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窮地でなぜかいつも「助けられる人」の共通点


人間関係で「得する人」「損する人」の差

伊藤 羊一 : Yahoo!アカデミア学長
2019年12月25日

「周囲から助けられる人」と「助けられない人」の差とは

多くの講演で高評価を得るプレゼンの達人、伊藤羊一氏。ヤフーの企業内大学である「Yahoo! アカデミア」の学長として活躍する伊藤氏だが、実はかつて「夢も目標もないダメ社員」だったと言い、数々の大失敗をしてきたと語る。
そんな自身の成功と失敗の経験から見出した教訓をまとめた初の仕事論『やりたいことなんて、なくていい。将来の不安と焦りがなくなるキャリア講義』から、「なぜか周りに助けられる人の共通点」を紹介。


伊藤 羊一
ヤフー株式会社コーポレートエバンジェリストYahoo!アカデミア学長。株式会社ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBAプログラム(GDBA)修了。1990年に日本興業銀行入行、2003年プラス株式会社に転じ、2011年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEOコースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。2015年4月にヤフー株式会社に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。



*怒られながら駆けずり回った3カ月

仕事をやり切るためには、周囲の助けが欠かせない。そんな当たり前のことを、私が痛感した出来事がありました。

それは文具・オフィス家具製造流通のプラスで、物流部門の部長を任され、物流の新システム開発・導入に着手したときのこと。

開発した新システムが、何をやってもうまく動かなかったのです。何かあっても週末でリカバリーできるように、毎週木曜日の夜に物流センターのシステムを新しいものに切り替えてテストするのですが、翌日の金曜日には毎回、不具合が出る。
「またおかしくなってるぞ!」現場から悲鳴と怒声が上がり、慌てて現行システムに戻す。土日はそのせいで出た不具合の収拾に追われる……。

こんな日々が、3カ月ほど続きました。
私としては、とにかく謝るしかないので、毎週、センター中を頭を下げて回りました。やがてまた金曜日がやってきて、トラブルが起こる。また怒られながら駆けずり回る。その繰り返しで3カ月。
「新システムなんて言い出すんじゃなかった。3カ月前に戻りたい」といつも思っていました。こんなこと始めなきゃよかった、と。けれど、撤退するという決断もできません。さんざん迷惑をかけているので、辞表を書いて胸に持っているほどでした。が、辞めるという決心もつかない。
周囲からボコボコに叩かれながら、クラゲのように職場に浮遊している……。心が強かったわけではなく、浮遊しているクラゲはぐにゃぐにゃしていて折れることも倒れることもできなかった……というのが実情でした。

 

*「伊藤をあのまま潰していいのか」

しかし、そんな私にある転機が訪れます。

その物流センターは、物流業務を担当するグループ会社が運営していたのですが、当初、この会社の人たちは、私を完全に敵視していました。

ところが、ぶざまな失敗を繰り返し、怒られながらも逃げない私を見ているうちに、あるときから状況が変わっていったそうです。
そして、あるときからこんな声が上がり始めたそうです。「伊藤をあのまま潰してしまっていいのか」……と。これはその会社の人たちから後に聞かされました。
そんなある日、それまで敵対的だったそのグループ会社のとある部長が、こっそりと助力を申し出てくれました。

それは、会社のメールアドレスではなく、個人用のアドレスから来たメールでした。そこには「新システムのデータをもらえないか」と書いてありました。

システムをうまく動かせるかもしれない、ちょっと心当たりがある、と言うのです。
まさに救いの船。状況が一気に変わったのは、そこからです。

現場を知り尽くした、その部長の協力を得ながら実験を繰り返すことで、新システムの精度は飛躍的に向上しました。

2カ月ほどで安定した運用が可能になり、狙っていたコスト削減の効果も次第に上がるようになりました。

起死回生、一発逆転の出来事です。まさに「思いもよらない人からの助けで、私は生き返った」のです。
なぜ、私は敵対的だったグループの子会社の部長から助けてもらうことができたのか?

その理由はいくつかあると思っていますが、「その場から逃げなかったから」という理由は大きかったと思っています。
考えてみてください。トラブルが起きたとき、リーダーがそこにいなければ、現場の人たちは誰に文句を言ったらいいかわかりません。

不満を抱えたまま、それでも仕事を回していかざるをえない。
そして、やり場のない怒りがみんなの中に蓄積されていく。そんなストレスフルな状況の中でも、私はいつも、決して逃げずにその場にいました(ほかの選択肢を思いつかなかったというのが実際のところですが)。


*「応援されない人」はどんな人か

だから、みんなが遠慮なく怒りまくれる対象でした。いつも怒られ、いつも謝って回っているリーダーだったのです。

もちろん、怒られればこちらも傷つきます。正直なところ、「今日も怒られるのか、嫌だなあ」と毎日思っていました。

しかし、そのときは謝るのが仕事だと思っていましたから、「本当にすみません」「ご迷惑をおかけしています」と頭を下げ続けました。

ぶざまな姿だったと思います。けれども、そんな姿を見せたからこそ、「伊藤をこのまま潰していいのか」と思ってもらえたのだと思います。
この話を聞いて、「伊藤さんには、人から応援される力がありますね」と言った人がいました。

これが応援される力なのかどうか、そもそも私に「応援される力」があるのかどうか、自分ではよくわかりません。
しかし、「こういう人は応援されないだろうな」というタイプはなんとなくわかります。

それは、相手が誰かによって、態度を変える人。あるいは、相手がどういう状況にあるかによって態度を変える人です。要するに、フラットでない人です。
私は誰に対してでもフラットに接したい、と思っています。これは、私がとくに大事にしている価値観です。

今回のお話のように、かつての私はまったく仕事ができませんでした。仕事がうまくいかない時期もいくらでもありました。

そういうダメなときには、やはり周囲からもボロクソに叩かれます。「お前は仕事ができない」とか「ダメなやつだ」とか。
ところが、ありがたいことに今はいろいろな仕事の機会に恵まれています。しばしば人に教えたり、人前で話したりもします。

Yahoo!アカデミアの学長や、グロービスの客員教授を務めながら、本も出版しました。
こんな状況になると、褒めてくれる人が増えてきます。「すごい」とか「仕事ができる」とか評価されることもあります。

時には、街を歩いているときに「伊藤羊一さんですよね」なんて声をかけられたりすることもあります。
しかし、私としてはあまり気持ちがいいものではありません。「この周囲の変化は何なんだろう?」と思うのです。

「仕事ができないときの俺も、『仕事ができる』と言われるようになってからの俺も、俺は俺じゃないか。俺は変わってないのに」と、仕事ができるできないで人間性を評価されているように感じてしまうのです。

 

*「アホっぽさ」も大事

ですから、私自身は相手が誰かとか、現在仕事がうまくいっているかどうか、といったことで態度を変えたくない、と思っています。

「できている人」にも、「できていない人」にもフラットでいたいそういう思いが強くあります。
その根底にあるのは、他者へのリスペクトです。自分と違う経験を持っている人は、それだけでリスペクトに値します。

かつて全然仕事ができなかった自分。周りの人を「みんな俺よりすごいな」と見上げていた自分。

そんな自分がいるからこそ、すべての人をリスペクトできるのです。だから誰に対してもフラットに接するべきだと、常々考えているのです。
もう1つ、若い頃の私が周囲に助けてもらえた理由で思い当たることがあります。

それは、私が「アホっぽかった」から。アホっぽくて、頼りなくて、放っておけない。ある意味で愛嬌があった、という言い方もできるかもしれません。

だから助けたくなる、という面はあったと思います。
愛嬌といっても、私の「アホっぽさ」は、持って生まれたチャーミングさ、という意味の愛嬌ではありません。

人との接し方の問題だと思います。愛嬌というのは、愛嬌のある自分を演じようとして醸し出されるものではありません。
むしろ、ピンチのときこそ演じることをやめる。オープンな姿勢で、自分のダメなところ、愚かなところ、弱いところ、足りないところ……をさらけ出す。

すると愛嬌が生まれると思っています。そういう姿を見て、人は「かわいいやつだ」「なんとかしてやりたい」と思ってくれるのではないかと思います。

人に応援されたければ、自分をさらけ出してオープンに人と接することを心がけてみてはどうでしょう。


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