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サントリーがペットボトル回収を急ぐ深刻背景

大阪市の家庭ゴミを直接回収する実験開始

兵頭 輝夏 : 東洋経済 記者
2019年12月24日


サントリーのグループ会社で、缶、瓶、ペットボトルの再資源化処理を行う工場「リサイクル・プラザJB」(埼玉県さいたま市)

サントリーホールディングスは今年10月から、大阪市鶴見区内でペットボトルを回収する実験的な取り組みを始めた。大阪市は環境省の「プラスチックの資源循環に関する先進的モデル事業」の対象となっている。

サントリーはその事業に参加する一企業として、このプロジェクトに参加しているのだ。

現時点では、サントリーの子会社である「サントリーMONOZUKURIエキスパート」と神戸市の古紙回収業・マツダの2社が参加している。


*ペットボトルゴミを「資源」として収集

11月下旬の平日、鶴見区に実際に足を運んでみると、閑静な住宅街の道沿いにゴミ袋が並んでいる。

その中に、すべてキャップが外され、ラベルが1つ残らず剥がされたペットボトルが仕分けされた袋がたくさん並ぶ。

「暑い時期はもっと量があった。今でもよく集まっている」(大阪市環境局の松山智徳氏)という。
今回のプロジェクトは、これまで大阪市が行っていた各家庭からのゴミ回収の一部を民間の事業者に委託していることが特徴だ。

さらに、従来は回収したペットボトルを「廃棄物」として自治体が費用を負担しリサイクルしていたが、今回の新しい仕組みではペットボトルをペットボトルにリサイクルするために、価値のある資源として取り扱う点が新しい。
地域住民は、ペットボトルの清潔度に応じてサントリーから対価を受け取る。例えば鶴見区緑では1キロ当たり5円、年間で1万~1.5万円になる見込みという。

一方、サントリー集めたペットボトルを大阪市内などで減容化し、栃木県の再資源化事業者に売却する。その後、ペットボトルの原型(プリフォーム、ペットボトルとして膨らませる前段階の中間製品)を全数買い戻している。

大阪市としては、ペットボトルの回収事業を民間企業に委託することで、費用をかけずに資源の有効活用ができる利点がある。地域住民はプラスチックの有効活用に貢献できるうえ、事業者から得た利益を小学校の放課後教室などの地域活動に充てることができる。
大阪府と大阪市は2019年6月に大阪で開催されたG20に先立ち、1月に「おおさかプラスチックごみゼロ宣言」を採択した。脱プラスチックへの意識が高まりつつある中、大阪万博が開催される2025年までに、使い捨てプラスチックの削減やリサイクルを推進する目標を大阪府と市で共同宣言した。
サントリーが回収に携わる大阪市鶴見区緑地地区は、もともと地域コミュニティーで古紙回収を行うなど、環境対策への取り組みが熱心な地域だった。

大阪市環境局の松山氏は「この地域の方々は協力的で事業に参加してくれている」と話す。
それにしても、サントリーはなぜ自治体からペットボトルを回収する必要があるのだろうか。

 

*日本は世界2位のプラゴミ排出大国

背景には、脱プラスチックへの関心の高まりがある。日本は1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量がアメリカに次いで2番目に多い「プラスチックゴミ排出大国」だ。
海洋汚染やCO2対策などの観点から2019年に注目が高まった。これを受け、富士通は6月から社内自動販売機でペットボトル販売を取りやめるなど、全国の事業所などで年間約700万本の削減を進める。ソニーも同様の取り組みを開始するなど、各方面でペットボトルの利用を削減する動きがある。
これらの「脱・ペットボトル」の動きに対し、日本コカ・コーラやサントリーなどの飲料メーカー大手が対応を急ぐのが、ペットボトル容器のリサイクルだ。

現状では、全国で回収されたペットボトルのうち、ペットボトルリサイクルされるのは約2割しかない。その他の多くは繊維やシートなど他の素材へリサイクルされるか、焼却される。
サントリーは「ペットボトルを最も効率よく循環できる方法は、ペットボトルに再生すること」としている。

ペットボトルへリサイクルすることと違い、衣服などの異素材にいったんリサイクルすると、ペットボトルに再生できなくなるためだ。また、新規にペットボトルを作るには石油資源を使い、より多くの二酸化炭素を排出することになる。このためサントリーHDは、2030年までに世界で使用するすべてのペットボトルで、石油由来原料をゼロにする目標を掲げ、それを達成するために約500億円を投資する。子会社のサントリー食品インターナショナルでは2025年までに国内清涼飲料事業における全ペットボトル重量の半分以上で、再生PET素材を使用することを目標に掲げる。
日本コカ・コーラ2022年までに、国内で使用する原材料の半分以上を再生ペットボトルにすることを目標にしている。

現在の再生ペットボトル使用量は、サントリーは世界で約1割国内は約2割日本コカ・コーラは約17%にとどまる。

異物の混入が後を絶たない自販機横の「空容器回収ボックス」

こうした目標を達成するうえでの課題は、資源として利用できる状態のペットボトルをどのようにして集めるかだ。

 

使用済みペットボトルは、家庭から出るものとコンビニや自販機など事業系から出るものの2種類がある。

前者の多くは家庭で洗浄・分別され、比較的きれいなことが多く、「資源としての価値は事業系ゴミの2倍ほど」(サントリーの孫会社で、自販機管理を行うジャパンビバレッジ環境部の梶原章部長)という。
ただ家庭ゴミは、自治体で回収・分別が行われた後、競売にかけられるため、メーカーが一定量を安定的に確保することが難しい。サントリーが今回、使用済みペットボトルの直接回収に乗り出したのは、家庭から出るペットボトルを安定的に得るためにほかならない。 


*異物混入が後を絶たない自販機横のゴミ箱

飲料メーカーの頭を悩ませているもう1つの課題が、自動販売機の隣に設置されている「空容器回収ボックス」だ。

本来は販売したペットボトルを資源として回収する目的で設置されているが、異物の混入が後を絶たない
「最近はコンビニも店舗の中にゴミ箱を置くようになり、テロ対策で公園のゴミ箱もなくなった。そのため、自販機横の回収ボックスにゴミが捨てられている。タピオカのカップが投入口をふさいで、本来入れるべきものが入れられないケースも多々ある」(ジャパンビバレッジの梶原氏)。

自販機横の回収ボックスは、メーカーなどの飲料団体が自主的に設置しているものだ。

だが、その中に入れられたゴミの回収にかかる負担は大きい。市町村が設置する町中のゴミ箱が減った背景について、ある飲料メーカー関係者は「正直に言って、ゴミ箱を設置するのは自治体にとってコスト。テロ対策というが、(ゴミ箱が撤去された)きっかけは1995年の地下鉄サリン事件だと思う。これを機に、ゴミ箱を撤去する自治体が出てきた」と話す。町中にゴミを捨てる場所がなくなった結果、自販機横の回収ボックスにさまざまなゴミが増えることとなった。異物とともに捨てられ、汚れたペットボトルは、飲料用の容器として再生することは衛生上難しい。サントリーによると、ほかのゴミによって汚れていたり、タバコなど異物が入っているペットボトルは焼却するしかないという。
飲料メーカーでつくる全国清涼飲料連合会の甲斐喜代美氏は「2019年4月から、ペットボトル以外のものを入れないように啓発するステッカーを貼っているが、効果が見られない。モラルの問題にも取り組む必要がある」と嘆く。
食品業界ではプラスチックから紙に包装素材を変えたり、生分解性プラスチックを導入する動きが進んでいる。ただ、環境省環境再生・資源循環局の井関勇一郎係長は「3R(リデュース、リユース、リサイクル)の順番が大事。そもそもの利用量を減らすことが大原則だからだ。そのため、生分解性などのリサイクルは最後の手段」と、強調する。
環境対策への取り組みは企業努力だけでは限界があり、消費者の理解が不可欠だ。

そういった意味で、サントリーなど他社に先駆けて対策を強化する企業は、消費者にどこまで働き掛けられるかも求められている。

 




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