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「人が足りない」日本企業が迫られる劇的変化

世界で一番人を採用しにくい市場になった

パリッサ・ハギリアン : 上智大学教授(国際経営学)
2019年12月16日


人口構造の変化がもたらした労働者数の減少。日本企業にはどんな影響があるだろうか

現在、日本の国内企業と外資企業が直面している最大の課題は、人口構造の変化だ。

近年の日本社会の高齢化と出生率の低下は、企業の顧客数の減少だけでなく、日本の労働市場で雇用可能な労働者数の減少をももたらした。

2015年に日本経済は「完全雇用」の状態となって以来、雇用可能な労働者の数は着実に減少している。
足元の失業率は、女性2.2%、男性2.6%で、過去30年間の最低となっている。従業員の考え方の変化と相まって、これらの数字は日本の人事担当者たちを悩ませている。2018年の日本人被雇用者の転職者数は過去最多となった。
転職者の数はほかの国々に比べるとまだ低いが、日本企業の多くは依然、従業員たちが同じ会社に数十年勤め続けることを当てにしているため、憂慮すべきものと言える。こうした変化は、日本企業にどんな影響を与えるだろうか。


人材採用が著しく難しくなっている

日本企業にとって悩ましいのは、転職者が増えている一方で、デジタル戦略など新たな事業分野でのスペシャリストを十分な数だけ採用することが困難になっていることだ。目下、日本は採用する側にとって最も厳しい求人市場と見なされていることは驚くに当たらない。
人材派遣会社のマンパワーによると、日本企業の81%が新たな従業員を見つけるのは難しいとしている。これは世界で最も高い水準だ。
労働力不足は、求職者の交渉力を増大させる。従来、日本企業における採用活動は新卒中心で、企業で実地に仕事の仕方を学ばせることに重きを置いていた。
雇用した従業員の多くは、キャリアの終わりまで同じ会社で働き続けたからだ。
だが、過去数年間で、転職はより簡単で、より有利なものになった。
多くの国においては、転職が、キャリアのスピードアップや給与上昇の最も簡単な方法となっている。日本でもまた、転職理由の多くは給与アップだ。
従来より会社への忠誠度が低い従業員も増えている。離職率の上昇は、多くの人事担当者にとって予期しないものだった。
一方、日本企業はあらゆる分野においてスペシャリストをより必要としている。スペシャリストの必要性は、変化するビジネス環境によっても高まっている。
例えば、グローバリゼーションによって、企業は消費者の嗜好の変化や激しい競争に、より迅速に対応しなければならなくなっている。
アジアの競合他社が存在感を増す中、仕事を進めるスピードはよりリーンかつスピーディーさが求められるようになっている。
一方で、多くの内部プロセスはより複雑化しており、高品質の製品を製造して販売するだけではもはや不十分になっている。
仕事の流れはより複雑化し、法的および技術的な革新には新たなスキルが必要なうえ、コンプライアンスや、職場のデジタル化、新しい労働法、職場の平等――といった課題には、それぞれの分野の専門家が不可欠だ。
今では伝統的産業でさえ、新しい法律や、最新技術の導入への圧力、消費者の嗜好の急速な変化、販促のためソーシャルメディアを使用する必要性といった多くの変化に直面している。これは新しい専門知識の必要性につながり、企業は現在、コンプライアンスの専門家やソーシャルメディアマーケティングマネジャー、イノベーター、企業内起業家を必死に探している状況だ。

 

*新卒者に技術を学ばせるのは時間がかかりすぎる

それでもまだ、日本企業はこうした人材を探すよりはむしろ、既存の従業員を訓練」することで要件を満たそうとしているところがある。
法的、あるいは社会的変化に対応するため、自らの従業員に必要な専門知識を習得させようとするのだ。
だが、会社にコンプライアンス関連の問題や、多様性管理のスペシャリストがいない場合、従業員が自ら学んでこうした課題に詳しくなるには、何年もかかってしまうかもしれない。それでは、競争力にマイナスの影響が出てしまう。すべての若い従業員を教育して、新たに浮上している課題を学ばせるのは時間がかかりすぎる。
こうした中、労働不足を解決する1つの方法は、中途採用である。
実際、専門知識を持つ人材を中途採用する重要性は高まっており、企業はそうすることでより活発で俊敏になることができる。
転職者の多くが40〜65歳であるという事実は、とりわけ興味深い。彼らは数年前までは新たなスタートを切るには年を取りすぎていると思われていた。
だが今日、こうした年齢層のスペシャリストの需要は非常に高く、退職後もしばしば雇用され続けている
もう1つの解決策は、外国人労働者雇用することだ。ヨーロッパの国々の多くでは、ITマネジャーやソフトウェアのスペシャリストといった技術者が不足しており、こうした国ではインドなどアジア諸国からくるIT技術者向けに、特別なビザ制度を用意している。
日本も外国人の専門技術者が日本で働きやすい環境作りには力を入れているものの、異なる文化的背景を持つ従業員たちをまとめていくことは、日本に限らずどの国においても大変な苦労を伴う。最も大きいのは言葉の問題だ。日本語は習得するのが非常に難しく、現地の言葉を話さずに企業で成長していくことは、どこの国においても容易なことではない。
外国人労働者キャリア管理も、困難な課題だ。
外国人には、日本の典型的な「先輩後輩的な関係」に基づくシステムは理解されにくい。彼らは、契約書に記載されている特定の仕事のみを行うことに慣れているからだ。外資系企業では、従業員はどのように昇進するか、各ポジションにおいてどの決定を行うことができるかを非常に細かく知らされている。キャリア管理は、日本国外においては人材管理において著しく大事な部分なのだ。

*個々にあったキャリアプラン必要に

一方、日本では、従業員を社内でより簡単に異動させることができ、多くの場合、従業員の昇進経路はキャリアの初めに明確に示すものではなく、時間とともに形作られていくものだ。これらの2つの異なるシステムを組み合わせるのは難しい場合が多く、しばしば海外からの労働力獲得の足かせとなっている。
前述のとおり、売り手市場の日本では求職者の交渉力が増している。
今や求職者はより多くの求人案件から就職・転職先を選ぶことができ、現在の雇用主に満足できなければ、次の仕事を求めることができる。
こうした中、今の日本企業に求められているのが、従業員にとってより働きやすい環境を作ることである。
例えば、従業員1人ひとりに合った休暇の取り決めや、ボーナスや手当の追加、育児施設や育児休暇の拡充など、福利厚生を見直さないといけない場合もあるだろう。
日本企業は、自らが雇用する人材との関わり方をもう一度考え直さなければならない岐路に立たされているのだ。
これまで企業は、従業員の個々のニーズに対処する必要はほとんどなく、彼らの多様な願望や期待に応えるための仕組みもできていなかった。
しかし、今後は福利厚生や手当、給与だけでなく、キャリアプランについても交渉することが一般的になる可能性がある。
過去数十年にわたり、日本の人事システムは非常に信頼性が高く成功していることが証明されてきた。
しかし、近い将来の変化は不可避だろう。日本の人事担当者たちは、困難ではあるが刺激的な課題に直面することになる。
日本の人事担当者たちは、日本の人事慣行を革新し、グローバル化された未来に向けて鍛え直しながらも、その強みを活用していかなければならない。
日本のDNAを持つ国際的な人事管理スタイルの育成を、目標とすべきだろう。

 





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