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中外製薬、時価総額で「武田超え」寸前のわけ

血友病治療薬「ヘムライブラ」が支える好業績

石阪 友貴 : 東洋経済 記者
2020年02月09日


時価総額首位の座をうかがう中外製薬。その業績を支えるのが血友病薬「ヘムライブラ」だ(写真:中外製薬)

首位逆転なるか――。売上高で製薬業界6位にすぎない中外製薬の時価総額が、首位の武田薬品工業に迫っている。
1月30日、中外製薬は2019年12月期の決算を発表した。

売上高は前期比18%増の6861億円、営業利益は同69%増の2105億円。売上高、営業利益とも過去最高を更新した。
決算発表翌日の1月31日、中外の株価は前日比7%高の1万1265円に急騰した。

その後も株価は上昇し続け、2月7日には時価総額6.8兆円に達した。製薬業界で現在首位の武田の時価総額は約7兆円。

その差は約2200億円にまで肉薄している。全上場3772社の中でも12位に位置する。

*冴えない武田薬品の株価

武田は2018年初に、約6兆円を投じてアイルランドの製薬大手シャイアーを買収すると発表した。
5兆円近い有利子負債や減損リスクのあるのれん4兆円を抱えることが嫌気され、株価は2018年に約40%下落した。
一方の中外製薬は2018年に株価が約10%上昇。2018年9月に武田を上回る時価総額首位の座に初めてついた。
武田が2019年1月にシャイアー買収を完了し、第三者割当増資による株数増などで時価総額が膨らむと、武田が再び首位の座を回復したが、その後も武田の株価は冴えない。
一方、中外の株価は2019年も2割上昇2018年初に比べおよそ2倍の水準にある。
2020年に入ってからも上昇が続き、時価総額の首位奪回をうかがっている。
中外の絶好調業績の背景にあるのは、同社が自社で創製した血友病治療薬「ヘムライブラ」の拡大だ。
2018年5月に発売を開始した同薬は、2019年の1年間で1500億円超を売り上げた。
大型薬の目安になる年間売上高1000億円を発売2年目でクリアし、急速に成長しているヒット薬だ。

 


*注射は週1回、負担が軽いヘムライブラ

血友病は遺伝子に異常があり、出血すると血が止まりにくくなってしまう病気だ。
既存の血友病治療薬は週に2~3回静脈に注射しないといけないが、ヘムライブラは週に約1回の皮下注射で済む。
患者への負担が軽いうえ、既存薬の耐性ができた患者も使うことができる。「患者が治療薬を切り替えるスピードが想定より速く、急速に浸透していった」(中外のIR担当者)。
実際、ヘムライブラの発売以降、既存の血友病治療薬の競合製品は総崩れになっている。
血友病治療薬でそれまでシェア4割程度を握っていたのが、武田が買収したシャイアーだった。
その主力薬「アドベイト」の売上高は2019年3月期に1891億円あったものの、2020年3月期は2割ほど落ち込み、1500億円程度になりそうだ。
フランスの製薬大手サノフィも2019年7月、血友病薬の落ち込みによって約2000億円の減損損失を計上した。

中外の小坂達朗社長兼CEOは3月に社長職を退く。在任中に時価総額1位の座を奪還できるか

中外は、国内の製薬会社の中では異質なビジネスモデルを持っている。

2002年にロシュが中外の株式50.1%を取得したが、中外の上場は維持され、独立経営を守ってきた。

中外が「戦略的提携」と呼ぶこの関係が、「ヘムライブラのような大型薬の開発成功につながったのは間違いない」(小坂達朗社長)。
製薬会社の生命線である新薬開発は、後期段階の臨床試験で大きなコストがかかる

中外はこの部分をロシュに任せており、中外は創薬そのものの研究に集中的に費用を投じることができる。


*海外販売はロシュにお任せ
海外での販売もロシュにお任せだ。コストのかかる販売網を自前で持つ必要がなくなる
中外が創製し、ロシュが世界で販売した薬は、売上高に応じて中外がロイヤルティ収入を受け取ることになっている。
中外の2020年12月期は「アバスチン」や「ハーセプチン」といった抗がん剤の特許が切れ、後発品が参入してくることで国内は減収になる見込み。
一方、海外ではヘムライブラがさらに拡大する見通しだ。
2020年12月期に計画している営業利益2750億円のうち、ヘムライブラを中心としたロシュからのロイヤルティ収入は1410億円にのぼる。2020年12月期予想の営業利益率は製薬業界でも屈指の37%に達する。
2020年3月には現在、社長兼CEOの小坂達朗氏がCEOのまま会長職に就き、開発畑のトップである奥田修・上席執行役員が新たな社長兼COOに就く。
新社長になる奥田氏は「いまの中外製薬は新しい薬を作っていけるようになってきている。この好循環を持続させていくのが自分の役目だ」と語った。
現在、中外では、ヘムライブラとは異なる仕組みの血友病薬など、次世代薬の候補が複数臨床試験入りしている。
こうした新薬候補の開発が順調に進めば、時価総額首位に返り咲く日もそう遠くないだろう。

 





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