのです。
 技術者は入社からずっと、技術畑に居続けたいと考えている人が多いでしょう。

でもあえて、手を挙げてでも畑違いの分野に飛び込んでいくことが重要となります。
 私が技術者に一番勧める分野は、事業の最先端、取引先と直接やりとりする営業などを含めての事業部門です。

事業部門では相手が取引先であるだけに、全く言い訳をすることができません。新事業を創り出すあるいはイノベーションを実現するために、良い経験になるはずです。また、ビジョンをつくり実現の方策を組み立てる企画部門などへの異動希望を出すのもいいでしょう。
 これはぜひ、技術者以外の人にも知ってもらいたいポイントです。

あなたが技術部門以外にいる管理者の場合、ぜひ技術者を登用してみてください。

数字や技術に強い異分野の人が加わることで、違ったアプローチが生み出される可能性が高まります。
 技術者の中には、技術畑から離れることを恐れる人も多いと思います。

ですが、技術者は少々違う仕事をしたからといっても技術の動向から取り残されるということはありません。

大学や企業の研究・技術部門できちんと基礎を学んできた人であれば共通言語があるため、最先端の技術についても理解することができます。変化を恐れることはないのです。
 こうして企業の中でいろいろな経験を積みながら、10年ごとに自分の今後の人生について考えましょう。

次の10年をどう過ごすのか。どんな経験を積み、どんなスキルを身に着けるのか。そのためには社内外を含めてどこに身を置くべきなのか。終身雇用制が崩れ、ずっと同じ会社で働くのが当たり前ではない今は、定期的に身の振り方を考える必要があります。自分のキャリア設計を会社が考える時代は終わりました。

 

*チームで成果を出すことにこだわる

 最後に技術者に伝えたいのは、チームで成果を出すことにこだわる、ということです。

技術者はどうしても、独創性にこだわりがちで、チームで1つのテーマを突破する、という経験が少なくなりがちです。
 でもマネジメントや経営を行うためにはこうした経験は欠かせません。

1つ目の「経営の視点を身に着ける」、2つ目のポイントとしてあげた「異分野での経験」を積む際にはこうしたチーム作りをぜひ心掛けてほしいと思います。
 チームを作る際は技術者だけで固まるのではなく、いろいろな分野で自分よりも優秀な人あえて反対意見を言う人を集めることが大切です。そのうえで、自分の満足にこだわるのではなく、謙虚になり、チームで成果を出すことにこだわってください。こうした経験を積むことが経営マインドを持つことにつながっていきます。


 以上の3つのポイントを意識して技術者が経営に参画するとどんなメリットがあるのでしょうか。
 私は味の素の経営企画部長だった時に、当時の社長とタッグを組んで中期経営計画を策定しました。

その際に打ち出したのは「香り、フレーバー」という軸です。味の素はそれまでも食感にはこだわっていましたが、人がおいしさを感じるための要素として“香り”が抜けていると感じたからです。この3つ目の要素が加わることで、味の素は従来の原料供給というビジネスモデルを、顧客の求めに応じてさまざまな提案ができるソリューション型ビジネスに転換できました。また、技術のバリューチェーンという観点からも重要だと考えました。
 これからの企業にはこのように、技術と経営、両方が分かる人が求められます。だからこそ、技術者の皆さんには経営者を目指せ、と伝えたいのです。 


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