おがわの音♪ 第877版の配信★


富士フイルム「ゼロックス断念」でも満足のわけ

「富士ゼロックス」子会社化後の成長戦略

劉 彦甫 : 東洋経済 記者
2019年11月06日

会見に臨んだ古森重隆会長の表情は、長期間の交渉が一段落して肩の荷を下ろしたように見えた。
富士フイルムホールディングスは11月5日、アメリカの事務機大手ゼロックスの買収を断念すると発表した。2018年1月にゼロックス買収を発表したものの、ゼロックスの株主による反発などで買収が難航。1年半以上続いた膠着状態にようやく終止符が打たれた。


*富士ゼロックスに吹くペーパーレスの逆風

ゼロックスの買収を断念する代わりに、富士フイルムはゼロックスが保有する富士ゼロックス株25%を22億ドル(約2400億円)で買収し、現在保有している75%分と合わせて完全子会社化する。
古森会長は子会社化のメリットについて、「合弁会社の制約から解放され、経営の自由度が拡大する」と語った。
富士ゼロックスは、1962年に富士写真フイルム(現富士フイルム)とイギリスの現地法人であるランク・ゼロックス社との合弁によって設立され、2001年に現在のようにゼロックスが25%出資する富士フイルムの連結子会社となった。
売上高1兆円を超え、オフィス向け複合機やプリンターなどを手がける富士ゼロックスは、富士フイルムにとって基軸の1つであるが、外資系企業のように独立した経営が続いてきた。
ただ、ペーパーレス化の逆風もあり、複合機など事務機は市場が縮小傾向にある。
富士フイルムも、2020年3月期を最終年度とする中期経営計画の中で「ドキュメント(事務機)事業の抜本的強化」を掲げ、富士ゼロックスの構造改革を断行している。ドキュメント事業の売上高は2017年3月期から2019年3月期にかけて約1500億円減少しているが、営業利益率は7.5%から9.5%に改善している。
利益率が向上しているのは、低採算の製品を減らし、ITサービスや業務効率化に寄与する高付加価値の複合機に力を入れているからだ。

*医療分野でのシナジー効果に期待
富士フイルムが複合機業界で勝ち残るためには、富士ゼロックスの完全子会社化は不可欠だったといえる。
「ゼロックスが株を保有していたときはなんでも相談する必要があり、経営スピードに影響があった」と古森会長は振り返る。今回の完全子会社化によって富士ゼロックスの改革を一層加速することができる。
富士フイルムHDの助野健児社長は、今回の完全子会社化を「ベストな選択である」と評する。とくに期待を寄せるのが、富士フイルムと富士ゼロックスのシナジー効果。5日の会見ではクラウドやAIの活用などを示したが、とくに熱を込めて語られたのは医療分野への展開だ。
内視鏡やX線画像診断などを展開する富士フイルムの画像処理技術と事務機器で培ってきた富士ゼロックスの言語処理技術を応用し、医療機関内で使われる書類作成を補助する製品などを考えている。
こうした新しい領域の強化によって、現在、売り上げが縮小傾向にあるドキュメント事業で2025年3月期までに売上高を2019年3月期の約1.3倍となる1兆3000億円、営業利益も500億円以上増加させる算段だ。
一方で「マストではないがベターだ」としてきたゼロックスの買収については「もう考えない」(古森会長)と明言。複合機の開発は富士ゼロックスが主に担っているとされており、富士ゼロックスからゼロックスへの製品供給は継続される。ただ、富士ゼロックスはゼロックスブランドの使用や販売地域に関する技術契約を締結しており、この契約が2021年に期限切れになることから、ゼロックスと中長期的に関係を維持できるかどうか不透明感が残る。

古森会長と会見に臨む富士フイルムHDの助野健児社長(右)。今回の完全子会社化を「ベストな選択」と評価した(撮影:尾形文繁)

古森会長は「ドキュメント事業を成熟産業と捉える見方もあるが、私はそうは思わない」として、IT分野などでの技術開発を続けることで複合機事業の成長余地はまだあるとみる。

競合他社も複合機事業の改革を急いでいる。

リコーは4月中旬に開いた投資家向け説明会で、ITサービスを強化して事務機などハードウェアの売上依存を減らしていく方針を説明。

コニカミノルタも、ITサービスと複合機が一体化したプラットフォーム製品「ワークプレイスハブ」を展開している。


*日本やアジア以外への進出も可能に
ゼロックスのジョン・ビセンティンCEOは「今回の合意は富士フイルムとの関係をリセットし、両社に大きな成長の機会をもたらす」とコメントしている。
また富士ゼロックスは、ゼロックス以外にも世界でOEM供給を拡大することも発表。
これまでゼロックスとの契約があって販売できなかった日本やアジア以外に富士ゼロックスが進出できることになり、古森氏は「世界市場を狙って成長していきたい」と意気込みを語る。
このことは長期的にみてゼロックスの経営に影響しかねない。
今回の富士ゼロックスの完全子会社化について、富士フイルムHDの樋口昌之・経営企画部長は「交渉中に完全子会社化の話が出てきた」と説明するのみで、どちらからの提案かは明らかにしなかった。
古森会長は「ゼロックスにとっては(富士ゼロックス株が)買収されることによってキャッシュが入るということが重要ではないか」とした。
ひとまずの決着をみた世界的な複合機業界の再編劇だが、富士ゼロックスの経営の自由度を手に入れた富士フイルムにとって有利な内容と言える。
一方、ゼロックスは25%分の株式売却で一時的に潤うが、富士ゼロックスの経営に関与する権利を失う。
両社のどちらが得をしたのか。数年後にはその帰趨が明らかになるかもしれない。

Topics  Link=>  良いアイデアを出す社員と出さない社員の差https://otmlabo-blog.jimdofree.com/2019/10/31/%E3%81%8A%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%AE%E9%9F%B3-%E7%AC%AC877%E7%89%88%E3%81%AE%E9%85%8D%E4%BF%A1/


メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。