5Gとは、何なのか?


☞ 5G必須の用途はどれだけあるのか? 実証実験から見えてきた可能性
 2020 年に国内で商用利用が始まる見込みの5G(第5 世代移動通信システム)は、単にLTE(Long Term Evolution)など4G(第4 世代移動通信システム)までの移動通信システムの延長線上にあるわけではなさそうだ。
5G は目標とするデータ伝送速度が下り、上りともGbps 級になる他、低遅延多数同時接続という特徴がある。
 注意すべきなのは、5G では基地局当たりのカバーエリア(通信可能な範囲)が、4G 以前よりも狭くなる可能性がある点だ。電波は周波数が高くなると、遠くまで届きにくくなる性質がある。
国内では5G の周波数帯は、3.6GHz 帯以上の周波数帯が中心となるとみられる。これは4G 以前が主に利用してきた3.6GHz 帯以下と比べて電波の到達距離が短くなりやすい
 こうした点を踏まえると、4G 以前の移動通信システムで既存の用途をカバーしつつ、5G では端末と基地局との距離がなるべく近くなるような特殊な用途を実現するというすみ分けが、当面の現実的な方向性だと考えられる。ここでは、2019 年1 月に開催された「5G 国際シンポジウム2019」の内容を基に、携帯電話事業者やその協力会社などが実施している実証実験を例にして5G の用途を紹介 (技術解説動画 by 総務省)する。中心的に取り上げるのは、特に4G 以前では実現が難しかった、5Gならではの用途だ。


■ 超高速を生かしたケース
 5G の高速なデータ伝送速度という特徴を生かしやすい代表的な用途は、大容量の映像配信だ。
KDDI は、5G のアップリンク(上り:端末から基地局へのデータ伝送)の高速性に注目した。
ゴルフトーナメントの最終18 番ホールの模様を、フレームレート(単位時間当たりのフレーム数)が毎秒120 フレームの4K(4000×2000 ピクセル前後の解像度)映像で撮影。他ホールや18 番ホールのグリーン(芝生)近くに設置したスクリーンで、即時再生する仕組みを構築した。フレームレートが一般的な4K 映像で採用されている毎秒60 フレームの倍となるため、スローモーションの再生が滑らかになる。
 4K カメラから基地局までの上りのデータ伝送速度は、放送品質を確保するために200Mbps程度を確保した。例えばLTE では上りの伝送速度が最大でも数十Mbps 程度であるため、今回の仕組みで活用するのは難しい。「このような大容量のデータ伝送が求められる用途は、従来の無線システムでは時間をかけて伝送するか、いったんデータを蓄積して再生するしかなかった」(KDDI)
 あらゆる業種や職種で必要になるわけではないが、5G の高速さがあれば、外出中の従業員でも数百MB級の大容量ファイルをスムーズに送受信できる。NTTドコモは従来のビデオ会議システムを使ったリモートワークの考え方に、移動オフィスと大容量動画の共有という2 要素を追加した仕組みを構築した。5G の基地局を自動車に積んだ移動オフィスと、東京都と徳島県の光回線を使ったオフィスの3 拠点をテレビ会議で接続。容量300MB 級のプロモーション動画を会議の中で編集し、ファイルの受け渡しを拠点間で滞りなく完了できることを実証した。
 現在は新幹線をはじめ、一部の電車内でも無線LAN の利用が可能になっているが、ビジネスで利用するには通信速度が遅いと感じる人が少なくないだろう。電車の線路沿いに5G の基地局を設置すれば、移動中でもオフィスにいるときと同様に大容量ファイルのやりとりが実現できる可能性がある。NTTドコモは東武鉄道との協力で線路沿いに5G 基地局を設置し、時速90 キロほどで通過する電車内の端末にデータ伝送(下り)する実証実験を実施した。28GHz の周波数帯を利用した場合で、データ伝送速度は平均1Gbps 程度だった。
■ 超低遅延を生かす
 自動運転や機械の無人操作に移動通信システムを利用する場合、データ伝送の遅れが重大な事故につながりかねない。5G の超低遅延の特性を生かすことで、こうした用途も安全に実現できる可能性が高まる。
その具体例が、ソフトバンクが実施しているトラックの隊列走行の実証実験だ。3 台のトラックを5G で接続し、有人の先頭車両を2 台の無人トラックが自動運転で追い掛ける仕組みだ。
 トラック間の車間距離を縮めるほど、トラックの間に関係のない車両が割り込んでくる危険性を減少させられる。車間距離を縮めるためには、空走距離(車両停止の判断からブレーキが利き始めるまでの走行距離)を縮めることが必要になる。そこで重要な役割を果たすのが、低遅延という5G の特徴だ。5G の場合、データ伝送の遅延が目標値の約1 ミリ秒だとすれば、先頭車両がブレーキをかけてから後続車両のブレーキが利き始めるまでの空走距離は、2.2 センチ程度で済むと同社は説明する。LTE で同様の仕組みを実現した場合、遅延が目標値の約100 ミリ秒だと、2.2 メートル程度もの空走距離が発生してしまう。
 医療や建設現場における機器の遠隔操作など、わずかな操作の遅れが重大な影響を及ぼす他のケースにも、5G の低遅延という特徴が生きる。KDDI は土砂災害の復旧を想定した、建設機械の遠隔操作の実証実験を実施した。無人の建設機械に4 台のカメラを搭載し、5G を介して250 メートル離れたリモートの操作室から操縦する。KDDI の実証実験では、建設機械を人間が操縦した場合に比べて、34%程度時間がかかったものの、予定していた作業を完了させることができたという。
■ 多数同時接続
 5G の多数同時接続の特性が生きるのは、スマートシティーやスマート工場、スマートオフィスといった、多数の機器や装置がネットワークに接続するIoT(モノのインターネット)環境だ。
ネットワークに接続する大半のIoT 機器はデータ測定のためのセンサー類だといわれる。センサーにおけるデータの送受信は一般的に数十KB 程度のデータ容量で済むため、この場合の課題は容量や速度よりは、いかに多くの機器を効率良く接続できるかが課題になる。NICT(情報通信研究機構)の実験では、1 台の5G 基地局で約2 万台の端末を収容可能という結果も出ており、5Gは重要なIoT インフラとして期待できる。
 ソフトバンクグループ傘下のWireless City Planning が、オフィスや高速道路で5G を活用する実証実験を開始している。高速道路における建材の傾きや伸縮、オフィスの気温、人の心拍数といったさまざまなデータを効率良く収集し、活用するための仕組み作りを目指す。
 5G の応用事例としては、他にも医療や教育現場、エンターテインメント、観光における活用が計画されている。2020 年のサービス開始時にどれだけの用途がサービスとして実現するかに注目が集まる。

5Gはモバイルの通信コストを増大させる? ビジネスへの影響を予測する
 5G(第5 世代移動通信システム)の実用化で即座に企業が影響を受けることはない。
とはいえ、長期的な視点でどのような変化が生じるのか、考えておく必要がある。
 間もなく5G による新たなネットワークが実用化する。通信事業者AT&T は、近く幾つかの都市に5G のネットワークを導入する。2018 年内に5G の規格に準拠したデバイスを販売開始する携帯電話メーカーもある。2019 年中盤には、こうした新しいデバイスが主流になる可能性さえある。
 5G の技術は、無線通信における伝送速度を上げ、遅延を減らす可能性を秘めている。その伝送速度は少なくとも100Mbps 以上で、デバイスによっては1Gbps に達することも可能だ。
 モバイルデバイスは、5G のネットワークを利用するためにアンテナが2 本必要になることも考えられる。これによってバッテリー消費量が大きくなり、この問題のために5G の規格に準拠したスマートフォンが、早期には普及しないことが懸念される。
 少なくとも、2020 年までは大規模に5G の普及が進むことはないだろう。IT 部門は5G の普及状況を見守っておく必要はあるが、従業員が使用するデバイスについて計画を今すぐに変更する必要はない。
 2020 年までに、5G が企業に影響を及ぼす可能性がある点が幾つかある。
■ 5Gが企業に与える影響
 ストリーミングやIoT(モノのインターネット)センサーが増加することで、5G の通信料金が5 ~ 10%上昇する可能性がある。企業はBYOD(私物端末の業務利用)のモバイルデバイスや従業員に貸し出すモバイルデバイスの利用料金が上昇した分を企業側で負担するか、差額を従業員に要求するかしなければならない。
ただし4G と同様、5G の利用料金も時間が経てば下がると予想される。
 現在の通信環境ではリモートワークは容易ではない。例えば、無線通信サービスの電波が受信しにくく、営業担当者が外出先で作業するのが困難になることが少なくない。5G の伝送速度は、外出先で業務をこなすリモートワーカーの作業条件や生産性を向上させる。
 5G が実用化することで、モバイルデバイスを使って生産性向上が図れるさまざまなユースケースが登場するだろう。例えば、自動運転に関連した新しい用途が考えられる。拡張現実(AR)を活用した用途も出てくるだろう。小売り分野でAR を利用すれば、レストランのメニュー表示が充実するなど、情報提供の仕方が大きく変わるだろう。
 さらに、企業の戦略はこれまでのクラウドから、エンドユーザーに近い場所でのデータ処理を実現する「エッジコンピューティング」にシフトする可能性がある。エッジコンピューティングにおいて、モバイルデバイスはデータ処理のためにIoT センサーに接続することが必要になる。
■ 企業にさまざまなメリットをもたらす5Gネットワーク
  エッジコンピューティングの仕組みにおいて、5G はセンサー同士の通信を拡大させる役割を果たすだろう。これまでセンサーが送信するデータを処理するのはクラウドにあるサーバだった。
しかしこの処理にはデータ伝送のために無線の広帯域が必要だ。エッジコンピューティングであればクラウドまでデータを送信する必要がなくなる。
 エッジコンピューティングでは、センサー同士の相互通信も可能になる。例えば遠隔地で作業する従業員は、現場に設置した機器のみで最新のステータスをリアルタイムで確認できる。
 5G の懸念点は通信コストが増加することに加え、電波の周波数帯が不足することだ。
例えば3G(第3 世代移動通信システム)から4G(第4 世代移動通信システム)へのシフトでは、同じ周波数帯を利用するデバイスが多くなり過ぎるという状態になった。

■電源不要の新しいセンサー通信技術

多数のIoTデバイスを設置し、センサーデータを外部に伝送する際に課題となるのが、デバイスへの電源供給だ。電池1個で1年間駆動するLPWA(Low Power Wide Area)なども存在するが、さすがに電源を供給せずに通信できるセンサー技術はなかなかない。

そうした電源供給の課題をいち早くクリアして実用化されたのが、業界団体のOpen Connectivity Foundation(OCF)が開発した「EnOcean」だ。

EnOceanとは、センサー周囲にある微弱なエネルギーを収集して電気へと変換する環境発電(エネルギーハーベスト)技術を利用した無線通信規格だ。

周囲の光や熱、振動などを使って発電する機能を備えているため、デバイスに電池を搭載する必要がない。

消費電力も非常に小さく、ZigBee(IEEE 802.15.4)やBLE(Bluetooth Low Energy)の10~1,000分の1程度のエネルギーしか消費しない。伝送速度は125kbpsと決して高速ではないが、双方向通信にも対応できるため、電源確保の工事や電池交換などの頻繁なメンテナンスが難しいビルオートメーションやスマートホーム、ウェアラブルデバイスなどの用途で実用化されている。同様に電源供給が不要な通信技術として、米ワシントン大学が中心となって研究開発を進めているのが「WiFi Backscatter(バックスキャッタ)」だ。これは無線通信として広く使われているWiFiの高周波(RF:Radio Frequency)の電気信号から得られるワイヤレス電力のみを利用するという通信技術である。

その仕組みは、既存のWiFiルータから受け取った電波をRF給電デバイスが他のWiFiデバイス(PCなど)へ反射/遮断、つまり信号をオン/オフするという2進数のデジタルデータとして送信を可能にするというものだ。

みずから電波を出すわけではないため、駆動に必要な電力はわずか10μW(0.01mW)程度だという。

既存のWiFiインフラを利用した実験では最大1kbps、最大2.1mの通信に成功しており、今後最大20m程度まで距離を伸ばすことを目標としているそうだ。

IoTセンサー/IoTデバイスとの通信には「速く」「広く」「電源不要」が求められており、今回はそれらを目指す技術の一部を取り上げて紹介した。

今後はあらゆるモノにIoTセンサーが設置され、多種多様なデータを収集・分析して利活用する時代がやってくる。

そうしたIoTセンサーから取得できる大量のデータをリアルタイムに取得・分析し、IoTセンサーが取り付けられた機器を制御するには、2019年にも先行サービス開始が予定されている5Gが欠かせない。

また、地球上のあらゆる場所にあるIoTデバイスと通信できるようにするには、Ka帯を利用した新しい衛星通信システムの登場・普及が待たれるところだ。そして、電源確保が困難な場所の低消費電力デバイス向けには、すでに実用化が進みつつある電源不要の各種技術のさらなる発展に期待したい。

 


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