おがわの音♪ 第947版の配信★


相次ぐ業績の修正、遠ざかる「工作機械」底入れ

ファナックは利益半減、貿易摩擦影響長引く

田中 理瑛 : 東洋経済 記者
2020年02月11日
 


工作機械業界を取り巻く環境が厳しくなっている。写真は2018年11月開催の日本国際工作機械見本市

米中貿易摩擦の影響が長引き、景気の先行指標である工作機械の受注が厳しさを増している。日本工作機械工業会(日工会)がこのほど発表した2019年の加盟106社(2019年10月時点)の工作機械受注総額は、1兆2299億円(前年比32.3%減)と3年ぶりの前年割れとなった。自動車や半導体関連需要の低迷や米中貿易摩擦によって製造業の設備投資が先送りされたことが主な要因だ。


*大幅に遅れる受注の回復

月別受注総額は、2018年10月から15カ月連続で前年割れを続けており、2019年8月からは好不況の目安とされる月間1000億円という数字を5カ月連続で下回っている

2019年初めに「2019年の半ばから秋口」(複数の業界関係者)とみられていた受注回復の時期は大幅に遅れている。

日工会の飯村幸生会長(東芝機械会長)は1月9日に行われた新年賀詞交歓会で、受注のサイクルを山に例え、「(2019年の受注環境は)山から次の山へ尾根道を歩いているつもりが、急な下り坂となった」と振り返った。


当然、各メーカーの業績は厳しい。工作機械の頭脳部分であるNC(数値制御)装置最大手ファナックの今期営業利益は前期比で半減する見通しだ。2020年3月期の売上高は前期比20.3%減の5067億円、営業利益は実に同50.6%の806億円を見込む。

NC装置などのFA(ファクトリー・オートメーション)部門の受注は、年末に中国の春節明けの需要増加への期待から一時的に増加し、2019年10月に発表した売上高を0.4%上方修正した。しかし、ファナックの山口賢治社長は1月29日に行われたアナリスト向け電話会議で「明確によくなっているという認識ではない」と慎重姿勢をみせた。
工作機械大手の牧野フライス製作所は、2020年3月期の業績予想を2019年7月に続いて再度引き下げ、売上高を前期比20.4%減の1630億円、営業利益を同83.1%減の35億円とした。2019年12月までの受注高はアメリカを除く全地域で前年を下回り、商談の延期や中止、新規案件の減少傾向が続いている。
オークマも2019年4~12月の受注高は前年同期比で35.4%減少しており、10月に下方修正した2020年3月期の売上高は前期比19.7%減の1700億円、営業利益は同41.3%の162億円の見込みだ。

三菱電機もFAシステム事業や自動車機器事業からなる産業メカトロニクス部門の売上高、営業利益の2020年3月期計画値を引き下げた。

 

*2018年は空前の活況だった

工作機械は、スマートフォンや家電、自動車などあらゆる製品の部品を加工する機械で、「機械を作る機械」であることから「マザーマシン」と呼ばれる。

受注から納品まで3~6カ月かかることが多く、工作機械の受注規模は景気先行指標として知られている。

景気を反映してすぐに受注が反応するため、ジェットコースターのように激しく増減するのが特徴だ。
実際、2018年夏までの工作機械業界は空前の活況を呈していた。

自動車やスマホ、半導体などの受注が拡大し、日系メーカーの年間工作機械受注総額は2018年に過去最高の1兆8157億円を記録し、部品の調達難が起きるほどだった。
しかし、米中貿易摩擦が本格化した2018年秋頃から中国の景況感が悪化。

対米輸出関税引き上げを懸念した中国の自動車メーカーや半導体装置メーカーが設備投資を控え始め、日系各社の工作機械受注も減速し始めた。受注総額の半分以上を占める外需は2018年8月に1年9カ月ぶりに前年同月を下回った。
2018年末には内需の減速も明らかになったが、当時は半導体業界の設備投資需要や中国の景気刺激策によって受注は年内に回復するという見方が強かった。しかし、2019年5月にアメリカのトランプ大統領がツイッターで対中関税引き上げを表明。

貿易交渉がさらに長引いたことで顧客の設備投資の最終決定が難しくなり、貿易摩擦の影響は業界で予想されていた以上に長期化している。
では、2020年の工作機械業界はどうなるのか。

日工会の飯村会長は「受注は前半に底を打ち、緩やかに反転していく」とし、2020年の工作機械受注額予想を2019年比で微減の1兆2000億円と発表した。
業界内では「今のままでは届かないが、後半に反転するならいい数字」(ヤマザキマザックの山崎智久会長)と、2020年中の回復を見込む声が多い。

「ボリュームは大きくないが、半導体5G関連が動いているという話は聞いている」(ファナック山口社長)と、一部ではすでに半導体や5G関連の案件が出ている。


5G時代で絶好の商機、電子部品メーカー「僕たちの技術を見てくれ!」

 

 

軟・折り曲げられる樹脂多層基板

5Gスマホ向けでは村田製作所の樹脂多層基板「メトロサーク」が、部品点数が大幅に増える5Gスマホの省スペース化に役立つとして注目される。柔軟に折り曲げられるため、ネットワーク技術開発部の早藤久夫部長は「アレイアンテナのモジュールを折り曲げることで、スマホ内部の2辺を一つのモジュールでカバーできる」としている。

 

☞ 「銅の2倍」熱逃がす複合材

ミリ波帯のモジュール構造で問題視され始めているのが放熱の問題だ。限られたスペースに従来よりも高電力量の部品を配置するため、より多くの熱を逃がす必要がある。紙管を製造する昭和丸筒(大阪府東大阪市)は、こうした課題の解消に取り組んでいる。厚み方向に銅の2倍相当の1メートルケルビン当たり800ワットの熱伝導率を持つ密着性の高い熱伝導複合材「Zebro(ジブロ)」を開発した。



*2020年後半に受注は上向く?

関連製品を含めると受注全体の6割を占めるとされる自動車向けについても、「(自動車関連メーカーからは)2021年の稼働開始の案件が多いので、2020年半ばくらいには投資があるという感触がある」(飯村会長)と、2020年後半以降に受注が上向くという見方が強い。アメリカ製品の対中輸出の増加、制裁関税の緩和など「第一段階の合意」が1月に結ばれたことを受け、中国で新エネルギー車向けを中心に回復を期待する声もあがる。
ただ、ある業界関係者は「米中貿易摩擦のように地政学的リスクがあるので2020年の予想は難しい。突発的な要因で買い控えが起きることもある」と不安を見せた。

通常の景気サイクルから読み切れなかった2019年の受注の動きを見ても、先行きは楽観視できない。
そこに降って湧いたように起きたのが、新型肺炎の影響だ。

工作機械の顧客企業は中国工場の稼働再開延長を余儀なくされているうえに、サプライチェーンの混乱や設備投資マインドのさらなる悪化が懸念されている。

ファナックの山口社長は「コロナ(ウイルスによる新型肺炎)の状況がどう進むかもわからないが、春節が実質的に長引くという話もあるので今後注視する必要がある」と警戒姿勢を示した。
もっとも中長期的に市場が拡大するという見方は変わらない。

生産ラインの自動化・省人化ニーズは根強く、ある工作機械大手幹部は「顧客と話すと労働力不足の様子はひしひしと感じられる。市場のポテンシャルはある」と話す。
今回はリーマンショック時のような急激な落ち込みと比べると緩やかな減少で、各社は在庫の調整や増強投資を先送りするなどの対応を進めている。成長路線へ戻るまで、しばらく忍耐の時期が続きそうだ。




メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。