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経済学者が解説「小売店の閉店」続く本当の理由

実のところ敵は「ネット通販」ではなかった

The New York Times
2020年03月09日


実店舗を構える小売業にとって、この10年は厳しい時代だった。

今後も状況は悪化していきそうだ。

アメリカでは、消費が力強かったにもかかわらず、2019年には9000以上の小売店舗が閉店した。この数は2018年を上回るもので、2018年の閉店数は2017年の記録を上回っていた。今年はすでに1200店を超える閉店計画が発表されており、この中には百貨店のメイシーズが発表した125店舗の閉店も含まれている。


*アマゾンよりも大きな脅威

小売業界に起こっているこうした状況を「小売業の終末」と呼ぶ人たちもいる。

これをeコマースの台頭のせいにするのは簡単だ。実店舗が苦戦する中で、ネット通販は成長している。

それに、アマゾンなど、ネット通販を行う小売業者が消費者の行動を劇的に変化させたのは明らかだし、ウォルマートやターゲットなどの大手小売業もインターネット上での存在感を強化しようとしている。
しかし、eコマースの影響は過大評価されているとも言える。
第1に、ネット通販業者が急成長しているのは確かだが、一般に思われているほど大きな存在にはなっていない。

アメリカ国勢調査局が公式にデータを発表している。

インターネットでの販売は、過去20年間で莫大な成長を遂げ、四半期(3カ月間)あたりの売上高が50億ドルから1550億ドルにまで拡大した。しかし、ネット通販小売りの売上額全体に占める割合は、わずか11%だ。
さらには、アメリカにおける小売売上額70%以上が、商品の性質上、あるいは流通の規制や法律のため、インターネットへの移行が進みにくいカテゴリーにある。例えば、自動車ガソリン、DIYガーデニング用品、医薬品、食品、飲料などだ。
実は、ネット通販よりも、店舗数の減少に大きな影響を与えている要因が3つある。順不同だが、以下でその3つを説明しよう。


 1.倉庫型店舗が成長

アメリカでもほかの国でも、人々が買い物する場所が変わってきている。

ショッピングモールに入っているような小さな店舗からはだんだん離れて、独立型大型店舗で買い物をするようになっている。シカゴ大学の経済学者、チャド・サイバーソンとアリ・ホタツは、4年前に小売業の近年の状況を分析し、会員制倉庫型ディスカウント店スーパーセンター(大型ディスカウント店で食品も扱う)は、eコマースを上回る規模で成長したと述べた。
サイバーソンとホタツは、わかりやすい例を挙げる。

2013年までの14年間で、アマゾンの売上高が380億ドル増えたのに対し、コストコ売上高500億ドル増えウォルマートの倉庫型店舗サムズクラブ売上高320億ドル増加した。

成長率で見るとアマゾンが最も高いが、大半の小売店にとってアマゾンよりも大きな問題となったのは大型の実店舗だった。この傾向は2019年も続いた。


 2.所得格差がますます拡大

所得格差の拡大によって、中流層の手に渡るカネが少なくなり、そのため、中流層を主な顧客としてきた小売店が苦戦している。ピュー・リサーチ・センターの推計によると、中流層世帯が稼いだ所得が全体に占める割合は、1970年には3分の2だったが、今では40%にまで下がっている。

大手会計事務所、デロイトの報告書によると、小売店の中でも、高所得者と低所得者をターゲットとした店舗が成長しているのに対し、中流層を主な対象とした店舗はまったく成長していないというが、それも不思議はない。
高所得者層にカネが集中していくにつれ、小売業全体が苦しくなっていく。

それは、所得が多い人たちは、自分の所得のかなりの割合を貯蓄に回すからだ。

政府の家計調査では、階層別の支出を調べている。

その最新のデータによると、所得の上位10%の層は、税引き後所得額の3分の1近くを貯蓄に回す

これに対して、中間層は所得の100%を支出する。したがって、中間層の所得が細っていき、トップにより多くのカネが回ると、全体としての貯蓄率が上がることになる。

 

*小売業が痛手を受ける要因は経済学的な問題によるもの

 3.モノよりサービスを買う

過去を10年ごとに区切って見てみると、アメリカ人が所得をモノに使う割合は減り続けており、サービスに使う割合が増えている。小売店もモールも、強大なオンラインストアさえも、売っているのは依然としてモノだ。

政府の統計によると、消費者の健康関連分野への支出は、1960年には所得の5%だったが、現在では18%になっている。

私たちは教育や娯楽、ビジネス関連サービスなどにより多くを支出するようになっており、そうしたサービスは従来型の店舗では販売されていない。
この傾向は長年続いてきた。1920年には、アメリカ人は所得の半分以上を食品(38%)と衣料品(17%)に使っており、そのほとんどを従来型の小売店で購入した。しかし今日では、自宅内外で食べる食品に使うのは約10%で、衣料品支出はわずか2.4%だ。
経済学者は、なぜ人々がモノではなくサービスにカネを使うようになっているのかを議論するが、現実にその状況が起きていることを否定する人はいない。つまり、モノを売っている小売業者は、事業を続けていくためだけに、ますます必死で取り組まなければならなくなるということだ。
このように、小売業に痛手を与えているさまざまな力の拡大は、破壊的な技術というよりも、経済学的な問題だ。

今後は、すべての小売業者がこうした問題を身に染みて感じるようになるだろう。たとえ、強力なアマゾンであっても。

 

(執筆:シカゴ大学経営大学院教授 Austan Goolsbee、翻訳:東方雅美)




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