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危機のJDI、見えぬ「スポンサー探し」の終着点

総会前日の出資者離脱でも資金繰りは万全か

印南 志帆 : 東洋経済 記者
2019年09月28日

「(経営陣は)役員報酬を返上すべきではないか」
「数千万損した。退職金がパーですよ」

 9月27日、経営危機に直面する中小型液晶大手のジャパンディスプレイ(JDI)が都内で開いた臨時株主総会は、株主から経営陣への厳しい指摘が絶え間なく続き、怒号も飛びかう荒れた総会となった。

スポンサー探しに二転三転

今回の臨時株主総会の主眼は、同社への金融支援を予定している投資家連合Suwaインベストメントホールディングスからの出資受け入れに伴い、定款や取締役の変更を決議することだった。

これまでスポンサー探しが二転三転してきた同社だが、8月7日にはSuwaから最大800億円の支援を受け入れる契約を結んだことを公表。

「さすがに、今度こそ決まると信じたい」(国内大手証券アナリスト)との見方もあった。
ところが、総会の前日に計画は白紙に戻った。800億円のうち8割弱を出資する予定だったハーベストテック・インベストマネジメント(ハーベスト)から、出資を取りやめるとの連絡が届いたのだ。
理由は「ガバナンス(企業統治)の不一致」だが、詳細は明らかになっていない。

8月下旬の一部報道でJDIの支援に前向きな姿勢を示していたハーベストの幹部で金融投資家のウィンストン・リー氏が、9月2日の段階で同社幹部を辞任していたことも、JDIは9月26日に初めて知らされた。

土壇場での出資取りやめが開示されたのは、26日午後5時半に設定されていたインターネットによる議決権行使の締め切りがとうに過ぎた午後9時前のこと。同日夜の記者会見で、10月から新社長に就任する菊岡稔氏(26日時点で常務執行役員CFO)は、「(ハーベストが離脱しても)当面の資金繰りは万全」「足元は盤石」などと繰り返し強調。さらに「10~11月には500億円を確保できる」とした。
会見には、Suwaの代表として、「たまたま東京にいた」(菊岡氏)というCOOの許庭禎氏も出席し、「技術のある会社が勝つ。今後ターンアラウンドできることを信じて、支援を継続していきたい」とJDIへの出資に前向きであることを強調した。なお同氏は2018年までJDI台湾子会社の社長を務め、「(辞任してから)数カ月後にリー氏と出会ってSuwaに入った」人物である。

INCJからの短期貸し付けがあれば「大丈夫」

ただ、菊岡氏のいう500億円の調達には不確実性がある。スマートフォン「iPhone」用のパネルをJDIから調達したアメリカのアップルは、従来Suwaに対して予定していた約1億ドル(約107億円)はSuwaを経由せず、直接約2億ドルに倍増させる意向を示しているという。また、500億円のうち50億円は「有力サプライヤー」(菊岡氏)から調達する。

ただ、8月からSuwaに加わり、1.5億~1.8億ドルの出資を約束するオアシスマネージメントカンパニーは、Suwaから台湾、中国の2社が離脱した際に「(前出の)リー氏がSuwaに引っ張ってきた」(関係者)経緯がある。ハーベストと同様、翻意する可能性は否定できない。
一方で、このスキームが実現しなくても、JDIは「(同社の最大株主で、官民ファンドの)INCJからの短期貸し付け400億円があれば、大丈夫なところにかなり近くなる」(菊岡氏)と見る。INCJはこれまで、JDIに累計4600億円ほどの資金支援を行っており、現在でも融資と出資合計で2800億円近い残高がある。
JDIが2012年に設立された際は、「本邦中小型ディスプレイ産業の総力結集を実現し、技術的に差異化した世界最先端の製品を創造する」(2011年6月のINCJ資料)ことが出資の大義名分だったが、投資体力のある韓国や中国が台頭した今、価格や供給量で勝つことは難しい。

INCJの支援は「ゾンビ企業の延命」との批判があることに対し、菊岡氏は「事業が担っている公共的な色合いもある」と言及した。
さらに、26日開示されたリリースには、予定通り出資が行われなかった場合に「当社の資金繰りが悪化することで事業継続が困難となる可能性があります」との一文も記されている。

 

株主から相次ぐ厳しい指摘

株主総会前日の出資取りやめという混乱の中、株主総会は予定通りに開催された。

菊岡氏は会の冒頭、11月までに500億円近い資金調達のメドが立っていることを強調したが、冒頭のように株主からは厳しい指摘が相次いだ。

約2時間に及ぶ総会では、15人の株主から合計28問の質問が出た。最初に質問に立ったのは、2018年3月末にJDIに50億円の出資をし、発光ダイオードを手がける日亜化学工業だった。同社は「新任される取締役に、Suwaからの取締役が含まれていないのはなぜなのか。それが明確にならない限り、JDIからの取締役2人の選任に賛同しかねる」と問いただした。
これに対して、月﨑義幸社長(27日で退任)は「慎重に検討を重ねたが、時間が間に合わなかった。ただ、Suwaが役員の派遣をするという方針に変更はない」と回答。これも500億円の出資が完了することが条件であり、実現へのハードルは高い。
2014年にJDIが上場した際に同社株を購入した株主からは悲痛な声が複数上がった。

ある株主は、「証券会社に勧められて、何万株も(JDI株を)持たされた。だまされたほうがバカだが、何千万も損をしている株主がいることをわかってください。(JDIの経営陣は)皆、他人事に思っている」と怒りをぶちまけた。
「経営陣は100%報酬をカットすべき」との指摘も集中し、会場から拍手がわき上がる場面もあった
株主の質問に対し、菊岡氏は「私も2年前からJDIに入ったが、これからは自分の人間関係も生かしながら、外部の人を迎え入れていきたい。INCJから大きな支援を受けつつも、自助努力をしていきたい」と答えた。

 

今期の黒字転換は本当に可能なのか

総会では珍妙なやりとりもあった。

INCJの再建を道半ばにして、2019年3月末に病気療養で退任した東入来信博・会長兼CEOについての質問に、月﨑氏は「現在は病も回復し、ご自宅で悠々自適の生活を送っている」と明かし、会場の失笑を買っていた。
結局、会社側の提案した4本の議案はすべて可決された。

総会に来場した60代の男性株主は、「自分が何に賛成・反対すればよいのかよくわからず、キツネにつままれたような気持ち。今は、1円でも損切りしたいと祈るばかり」と吐露。別の男性株主も「経営陣が飄々としているのが気になる。経産省が潰さないと内心わかっているからなのかな」とあきれる。
JDIは、6月末時点で工場の減損損失や早期退職に関する費用により772億円の債務超過に陥っている。

2019年3月期まで5期連続の最終赤字だが、足元では「新製品(アップルの新型スマホ「iPhone11」向けパネル)の投入により、計画比プラスで推移している。有機ELの新製品や指紋認証用センサーの出荷も控える。黒字転換は可能」(月﨑氏)と強気だ。

しかし、これまで何度も下方修正してきた「実績」がある以上、月﨑氏の言葉通りに捉えることは難しい。
JDI株の27日の終値は60円。国策の名の下にここまで延命してしまった企業の行く末に責任を誰が持つのか。異例の株主総会がその実態を浮き彫りにしてしまった。



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