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最低賃金、全国平均901円へ。上げても埋まらぬ「日本の格差」は大きく7つある

 2019年7月30日

鈴木傾城

 

中央最低賃金審議会は31日、今年度の最低賃金引き上げ額の目安を27円とすることを決定。
全国平均は901円となり、東京・神奈川では初の1,000円台に到達することになりました。
このニュースを受け、ブロガーの鈴木傾城さんは「最低賃金が1,000円になっても格差は解消しない」として、日本に存在する解決困難な「大きな7つの格差」について解説。


格差はある。自分が克服しようと動かない限り、状況は変わらない

*最低賃金を上げるのは良策?愚策?

政治家は「格差解消のために最低賃金を1,000円にする」と言っているのだが、最低賃金が1,000円になったら本当に格差が解消するのか。
仮に最低賃金が1,000円になったとする。8時間労働で8,000円。月20日労働で16万円。1年12ヶ月で192万円。
最低賃金が1,000円になっても年収は192万円である。

国税庁が出している民間事業の実態では、日本で最も人数が多いのが年収300万円から400万円。

その次が年収200万円から300万円だから、時給1,000円の年収192万円ではボリュームゾーンにも至らない。

しかし、現在は全国平均で874円になっている最低賃金を1,000円に引き上げると逆に危険なことになってしまうのではないかと懸念する声も大きい(※編注:7月31日、厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会は、2019年度の最低賃金引き上げ額目安を27円とすることを決定。目安通りに時給が上がれば、全国平均は901円となります)。
時給1,000円が払えない中小企業は、倒産したり、廃業したり、雇うのをやめたりして、最低賃金で働く貧困層がより厳しい環境になるのではないかというのである。
一方で、最低賃金が上がろうが下がろうが、年収1,000万円超えの人間はまったく影響がない。
「貧困層が増えた」「政治家は格差問題を解決せよ」と日夜叫んでいる新聞記者の年収は1,000万円を超えているのはよく知られている。NHKの職員も1,000万円超えの年収である。
このNHK職員の年収は、貧困層から有無を言わせず受信料を巻き上げることによって成り立っている。

 

*日本には「大きな7つの格差」が存在する

政治家や活動家や批評家は簡単に「格差解消を」「格差撲滅を」と言うのだが、実際問題として資本主義の世界から格差を撲滅するのは並大抵のことではない。そもそも、ひとことで「格差」と言うが、その格差はそれぞれ問題の違う格差があってそれらが複雑に絡み合って構成されているからだ。

社会を俯瞰してみると、日本には「大きな7つの格差」が存在している。
大きな7つの格差とは、どんなものなのか。1つずつ解説していく。

 

*日本の格差その1:資本の格差

当たり前だが、人間は生まれながらにして平等ではない。豊かな家に生まれる子どももいれば、貧しい家に生まれる子どももいる。豊かな家に生まれた子どもたちは、豊かな親の資本を継承する。貧しい家に生まれた子どもたちは、すべてが不足した中で生きることを強いられる。最初から資本を持っている人間と、最初から何も持たないで社会に放り出される人間は、スタート時点から何もかも違っているのである。
資本主義の中では多額の資金を持った人間は、最初から担保能力があって資金繰りに有利であり、さらに多額の資金から得られる配当もまた多い。
仮に最初から1億円を持っている人間は、それを3%で運用できたらそれだけで生涯に渡って300万円が何もしなくても転がり込む環境で生きられる。つまり、最低賃金で働いている人の年収以上のものが何もしなくても手に入る。

資本は大きければ大きいほど得られるものも大きい。最初から資本を持っている人間はスタートから恵まれているのである。そして、この格差は時間が経てば経つほど広がっていく。

 

*日本の格差その2:教育の格差

きちんとした高等教育を得られたか、それとも教育を得られなかったか。それもまた大きな格差を生み出すものになる。
大学卒業と高校卒業の社員は最初から賃金格差があるというのは誰もが知っている。

厚労省の資料では、大卒の生涯賃金が2億8,650万円で、高卒の生涯賃金が2億4,000万円ほどなので、約4,600万円の差が出る。この差がそのまま教育の格差になる。

なぜ大学に行かなかったのかという点は考慮されない。

たとえば、家庭の経済的な事情で大学は難しかったという点は考慮されない。大学を卒業したかしていないかだけで区分けされる。
中卒になると、賃金格差の前に仕事そのものが見つからないというハンディもある。それだけではない。就ける職業も限られてくる。オフィスワークは中卒の場合はかなり難しい挑戦になる。学歴不問とあっても、中卒は真っ先に落とされる。高学歴であればあるほど高収入が得られやすく、低学歴であればあるほど低収入を余儀なくされる。

それが教育の格差である。


*日本の格差その3:性別の格差

同じ大卒でも、男性と女性では男性の方が賃金が高い。

女性の方が有能で女性の方が判断能力に優れていたとしても、男性の方が出世しやすい。

仕事のチャンスもまた男性の方が得やすい。ほとんどすべての職業に関してそうなのだ。
20代の女性は同じ年代の男性よりも11%から16%ほど賃金が少ない。30代の女性では同じ年代の男性よりも24%から29%ほど賃金が少ない。40代の女性では同じ年代の男性よりも32%から37%ほど賃金が少ない。50代の女性では同じ年代の男性よりも40%から41%ほど賃金が少ない。
性別による賃金格差は日本だけではない。男女平等が行き渡ったと思われている欧米でも同じだ。
女性たちは自分たちが常にキャリアアップすることにハンディを持たされていることを「ガラスの天井」と表現している。しかも、女性は妊娠・出産・子育てが入ると収入が途絶えるか激減する。いろんな意味で性差によるハンディを持っている。こうした要因が性別の格差を生み出す。

 

*日本の格差その4:地域の格差

先進国で生まれた人と後進国で生まれた人の経済格差は凄まじいものがある。
後進国では絶対貧困の光景が広がっているが、絶対貧困とは1日1.90ドル未満で生活する人たちを指す。

1ドル108円で計算すると、1.90ドルは約205円である。

年間365日ずっと205円だったとすると、年収は7万4,825円である。もし日本が後進国で絶対貧困が広がっているような国であったなら、私たちの最低賃金は約205円だったかもしれない。
このように生まれた場所によって私たちは恵まれていたり不運であったりする。
日本の中でも、もちろん地域の格差があるのは言うまでもない。

都市と地方では都市の方が仕事も多く賃金も高い。地方は物価が安いというメリットがあるが、仕事も少なく賃金も低い。最低賃金を見ても、最も高い900円台は大都市圏の東京・神奈川・大阪であり、最も低いのは761円の鹿児島、そして762円の沖縄・宮崎・大分・熊本・長崎・佐賀・高知・鳥取・秋田・岩手・青森である。

 

*日本の格差その5:企業の格差

企業の格差もある。面白いことに大企業が必ずしも賃金が高いわけではない。
東証一部上場企業であっても、賃金の高いセクターや低いセクターがあったりする。

しかし、全般的に見ると大企業は中小零細企業に比べると賃金が高いのは間違いない。
同じセクターで見ても、大企業と中小零細企業の賃金格差は30%以上も違っているのである。
中小零細企業は財務的に脆弱であることが多く、全般的に見ると大企業よりも賃金が下がる。また福利厚生も限度がある。経営が傾くと給料の遅延が起きたりすることも珍しくない。
しかし、日本全体の企業の99.7%は従業員300人未満の中小零細企業である。

これらの企業は大企業の下請けになって無理な価格で仕事をさせられたり、無理な納期を設定されたり、一方的に仕事を打ち切ったりすることも多い。

そのため、労働力を搾取される構造の中で仕事がブラックになり、従業員が常に疲弊して消耗するケースが見られる。

 

*日本の格差その6:高齢者の格差

日本は超少子高齢化社会に突入しているのだが、老後資金を数千万円以上保有して何とか身を守ることができている高齢者がいる反面、貯金はほとんどなく年金だけでは暮らしていけない高齢者も莫大にいる。
生活することができなくなった挙げ句、生活保護を受けることで生きながらえる高齢者もいるわけで、いまや生活保護受給者の半分以上が高齢者になっている。

政府は「生涯現役」を謳っているのだが、実際に生涯現役で全うできる人はそれほどいないわけで、資産を作れないまま高齢化した場合、そこから挽回するのは不可能に近い。そうなると、高齢者の格差は深刻なものにならざるを得ない。 今、日本で起きているのがこの高齢者の格差である。
問題は単身世帯の高齢者が増えていることだ。夫婦世帯の高齢者の場合、ふたりの年金を足して暮らしていける。

「65歳以上70歳未満」世帯の公的年金の平均受給額は、夫婦世帯では年241万1,000円だが、単身世帯の場合年136万9,000円である。

 

*日本の格差その7:ひとり親世帯の格差

生活保護受給者で高齢者と共にかなり多いのが「ひとり親世帯」である。

特にシングルマザーの貧困が深刻だ。

シングルマザーの比率は少しずつ増えており、子どものいる1,209万世帯のうち、82.1万世帯が「母子のみ世帯」である。厚生労働省の資料によると、シングルマザーの約20%は無職であり、働いているシングルマザーも57.0%が非正規雇用である。そのため、ひとり親世帯の相対的貧困率54.6%と圧倒的な数字になっている。
そして、このひとり親世帯で育った子どもたちもまた貧困で暮らすことになり、資本の格差、教育の格差、企業の格差などを背負い込むことになる。

子どもの貧困が注目されるようになってから、こうした貧困に沈んでいる子どもたちを支援する動きも活発化しているが、根本的な原因が解決していないので、貧困問題が複合的に子どもにのしかかる。

 

*格差問題は絶対に解決しない

「格差」問題を最低賃金を引き上げたくらいで解決できないのは、「格差」には様々な種類があって、それぞれが複合的・重層的に絡み合っているからだ。

  1. 資本の格差
  2. 教育の格差
  3. 性別の格差
  4. 地域の格差
  5. 企業の格差
  6. 高齢者の格差
  7. ひとり親世帯の格差

格差の生み出す不利な条件にひとつも当てはまらず、運の良い生活を送ってきた人もいれば、ことごとくの条件に当てはまって辛苦の生活を送っている人もいる。

そして、資本主義は大きな資本が生み出す配当を見ても分かる通り、「富める者がますます富む」性質があるので、格差問題はこれからも消えることは絶対にないし、解決することもない。

 

*より注意深く、より賢明に生きる

人は生まれながらにして有利・不利を背負っているのだが、人口的に言うと何らかの不利を抱えて生きている人の方が多い。素晴らしく恵まれた環境の中で生きている人は、それほどいるわけではない。誰しも何らかの不利を抱えている。

不利な中で生きる場合は、より注意深く、より賢明に生きる必要がある。
恵まれた人生の中で賢明でなかったばかりにどん底に転がり落ちる人もいれば、最初から不利だった人生の中でどん底から抜け出す人もいるので、最初に用意された環境をいかに克服するかは、誰の人生にとっても大きな課題である。

ただ、ひとつ言えるのは、自分が克服しようと動かない限り、状況は何も変わらないということだ。

誰かが他人のために身を粉にして助けてくれることはほとんどない。

そうであれば、したたかに生きることを私たちは求められているということだ。

 




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