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個人データを結び付け、使い尽くす

2019.11.24 @朝日新聞デジタル

 個人情報とは何か。就活生の内定辞退率を企業に販売していた「リクナビ問題」は突きつける。より便利な世界を求めることで、知らぬ間に個人データが共有される。この見えない支配から逃れられないのだろうか。(牛尾梓、大津智義)

 

 

「クッキー」規制を検討

 1度訪れたウェブページを再び見たとき、同じページが出てくるのは「クッキー」のおかげ。

 便利さの半面、不気味さを感じることも。公正取引委員会が個人データ保護に動き始めた。

「クッキー」情報収集、公取委規制へ スマホ位置情報も
 ウェブ上で利用者がどんなページを見たかを記録する「クッキー」について、公正取引委員会は、利用者の同意なく収集して利用すれば独占禁止法違反になる恐れがあるとして規制する方向で検討に入った。

巨大IT企業などが集める個人情報に網をかける公取委の方針に対し、経団連は「多くの企業に影響が出かねず、経済の発展を阻害する」と猛反発している。
 公取委は8月末、「プラットフォーマー」(PF)と呼ばれる巨大IT企業などが個人情報を利用者の同意なく収集すれば、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」とみなすなどとしたガイドライン案を公表。

杉本和行委員長は、規制対象になる個人情報を「現在の個人情報保護法の規定よりも、幅広くとらえる必要がある」と話している。
 氏名などは記録しないクッキーは、単独では個人を特定できないため現在は個人情報保護法の対象にはなっていない。

しかし、ほかの情報と結びつければ個人を特定でき、利用者のウェブ上での行動を追跡できる。最近では、就活情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、就活生に無断で内定辞退率を算出・販売していた問題でも、当初はクッキーを使ってネット上のデータを集めていた。
 杉本委員長は「集めた情報を何に使うか明確にし、その目的以外に使っていないか透明性を図る規制がいる」と指摘。クッキーに加え、スマートフォンなどに記録される位置情報も規制対象にする方向だ。 





データサイエンティスト・数学者のキャシー・オニールさん=東京都千代田区、飯塚悟撮影

Cathy O'Neil
1972年生まれ。数学博士。著書に「あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠(わな)」。

数学博士が語るAIの正体 仕組まれたアルゴリズムの罠

 この顧客は金を落とすのか。この学生は内定を辞退するのか。個人の膨大なデータから人工知能(AI)が将来の行動を予測するシステムを、企業があらゆる場面で使い始めている。

数学者のキャシー・オニールさんは、AIによる偏見や格差の拡大に警鐘を鳴らしてきた。

どうすれば私たちは、「AIのわな」から抜け出せるのか。

 ――日本では就職情報サイトのリクナビが、就活生の同意を得ずに内定辞退率を予測し、企業に売ったことが問題となりました。

「内定辞退者が続出して誰も入社しなかったら困ると企業が考えるのは合理的です。逆質問ですが学生はなぜ怒っているのですか」

 ――「企業は選考にデータを利用しない」ということになっていましたが、本当にそうだったのか、誰もわからないからです。

「サイトの閲覧履歴は守られるべき個人情報であり、確かにサイトを閲覧しただけで、内定を得ても辞退すると決めつけられるのはフェアではありません。でも、米国では閲覧履歴データの利用は当たり前のように行われています。日本人はプライバシーについて、米国より欧州に近い考え方をしているのですね」

 ――どういうことですか。

「米国ではもっとひどいことが起きています。ある大学は、受験生が奨学金のサイトを閲覧した時間を、合否を出す際の参考にしていました。大学にとっては、学費を全額払える入学者が多い方がよく、貧しい子はいらないということです。学長が気にするのは、カネと大学ランキング。合格者数に対し実際にどのくらいの受験生が入学したのかという割合も、大学ランキングに影響するのです。学長は企業におけるCEO(最高経営責任者)と同じ論理で動き、教育という視点が失われています」

 

 ――IT企業が、サービス利用歴を元に個人に点数をつける「信用スコア」も、じわじわと広がっています。ヤフーは当初、拒否しなければ自動的に同意したとみなす「オプトアウト」の仕組みで、同社のサービス利用者のデータを点数化していました。ですが「説明不足」の批判を受け、自ら同意した利用者のみ点数付けするよう変更しました。

「米国の企業だったら、変えなかったと思いますね。メディアの批判など、みんなで無視すればこわくない。そんな態度です。さすがにフェイスブックは、規制のための法律が改正されるという政治的なリスクがあるので、対応せざるを得ないと感じているようですが」

「企業にとって個人データはとても価値があり、活用すべしというプレッシャーが存在します。ウェブサイト上でデータの利用に同意を求められているということは、企業から『ビジネスの提案』を受けていると理解すべきです」
「クレジットカードの『信用スコア』は、たとえばデートの相手を選ぶ時にまで広く使われるなど、それ自体が大きな意味を持っています。スコアは、点数が低いと恥ずかしいという感覚を、個人の内部にも植え付けるものです」





 

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