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「アマゾン火災」がここまでヒドくなった理由

このままでは熱帯雨林の一部が草原化も?

白石 和幸 : 貿易コンサルタント
2019年08月24日

ブラジルのアマゾン地帯で森林火災が多発しており、今年の件数は前年同期比で83%増となっている(写真:Ueslei Marcelino/ロイター)

世界から注目が集まっているブラジルのアマゾンで多発している火災によって、これまでにない規模の熱帯雨林が焼失している。今年に入ってからだけでも8月20日までに7万4155件の火災が発生し、その数は前年同期比で83%も増加。

しかも、人工衛星が確認したところ、8月15日からわずか1週間で、9507カ所で火災が発生しているというのだ。
これに対して、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は22日、「われわれの家が燃えている。文字どおり。地球上の酸素の2割を生み出す『肺』、アマゾンが燃えている。

これは国際的危機だ」とツイッターで警告。「G7のメンバーの皆さん、ぜひこの緊急事態についてすぐに話し合いましょう」と、24日に開幕する日米欧の先進国首脳会議(G7サミット)で議論する考えを示した。


気候変動に影響を及ぼす可能性

 アマゾンはブラジルやペルー、コロンビアなど7カ国にまたがり、その面積550万平方㎞と、日本の国土の約14倍に上る。そのうち6割がブラジルに属している。アマゾン協力条約機構(OTCA)によると、アマゾンは地球上の酸素の2割を生み出しているほか、アマゾン地帯には、3万品種の異なった植物や2500種類の魚類、1500種類の鳥類、500種類の哺乳類などが生息。さらに、この20年で新たに2200種類の植物や脊椎動物が発見されているという。

イギリスのガーディアン紙の取材に答えたサンパウロ大学高度研究院のシニア・リサーチャー、カルロス・ノブレ氏は、このまま森林火災が続き「臨界点」を越えた場合、通常は湿地帯であるアマゾンが、サバンナのようになり、原住民や野生動植物の生存を脅かすだけでなく、気候変動にも影響を及ぼしかねないとしている。

同氏によると、アマゾンでの森林破壊は昨年比2~3割のペースで増えており、10年ぶりに1万平方㎞を越える見通しだ。
コロンビアのエル・ティエンポ紙によると、ドイツやノルウェーは、生態系存続にとって非常に重要なアマゾンの大部分を占めるブラジルでの火災は、ブラジル政府による管理不足にあるとみて、数年前から資金援助を実施。が、今年1月にブラジルでボルソナロ政権が発足してから状況が悪化していることもあり、警告を発する意味で最近資金援助の中断を決めた。
これに対してジャイール・ボルソナロ大統領は、「私はチェーンソーのキャプテンと呼ばれていたが、アマゾンに火をつける(ローマ帝国の)ネロにされてしまった。言っておくが、今は『ケイマダ(焼き畑)』の季節である」とコメント。そして「(火災に関して)新たな、操作されていない情報を私は待っており、それが憂慮されるべきものであれば発表する」と述べており、今のところ鎮火に対して何の策も講じていない。

新政権で森林伐採ペースが加速

 現時点でブラジル環境省は、環境省がアマゾン地帯の北部と、中央から東部にかけて広い範囲で乾燥していることが火災の主因だとしているが、これにブラジル国立宇宙研究所(INPE)は反論。同研究所のアルベルト・セッツァー氏は取材に対して、「今年の気候に異常はない。雨量も例年よりいくぶんか少ない程度だ」と、火災原因が焼き畑による延焼や乾燥であるとの見方を否定。「乾燥は火が広がる原因にはなるが、そもそも(火を)始めたのは人間だ」との見解を示している。

社会活動家のベノ・ボニーリャ氏も、アマゾン火災は人災であると断言。ボルソナロ大統領が、アマゾンの管理を緩くしたのが原因だと指摘している。
ブラジルはもともと、過去の大統領時から遺伝子組み換えサトウキビや大豆の生産量増大に向けた農地拡大や資源開発などのために、森林伐採を進めていたが、ボルソナロ大統領が就任してから伐採ペースが加速。現地メディアによると、同氏はもとより、アマゾンは産業発展に利用するべきだとの考えが強く、同氏が大統領についてからは開発業者が一斉にアマゾンにやってくるようになった。開発過程でで伐採した木などを燃やす作業があり、これが十分管理されなかったため火災が多発していると報じている。
昨年のブラジル大統領選の時に対立候補だった労働者党のフェルナンド・アダジ元サンパウロ市長は、「私のライバルが選ばれればアマゾン地帯の崩壊の始まりだ」と指摘していたが、まさにそれが的中しそうな状況になっている。
それにしても、アマゾンにとって危険だと目されていた人物がなぜ大統領に選ばれたのか。それには、同氏の経歴を振り返る必要がある。
ボルソナロ氏は軍人出身で、砲兵部隊からパラシュート部隊に移ってから大尉で退役した。軍人の給料が安すぎるとの理由から、少数の士官グループが兵舎や軍学校に爆薬物を仕掛けて爆破。軍事裁判にかけられ無罪と判決されたが、退役を余儀なくさせられた。
その後、1989年にリオデジャネイロの市会議員を皮切りに、1991年に連邦議員となり、2014年には下院議員としてリオデジャネイロで歴代最高の得票数で当選。下院議員としては目立つ存在ではなく、議員立法も大半が軍人や軍部に関係したものだったという。
当時から目立っていたのは同氏の人種差別、ホモファビア、男性優越主義、軍事政権礼賛といった過激な発言内容であった。一匹オオカミ的な存在で、所属する政党も8回変えている(ブラジル下院には30の政党がある)。発言が過激すぎるため、メディアに取り上げられることも少なかった。

火災はNGOによる腹いせが原因と示唆

 そんな同氏が大衆から注目されるようになったのはブラジル経済の成長が低迷する一方で、犯罪が増え、ルラ元大統領を始め多くの政治家が汚職に染まっていったことが背景にある。汚職に手を染めていない政治家を求める向きが強まると同時に、犯罪多発を受けて軍事政権の再来を望む声が増える中、ボルソナロ氏の注目が高まっていったわけだ。同氏が大統領選への出馬を考えるようになったのも、2014年頃だという。

アマゾンの火災をめぐっては、NGOがボルソナロ大統領に原因があると批判してきたが、これに対して大統領は、「NGOがブラジル政府を攻撃するために犯罪活動を行っている」と発言。「政府がNGOに対する公的資金を中止した」ため、この腹いせに森林放火をしているとほのめかした。ボルソナロ大統領はつい最近も、INPEが提出している情報の内容が過激だとして所長を解任するなど、自身の考えと異なる団体や人物は排除してきている。

大統領選でボルソナロ大統領に票を入れた有権者の9割がアマゾン地帯を保護する法的手段を採れるようにすることを議会に懇願している。が、前述のサンパウロ大のノブレ氏がガーディアン紙に語ったところによると、「ブラジルの政治家はブラジル人の声より、国際的な圧力に弱い」。

マクロン大統領による呼びかけによって、世界のリーダーが手を結ぶことはあるのか。

今もアマゾンは燃え続けている。


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