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日本製鉄の大赤字が示す鉄鋼不況の深刻度

鉄鋼メーカーの国内リストラは序章に過ぎない

山田 雄大 : 東洋経済 記者
2020年02月17日


2023年9月末までに閉鎖すると発表された日鉄日新製鋼の呉製鉄所(広島県)

国内鉄鋼メーカーの厳しさが、一段と鮮明になっている。
鉄鋼国内2位のJFEホールディングスは2月12日、2019年4月~12月期決算を発表し、併せて2020年3月通期の最終利益予想を従来の330億円から130億円(前期比92%減)に引き下げた。
JFEの業績下方修正は2019年8月、11月に続く、今期3度目となる。

今回の修正要因は、持ち分法適用会社である造船会社ジャパン マリンユナイテッドの損失拡大だ。

主力の鉄鋼事業の利益見通しはゼロと、2019年11月に修正した見通しのままだが、前期の1613億円の黒字から大幅に悪化する。鉄鋼事業の利益がゼロとなれば、2003年に川崎製鉄と日本鋼管の統合でJFEスチールが誕生して以来初めてのことだ。この非常事態を受けて、首都圏にある生産拠点で一部ラインを停止し、西日本の主力拠点へ集約することも発表した。


*JFEよりも格段に厳しい日本製鉄

最終利益が約9割減の大幅減益となるものの、2020年3月期でなんとか黒字予想を維持したJFEは健闘した印象だ。
というのも、2月7日に決算を発表した日本製鉄のほうが格段に厳しかったからだ。
日本製鉄の2019年4月~12月期の最終損益は3573億円の赤字。さらに通期は従来予想の400億円(黒字)から4400億円の巨額赤字に修正した。主力の製鉄事業の事業利益は3550億円の赤字を見込む。
リーマンショック時もなかった過去最大の赤字になることから、「競争劣位な設備から競争優位な設備に集約する」(宮本勝弘副社長)。
子会社・日鉄日新製鋼の呉製鉄所は2023年9月末までに閉鎖、和歌山製鉄所の高炉1基を休止するほか、全国各地で鉄鋼製品へ加工する設備を休止する。
需要低迷や原料の高止まりなどから鉄鋼業界の事業環境は悪化しており、リストラは避けられない状況だった。
そして今回、日本製鉄が新たに発表した多数の拠点での生産能力削減はJFEの比ではない。
しかも、呉製鉄所のように「高炉を持つ一貫製鉄所をやる(閉鎖する)のは初めて」(右田彰雄副社長)。
異例の措置は、日本製鉄の置かれた事業環境の厳しさを物語る。日本製鉄が今回、過去最大の大赤字に転落するのは巨額減損の影響が大きい。
鹿島製鉄所の1504億円、名古屋製鉄所の1228億円を中心に4000億円近い減損を計上。
その他にも海外合弁会社の撤退に備えた損失など約1000億円の損失計上を見込む(大半は第3四半期までに計上)。
鹿島は市況悪化が著しい海外輸出の依存度が高く、名古屋は自動車用の採算が悪いなど、事業の収益力に問題がある。
そもそも、日本製鉄単独の鉄鋼事業の実質収益(在庫評価損益を除く)は1300億円の赤字見込みで、2020年3月期を含めると3期連続赤字。鹿島製鉄所や名古屋製鉄所などの減損という特殊要因を除いた実力値でみても利益を稼げなくなっているのだ。

*JFEが減損を計上する可能性はあるか
しかし、日本製鉄とJFEで表面上の数字ほど実力に差があるわけではない。JFEも製鉄事業の利益は通期でゼロの見通し(2019年3月期は1613億円)。
下期(2019年10月~2020年3月)は200億円近い赤字となる計算だ。製鉄事業の中核子会社JFEスチール単独の今期利益は「600~700億円の赤字」(寺畑副社長)である。
決算説明会で「今期末(2020年3月期末)の減損リスクは?」という記者の問いに、「期末は期末で精査する。第3四半期末時点では減損の兆候はない」(寺畑副社長)と説明した。だが、鉄鋼業界の事業環境が厳しさを増しているだけに、今期末に減損を迫られるリスクは残る。
鉄鋼大手が苦しんでいるのは、需要低迷にもかかわらず原料価格高止まりしているため。
米中貿易摩擦をきっかけに、産業機器や自動車向けを中心に鉄鋼需要が急速に減少、市況価格も低落してしまった。
一方、世界の粗鋼生産の5割強を占める中国では、景気対策のインフラ投資増を受けて過去最高水準の鉄鋼生産が続く。
その中国勢の買いが鉄鉱石や石炭(原料炭)の相場を下支えしている。
自動車に代表される大口顧客との取引価格は鉄鉱石と原料炭の価格に連動するが、販売量が減少した上に、取引価格に連動しない副原料や物流費の上昇が利益を圧迫する。
また、建設向けや海外向けなど市況価格で取引する事業は採算の悪化が直撃する。
JFEHDの柿木厚司社長は2019年11月末、東洋経済の取材で「(業績がよかった)少し前の事業環境には戻らない。
むしろ足元の状況がニューノーマルだと思っている」と厳しい認識を示してた。
*国内リストラはまだ序章
日本製鉄の右田副社長は「中長期的には国内市場が縮小していく。海外市場も競争激化が避けられない。
中国の過剰な生産能力は現在、内需に使われているが、中国の成長が止ると(中国国内生産の鉄鋼製品が)海外に流れ出すことを想定すると、現状の当社の生産能力は大きすぎる」と認める。
日本製鉄の国内の粗鋼生産能力は年間5000万トン強。今回のリストラでその1割弱、500万トンを削減する。
設備休止によって影響を受ける従業員は合計約1600人。希望退職は募らず、原則配置転換で対応するが、勤務地が変われば辞めざるをえない従業員も出てくる。協力会社や取引先も含めて地域経済への影響は避けられない。
もっとも、「500万トン(の能力削減)で十分かは分からない」(右田副社長)としており、日本製鉄の国内リストラはこれで「打ち止め」となりそうにない。
国内需要は基本的に右肩下がり、海外への輸出も中国勢との競争や貿易摩擦から下押し圧力がかかり続ける。
今回、わずかな生産ライン休止にとどまったJFEも「引き続き最適な生産体制の構築、収益力強化を図っていく」(寺畑副社長)とさらなる国内リストラを見据えている。
痛みを伴う方策にどこまで踏み込めるのか。国内鉄鋼メーカーのリストラは序章にすぎない。




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