· 

読売が報じた信じがたい事件。労働現場で今、何が起きているのか?


2019.08.07

リクルートやアップルが行なっていた「好ましからぬ商売手法」が明らかとなり、批判の声が上がっています。

こうした事態を、「労働」の周辺で起きている“異変”と憂慮するのは、ジャーナリストの内田誠さん。

内田さんは、新聞各紙がこれらをどう報じているか、詳細に分析しています。

 

「労働」の周辺で起きている“異変”、各紙の伝え方
ラインナップ
1面トップの見出しから……。
   《朝日》…「内定辞退予測 7,983人同意なし」
   《読売》…「米中摩擦再燃 株安続く」
   《毎日》…「アップル 知財無償で契約」
   《東京》…「個別助成額 把握せず」

解説面の見出しから……。
   《朝日》…「香港 噴き出る不満」
   《読売》…「着床前診断 拡大を検討」
   《毎日》…「表現の自由 萎縮も」
   《東京》…「選手のパフォーマンス向上」


プロフィール
きょうは「労働」の周辺で起きている“異変”について、各紙がそれぞれ別のテーマを掲げています。

1つずつ拾っていきましょう。
  リクルートの違法な商売《朝日》
  ■留学生を陥れる罠■《読売》
  ■無理難題を押し通すアップル■《毎日》
  ■企業主導型に助成金バラマキの実態■《東京》


 リクルートの違法な商売

【朝日】は1面トップと5面の記事で、リクルートキャリアの個人情報保護法違反について記事を展開している。見出しは「内定辞退予測 7,983人同意なし」「リクナビが販売 情報保護法に違反」「サービスを廃止」(以上、1面)、「リクナビ説明 4日で一転」「内定辞退予測廃止 学生の反発受け」(以上、5面)となっている。
内容は、【セブンNEWS】の3項目目に要約したので、再掲する。
リクルートキャリアは、就活情報サイト「リクナビ」の閲覧履歴をもとに個々の就活生の内定辞退率をAIに予測させ、企業に販売するサービスが、個人情報保護法違反だったと表明。廃止した。7,983人分については本人の同意さえ得ずに販売していた。
実にリクルートらしい“賢い”商売があったものだとつくづく思う。ビッグデータから「内定辞退率」とその条件を導き出して、1人1人がどのくらいの確率で内定を辞退するかについて5段階で予測し、そのデータを企業に販売していたというもの。しかも、9,000人近くの就職希望者に対しては同意も得ずに行っていた。

3面記事は、結局はこのサービス自体を廃止するに至った流れの中で、政府の個人情報保護委員会からの指摘を受けた後も、当初はサービス再開の意向だったのが僅か4日で急転し、廃止の結論になったことを強調している。当初、再開・継続を目指していたのは、余程儲かるサービスだったからか、あるいはサービスを受ける企業側からの熱望があったのか、あるいはまた、委員会の指摘を真剣に受け止めていなかったからか、のどれか、あるいは全部であろう

結局、廃止に至ったのは、「学生の心情に対する配慮不足」を理由としているようだが、専門家の中には、こうしたサービスは「権利侵害につながるもの」であり、「本来、同意の有無に関わらずやってはならないことではないか」(情報法制研究所の鈴木正朝理事長)という見方もある。

今回のリクナビの決定は、結果としてはこうした見方に従った形になっているが、おそらく、リクルート関連会社の商売全体を見直せば、類似の問題を抱えたサービスが他にも出てくるのではないだろうか。

 

 留学生を陥れる罠

【読売】は29面社会面で、留学生の労働に関する信じ難い事件を報じている。見出しは「留学生の労働超過 偽装」「『ボランティア』扱い」「川崎の介護設」「労基署が是正勧告」「日本語学校と「結託」」とある。

川崎市の介護施設(グループホーム)が、フィリピン人の留学生の女性(20歳代)に法律上の労働時間の上限(週28時間)を超えて働かせながら、超過分を「ボランティア」と偽装して賃金を払わなかったとして労基署が労基法違反で是正勧告を行った、という事件。事件が発覚したのは、この女性を含むフィリピン人留学生4人からNPO法人「POSSE(ポッセ)」が相談を受けたことがきっかけ。

4人は、フィリピンの仲介業者からまず問題の介護施設運営会社を紹介され、その後、同社から日本語学校を紹介されたという。最初の半年間、賃金から学費が天引きされていたという。
「ボランティア」としてタダ働きを強いられ、会社を辞めれば学籍も奪われて在留できなくなるという形になっている。留学生たちは罠にはまったようなもので、企業と日本語学校がグルになって留学生たちに違法労働を強いるシステムができあがっていたようだ。「POSSE」によれば、入学時の誓約で、指定されたアルバイト先以外で働くことを禁じている例もあったという。


 無理難題を押し通すアップル

【毎日】は1面トップと7面の経済面で、アップルによる独禁法違反の疑い事例について書いている。

見出しは「アップル 知財無償で契約」「対日本企業 公取委が調査」「取引解消ちらつかせ」(以上、1面)、「知財吸い上げに不満「『アップルに折れた』」「日本企業 政府、巨大IT規制急ぐ」(以上、7面)。

この件も【セブンNEWS】7項目目の再掲から。
米アップルは、取引先日本企業との間で部品製造に必要な技術や知識を無償提供させる契約を結んでいた。

日本企業が契約修正を求めると、取引関係解消を持ち出して押し通したケースもあり、契約を押しつける行為が独禁法違反に当たるか、公取委は精査へ。
米中貿易摩擦のなかで、アメリカ側がしばしば主張しているのが、中国による「強制的な技術移転」、「知的財産権の『窃盗』」というようなこと。何のことはない、米国を本拠とするアップルも、中国に学んで「阿漕な商売」をやっていたではないか、と言いたくなる事案。

アップルが「優越的な地位」を乱用して独禁法に違反しているかどうかを公取委は判断するというのだが、通常は大企業と下請け中小企業との間で問題になる「優越的な地位の乱用」を、超巨大ITと国内大企業の間でも適用する方向に、公取委は大きくかじを切った模様だ。たとえ国内の大企業であっても、スマホの国内シェア1位の世界企業からの要求を受け流せるところはないだろうというのが判断の理由だという。

政府は来年の通常国会に「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」を提出予定で、巨大ITには取引条件の開示を義務付けるなど、規制整備を進めていこうとしている。

 

 企業主導型に助成金バラマキの実態

【東京】は1面トップと25面社会面で、企業主導型保育事業にまつわる問題を大きく取り上げている。

見出しには「企業型保育事業 個別助成額 把握せず」「内閣府『委託先が確認』」(以上、1面)、「委託先『数こなす』優先」「50人で4,800件審査」「コンサル男性『ばらまきに近い』」(以上、25面)。
政府が待機児童対策の目玉として導入した「企業主導型保育事業」を所管する内閣府が、予算額2,000億円に上る助成金をどの事業者にいくら支出したのか、基本的な情報さえ把握していないことが判明した。

東京新聞の資料開示要求に対して「作成・取得しておらず、保有していない」ことを理由に「不開示」としたからだ。では、実務を担っているところはどうか。保育所を開く事業者の審査や助成金額の決定、支給などの実務は、公益財団法人「児童育成協会」が委託を受けてやっている。

ところが、ここもホームページ上で16、17年度の助成先の名は公開しているだけで、それぞれへの助成額は記載していない。この「企業主導型」を巡っては、ずさんな計画で開所できていないケースや助成金を狙った詐欺事件まで起きているというのに…。
児童育成協会での業務の実態はどうなのか。
《東京》の取材によれば、審査にあたっているのは多くが専門知識のある職員ではなく、「数をこなすのが大命題」という状態で、2018年度は、50人で4,800件を審査したのだという。基本的には書類審査のみで、その結果、保育実績のない人も続々参入。あるコンサルタントは「審査していないのと同じ。バラマキに近かった」と語っている。

企業主導型保育事業の予算は、毎年消化されていないのに年々増額され、本年度は初年度の2.5倍。

安倍政権が2020年度末までに待機児童ゼロを掲げて企業型の整備目標を高めてきたことが背景にあるという。会計検査院は「助成金審査が不十分」として、内閣府に改善を求めている。「企業型」に注力すること自体の問題が、今後クローズアップされていくだろう。


あとがき
以上、いかがでしたでしょうか。
人権を侵害しつつ就活生を食い物にする企業、留学生の足下を見てタダ働きを強いる企業、日本企業が磨き上げてきた血と汗の結晶ともいうべき知的財産を掠め取ろうとする巨大IT企業、そして待機児童ゼロ目標に隠れて助成金を野放図にばらまく内閣府、安倍政権と、その助成金に群がる魑魅魍魎。

「労働」の周辺には怪しい物の怪たちが跳梁跋扈しているようです。


メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。