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GAFAやBATに肩を並べるか 「ZHDとLINEが経営統合へ」

経営統合は実現するか?

写真はヤフーの川邉健太郎社長(左)とLINEの出澤剛社長(右)(撮影:今井康一)

検索サービス大手ヤフーなどを傘下に抱えるZホールディングス(ZHD)とコミュニケーションアプリを展開するLINEは2019年11月14日、両社が経営統合に向けて協議を進めている事実を明らかにした。

一部報道によれば、ZHDの親会社ソフトバンクとLINEの親会社韓国ネイバーが共同出資会社を設立したうえでZHDを子会社化し、ヤフーやLINEなどを傘下に収める計画だとされる。

 実現すれば、オンラインとオフラインを問わず、24時間365日消費者の生活に寄り添うサービスを包含する巨大ネット企業が誕生することになる。その意義として最も大きなところは、利用者に関するデータを互いに持ち寄り、それぞれが今までやりたくてもできなかった新たなイノベーションを生み出せることだろう。 


 海外ではGAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)と呼ばれる米国発の巨大IT企業が市場を席巻する。それぞれが膨大な利用者を抱え、その強みを生かしてデータ駆動型で便利なサービスを次々と投入し、日々の生活に欠かせない存在として立場を固めている。

 一方、中国に目を向けると、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)と称されるネット企業がここ数年で急成長。

独自の生態系の中でデータを駆使した大胆なサービスを猛烈なスピードで投入した結果、中国国内の消費者の暮らしぶりはがらりと変わった。

シンガポールの配車大手グラブのように、目を見張る成長を遂げるデータ駆動型企業がアジア発でも次々と誕生している。

 ZHDもLINEも、それぞれ国内ネット企業としては大手ながら、こうした海外の“巨人”たちと比べると手にしているデータは決して多くないのが実情だ。

ZHDの場合、「アスクル」「一休」「GYAO」「ジャパンネット銀行」「dely」「PayPay」などをグループ会社を通じて展開し、最近ではヤフーがファッションEC大手のZOZOを株式公開買い付けで買収て話題を呼んだ。

 LINEの場合はアプリを基盤に「LINE MUSIC」「LINE NEWS」「LINEマンガ」「LINEゲーム」などのコンテンツや、最近は「LINE Pay」「LINE証券」「LINEほけん」など生活に欠かせない金融サービスにも力を注ぐ。

こうしたサービスで抱える顧客基盤とそこに蓄えられているデータを融通しあえれば、老若男女問わず日本の人口のほぼ全てをカバーするようなサービスを両社で提供することも難しくないだろう。もちろん一部の巨大ネット企業がデータを寡占することの懸念を含めて慎重に議論する必要はある。いずれにしろ、様々な産業へのプラスの波及効果とマイナスの影響が各所で生じるはずで、行方を注視していくことは欠かせない。


ヤフーとLINE「統合」実現すれば何が起こるのか

交渉の事実は認める、カギはスマホ決済だ

田中 道昭 : 立教大学ビジネススクール教授
2019年11月14日

ヤフーを運営するZホールディングス(HD)とLINEが経営統合に向けた交渉に入っていることが明らかになりました。
11月13日夜に日本経済新聞などが一報を報じると、14日朝にZホールディングスは「協議を行っていることは事実ですが、現時点で決定した事実はありません」、LINEは「企業価値向上のための施策の1つとして検討を進めていることは事実ですが、当社として決定している事実はございません」とそれぞれリリースを出しました。
このまま報道の通りに経営統合が決まるかどうかは予断を許しませんが、LINEアプリの利用者は約8000万人、ヤフーのサービス利用者は約5000万人に上ります。もし、実現すれば金融やEC、小りなども含めた大規模なサービス基盤が誕生し、国内IT産業の勢力図に大きな影響を与えることは確実です。
両社の統合にはどんなメリットがありうるのでしょうか。カギを握るのは、ヤフー傘下のPayPayが提供する「ペイペイ」、LINEが手掛ける「LINEペイ」というスマホ決済サービスです。
まず、「ペイペイ」に言及しておきましょう。
経済産業省の『キャッシュレス・ビジョン』(2018年4月)によれば、日本のキャッシュレス決済比率は、韓国の89.1%や中国の60.0%に対して、わずか18.4%にとどまっていました(2015年)。政府は、それを「大阪・関西万博に向けて、(中略)キャッシュレス決済比率40%の目標を前倒しし」「将来的には、世界最高水準のキャッシュレス決済比率80%を目指し、必要な環境整備を進めていく」としています。
2019年10月1日からの消費税増税とあわせては、「キャッシュレス・ポイント還元事業」が展開され、キャッシュレス社会への転換が図られています。

* ソフトバンクグループの総力を挙げるペイペイ
そうした中、日本のキャッシュレス化を牽引、スマホ決済サービスのシェアを飛躍的に伸ばしているのが「ペイペイ」です。
PayPayは、2018年6月、ソフトバンクとヤフー(2019年10月1日に会社分割を通じて持ち株会社体制へ移行、商号を「Zホールディングス株式会社」へ変更)それぞれ50%の出資で設立されました。その後の2019年5月、ソフトバンクグループがPayPayへ追加出資したことで、PayPayの資本構成はソフトバンクグループが筆頭で50%、ソフトバンク25%、ヤフー25%へと変更されました。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資するインドのPaytmも技術協力し、グループ総力を挙げての事業体制を構築しています。

ペイペイは、話題をさらった2回もの「100億円キャンペーン」や「キャッシュレス・ポイント還元事業」関連施策などを通して登録ユーザー数は1900万人(2019年11月)、月次決済回数で約8500万回(2019年10月)となっています。QRコード決済サービスのユーザー利用意向ではペイペイが独走、また「現金以外で思い浮かぶ決済手段」もクレジットカードを除けばペイペイが1位となっています。
通信事業の成長が描けないソフトバンクはペイペイを「新領域」と位置づけ、システム不具合などを経ながらも登録ユーザー数と加盟店拡大に攻勢をかけています。
ペイペイはEC・リアルでの各種決済に加えて公共料金や税金の支払いにも対応し、送金や割り勘、ギフトやお年玉などP2Pソーシャル機能も付いています。

ペイペイ口座からの出金といった資金移動もすでに可能で、今後はローン・小口融資・MMF・投資・保険・後払いなどの本格的な金融サービスの提供も見据えています。
ソフトバンクの宮内謙社長は11月に開いた決算説明会でアリババ・グループの金融事業会社「アントフィナンシャル」が提供する決済サービス「アリペイ(Alipay)」のビジネスモデルを引用し、この金融サービス分野こそ「これからいちばん伸ばせる」「フィンテック領域」としました。
さらに、登録ユーザー数が伸びていけばペイペイは「決済アプリ」から「スーパーアプリ」へと変貌し、「このスーパーアプリをベースにして、いろいろなビジネスを展開することができる」と高らかにうたいました。

 

* 入り口として機能するペイペイ
2019年11月現在、ヤフーは、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの連結子会社化を目指してTOB(株式公開買い付け)を実施中です。また、10月には、ECサイト「ペイペイモール」とフリマサイト「ペイペイフリマ」をオープンさせています。つまり、拡充される「ペイペイ」を顧客接点にして、従来の広告事業に加えてフィンテックなど金融関連事業、EC小売りやオンライン・オフラインの継ぎ目のない多様なサービスを提供していくということを狙っています。

宮内社長は決算説明会で、「アリババにTモールやタオバオがあるように、われわれにもヤフーショッピング、ペイペイモール、ペイペイフリマといった陣形ができつつある」と語っています。筆者は、宮内社長の言葉から、ソフトバンクグループ孫社長の戦略における2つの意図を読み取ることができると考えています。
1つは、ペイペイを、EC小売り事業を先鋭化させるとともに、広範な生活サービス全般へ顧客を誘導するための入り口として機能させるということ。もう1つは、その中でもEC小売りを中核で機能させる必要があるということです。

次にLINE側を見ていきましょう。
LINEペイが競合他社に先行して2016年にリリースしたQRコード決済は「加盟店の導入費用ゼロ、今後3年間は決済手数料無料」という赤字前提の大攻勢で話題をさらいました。LINEペイの戦略は、キャッシュレス化が進んでいない中小店舗に重点を起き、キャッシュレス導入にあたって障壁になっていたコストをゼロにするものです。

これにより、2018年度内に100万加盟店を確保するという目標を掲げました。

LINEペイには大きな強みがあります。利用者が約8000万人に上るLINEに、デフォルトでインストールされているので、新たに専用のアプリをダウンロードする必要がないのです。

ここで導入店舗が一気に拡大すれば、ユーザーにとっての始めやすさ、使いやすさの点で、大きく前進します。

 

* 中国のテンセントをベンチマーク
LINEはコミュニケーションアプリを通じて、生活サービス全般から金融事業までを垂直統合しようとしています。

ベンチマークしているのは、決済アプリ「ウィーチャットペイ(We Chat Pay)」が中国市場を席巻したテンセント(Tencent:騰訊)です。
中国のQRコード決済市場ではアリババの「アリペイ」が先行しました。

ウィーチャットペイの登場はアリペイに遅れて9年後。アリペイの牙城は揺るがないものと当初は思われていました。
しかしウィーチャットペイはアリペイを凌ぐ勢いで浸透しました。すでにウィーチャットペイが逆転しているとの見方もあります。

この勢いの差は、アリペイがECサイトと連動するアプリであるのに対し、ウィーチャットペイはコミュニケーションアプリに連動しているという違いによるところが大きいと私は見ています。
私たちがECサイトを眺めるのは買い物をする用事があるときに限られます。

一方、コミュニケーションアプリは、友人・知人から連絡があるたび、こちらから連絡をしようとするたびに「毎日、何度も」開きます。

コミュニケーションアプリを閲覧する頻度は、ECサイトを閲覧する頻度の何倍にもなるでしょう。
テンセントはこうして、利用頻度において絶対的な強みを持つコミュニケーションアプリをプラットフォームにして各種金融サービスを垂直統合し、さらにはそのほかの生活系サービスを充実させていきました。
LINEは今、従来のコア事業である広告に、これらフィンテックとAIを合わせた「戦略事業」の強化を図っています。
投資にも積極的です。2018年9月、LINEは第三者割当増資を行いました。

そこで調達する資金の具体的な使途として挙げられているのは、フィンテック事業とAI事業でした。
ニュースリリースには「新しいインフラ確立を目指しているモバイル送金・決済サービス『LINE Pay』の決済対応箇所の更なる拡大、ユーザー数及び送金・決済高拡大のための広告宣伝費及び販促活動費」「今後展開を目指している金融関連サービスの立ち上げ及び運営に関わる運転資金、システムへの投資、人件費、各領域における国内外の戦略的融資」として約1000億円(2021年12月まで)を、また「自社製品である『LINE Clova』や関連サービスの開発のための人件費、外注費、広告宣伝費」に約480億円(2021年12月まで)を割く、とあります。
広告事業を継続して成長させていきながら、フィンテック事業とAI事業に対して戦略的投資を行う。

ここからは、ポストスマホとしてのAIスピーカーというインフラを強化する意図、そしてLINEアプリ上に展開するフィンテック事業を強化する意図の2つが見えてきます。

LINEはこれをスマートポータル」戦略として整理しています。
あらためて確認しておきたいのは、フィンテック事業の中心にあるのはLINEペイだということです。

LINEペイを起点に、資産運用や保険、ローンなどの金融事業を総合的に展開するのが、LINEのフィンテック戦略だと言えます。
LINEペイは「LINE上から送金・決済をする」サービスとして2014年12月にスタートしました。そこから、プリペイドカードやQRコード決済、クイックペイへと機能を拡張してきた経緯があります。LINEアプリ内に組み込まれているため、わざわざ専用のアプリをインストールする必要がありません。その手軽さは、他社の決済アプリと比べても群を抜いています。
そして、その強みを背景として、オンライン銀行としてはみずほ銀行との合弁企業、オンライン証券としては野村證券というそれぞれの分野のガリバー企業と協業することにもこぎ着けたのです。
 
* アリババに見える孫氏の狙い
最先端のフィンテック大国である中国では、アリババが手掛けている決済アプリ「アリペイ」と、テンセントが手がけるメッセンジャーアプリ「ウィーチャット(WeChat:微信)」のウォレット機能「ウィーチャットペイ」が熾烈な争いを繰り広げています。
アリババのビジネスモデルを見ると、アリペイは「入り口」で、そこからアリババのEC小売りサービスや金融サービス、各種の生活サービスなどに導かれる仕組みになっています。このアリババの事業構造にこそ、ソフトバンクグループ孫正義社長の狙いを読み解く核心があります

決済ビッグデータを取得するとか、ましてやデジタルでの広告収入を伸ばそうというような「小さな」話ではないのです。

アリババの筆頭株主として取締役会メンバーでもある孫社長は、このビジネスモデルを熟知、アリババとテンセントのこれまでの熾烈な争いも間近で見てきました。

覇権争いの厳しさを痛感してきたことでしょう。
中国はアリババに任せるとして、日本では自分たちがそれ以上のプラットフォームをやっていかなければならないと考えたとき、最も重要な入り口となるアリペイに当たるサービスこそペイペイなのです。だから、ソフトバンクグループはPayPayの最大出資者となりました。その戦略的重要性は計り知れないほど高いと言えるでしょう。
このような中で今回明らかになったヤフーとLINEとの経営統合。

LINEやPayPayから、各種の金融サービス、EC小売り、さらには旅行・通信・電力・モビリティーへと誘導する巨大なプラットフォームが形成されます。
両者の組み合わせによるインパクトとしては、顧客基盤と顧客接点が挙げられます。

デジタルトランスフォーメーション時代の顧客基盤とは、ずばりスマホの中で親密な顧客接点をいかに持つかという点に集約されているなかで、LINEというコミュニケーションアプリと各種サービスを展開するソフトバンク側の企業連合は、国内ナンバーワンの顧客基盤を持つ連合として躍り出たと言っても過言ではないでしょう。


ヤフーとLINE、浮上した「経営統合」の衝撃度

経営統合で両社の悩みは一気に解消される

山田 雄一郎 : 東洋経済 記者
2019年11月15日

ソフトバンクと韓国NAVER(ネイバー)が、傘下のヤフーとLINEの統合に向けて最終調整に入っていることが明らかになった。これまでもLINEとソフトバンクの両社に接点がなかったわけではない。ソフトバンクは昨年3月にMVNO(仮想移動体通信事業者)のLINEモバイルを買収している。

 

ヤフーもLINEも悩みを抱えていた
両社にはそれぞれの悩みがあった。メッセンジャーアプリで国内最強のLINEは、スマホ決済や人工知能(AI)への積極投資など多角化戦略を進めているが、先行投資の負担が大きく営業赤字に沈んでいる。
一方のソフトバンクとヤフーはECなどネット事業が万年3位。1位を目指してZOZO買収などを行っているものの、決定打を持っているとは言いがたい。今回の統合構想は、両社の悩みを一気に解消できる可能性を秘めているものだ。

統合計画が明るみになった翌日の14日。株式市場は両社の統合を「歓迎」した。

LINE株は値幅制限いっぱい、年初来高値の5290円まで上げてストップ高(前日終値は4585円)となった。Zホールディングス株も年初来高値449円をつけた(同384円)。
今回の統合協議がまとまれば、大きな顧客基盤を持つインターネット企業グループが誕生する。Zホールディングスには月間ログインユーザーID数5049万ID(9月時点)という大きな顧客基盤がある。

一方のLINEにも月間アクティブユーザー数で国内8200万人、台湾・タイ・インドネシアを含めた主要4カ国で1億6400万人というユーザー基盤がある。
また、Zホールディングスの傘下には、ヤフーのECサイト「Yahoo!ショッピング」やオークションサイト「ヤフオク!」があるほか、個人向けEC「ロハコ」で提携関係にあるアスクルやホテル予約サイト運営の一休など複数のeコマース会社がぶら下がっている。さらに、11月13日に株式公開買い付けを完了し50.1%を取得した衣料品ネット通販大手のZOZOも傘下に取り込む。


☞ 重いペイ事業の先行投資負担
10月からはペイペイモールやペイペイフリマも始まった。

これらのEC基盤にLINEユーザーを送客できれば、ZホールディングスのEC事業が大きく飛躍する可能性があるだろう。
もうひとつ重要な点はキャッシュレス事業を統合できる可能性を持っていることだ。

ソフトバンクグループ、ソフトバンク、ヤフーの3社が株主のPayPay(ペイペイ)は、大規模なキャンペーンを展開していることから2019年度上半期で345億円の営業赤字。LINEも同じくキャッシュレス事業の赤字に苦しんでいる。

経営統合でここを一体化すれば先行投資負担を分け合えるので有利だ。

中国においてシェアリング最大手のDiDi(ソフトバンクグループのファンドが出資)が激しいシェア争いを繰り広げていた大手2社「快的打車」と「滴滴打車」の統合で誕生した。その後、圧倒的な強みを発揮しているように、ネットサービスにおいてシェア拡大こそがきわめて強力な武器であることを孫社長は熟知している。「総取り」を目指す孫社長ならではの構想といえるだろう。



Topics  Link=> 米国経済を襲うシャドーバンキングのリスクhttps://otmlabo-blog.jimdofree.com/2019/10/31/%E3%81%8A%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%AE%E9%9F%B3-%E7%AC%AC877%E7%89%88%E3%81%AE%E9%85%8D%E4%BF%A1/


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