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ノジマ、スルガ銀「創業家全株」を買い取る思惑


カード事業に食指、先進フィンテック企業に

田島 靖久 : 東洋経済 記者
2019年10月25日

ノジマはあきらめていなかった――。

不正な不動産融資などが発覚したことで経営不振に陥り、現在、経営再建中のスルガ銀行の創業家らが所有している全株式を、家電量販店大手のノジマが買い取ることになったからだ。 

経営不振に陥ったスルガ銀行の創業家保有株は、家電量販大手のノジマが買い取ることになった(撮影:尾形文繁)

ノジマが2割近くを握り筆頭株主に

ノジマによると、今回買い取るのは、創業家の関係会社や団体が保有していたスルガ銀行株の13.52%。金額にして約140億円に上る。すでにノジマは5%近くのスルガ銀行株を保有しており、今回の追加取得も含めてスルガ銀行株の2割近くを握り、ダントツの筆頭株主となる。
スルガ銀行は今年5月、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」のオーナー向け融資で、審査書類の改ざん疑惑などが浮上して経営不振に陥っていた。スポンサー企業として、ノジマを始めとする複数の支援先が手を挙げていた。
支援先の選定にあたっては、出資も含む支援を検討していたノジマが有力視されていたが、土壇場で金融機関以外の支援を嫌った金融庁が、一度は支援を断念した新生銀行を引っ張り込み、「出資なしの業務提携」という異例の支援策となる経緯があった。つまり、この段階でノジマは敗れていたのだ。
ところが、その際、創業家やその関連企業が保有している大量の株式が問題となっていた。

それは、不正融資を主導してきた創業家の影響力が残っていては抜本的な経営改革が行えないからだ。
問題発覚後、スルガ銀行側も経営陣を入れ替えて業務改善計画を公表、「創業家一族企業に株式売却と融資の全額回収を進め、創業家との資本関係を解消する」としていた。
しかし、自らも公的資金を抱えたままで、そもそも支援自体に及び腰だった新生銀行は見て見ぬ振り。

そこで、支援先選定の段階から買い取る姿勢を示していたノジマが復活し、全株式を買い取ることにしたというわけだ。


ノジマの狙いは新たな銀行ビジネス

ノジマの狙いは何なのか。
関係者の話を総合すると、ノジマの最大の狙いは「カード事業」だという。
「家電量販店も飽和状態になっていて、ノジマは新たな収益源を求めていた。そこで目をつけたのが金融事業。中でもカード事業は有望で、以前から売り物を探していた。そこにスルガ銀行が出てきたので、ならば銀行ごとと考えた事情がある」(ノジマ関係者)
だが、それだけではない。
ノジマは2017年に富士通から買収した、個人向けインターネット接続事業のニフティのほか、携帯電話販売の大手代理店ITXなどを傘下に抱えている。これら企業群とスルガ銀行を有機的につなげることで、先進的なフィンテック事業を手がける銀行に生まれ変わらせる戦略を描いているようだ。
前出のノジマ関係者は「キャッシュレスやフィンテックなど、金融を取り巻く環境は激変しており、旧態依然とした銀行のビジネスモデルは早晩行き詰まる。われわれと組めば、新たなビジネスモデルを創出することができる」というのだ。つまりノジマは、スルガ銀行を支援して傘下に収めるという“野望”を捨てていなかったというわけだ。
実はスルガ銀行も、5月に新生銀行との業務提携を発表した際のプレスリリースで、「新生銀行を含む第三者との間で、資本提携も含めたさまざまな将来の選択肢について検討を行う可能性を排除したものではありません」と記載し、含みを持たせている。
今回、スルガ銀行株の2割程度保有して筆頭株主となったことで、ノジマの発言権が増すことは必至。

一度は新生銀行による支援で落ちついたスルガ銀行の経営再建だが、今後も第二幕、第三幕が繰り広げられそうだ。


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