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「できる社長」と「残念な社長」の決定的な違い

セミナー後の質問、新聞の読み方……

小宮 一慶 : 経営コンサルタント
2019年11月05日

毎日欠かさず日経新聞や業界新聞に目を通している。経営者向けのセミナーにも頻繁に参加している……。

一見とても勉強熱心、でも自社の業績はいま一つという「残念な社長」に足りないものとは? はたまた、業績を着実に伸ばしている「できる社長」との決定的な違いとは?

『伸びる会社、沈む会社の見分け方』の著者であり、数多くの企業の浮沈を長年観察し続けてきた経営コンサルタントの小宮一慶氏に聞いた。


*セミナーに参加しても何も身に付かない社長

経営能力を磨こうとセミナーや勉強会に参加しても、残念なことに、そこで学んだことがまったく身に付かない人たちがいます。

具体的な問題意識を持って臨んでいないからです。
それは、質問ですぐにわかります。
うまくいく方法は何かありませんか?」というような、漠然としたことを聞いてくるのです。

「この人は、自分の課題も仮説も、何も持たずに来ているんだな」とわかる。セミナーに来さえしたら、魔法の言葉が天啓のように降ってきたり、道がひらかれたりするかのように思っているのです。

セミナーも勉強会も、あるいは講演会もそうですが、必ずテーマがあります

そのテーマに対して、「いま自分の会社はこういう部分ができていないから、今日はそれについて学びに行こう」と自分自身で課題を持って行く。または「自分はこう考えているけれども、はたしてそれでいいのだろうか。そのヒントをもらえるかもしれない」と、自身の仮説検証の目的で行く。

テーマに即して、より具体的な問題意識を持っているほど、得るものが大きいものなのです。
たくさん魚がいる釣りスポットの湖があったとします。そこに、釣り竿も網も何も持たずに出かけて、魚を獲ることができるでしょうか。

「ああ、たくさん魚がいるなあ……」、それだけです。1匹の魚も得ることはできません。
魚を釣りたいと思ったら、釣り竿を用意し、釣り糸を垂らさなければいけません。それをするから、釣り針に引っかかるものがあるのです。
もし、「この魚を釣りたい」と具体的な目標があれば、その魚を釣るのに向いた釣り竿を持って行くでしょう。

獲りたい魚によって、つける餌も変わってくるでしょう。浅瀬にいるのか、深いところにいるのかも考えるでしょう。
具体的に問題意識を持つほど、魚を獲りやすくなるのです。

必ずしも目的の魚だけではなく、ほかの魚も獲れるかもしれません。それもまた楽しい収穫物です。


*探し求めているから宝に気づける

具体的な問題意識を持たない社長は、部下の話を聞いてもアイデアなどをまねするだけです。

「衆知を集める」ことはとても大切ですが、自分なりの考え方や問題意識を持たずに部下や他人の話を聞いても、それが正しかどうかもわからないのです。そして適当な意見をまねするだけになってしまいます。自身の問題意識や仮説が必要なのです。

人と会って話を聞く、情報交換をする、新聞を読むときも同じです。

どんなにいろいろインプットして気づきの宝庫に身を置いても、仮説を持ってものを見ないと、大事なことは何も見えてこないのです。

よく「アイデアがひらめく」と言いますが、アイデアも問題意識を持ち、仮説を立てているからひらめくのです。
ひらめくとは、脳の中で何かと何かが結び付くことです。

自分が考えていたことと、何か見聞きしたこととが結び付いて「あっ、こうすればいいんじゃないか!」と気づく。

そこにひらめきが生まれます。
例えば、新しい商品を作りたいとずっと考えているときに、街を歩いていて面白いものを見て、ふっとアイデアが湧く。
何か新しい商品ができないか、何かヒントはないかと考えているから、気づきがあるのです。

つねにそういう思考習慣をつけていると、修練されて「」が磨かれていきます。
私の愛読書である松下幸之助さんの『道をひらく』の中に、「カンを働かす」という一編があります。

そこにはこう書かれています。

「カンというと、一般的には何となく非科学的で、あいまいなもののように思われるけれども、修練に修練をつみ重ねたところから生まれるカンというものは、科学でも及ばぬほどの正確性、適確性を持っているのである」
経営者の「経営勘」も、修練を積み重ねていくことで磨かれ、それにより正しい方向づけを生み、成果に結びついていくものですが、それは常に問題意識を持っていないと磨かれません。

私は、朝のうちに日本経済新聞を読まない経営者を信用できません。

日本の経済界の動向を知る基本は、やはり日経新聞でしょう。
出張で午前10時台、11時台の飛行機のプレミアムクラスに乗ったとき、隣のビジネスマンがCAさんに日経新聞を所望しているのを見かけると、「この人がもし経営者だったら、私はこの人の会社の株は買わないな」と思います。

そんな時間まで、その日の経済の動きを知らずに平気でいられる神経が、経営者としてはダメだと思うからです。


*新聞を読んで考えるべきこと

経営者が日経新聞を読んで考えるべきことは、「あったこと、起きたこと」だけではなく、「これから起きそうなこと」です。それを踏まえて、自社はどうしたらいいか判断する。

それは、その日いちばんに考え、必要な指示を出し、動くべきことです。

紙の新聞を読もうが、スマートフォンやタブレットで電子版を読もうが、それはその人の好き好きですが、見出しをパッと見て、自分の興味のある記事しか読まないというのは、情報収集のための新聞活用術としてはダメな行動パターンです。関心のある記事しか読まなかったら、自分の興味レベルはそこから広がりません。

新聞を読む意味は、自分の関心領域をどんどん広げていくこと、自分の関心を世間の関心に合わせていくことにもあります。

これは訓練だと割り切って毎日やるべきことです。
ですから、最初はあまり興味を持てなくても、丹念に読む努力を続けることが大切なのです。

一度読んで知識が広がると、次にその関連情報を目にしたとき、「ああ、この間のあれ関係の話だな」と思いますね。
つまり、それだけですでにちょっと「興味の持てること」に変わっているのです。

「関心のフック」ができ、それに情報が引っかかるようになったのです。

自分の関心の幅を広げていくのに、新聞の記事くらいの情報量はちょうどいいのです。
忙しいときはリード文のある大きな記事のリード文だけでも読むことを続けると、実力が上がります。

リード文のあるような大きな記事は、だいたい毎日10前後あります。

自分に関心があろうとなかろうと、大きな記事はリード文だけでも読み続けます。そのような読み方を2カ月も続けていると、関心の幅が広がり、新聞の「読み方」や世の中の見え方が違ってきます。
私が日経新聞をどのように読んでいるか、その一端をご紹介しましょう。
私は日曜日の朝刊を重要視しています。
「今週の市場」や「今週の予定」の情報をもとに、「今週の市場はどう動くか」という仮説を、自分なりに立ててみるのです。
ウィークデーは、その仮説を検証しながら紙面を読み進めていきます。

ずっと定点観測のようにこれを続けていると、自分の仮説がどの程度の確率で当たるか、どういう読みが正確にできるか、ということがわかります。

次第に自分なりの判断基準ができるようになり、どんどん面白くなっていきます。
専門家が書いた「コラム」や「経済教室」も楽しみです。

多くの優秀な方のものの見方を学ぶことができます。また、成功された方による「私の履歴書」もとても勉強になります。


*統計データを念入りに読み込む理由

もう1つの楽しみが、「景気指標」という主要な経済統計をまとめたものでした。

「過去形」で書いたのは、日経新聞が掲載をやめてしまったからです。

いまは会社のスタッフに同様のデータを毎月集めてもらい、じっくり念入りに読みます。
『会社四季報』も役に立ちます。いろいろな会社の情報を読み、コメント欄の業績分析を読みます。そこから、その会社が今後どう伸びていくかという予測分析をしてみたり、最近のトレンド傾向をつかんだりすることもできます。
統計データというのは数字の羅列ですが、「こういう数字の動きの背景には何があるのか」とか「これによってどういうことが起きそうなのか」とか、統計だけではわからない社会の動きをいろいろ考えてみることができます(統計は、日経の電子版に掲載されるようになりました)。
こういった勉強をしていると、「これについて、あの専門家がどう見ているのか、話を聞いてみたい」とか「こういう方面の市場の展開はどうなのか、詳しく知りたい」とか、会いたい人、行きたい勉強会など、自分の中に課題やテーマが湧きやすくなります。
私たちを取り巻く社会環境は、日々移り変わっています。

どんなに大きな会社も、世の中の流れを無視した動きはできません。

変化を見据え、社会の波の中でいま何をしていくべきか、何をやめるべきか、社長は情報感度を高めていくことが必要です。


HINT !  成功するために必要なのはたった1%の○○○○

「天才は1%のひらめきと99%の努力」という世界的に有名な言葉がありますが、実はこれエジソンを取材した記者が大衆ウケを狙って改編したものだそうです。
実際は「1%のひらめきがなければ、99%の努力は無駄であるとの発言だったのです。
言い換えれば「1%のひらめきさえあれば99%の努力も苦にはならない」ということ。
何の策もなく情熱もなく努力したって無駄なんですねっ!


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