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リンガーハット、20億円赤字・大量閉店から完全復活。わずか数年で改革できた3つの要因

栫井駿介
2019年8月27日

長崎ちゃんぽんのチェーン展開を行うリンガーハットは、かつて20億円を超える大赤字を計上し、周囲からは「終わった」との声も聞かれました。

しかし、そこから劇的な復活を遂げ、2015〜2017年には3年連続で最高益を達成。

日本版顧客満足度指数(日本生産性本部)では飲食部門で2017〜2019年度の3年連続で第1位を獲得しました。

 

一歩間違えれば自殺行為?デフレ期に野菜国産化・値上げで大成功

 

デフレ化とリーマン・ショックで窮地に

 リンガーハットが長崎に誕生したのは1974年のことです。1979年には関東に進出するなど、チェーン展開を加速させていきました。2000年には東証一部に上場し、一流企業の仲間入りを果たしています。快進撃の原動力となったのが、現会長の米濱和英氏の活躍です。1976年に共同創業者の兄・豪氏が亡くなり、32歳にして社長の座に就きました。その後の急成長は和英氏の手腕なくしては成し遂げられなかったでしょう。

しかし、その後経営は停滞の一途をたどります。

2004年2月期〜2009年2月期の6年間にかけて実に4度の最終赤字を計上し、財務はボロボロの状態でした。「終わった」と囁かれたのもこの時期です。

世間では牛丼チェーンに代表されるデフレ化が進み、飲食業界にとって厳しい時代となっていました。そこに追い打ちをかけたのが、2008年に起きたリーマン・ショックです。

客足は遠のき、経営は窮地に陥りました。

その頃一線から退いていた米濱氏は、再び会長兼社長として現場に復帰することになります。


飲食店のコスト意識は緩みがち

復帰してまず行ったのが、不採算店の閉鎖です。これは会計上大きな損失を計上するものですから、まさに痛みを伴う改革です。

それを全体の10%にあたる50もの店舗を閉鎖したことから、従業員に強い危機感が芽生えたと言います。

そこからは徹底したコスト削減を行いました。当時の決算短信には以下のように書かれています。

飲食店の経営はコスト意識が緩くなりがちです。まして数百のチェーン店の全てでそれを徹底することは容易ではないでしょう。

私も学生時代には某サンドイッチチェーンでアルバイトをしていましたが、入れる野菜の量が目分量だったため、次第に入れすぎになってしまい店長に注意されました。最初は僅かな変化ですが、積み重なると大きくなります。

数%の利益率を絞り出す商売ですから、コストアップは最終的な利益を大きく左右するのです。

 


 

デフレと真逆の野菜国産化・値上げを断行

 しかし、これだけに終わっていたのなら単なる経営改善の話です。米濱氏は大きな決断に打って出ます。何と、使用する野菜をすべて国産化し、値上げを敢行したのです。野菜を国産化するというのは、前述のコスト削減とは真逆の話です。国産の野菜はどうしても値段が上がってしまいます。また、値上げも当時のデフレの流れとは真逆を行くものでした。まして、当時はリーマン・ショックで世界経済がどん底に落ち込んでいた時期です。そんなときにコストアップと値上げを行うということは、見る人が見れば自殺行為とも捉えられかねません。これで客離れが進めば、もう立ち直ることが難しくなってしまいます。しかし、結果から見れば、この改革は成功に結びつきました。 

野菜を国産化し、さらに増量したことにより、健康志向の女性客が増加したのです。

「野菜たっぷりちゃんぽん」は1年で500万食が売れる大ヒット商品となりました。

子供にも安心して食べさせられるということで、家族連れの顧客も増加しました。

日本マクドナルドの創業者・藤田田氏も「女と口を狙え」と言っています。

リンガーハットは、ブームの鍵を握る女性の支持をがっちりと掴んだのです。

米濱氏の改革が成功し、リンガーハットの業績は盛り返します。

2015〜2017年には3年連続で最高益を達成し、足元でも業績を拡大しています。



 リンガーハット改革の3つの成功要因

 なぜリンガーハットは復活を遂げることができたのでしょうか。それには以下のような要因があったと考えます。

(1)当たり前のことを当たり前に
前述したように、飲食チェーン店の運営は緩みがちになります。

コストの上昇だけでなく、店舗の掃除一つ取ってもきれいに維持し続けることはなかなか難しいのが現状です。

例えば、急速なチェーン店化を進めて現場をおろそかにしたマクドナルドは一時大幅な客離れを引き起こすことになりました。直接的な原因は消費期限切れ鶏肉問題でしたが、汚い店舗では「さもありなん」と、消費者は悪い方向での関連付けを行ってしまったのです。

飲食チェーン店の経営は、ともすると売上高の拡大・店舗数の増加を目指すあまりに既存店舗の運営をおざなりにしてしまいがちです。

しかし、その間に既存店ではじわりじわりとコストが上昇し、顧客も離れていきます。
そうならないために、無駄なコストは使わない、店舗は清潔に保つなど、当たり前のことを当たり前に続けることが不可欠となるのです。米濱氏の改革はまずはこれを徹底したことが鍵を握りました。

(2)創業者のカリスマ性
経営改革と言っても、ただ掛け声をかけただけでうまくいくものではありません。実行には多くの協力が不可欠ですから、その仕組みが不可欠です。
リンガーハットの場合は、一線を退いていた創業家の米濱氏が復帰したことが大きかったと考えられます。

大胆な改革を実行するには、トップのカリスマ性がどうしても必要になります。
例えば、かつて日産が復活したのも、カルロス・ゴーン氏という良くも悪くも飛び抜けたリーダーがいたからにほかなりません。ゴーン氏が大胆なリストラを行ったのと同じように、米濱氏も大量閉店を行いました。サラリーマン経営者ではこの決断はできないでしょう。

経営改革が成功するかどうかは、カリスマ性のあるリーダーがいるかどうかも判断材料になります。

(3)顧客の期待を上回る価値
商売をする上でこれを置いて話をすることはできません。顧客は、自分が払うお金と同等かそれ以上の価値を得られると思うからこそ、その商品を買うのです。
リンガーハットでは、「安心・安全の国産野菜」を「たくさん」食べられることが価値となり、値上げしても顧客はむしろ増える結果となりました。

値下げも確かに「価値>価格」とするための手段ではあります。

牛丼チェーンは価格を徹底的に下げることによりこれを実現してきました。

多くの小売業者が同じような思考に陥っているからこそ、デフレが進行したのです。
なぜ値下げにとらわれてしまうかというと、結局それが楽だからでしょう。数字をいじるだけで特に何をする必要もなく、顧客から見てもわかりやすいものです。短期的には顧客を増やすことができます。

しかし、それはやがて会社の利益を蝕んでいきますから、今度は利益を確保するために商品のクオリティが下がります。

すると顧客はやがて「安かろう悪かろう」と感じるようになり、そこの商品を敬遠するようになるのです。
一方の値上げは勇気のいる決断です。失敗したら顧客離れを招きかねませんし、何よりそれだけの価値を提供する自信がなければなりません。

リンガーハットでは、単に野菜を増やすだけでなく、それらを国産化することで価値を上げ、値上げを消費者に受け入れてもらえることができました。これができたのも、米濱氏が常に顧客の「価値」を考えていたからだと想像します。

投資家としては、経営が上向きそうな企業を事前に察知することが求められます。
皆さんも買い物や食事をするときには、ぜひ注意して上のようなことが実行できているかどうか観察してみてください。

思わぬ掘り出し物を発見できるかもしれません。


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