おがわの音♪ 第896版の配信★


クレドとは?


1.クレドとは?
クレドとは、企業活動における行動規範のこと。クレドを設定すると、従業員がそれをもとに業務を進めるため、企業活動の方向性が定まる。

クレドは「企業活動が拠り所とする価値観・行動規範を簡潔に表した言葉」のことで、ラテン語で「我は信じる」「信条」という意味を持ちます。

アメリカの大手企業ジョンソン・エンド・ジョンソンが考案し、全世界に広まりました。

クレドは「経営理念」とほぼ同じ意味の言葉ですが、あえて両者を区別するとクレドは、
 ・従業員への共有
 ・従業員への浸透
を意識した際に用いる言葉となります。
クレドは経営理念と同様にそれぞれの企業が決定するため内容はさまざまですが、経営理念と比較すると、
 ・より具体的
 ・より実践的
という特徴が見えてくるのです。つまりクレドは、経営理念よりも業務活動や行動に落とし込みやすいといえるでしょう。クレドの内容を文章化したカードを配布する企業もあるなど、従業員の視認性を高めているところもあります。



2.クレドが有名な企業の具体例

クレドが有名な企業の具体例を3例説明します。

①ジョンソン・エンド・ジョンソン「Our Credo

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、アメリカの医薬品・健康関連用品の大手企業で、1943年に3代目社長ロバート・ウッド・ジョンソンJr.がクレドを考案しました。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレドは、「Our Credo」と呼ばれており、企業として遵守すべき事柄や方向性の優先順位を示しています。
 ・第1の責任は顧客に
 第2の責任は全社員に
 第3の責任は地域社会に
とし、最後の責任は会社の株主に対するものだと宣言しているのです。顧客を守ることで社員が守られ、社員を守ることで地域といったステークホルダーが維持、そして最後は株主の権利が守られるという哲学が貫かれています。
企業の利益や株主の配当などを尊重せず、あくまで顧客第一の姿勢を貫く中で企業を大きくしようとするクレドが、地域社会に根付く企業文化をしっかりと形成していることが分かります。

 

②ザ・リッツ・カールトン「ゴールドスタンダード

ザ・リッツ・カールトンは、ホテルやリゾート、ウェディング事業を世界的に展開する企業です。

ザ・リッツ・カールトンは企業理念である「ゴールドスタンダード」の中で、
 クレド
 モットー
 サービスの3ステップ
を掲げ、クレドも含めてモットーとサービスの3ステップを従業員だけでなく広く細やかに提示しています。
クレドは、
 お客様に心のこもったおもてなしと快適さを提供
 洗練されたくつろぎのある最高のパーソナル・サービスと施設を提供
 お客様が言葉にしない願望やニーズを先読みしてこたえるサービスの心
モットーは「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」、サービスの3ステップでは、
 1. あたたかい、心からのごあいさつ
 2. お客様をお名前でお呼びし、一人一人のお客様のニーズを先読みし、こたえる
 3. 感じのよい見送りと、心のこもったさようならのあいさつにお客様のお名前をそえる
となっています。

 

③Zappos.com 「Core Values

Zappos.comは、アメリカを本拠地とした、靴をメインとするアパレル関連通販小売店。

Zappos.comには、クレドに相当する「Core Values」という中核的な価値観があり、以下のような10項目で構成されています。
 1 サービスを通して、WОW(驚き)を届けよ
 2 変化を受け入れ、その原動力となれ
 3 楽しさと、ちょっと変わったことを作り出せ
 4 間違いを恐れず、創造的で、オープンマインドであれ
 5 成長と学びを追求せよ
 6 コミュニケーションを通してオープンで正直な人間関係を構築せよ
 7 チーム、家族精神を育てよ
 8 限りあるところからより大きな成果を生み出せ
 9 情熱と強い意志を持て
  10 謙虚であれ
このようにZappos.comの「Core Values」は、具体的で実践的です。従業員に分かりやすくというクレドの性質をよく表しています。
 

 

3.クレドが効果的だった事例:タイレノール事件

クレドが効果的に機能した事例としてタイレノール事件があります。

タイレノール事件の概要や企業の対応はどのようなものだったのでしょう。

事件の概要

1982年9月29日、シカゴ近郊のイリノイ州エルクグローブ村の12歳の少女がジョンソン・エンド・ジョンソンの「タイレノール・エクストラ・ストレングス」のカプセルを服用したところ、混入されていたシアン化合物によって死亡。
以後計5瓶のタイレノールによって計7名の死者を出し、この他に毒物が混入された3瓶が回収されました。

事件は未解決で、この後シカゴ周辺では、1986年にエキセドリン殺人事件と多くの模倣事件が発生したのです。

 

 

ジョンソン・エンド・ジョンソンの対応

この事件を受けてジョンソン・エンド・ジョンソンは経営会議を開き、対応の協議を即断します。
 ・シアン化合物混入の疑いのみであり、タイレノールが事件にどう関与しているか不明瞭
 緊急対応マニュアルなどの用意はなかった
という状態にもかかわらず、緊急対応の協議を行ったのです。
そしてジョンソン・エンド・ジョンソンは、
 ・各マスコミやメディアを通して、「タイレノールを飲まないように」と警告を促す
 疑いのある全製品の回収
といった対応に即座に取り掛かりました。それだけでなく事後異物混入ができないカプセル・パッケージングを開発し、大々的にキャンペーンを実施して、売り上げを事件前の9割近くまで回復するに至ります。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレド「Our Credo」内にある「消費者の命を守る」に則ったことで、迅速な行動となりました。また「Our Credo」が全社員に徹底されていたことで、
 緊急時の対応方針を決定
 組織が一丸となって問題へ対処
を可能としたのです。



4.クレドを作成する目的

多くの企業がクレドを作成する理由は、
 コンプライアンス
 従業員の増加
など。近年日本では、企業のコンプライアンスに疑問を持つような、
 食品産地偽装
 製品や安全検査に関わるデータの改ざん
 粉飾決算
などの事件が起こっており、企業は今まで以上にコンプライアンスに力を入れざるを得なくなっているのです。そして経営層を含む従業員全員が、行動や意思決定のもととなる明確な価値基準の設定に迫られています。
また、事業規模が拡大するにつれ従業員数も増加。企業の経営理念やトップの思いが従業員に浸透しにくい問題も起こり始めています。
そのため多くの企業が、
 従業員がいつでも目にできるようクレドに関するカードを作成
 カードなどでいつも目にすることで心に刻む
などを実施して、
 迷ったときの道しるべができる
 従業員のモチベーションを向上
 活発なコミュニケーションを促す
など副次的効果も含めて、クレドを活用しようと考え始めているのです。


5.クレドを従業員に浸透させるメリット

クレドを従業員に浸透させることで生じる3つのメリットを説明します。
 1 人材育成
 2 従業員エンゲージメントの向上
 3 コンプライアンス

①人材育成
1つ目は、人材の育成。クレドが持つ特徴の一つに、クレドカードの作成があります。
クレドカードは、
 クレドが記載してあるカードを従業員に配布する
 クレドカードを常に携帯
 判断に迷ったときにはクレドカードを道しるべに問題を解決
といった使い方をするもの。このカードを朝礼などで読み上げる活動を行うと、
 組織の一員としての自覚を促す
 主体的に行動できる人材を育てる
などを実現させながら、業務に活用できるのです。従業員は、明確な行動基準を知ることにより、自信を持って業務を遂行できます。なぜなら、行動基準をもとに方向性を見定めながら、
 思考
 意思決定
 判断
 行動
などができるからです。抽象的な表現では、従業員が行動指針を理解しにくいことも。しかしクレドなら、従業員は行動指針を理解しやすくなりますし、モチベーションも高くなりやすいです。

 

②従業員エンゲージメントの向上

2つ目は、従業員エンゲージメントの向上。エンゲージメントとは、満足度のことです。
クレドカードを用いることで、従業員にクレドの内容を浸透させることができます。またそれにより従業員は、自らの判断や行動、思考に主体性を持って業務を遂行できるのです。当然モチベーションも高くなり、充実した日々となるでしょう。
日々の業務では、問題にぶつかることもありますし、落ち込むときもあるかもしれません。そんなときでも、クレドカードを読み返すことで、どうやったらそれらの課題に対処すればいいのかが見えてくるのです。
そして、クレドカードを携帯している同僚や上司とコミュニケーションを図り力を合わせることで、それらの課題を一つひとつ乗り越えていきます。
このような職場は当然、従業員エンゲージメントが高まります。なぜなら業務に主体的に関われる喜びが確かな従業員エンゲージメントを育むからです。


③コンプライアンス

3つ目はコンプライアンスです。遵守する主体となる経営層や従業員が倫理的規範などを理解することは必須ともいえます。
もともとクレドは、コンプライアンスを目的として導入されたものです。クレドを設定することで従業員が自主的に意識改革を行えれば、企業のコンプライアンス強化も同時に実現します。
そのため多くの企業がクレドの導入によって、コンプライアンスの強化を図ろうとしているのです。「コンプライアンスのガイドラインはあるけれど、うまく従業員に浸透していない」といった企業でも、クレドをつくることで、
 社会人としての規範となる具体的な行動指針
 善悪の判断基準
なども併せて強化できます。従業員一人ひとりの意識を高め、組織力を強め、コンプライアンスを強化できることが、クレド導入の大きなメリットです。
 

 


6.クレドの作成方法(例)

 クレド作成の第1ステップは、プロジェクトチームをつくること。チーム作成においては、

  •  経営層
  •  管理部門
  •  一般従業員 
も含めて多様な部門やポジションからメンバーを集め、プロジェクトチームを結成します。全従業員がどのような考えを持っているのか、的確なかたちでクレドに反映できるメンバーを考えたプロジェクトチームを構成しましょう。

チームが結成できたら、

  •  現在の経営理念
  •  現在の行動指針 
  • をベースにして、
  • 企業が向かうべき方向性
  • 企業が持つべき行動指針
  • 会社の存在意義

などについて幅広く議論を始めます。クレドは全従業員の行動指針になるもの。トップダウンといった決定方法ではなく、プロジェクトチームで議論を重ね、全従業員が納得できるクレドを考える、これを心掛けてください。



クレド作成の第2ステップは、目標やスケジュールの決定。さまざまな部署から人材を集めたプロジェクトチームで、クレドの目標と目標に沿った計画を話し合い、

  • クレドをなぜ作成するのか
  • クレドをどうやって作成するのか
  • クレドをいつまでに作成のか

を明らかにします。クレドを作成する際に、クレドの必要性を認識することが必要だからです。

 

  •  どうして自分たちにクレドが必要なのか
  •  クレドを作成することで何を実現したいのか
  •  クレドの作成期限
  •  クレドを全従業員に浸透させるための具体的な目標や目安

などについて、議論を深めてください。何について考えるか分からなくなったときは、5W1Hの考え方を参考にするとよいでしょう。



クレド作成の第3ステップは、経営層へのヒアリングです。クレドは経営層を含めた全従業員の行動指針。一般従業員の意見そして経営層の考えとのすり合わせが必要です。
  • 経営層が考える経営姿勢
  • 企業の将来のビジョン

などをヒアリングし、クレドに盛り込みます。

たとえば、
  • サービス業ならば:「顧客第一主義」「顧客優先志向」
  • IT企業ならば:「技術力の向上」「時代を先取りするスピード感」「最新技術の開発」

などが考えられるでしょう。このようなものもクレドにしっかり入れて、クレドカードに記載します。経営層の思い描く企業像に到達するための道筋をつくる必要があるからです。



クレド作成の第4ステップは、アンケート調査などを使った従業員へのヒアリング。クレドを作成するためのプロジェクトチームで議論を終わらせてしまうのではなく、全従業員に対しクレドについてのアンケートを行い、広く意見を収集します。
従業員数が多い場合には、各部署、支店、プロジェクトごとに意見集約をしてもらい、現場の声を集めましょう。

こうやって一人ひとりの意見を吸い上げることで、

  • 一体感のある組織を形成
  • 従業員の関心を創造
  • 熱意や積極性を集約

などが実現できるのです。全従業員の意を集約することで、クレドの存在価値も高まります。実際にクレドを導入したときも、従業員は身近なこととして受け止めやすくなるでしょう。



クレド作成の第5ステップは、クレドの明文化と文章化。
  • プロジェクトチームでの議論
  • 経営層へのヒアリング
  • 従業員アンケートの調査結果
  • インタビュー内容

など、クレド作成の各ステップで収集した要素をまとめて明文化します。

明文化の際は、
  • 短い言葉
  • 一目で分かる
  • 簡単な表現

という点に注力してまとめてください。文章は、全従業員の行動指針になるよう誰でもイメージしやすい内容にします。クレドカードは、従業員に何かあったときサッと見返すアイテムとなるもの。それを踏まえると、本質をしっかり組み込み、かつコンパクトな文章での表現は欠かせません。



クレド作成の第6ステップは、フィードバックをもらうこととそれによる調整です。

前ステップでコンパクトに明文化したクレドを、

  • 経営層
  • 全従業員、もしくは従業員の代表

にフィードバックし、修正や調整すべき点があるかどうか再度議論します。クレドの特性を考えれば、経営層も含めた全従業員の意見が集結されているかどうか、念入りに調整することは当然でしょう。



クレド作成の第7ステップは、共有と伝達のためのツール化。フィードバックや調整が完了したら、クレドの最終ステップとしてクレドを全社員と共有する作業に入るのです。

  • クレドの共有や伝達に向けて、
  • クレドカードの作成
  • 会議室やオフィスなどステークホルダーが利用する場所に置くパンフレットに掲載

といった具体的方法に取り組みます。クレドカードは、社員証と一緒にカードケースに入れると持ち歩きも楽でしょう。

またクレドでは、対象となるステークホルダー全員にクレドを浸透させることも重要となります。

ステークホルダーとは、

  • 従業員
  • 取引先
  • 顧客
  • 株主
  • 地域社会

など。そのため携帯用クレドと別に配布用クレドも作成しましょう。そしてステークホルダーが頻繁に使用する会議室やオフィスなどに掲出するのです。意思決定の場として利用される会議室には、積極的に掲出するとよいでしょう。

 



7.クレドとミッション、ビジョン、その他の類似語

ミッションとは?

クレドの類似語の一つにミッションがあります。

ミッションをビジネス用語として解釈すると、
 ・企業の目的
 ・企業の使命
 ・企業の任務
企業が経営を通して、
 ・何を実現したいのか
 ・何を目指していくのか
を語る言葉として用いられるのです。
よってミッションとは、
 ・企業がどのような対象に向かってどのような価値を提供していくのか
 ・企業として社会にどんな貢献をしていくのか
を具体的に文章に落とし込んだものといえます。


たとえばキヤノンのミッションは、「先進的なイメージング&ITソリューションにより社会課題の解決に貢献する」。ミッションは「やり遂げることで企業活動に意味をもたらす」という企業の本質をシンプルに表現したものともいえます。

 

ビジョンとは?

クレドの類似語に、ビジョンという言葉があります。ビジョンとは、
 ・企業のあるべき姿
 ・企業がそうでありたいと願う姿
すなわち、
 ・企業の目標
 ・企業の方向性
を明文化したもので、単独では存在せず前段階にはミッションが存在します。それぞれの企業はミッションを前提に置き、将来の自分たちの理想像、すなわちビジョンを形成するのです。

ビジョンとは、全従業員が共通に認識しておくべきもの。

企業の方向性を決定する際に、共通認識がピントを合わせてくれるからです。

 ビジョンはミッションを前提にしたもの
 ビジョンは全社員で共有しておくべきもの
これらがビジョンの特徴となっています。


(コア)バリューとは?

クレドの類似語には、バリューがあります。
バリューとは、
 企業が最も重要視している価値観
 日常業務を従業員が推敲する際、思考や言動の指標となるもの
 企業の魂
 企業の信条
 従業員の考え方
 従業員の働き方

の土台となるものとイメージすると分かりやすいでしょう。
バリューに似た言葉に、コアバリューという言葉があります。

コアバリューは、中核的価値観と訳される言葉で、コアバリュー経営では、
 組織を構成する全メンバー共通の価値観を定める
 共通の価値観を持つことで、組織の結束力を高める
ことを目指します。無意識の判断などを含めて、「値観」に焦点を当てたものがバリューであり、中核になる価値観はコアバリューと呼ばれるのです。





メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。