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英国人の階級意識に火をつけた衝撃レポート

16万人参加、700万人アクセスの新階級調査

マイク・サヴィジ : ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス社会学部教授
2019年11月29日


人間は階級が気になって仕方がない生き物です

イギリスBBCが実施し、イギリスで過去最大規模となった階級調査がある。16万人が参加し、大きな議論を呼んだこの調査をもとにBBCが公開したウェブ上の「階級算出装置」には、イギリス成人の5人に1人に当たる700万人がアクセスしたという。
調査が公表された後、劇場チケットの売上が突然激増するなど、イギリス人の行動を劇的に変えた話題の調査結果が、『7つの階級:英国階級調査報告』というタイトルの書籍として翻訳出版される。その本の一部を、抜粋・編集してお届けする。


BBCが行ったイギリスの階級調査を複数の社会学者が分析した書。
従来の階級研究は、上流階級、中流階級、労働者階級の3つに分け、中流と労働者の間を明確に線引きすることが重視されてきたが、現代はそれほど単純ではない。
他から隔絶した最上層のエリートと、何も持たない最下層のプレカリアート(不安定な無産階級)という両極の間に、単純明快に分けることができない幅広い中流層が存在するという。


*社会階級の新しい7つのモデル
私たちは英国階級調査と、それを補完する調査にもとづき、21世紀の新しい社会階級を提示した。その最初の分析はメこれまでの上流、中流、労働者という階級分類とは違う、階級についての新しい視点を提示するものだと思われたからだろう。
私たちは、まず、調査参加者や回答者たちの経済資本、文化資本、社会関係資本の3つの資本の蓄積量を測定した。
各資本の測定には世帯所得、貯蓄、住宅資産などの経済資本の量と、高尚な文化資本と新興文化資本のスコア、社会的紐帯の数と状況に関する情報をデータとして使用した。
そして測定値をグループ分けして、その組み合わせによって表れる特徴的な社会階級を見つけ出した。
以下が、私たちが考案した7つの階級の名称である。

 エリート(すべての資本を多く持つ、人口の6%)
確立した中流階級(エリートの次に3つの資本が多い、同25%)
技術系中流階級(比較的裕福で、社会関係資本が少ない、同6%)
新富裕労働者(比較的裕福で、文化資本が少ない、同15%)
伝統的労働者階級(3資本どれも少ないがバランスはいい、同14%)
新興サービス労働者(若く貧しいが残り2つの資本は豊か、同19%)
プレカリアート(すべての資本に恵まれない、同15%) 

7つの階級は、上に示したような順序でヒエラルキーを形成しているわけではない。

「技術系中流階級」を「新富裕労働者」の上に置いたが、根拠はない。便宜上、経済資本の順位によって並べることにした。他の資本と比較して、経済資本の分配が最も不平等だからだ。
「確立した中流階級」の所得は「技術系中流階級」を上回り、「エリート」の次に裕福な階級であることに異論はなかろう。
「技術系中流階級」は「新富裕労働者」よりも所得が多い。

「新富裕労働者」の下の「伝統的労働者階級」と「新興サービス労働者」の経済資本はどちらも多くないが、この2つの階級間では、所得と住宅資産のバランスに大きな相違がある。

そして、他の階級と顕著に違うのは、エリートプレカリアートだ。

 

*超富裕エリートと最下層プレカリアートの格差
エリートの所得は、経済資本のランクでいうと2番目の「確立した中流階級」の約2倍だ。

住宅資産と貯蓄の額も群を抜いており、美術館、ギャラリー、クラシックのコンサートに行くなどの「高尚な」文化資本のスコアも最も高い。加えて、エリートは社会的ネットワークに恵まれている。それは多くの場合、社会的地位が同等に高い者同士のネットワークだ。
私たちが提示するイギリスのエリートの数は人口の約6%で、多くの評論家が特定する「1%」とはやや異なり、かなり大きな割合を含めている。

ダニー・ドーリングやトマ・ピケティが指摘したように、超富裕層と呼ばれる人々が経済力で他を大きく引き離しているのは間違いない。だがもう少し人数の大きいグループも他の階級の人々より際立って有利な立場にあることを見失ってはならない。

一方、エリート階級とは正反対の、社会の底辺に位置するのが、人口の15%にあたるプレカリアートだ。

私たちはこの用語を経済学者ガイ・スタンディングから借用した。彼は「プレカリアート」、すなわち「不安定な(プレケリアス)プロレタリアート」の現状を改善するためにさまざまな活動を行ってきた人物である。
何十年にもわたって、貧しく恵まれない人々という烙印を押すのに用いられてきた「アンダークラス」というラベルの代わりに、私たちは「プレカリアート」という言葉を意図的に選んだ。
プレカリアートの世帯所得は際立って低く(1ポンド135円換算で108万円)、貯蓄はあってもごくわずかで、借家住まいが多い。社会的ネットワークの数も最も少なく、自分よりステータスの高い職業の人とはほとんど交流がない。文化資本もごく限られている。

しかし、だからといって、プレカリアートが道徳的に堕落しているという根拠はまったくない。他の階級に比べると社会的ネットワークは限られてはいるが、それなりに幅広いネットワークを持っているかもしれないし、文化的な何らかのことにかかわっているかもしれないのだ。

 

*中間にある5つの階層とは
エリートとプレカリアートでは特徴が顕著なのに対し、その間に挟まれる5つの階級の違い複雑だ。
「新富裕労働者」と「技術系中流階級」は社会関係資本や文化資本に比して経済資本が豊富である。

「新富裕労働者」はそれなりに豊かに暮らしているが、文化的活動はそれほど活発ではない。
また、「新興サービス労働者」は文化資本と社会関係資本は豊かだが、経済資本に乏しい。
人口の約40%を占めるこの3つの階級では、経済資本、文化資本、社会関係資本の3つの資本を同量ずつ所有しているのではなく、偏りがある。

このことから、階級の境界線を完全に明確に引くのが難しい理由がわかるだろう。
中間層のうち、「確立した中流階級」と「伝統的労働者階級」はどちらも経済資本、文化資本、社会関係資本を偏りなく所有するが、確立した中流階級のそれはエリートよりかなり少なく、伝統的労働者階級はプレカリアートより多い。
以上のパターンから、明白なまとまりである「専門職・経営管理部門」とか、あらゆる種類の定型労働に就く人を含む「労働者階級」などとして分類するのが難しい人たちの存在が浮かび上がる。つまり、社会構造の中間の部分の区別は複雑かつ曖昧で、一貫した「中流階級」や「労働者階級」というものを定義するのは不可能だということだ。
私たちが提示する階級は大まかに3つに分類できる

裕福な少数のエリート、それよりかなり多数のプレカリアート、そしてその他の階級である。

中間の5つの階級は、それぞれが各資本を複雑な組み合わせで所有しているため、ひとつの階級にまとめることはできない。

 

*エリート階級の少数民族の割合は4%と少ない
私たちは、各階級の特徴を人口比、英国階級調査参加者の割合、平均年齢、少数民族(マイノリティー)の割合で見てみることにした。
私たちの階級モデルには、「直感的に興味を搔き立てる」ところがあるようで、発表後すぐに多くのジャーナリストから「納得できる」という評価を得た。

この階級モデルであれば、現在のイギリス社会の状況を解釈できるというのだ。
私たちの階級分析は、最上部と最下部がはっきり分かれているが、これは他の分類法とも一部一致している。

階級とは、単独の格差の要素で決まるのではなく、他の要素とも交わっていることがわかる。
民族と年齢に注目してみよう。
エリート階級に少数民族は少なく4%だが、確立した中流階級では13%を占める。また、「新興サービス労働者」にも多く、21%を占めている。
新興サービス労働者」とは高学歴の若年層で、経済資本はまだあまり蓄積していない。

そこに、民族性と私たちの提示した新しい階級の分類にどのような関係があるのかを理解する手がかりがある。
少数民族の人々は相当な文化資本を持っているが、それを白人のイギリス人のように経済資本に転換することができていないのだ。
私たちの階級分類における少数民族の複雑なありようを見ると、民族集団を単純に従来の中流階級・労働者階級に分類することはできないことも理解されるはずだ。
次に年齢だが、それぞれの階級の平均年齢の違いは示唆に富んでいる。年齢と社会階級との関連が顕著に表れているからだ。文化資本と社会関係資本は豊かだが経済資本に乏しい「新興サービス労働者」平均年齢32歳で、他の階級よりかなり若い。これは、若年層は高い能力があっても高収入の仕事から締め出されている可能性を示唆している。

*エリートの平均年齢は57歳と高い
一方、「エリート」の平均年齢は57歳で、資本が経年的に蓄積されることがわかる。
しかし、年齢を重ねるだけで誰もがエリートになれるわけではないことは、伝統的労働者階級平均年齢66歳であることが示している。
7つの階級は、単純な年齢による区分けではないが、それでも年齢と強く結びついているのだ。
年齢は従来認識されていたよりも、いっそう強く階級構成と関連している。

さまざまな資本が経年的に蓄積されることを考慮すれば、したがって人生の特定の段階にある人々が他の年齢層より恩恵を受けることを考えれば、これは不思議なことではない。年齢にもとづく階級の格差には説得力がある。
「エリート」に年長世代が多いのも驚くことではないし、20代の若者たちは所得、貯蓄、住宅関連資産のどれもほとんど持っていないから、「確立した中流階級」や「技術系中流階級」である可能性が低いのも当然のことだ。
ここで重要なのは、文化資本と比較した場合の経済資本の量ということでは、若年層より年長世代が恵まれているということだ。

だからこそ、「新興サービス労働者」は興味深い集団なのだ。彼らは年齢が低いことを特徴とするからである。
この認識から、年齢と階級の関係についての基本的な理解が得られるだろう。

つまり、イギリス社会についての現在の私たちの議論を形成しているのは、従来のような中流階級と労働者階級の境界線という古びた問題などではなく、まったく別の問題だということだ。

 




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