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グーグル「閲覧データ」提供停止に広がる波紋

ユーザーごとの「ターゲティング広告」困難に

中川 雅博 : 東洋経済 記者
2020年01月17日


グーグルのブラウザー「Chrome(クローム)」が広告配信で使われる閲覧履歴データ「クッキー」の扱いを大きく変えようとしている

ネット広告業界に大きな衝撃が広がった。
グーグルは1月14日、世界シェア約6割を占める同社のウェブブラウザ「Chrome(クローム)」で、「クッキー」と呼ばれるユーザーのネット閲覧履歴のデータが第三者のネット広告企業などに提供される仕組みを停止すると発表した。

2022年までに段階的に実施する方針だ。
クッキーを制限する動きはアップルが先んじていた。アップルのブラウザー「Safari(サファリ)」では2017年以降、段階的に制限の度合いを拡大。現在は実質的に、広告用にクッキーが使えない。
端末メーカーとしてユーザーのプライバシー保護の姿勢を強調していたアップルに、グーグルが追随した格好だ。「アップル対グーグルという、ネット上のエコシステムの争いが激しくなっている」(広告や検索のコンサルティングを手がけるプリンシプルの中村研太常務)。


*クッキーは何に使われているのか

クッキーは1994年に考案された仕組みで、ウェブサイトが発行し、ブラウザ側に保存されるユーザーの閲覧履歴データだ。

ネット通販サイトやSNSなどで、ほかのサイトに移動したり、ブラウザを閉じたりしても、ログイン状態や買い物途中のカートの中身を維持するといった目的で使われてきた。
その後、ユーザーの興味や関心、属性を分析するためにクッキーが活用され、いわゆる「ターゲティング広告」の配信が盛んになった。

1人ひとりの閲覧履歴がわかるため、ある企業のウェブサイトに一度訪問したユーザーに対し、その企業が繰り返し広告を配信する「リターゲティング」も可能になった。その効果の高さから、「広告主は皆リターゲティングをやりたがる」(国内ネット広告事業者幹部)。
ログインの維持などのために、表示しているウェブサイトが発行するクッキーを「ファーストパーティクッキー」、広告配信業者がウェブサイトにタグを埋め込んで収集するのが「サードパーティクッキー」と呼ばれる。今回クロームで利用できなくなるのは、サードパーティクッキーだ。
このクッキーが活用できなくなれば、ネット上の行動を監視されているとユーザーが感じる場面は減る一方、ターゲティング広告の精度は落ち、自分の関心からかけ離れた広告が頻出する可能性がある。
クッキーを活用した広告配信プラットフォームを手がける企業は打撃を受けそうだ。「サードパーティクッキーが使えなくなると、1人ひとりのユーザーをピンポイントで特定することはできない。リターゲティングが難しくなる」。広告配信を手がけるマイクロアドの松田佑樹執行役員はそう話す。
リターゲティングビジネスで成長してきたフランスの広告大手クリテオの株価はグーグルの発表後、前日比約16%安と急落した。

同社は急きょ、「グーグルの発表は全面的に支持する。個人識別のソリューションはクッキー以外にも広げている」とするコメントを発表した。
マイクロアドはクッキー活用が困難になることを見据え、近年リターゲティングビジネスを縮小。興味・関心が似たユーザーを集団でまとめ、ターゲティングする方式を拡大しているという。
一方で、広告やプライバシー問題に詳しい一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラムの寺田眞治常務理事は、「日本のアドテク(広告技術)業界はまだまだサードパーティクッキーに依存したまま。ブラウザで使えないとなると対応せざるを得なくなるが、代替するソリューションをすでに提供している海外企業に顧客を奪われる可能性がある」と指摘する。

 

*それでもグーグルの地位は不変か

もっとも、広告が売上高の8割を占めるグーグル自身への影響は限定的とみられる。

検索やEメール、地図、動画など、自社サービスのユーザーアカウントから多くのデータを集めている。フェイスブックも同様だ。

自社でデータを集めているプラットフォーマーはやはり強い」(前出のプリンシプル中村常務)。
グーグルは現在、クッキーに代わるターゲティングや効果測定の機能を広告事業者向けに開発中で、集団単位でのターゲティングに注力するとみられる。

この機能を広告配信における業界標準にする取り組みも進める。
アップルのサファリなどのブラウザはクッキーを一元的に禁止する措置を講じているが、広告ビジネスが主であるグーグルは、ウェブサイト運営者が広告で稼げる枠組みを維持したい考えだ。
クッキーを使わず、個人を特定しない形のターゲティングは徐々に広がりつつある。

閲覧中のウェブサイト内の画像をAI(人工知能)が分析し、関連する広告を表示したり、コンテンツのテキスト情報とマッチングした広告を見せたり、といった仕組みも登場している。
欧州の一般データ保護規則(GDPR)や、今年1月に施行したアメリカ・カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)など、個人情報保護をとりまく規制は各国で厳しくなる一方だ。日本の個人情報保護委員会も、クッキーに関する規制を今後強化する方針。広告業界は今後変革を迫られる場面が増えそうだ。




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