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日本を捨てたい?狭き門になった海外移住の最新事情と税金逃れの実態


2019年7月4日

俣野成敏

最近、人気の海外移住。税金逃れに使えるとの情報も流れています。

しかし、希望に反して海外移住の門戸は狭まる一方。実際はどのような状況なのでしょうか。

 

「税金がかからない」は本当?気をつけたい永住権取得詐欺の手口

海外居住権の取得要件は、そこまで難しくはないけれど

最近、人気の海外移住。「老後は暖かい南国で、ゆっくりバカンス気分で過ごしたい」と夢見る方も多いのではないでしょうか。しかし、希望に反して海外移住の門戸は狭まる一方。実際はどのような状況なのかを、お伝えしたいと思います。(本記事は、私が金融の専門家とともに運営している一般社団法人日本IFP協会公認マネースクールのコミュニティに挙げられた質疑応答をもとに執筆されています。)

Q1:海外の永住権を取って、日本の滞在日数を減らすと、所得税や投資利益に対する税金が安くなると聞いた。

         フィリピンの永住権が安いとも聞いていて、「今の内に取得しておいたほうがいい」と言われたが、どう思うか?
A:このご質問に関しては、「海外の永住権を取る」ということと、「日本の非居住者になることで、税金がどうなるのか?」という問題の

       2つに分けて考えるといいと思います。

まず、海外の永住権についてですが、確かに現在は門戸が閉ざされつつあり、取得費用や滞在日数など敷居が上がっています
どの国も、来てほしいのは地元に貢献してくれるお金持ちや企業などです。

移住先として人気のアメリカやオーストラリアなどの居住権を得ることは、かなり難易度が高くなっているのが実情です。
ご質問いただいている、フィリピンのいわゆる“永住権”ですが、確かに先進国などのビザ(VISA)に比べれば、まだ取得はしやすいほうだとは思います。
フィリピン共和国大使館のHPによると、学生ビザや結婚ビザを除いた場合、一般人が居住権を得られるビザとしては、「投資家用特別居住ビザ(SIRV)」や「特別居住退職者ビザ(SRRV)」などが一応の永住権と見ていいと思います。どちらも年齢制限があり、1万USD〜以上の預金や、定期的な更新手続きが必要です。

正規の手続きを行わず、ブローカーを通して手続きを行う場合、手数料目当ての永住権取得詐欺が横行していますので、申請をする際は受付窓口等に十分な注意が必要です。

 

気をつけたい詐欺の手口

気をつけたい詐欺の手口(文言)とは、以下のようなものです。

 

1.     「フィリピンに投資を行うことで、代わりにビザがもらえます」

 

資金が不足し、インフラが整っていない当国では、こうした目的のもとにビザが発給されているのは確かですが、いくつかの条件があります。

 

2.     「フィリピンと特別なコネを持つ我が社でのみ取得が可能」

 

3.     「わが社は、特別待遇が得られる日本で唯一の代理店です」

 

発展途上国の当国では、確かに個人的なコネがモノを言う場合はあります。とはいえ、国が「特定の企業1社だけを対象にビザを発給する」というのは、考えにくいのではないでしょうか。

 

4.     「短い滞在日数で取得でき、更新も簡単」

 

特に時間的な制約のある、サラリーマンの方を意識した謳い文句?

 

5.     「このビザさえあれば、就労や事業を行うことも可能」

投資家ビザの方が就労やビジネスを行う際、一般的には就労・労働許可が別に必要。

最初にお伝えしたように、現状、世界的にも永住権の取得が難しくなっています。

そのような中にあって、「簡単」「安い」というのは、いわば時代に逆行しているわけですから、少なくとも「相場に比べて、簡単に安く取得できる正当な理由があるかどうか?」を確認するべきでしょう。
また、その制度が永続的に続くものなのかどうか、政権等が代わってもビザを維持できるのか、といった点もチェックしておくようにしましょう。

「海外に住めば税金がかからない」は本当か?

 

Q2日本の非居住者になることで、税金はどうなる?

 

Aそれでは、続いては海外移住に伴う税金の扱いについて、ざっとお伝えしたいと思います。

 

もともと、日本の課税方式は属地主義という方式を採っています。属地主義とは、「生活の基盤をどこに置いているか?」で課税する場所を決める方式です。

 

 要は、働いて生活の糧を得ているところで課税を受けよう、という考え方なので、基本的に国籍は関係なく、日本に生活の本拠がある人は、日本で課税されることになります。

属地主義の反対が“属人主義”と言い、住んでいる場所に関係なく、国籍を有する国に税金を納める、という考え方です。アメリカなどが、この属人主義を採用しています。
滞在地が2カ国以上にわたっている人に関して、一般的には二重課税を防止するために租税条約が結ばれていますが、どこで納税すべきか、相互協議が行われる場合もあります。
日本の所得税法では、個人の納税義務者を「居住者」と「非居住者」に分けており、日本国内に住所があるか、もしくは1年以上住む場所を有している人のことを居住者といい、居住者以外の個人を非居住者と規定しています。
居住者のうち、日本国籍がない方で、過去10年のうち、居住者であった期間が計5年以下の人は非永住者として扱われます。非永住者は、国外源泉所得以外の所得に課税されます。国外源泉所得のうち、日本で受け取ったものについては課税対象となります。
非居住者の課税範囲は、「国内源泉所得に限る」とされています。居住者(非永住者以外)は、日本国内外を問わず、発生したすべての所得に対して課税されます。

※参考:非居住者に対する課税 – 国税庁

 

「税金逃れ」は困難

 

質問者のおっしゃる通り、複数の国にまたがって生活し、日本での滞在日数を数えながら暮らしている人は確かにいます。一般的には、1年のうち、日本に滞在している期間が半分以下かどうかが1つの目安になる、と言われています。

しかし、実際には「日本滞在が何日以下であれば、居住者でないと認められる」といった記述はありません。
国税庁のHPによれば、滞在地が2か国以上にわたっている人の場合、その人の住所がどこにあるのかを特定する際、判定の基準となるのが「住居・職業・資産の所在・親族の居住状況・国籍等」で、「これらをもとに客観的事実に基づいて判断される」とあります。
ですから、たとえ外国での滞在が1年の半分(183日)以上に渡ったとしても、その人の生活の本拠が日本にあると判断されれば、日本の居住者と見なされる場合がある、ということになります。
つまり、たとえば「日本に住む家がない」「海外に家がある」「日本での収入は少なく、海外では人並みにある」、といった感じに、生活の基盤となる住居の有無や収入に関して、日本と海外の比重がどうなっているのか?というのが、判断の目安とされます。

通常は、一番長く滞在しているところが本拠と見なされるのが一般的ですが、税金逃れを防止する意味で、このようになっているのでしょう。

 

まとめ

 

それでは、ご質問に対する回答のまとめに入りたいと思います。

結論としましては、外国の居住権を持っているからと言って、必ずしも日本の課税対象から外れるわけではない、ということです。

 

世間では、「海外で暮らせば日本の税金を払わなくてもいい」といった誤解が流布しているようです。

しかし、たとえ日本の非居住者となっても、日本国内で得ている所得は、基本的に日本では課税対象とされます。

 


参考:国内源泉所得の範囲 国税庁

 

外国に住む覚悟はあるか?

 

もっとも大事な話をすると、「安いから」という理由で永住権が取れたとして、「本当にそこに住みたいのか?」という問題があります。

 

あるフィリピンの永住権取得をアテンドしている会社によると、「数百万円を投じて永住権を手に入れた人の多くが、依然、日本に住み続けている」、ということです。

「万一のために」とか「老後のために」と取得する人が多いようですが、万一の事態が起こる確率は、日本と当国のどちらが高いでしょうか。

 

フィリピンの場合は特に現在、発展途上であり、以後、制度が変わる可能性もあります。

 

HP)、政治情勢によって、発給停止や緩和が日常的に行われています。たとえ正規のものであっても、「いつ取り消しされてもおかしくはない」、ということです。

 

巷では、「実際に永住権を使って移住してみたけれど、馴染めずに数年後に戻ってくる人も意外に多い」、と聞きます。

そうなってしまえば、それまでかけたコストや手間なども無に期してしまいます。

 

本当に移住をするつもりなのであれば、短期滞在をしてみるなど、現地へも足を運び、よく検討されることをオススメいたします。


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