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日本終焉レベルの大問題。iPS細胞10億円支援打ち切りという愚行


2019.11.21

日本が世界に誇るiPS細胞研究に暗雲が立ち込めています。先日、政府が京都大学に、iPS備蓄事業に対する年間10億円の予算を打ち切る可能性を伝えたことが報じられました。なぜ国は、自ら日本の未来を潰すような愚行に出るのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんは、今回の決定に至る背景には「生産性」ばかりを追求するという昨今の流れがあるとし、研究費打ち切りについては「人の命とカネを天秤にかけたようなもの」と厳しく批判しています。

科学の地盤沈下に拍車をかける政府の愚行

19日火曜日、拒絶反応が起きにくい再生医療をめざす京都大学のiPS細胞の備蓄事業について、政府が、年約10億円を投じてきた予算を打ち切る可能性を京大側に伝えたことがわかりました。この一が報じられる数日前、山中伸弥所長(京都大学iPS細胞研究所)が記者会見を開き、予算打ち切りにふれ「いきなり支援をゼロにするのは相当に理不尽」と憤りを見せていたのですが、悲しくもそれが現実になってしまったかっこうです。

報道によれば企業ニーズとの違いが浮き彫りになったことが背景にあるとのこと。京大が進めている事業化への方針だと、多額の費用と試験の手間がかかると企業側が判断したというのです。
しかしながら、決定の通知は一方的。

山中所長によれば、「国の決定には従う。だが公開の議論と別のところで話が決まってしまう。理由もよくわからない」とのことでした(11日の記者会見で)。
つまり、研究者サイドが「もうちょっとしっかり芽を育てた方が、事業が広がっていく」と訴えているのに対し、国は「今のままでいいじゃん。あとはキミたちでひとつよろしく!」と突き放した。「企業のニーズ」という体のいい言葉は、「このままじゃもうからない」と同義で。「どんどん儲かるように進めていかなきゃダメっしょ!」と、研究より商売を優先したのです。
…んったく。今までもさまざまな分野で、研究者の知見が最後の最後で捻じ曲げられ、研究者を軽視する姿勢に辟易していましたが、今回の決定は「人の命」とカネを天秤にかけたようなもの。
このままでは日本に愛想を尽かし、優秀な頭脳はみな海外に流出してしまいます。既にそういった空気はあちこちで漂っていますし、このままでは山中教授だって日本に愛想を尽かしてしまうかもしれません。
いずれにせよ、今回の政府の決断は日本の科学力の衰退に拍車をかける愚行です。

日本の世界における科学分野の相対的な地位が年々低下していることは、みなさんもご存知のとおりです。
2017年に英科学誌「ネイチャー」(3月23日号) に掲載された「Nature Index 2017 Japan」というタイトルの論文によれば、2005年~15年までの10年間で、日本からの論文がほぼすべての分野において減少傾向にあることがわかりました。
例えば、ネイチャー・インデックスという高品質の自然科学系学術ジャーナルのデータベースに含まれている日本人の論文数は5年間で8.3%も減少。

この期間に世界全体では論文数が80%増加したのに対して、日本からの論文はたったの14%しか増えてないこともわかっています。
しかも、日本の若手研究者は研究室主催者(PI: principal investigator)になる意欲が低く、「研究者の育成も期待できない」という有り難くない指摘まで海外の研究者にされてしまったのです。
もっとも、研究費は少ない、非正規雇用で短期間で成果をださなきゃいけない――。そんな状況で「研究者魂の火」を燃やし続けることなどできるわけがありません。
ノーベル賞を日本人が取ると、国はまるで自分たの手柄のように振舞いますが、それは先人たちが教育を大切にしてきたからこそ。明治時代に日本に来た外国人は、日本人の識字率の高さや学校における教育の質の高さに感銘をうけたといいます。

大学にもたくさんのカネをつぎ込み、研究者が育つ土壌を作ってきたことが、何年もの歳月をかけてやっと今花開いている。なのに…カネは出さない、でも成果は欲しい。そんな日本のお偉い人たちは自分たちがやっていることが日本を弱体化させていることに気が付いていないのです。
そもそも「生産性」という、研究と全く相容れないものを、大学という学問の場に持ち込んだのが衰退の始まりです。

大学に競争原理を持ち込み、「選択と集中」だのとカネを稼ぐことに躍起になったことが、「日本の土台」を崩壊させたのです。

おそらく「生産性命」の方たちは、勉強と学問の違いがわかっていないのだと思います。
勉強とは誰かが作った野菜を集め、売れるように盛り付け、世に出すこと。

一方の学問は、どこの土地に、どんなタネをまくか?を考えることから始まります。

どんな肥料を使えばいいのか?嵐が来た時にはどうすればいいのか?と様々な可能性を考え、試行錯誤し、失敗を繰り返しながらも、オリジナルの野菜を育て上げます。
そして、野菜が収穫できるようになったら、今度はその持ち味を最大限に活かせるサラダはどういうものかを考え、オリジナルの器にいれ、きれいに盛り付ける。

こういったすべてのプロセスをきちんと丁寧に繰り返し行うことで、世の中に役立つものを創りだしていく。これが学問です。
当然ながら時間もコストもかかります。途中でめげそうになることだってあります。それでも自分を信じ、どこから突かれても崩れないだけの知見とスキルを磨き続ける。学問に終わりはないし、研究にも終わりはないのです。
それを成し遂げるには国の支援は必要不可欠です。お金がなければ大学の研究は成り立たないし、研究者も育たない。
にもかかわらず、大学の研究費を減らし続け、やっと芽が出てこれからだ!と熟成させているところで、「企業のニーズに合わない」と突き放しているのですから全くもって理解できません。
政府には地盤沈下に拍車をかける愚行を早急に是正してほしいです。心から願います。


2019年11月19日

 拒絶反応が起きにくい再生医療をめざす京都大のiPS細胞の備蓄事業について、政府が、年約10億円を投じてきた予算を打ち切る可能性を京大側に伝えたことがわかった。ノーベル賞受賞から7年たって基礎研究から事業化の段階になってきたことや、企業ニーズとの違いが浮き彫りになったことが背景にある。

 iPS細胞は、体のどんな細胞にもなることができる万能細胞。

京大の山中伸弥教授が2006年に初めて作製し、12年にノーベル医学生理学賞を受けた。

患者自身の皮膚や血液からiPS細胞をつくり、網膜や心筋などにして移植すれば、他人から臓器提供を受けた際のような拒絶反応が起きにくい。夢の再生医療につながると期待された。

 しかし、患者自身からiPS細胞をつくって移植すると、数千万円の費用と数カ月の時間がかかる重篤な患者では間に合わない可能性もある。そこで京大iPS細胞研究所が打ち出したのが、献血のようにあらかじめ複数の型のiPS細胞をそろえておく備蓄事業だった。

 短期間に低コストで移植できるとして、140種類のiPS細胞をそろえて日本人の9割をカバーする目標が設定され、13年に始まった。国も10年間は支援することにし、昨年度は13億円、これまでに計90億円以上を投じてきた

 しかし、多くの型の提供者を捜すのに難航し、供給が始まったiPS細胞は4種類にとどまる京大は140種類そろえる方針をやめ、この4種類と、拒絶反応が起きにくいようゲノム編集した6種類のiPS細胞で日本人のほぼ全員をカバーする方針に転換した。

 

 ところが、iPS細胞から移植用の細胞をつくる企業の側は、複数の型を使うことに慎重なことが明らかになった。

移植用の細胞ががん化しないか、別の細胞が混じっていないかといった安全性を型ごとに確認するのは大変で、多額の費用と試験の手間がかかる

免疫抑制剤の進歩もあり、それなら1種類のiPS細胞だけを使い、免疫抑制剤で拒絶反応を抑える方が事業として成り立ちやすい、という判断だ。

 iPS細胞からつくった細胞が臨床研究で目や神経の難病患者に移植されるようになったことで、政府は事業化の段階に入りつつあると判断。複数の関係者によると、医療政策を担う内閣官房の幹部らが今夏、京大を訪れ、来年度から研究開発費を打ち切る可能性を山中教授に伝えたという。
 一方、いきなりゼロにするのではなく、段階的に減らす案も出ている。

iPS細胞の研究開発を進めてきた文部科学省にも「今後、国の支援が減るのは避けられない」との見方が出ている。

京大は細胞の販売などで収益を上げるため、備蓄事業を大学と切り離して法人を設立。寄付金集めにも奔走している。
 山中教授は今月、都内であった日本記者クラブの会見で「備蓄事業は文科省の公開の有識者会合で評価されて継続が決まったのに、一部から国のお金を出さないという意見が出てきた。透明性の高い議論で決めてほしい」と語った。(合田禄)


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