富士フイルム「ゼロックス断念」でも満足のわけ
「富士ゼロックス」子会社化後の成長戦略
劉 彦甫 : 東洋経済 記者
2019年11月06日
会見に臨んだ古森重隆会長の表情は、長期間の交渉が一段落して肩の荷を下ろしたように見えた。
富士フイルムホールディングスは11月5日、アメリカの事務機大手ゼロックスの買収を断念すると発表した。2018年1月にゼロックス買収を発表したものの、ゼロックスの株主による反発などで買収が難航。1年半以上続いた膠着状態にようやく終止符が打たれた。
*富士ゼロックスに吹くペーパーレスの逆風
古森会長は子会社化のメリットについて、「合弁会社の制約から解放され、経営の自由度が拡大する」と語った。
富士ゼロックスは、1962年に富士写真フイルム(現富士フイルム)とイギリスの現地法人であるランク・ゼロックス社との合弁によって設立され、2001年に現在のようにゼロックスが25%出資する富士フイルムの連結子会社となった。
ただ、ペーパーレス化の逆風もあり、複合機など事務機は市場が縮小傾向にある。
利益率が向上しているのは、低採算の製品を減らし、ITサービスや業務効率化に寄与する高付加価値の複合機に力を入れているからだ。
*医療分野でのシナジー効果に期待
富士フイルムHDの助野健児社長は、今回の完全子会社化を「ベストな選択である」と評する。とくに期待を寄せるのが、富士フイルムと富士ゼロックスのシナジー効果。5日の会見ではクラウドやAIの活用などを示したが、とくに熱を込めて語られたのは医療分野への展開だ。
内視鏡やX線画像診断などを展開する富士フイルムの画像処理技術と事務機器で培ってきた富士ゼロックスの言語処理技術を応用し、医療機関内で使われる書類作成を補助する製品などを考えている。
こうした新しい領域の強化によって、現在、売り上げが縮小傾向にあるドキュメント事業で2025年3月期までに売上高を2019年3月期の約1.3倍となる1兆3000億円、営業利益も500億円以上増加させる算段だ。
一方で「マストではないがベターだ」としてきたゼロックスの買収については「もう考えない」(古森会長)と明言。複合機の開発は富士ゼロックスが主に担っているとされており、富士ゼロックスからゼロックスへの製品供給は継続される。ただ、富士ゼロックスはゼロックスブランドの使用や販売地域に関する技術契約を締結しており、この契約が2021年に期限切れになることから、ゼロックスと中長期的に関係を維持できるかどうか不透明感が残る。
古森会長と会見に臨む富士フイルムHDの助野健児社長(右)。今回の完全子会社化を「ベストな選択」と評価した(撮影:尾形文繁)
古森会長は「ドキュメント事業を成熟産業と捉える見方もあるが、私はそうは思わない」として、IT分野などでの技術開発を続けることで複合機事業の成長余地はまだあるとみる。
競合他社も複合機事業の改革を急いでいる。
リコーは4月中旬に開いた投資家向け説明会で、ITサービスを強化して事務機などハードウェアの売上依存を減らしていく方針を説明。
コニカミノルタも、ITサービスと複合機が一体化したプラットフォーム製品「ワークプレイスハブ」を展開している。
また富士ゼロックスは、ゼロックス以外にも世界でOEM供給を拡大することも発表。
今回の富士ゼロックスの完全子会社化について、富士フイルムHDの樋口昌之・経営企画部長は「交渉中に完全子会社化の話が出てきた」と説明するのみで、どちらからの提案かは明らかにしなかった。
ひとまずの決着をみた世界的な複合機業界の再編劇だが、富士ゼロックスの経営の自由度を手に入れた富士フイルムにとって有利な内容と言える。
Topics Link=> 良いアイデアを出す社員と出さない社員の差https://otmlabo-blog.jimdofree.com/2019/10/31/%E3%81%8A%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%AE%E9%9F%B3-%E7%AC%AC877%E7%89%88%E3%81%AE%E9%85%8D%E4%BF%A1/
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