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全力1分の自転車こぎの運動効果が抜群なワケ

超短時間の運動だけで効果が得られる「HIIT」のメカニズムとは?

 

45分間 軽い運動をするのに匹敵する!

川田 浩志 : 東海大学医学部内科教授(血液内科学)、医学博士
2019年08月03日

健康診断のたびに医師から「定期的に運動しなさい」といわれているのに、面倒くさくてなかなかスイッチが入らない――そんな人も少なくないのでは。運動が健康にいいことはわかっていても、時間を捻出するのがなかなか難しいという声もあります。そこで注目されているのが、1日たった数分という超短時間でできるHIIT(ヒット)です。

近年話題となっているこのトレーニングはいったいどんな運動法なのか、本当に効果があるのか、医師であり科学者でもある『世界一効率がいい 最高の運動』著者の川田浩志氏に聞いてみました。

医師が「運動は万能薬である」と言うわけ

 先日、ある宴席で同世代の友人がこう言いました。

「人生100年時代だってさ。老後40年、何をしよう? 学生時代のバンドを再結成してプロを目指そうかな」
大きくなったお腹をポリポリかきながら笑う彼。
私は医学研究の現場にいるので、医療技術が日々進歩していることを誰よりも実感しています。平均寿命もきっと延びるでしょう。
長生きできるということは喜ぶべきことかもしれません。ただ、医師として少し気になるのは、その100年がはたして健康であるかどうかです。そう、大切なのは「平均寿命」ではなく「健康寿命」なのです。
健康寿命を延ばす秘訣は、基本的に2つしかありません。それは、バランスのよい食事をとり、適度な運動を習慣付けること。シンプルですが、これが長生きの最強テクニックなのです。
医学の世界ではしばしば「運動は万能薬である」という表現が使われます。定期的な運動習慣がもたらす効用は多岐にわたりますが、ここでは日本人の死因第1位でもある「がんと運動の罹患率の関係」に注目してみましょう。
国立がん研究センターのデータによると、日本人の半数以上は生涯でがんにかかります
国立がん研究センターがん対策情報センターの『図説 国民衛生の動向2018/2019』によると、男性は62%とやや高く、女性は46%となっています。
運動はこうしたがんの罹患率を有意に低下させることがわかっています。
144万人のデータをもとに、運動習慣とがんの罹患リスクの関係を調査した2016年の研究データによると、中等度以上の運動を習慣にしている人は、ほとんど運動しない人に比べて、次の図の13種類ものがんにかかるリスクが有意に低下するという結果が得られているのです。


「正しい運動」と世界中の医師が効果を認めるHIIT

 「そりゃ、運動したほうがいいことはわかっているよ。でも、まとまった時間が取れなくて……」

という声も聞こえてきます。確かに、現代人にとって「忙しさ」は大きなネックです。
厚生労働省の2016年のデータによると、運動習慣者の割合が最も少ないのが、男性では30代で18.4%。40代も低くて20.3%と、日ごろ運動しているのは5人に1人ほど。女性はさらに少ない傾向にあり、20代、30代は10%(10人に1人)にも満たず、40代でも13.4%にとどまっています。
2015年に内閣府が行った調査結果を見ると、直近1年間に運動をしなかった人が最も多く掲げている理由は、「仕事(家事・育児を含む)が忙しくて時間がないから(42.6%)」がダントツです。
そこで近年、世界中の医師が注目しているのが、自宅でもできるたった数分ほどの運動で、ダイエット効果と筋トレ効果が同時に得られ、血糖値やコレステロール値、血圧の改善や内臓脂肪と皮下脂肪の減少につながる運動法、「HIIT」なのです。
HIITとは、「高強度(HighIntensity)の負荷のかかる運動と休憩を短い間隔(Interval)で繰り返すトレーニング(Training」のことで、「有酸素運動」と「無酸素運動」両方の運動効果が得られます。
「初めて聞いた」という方や「名前は聞いたことがあるけれどよく知らない」という方のために、このHIITについて少しご説明しましょう。
今から100年以上前に、すでに、オリンピックに出場するようなトップレベルの長距離選手が「全速力のダッシュを何回か繰り返す」というHIITのようなトレーニングを実践していたという記述が残っています。
ただ、当時は科学的な証拠に基づいて行っていたというよりは、「こうしたトレーニングを続けていると心肺機能が上がる(=持久力がアップする)」と、経験上で気づいて、運動メニューに取り入れていったと思われます。
1970年代あたりから細々とHIITの科学的なメカニズムが研究され続けていましたが、その風向きが大きく変わるきっかけを作ったのは、実はここ日本。1990年代に立命館大学の田畑泉教授が考案したアスリート向けのHIITメニュー「タバタトレーニング」を、スピードスケートで金メダルを取った清水宏保選手が練習に採用していたことで知られるようになり、2000年代からは世界中のアスリートのトレーニングメニューに取り入れられていきました。
そしてここ数年で、HIITは医療現場にも取り入れられるようになりました。一般の人の健康促進や病気予防、血糖値改善、さらには心臓病など大きな病気を患ったあとの心肺機能のリハビリ手段としての効果につながるという科学的なエビデンスが、この2~3年で、文字通り「爆発的に」出てきたことで、「科学的に正しい運動」として世界中の医師から注目されるようになってきたのです。

たった1分のHIITで「45分の軽い運動」と同じ効果

 では実際にHIITで行う運動についてみてみましょう。さまざまな種類がありますが、主なものを挙げてみます。

   屋内の場合:高速スクワット、高速バーピー、高速ジャンピングジャックなど
     屋外の場合:短距離ダッシュなど
     ジムの場合:ランニングマシン、エアロバイク、ローイングエルゴメーター(ボート型)など
これらの組み合わせで、無数の運動メニューを組むことができますが、一例として、ここでは、データをより正確に収集しやすい「エアロバイク」を使ったトレーニングをご紹介しましょう。

<エアロバイクを使ったトレーニング>
    ① ウォームアップ2分行う。
    ② 負荷のかかったペダルを全力で20秒間こぐ。
    ③ 2分の休憩を取る。
    ④ ②と③を繰り返し、計 3セット行う。
    ⑤ クールダウンを3分行う。
全力とはいえ20秒ですから、体力的にも時間的にも「できそうだ」と感じる方も多いのではないでしょうか。ウォームアップとクールダウンを含めて12分で運動が終わるなら、会社の近くのジムに入会して昼休みにHIITを行うという選択肢も考えられるでしょう。
このトレーニングは、実質的には「20秒×3回」の「たった1分」ほどしか運動をしていません。

しかし、これだけで「45分の軽い運動」と同様の効果が得られることがわかっています。

監察結果では同等の効果があった

この図は、最大心拍数が70%を超えないレベルで45分間、エアロバイクのペダルをこぎ続けることを週3回行う「通常の運動グループ」と、先述のHIITメニューを週3回行う「HIITグループ」「運動を行わないグループ」の3つのグループに分け、12週間での変化を観察したものです。
結果、通常のトレーニングを行ったグループとHIITを行ったグループでは、同等の健康増進効果(最大酸素摂取量の増加とミトコンドリアの増加)があることがわかるでしょう。
いまやHIITは、病気を患った人のリハビリにも使われています。2018年に行われた調査では、心筋梗塞後のリハビリでHIITと中等度の運動(ジョギングなど)の効果を比較した結果、HIITは心機能の改善だけではなく、メンタルや活動性の回復にも、より効果的であることがわかっています。
ただ、HIITの効果はわかっても、気になるのはリスクです。当然ながら「安全性はどうなのか?」と不安になる方もいるのではないでしょうか。
結論からいうと、近年のHIITの安全性に関する多くの研究結果を踏まえ、心臓病や代謝系の病気のリスクのある人にとっても、運動のなかでHIITがとくに危険ということはないと考えられます
もちろん、何かしらの持病を抱えていらっしゃる方は医師の指導のもとで運動を行う必要があることはいうまでもないでしょう。前述のリハビリでのHIITも、専用施設において徹底した監視と指導のもと行われたものです。


週2回からでも十分な効果あり

 また、健康な方であったとしても高強度の運動を長時間続けることは危険が伴います。体を負傷したり、必要以上に心臓に負荷をかけてしまうリスクがあります。

HIITトレーニングを行う頻度については、運動習慣のない方はあまり無理をせず、最初のうちは週2回で十分です。すると徐々に慣れてきますので、週3~4回に増やしていってみましょう。
なかには週末しか時間が取れないという方もいらっしゃるでしょうが、筋肉の回復や疲労からの回復を考えると、土日で連続して行うのはお勧めしません。
HIITが重視するのは短時間における運動強度で、「運動の量」ではなく「運動の密度」です。「トータルの運動量」は重要ではなく、むしろトータルの運動量を抑えつつ、高い効果を得ることがHIITの目的ですから、無理なく効率的に実践されてください。
多くの人が、この効率的な運動によって健康で長生きできること、それが私の望みです。みなさんも、ぜひ効率的なこのトレーニングを生活に取り入れてみてください。


ほんの3分!脂肪が燃え続ける秘密の「運動法」

運動後も脂肪が燃え続ける「アフターバーン効果」とは?

医学界とスポーツ界が注目するHIITの秘密

川田 浩志 : 東海大学医学部内科教授(血液内科学)、医学博士
2019年08月11日

梅雨明けしたと思ったら、あっという間に8月。「今からでも急いでダイエットしたい」「でも時間がない」という人たちに最適なのが「HIIT(ヒット)」です。1日たった160秒ほどの運動で、脂肪燃焼と筋肉量アップが同時に叶うという最新トレーニングについて、医師であり科学者でもある川田浩志氏に聞きました。

なぜ数分で効果があるのか、そのヒミツは、運動後も脂肪が燃え続ける「アフターバーン効果」にあるといいます。


時間のない現代人にぴったりの効率のいい運動法

近年、世界の医療界、プロスポーツ界を中心に注目を集めている「HIIT(ヒット)」という最新のトレーニング。フィットネスクラブやリハビリ施設などでも取り入れられるようになっているので、ご存じの方も増えてきているかもしれません。
上述の記事でも詳しくご紹介しましたが、このHIITがほかの運動とどう違うのかというと、週に2、3回、1回たった数分程度の運動をするだけで、ダイエット効果や筋トレ効果、健康効果が表れること。つまり、「圧倒的に短時間で大きな効果が期待できる」からです。
科学的なエビデンスも多くあり、先述したように、リハビリ施設でも導入されているので、安全な運動であることも折り紙付きです。
このHIITのやり方を簡単に説明すれば、文字どおり「高強度(High Intensity)の負荷のかかる運動と休憩を短い間隔(Interval)で繰り返すトレーニング方法(Training)」ということです。
つまり、数十秒ほど全力(もしくは全力に近い力)で動き、ちょっと休憩して、再び全力で動き、休憩する……ということを数セット繰り返すのです。
このトレーニングに適した運動はたくさんあり、例えばダッシュでもいいですし、スクワットやバーピー、ジムならランニングマシンや適切な負荷をかけたエアロバイクなどでもできます。
時間のない現代人にとって、HIITは実に効率のいい運動法だといえるでしょう。
「でもちょっと待って、有酸素運動は20分以上続けないと脂肪燃焼効果が得られないってよく聞くけど?」
という疑問を持つ人もいるかもしれません。確かに、ウォーキングやランニングなら30分~1時間ほど続けなければ効果が出ないイメージがあります。
しかし、HIITには、ある大きな特長があるのです。それが、「アフターバーン効果」。
これは、「EPOC(excess post-exercise oxygen consumption)効果」とも呼ばれるもので、簡単にいうと、運動を終えた後でも普段より酸素摂取量が増えていて、エネルギー産生が続く状態のことです。しかもその際、エネルギー源として脂肪が優先的に使われます。つまり、運動後、休憩中も寝ている間も脂肪が燃え続けるということです。
このアフターバーン効果はちょっとした運動では十分得られません。EPOC効果は最大酸素摂取量の50~60%以上の運動強度で、運動するほど増加し、運動後3~14時間、場合によっては24時間程度も持続することがわかっています。

たった160秒間の運動で、就寝中も脂肪が燃え続ける!

 

2017年に発表された研究結果を紹介しましょう。これは、HIITとアフターバーン効果の関係を調べたものです。

この調査研究では18~35歳の男性をHIITグループ(20秒間のオールアウトのトレッドミル・ランニング(=全力ダッシュ)と10秒の休憩を8セット実施)と持続運動グループ(最大心拍数の90~95%の負荷で30分間、トレッドミル・ランニング)に分けました。運動後の酸素摂取量とエネルギー消費量をグラフにしたのが上の図です。
HIITグループは、「20秒間の全力ダッシュ×8セット」ですから、実質の運動時間はたったの160秒ということになります。
それに比べ、持続運動グループは「最大心拍数の90~95%の負荷で30分間、トレッドミル・ランニング」というかなりキツい持続運動です。
それにもかかわらず、HIIT群は持続運動群と比べていずれの値も高く維持されており、持続運動よりもHIITのほうが運動後にエネルギーを消費していることがわかります。
このアフターバーン効果は、HIITのような運動強度の高い運動ほど長く続くことがわかっています。
つまり、例えば朝にHIITを行えば、少なくとも午前中は体がエネルギーを消費しやすい状態(脂肪を燃焼しやすい状態)が続くということです。運動時間の短いHIITに脂肪燃焼効果があるのは、こうした運動後の体の変化・反応があるからなのです。


「内臓脂肪」と「お腹周りの皮下脂肪」にダブル効果

 さらに、「脂肪」の減少効果だけを比較すると、ジョギングよりもHIITのほうが効果が高いこともわかっています。

とくに、中高年以降気になる「お腹周りの脂肪」と「内臓脂肪」を減らすのに効果的です。
体重減少効果を見るとジョギングなどの中等度の持続的運動と同じくらいなのですが、その理由は、HIITを続けていると脂肪が減っていくと同時に、筋肉もつくからです。
一度でも本気でダイエットや筋トレをしたことがある方なら、「脂肪を落としつつ、筋肉をつける」ということがいかに大変なことかご存じでしょう。
専用の器具がそろったジムに行ったとしても、最初の30分くらいはトレッドミルで有酸素運動をして(脂肪を燃やすことと基礎代謝アップが目的)、そのあと筋トレをするといった手間がかかります。
ですが、HIITは「有酸素運動」と「筋トレ」の2つを同時にできるトレーニングなので、脂肪減少と筋肉量アップがいっぺんに叶うのです。
HIITと中等度の持続運動の脂肪減少効果を比較した調査研究の結果もあります。
この調査では45人の若い女性(20歳前後、BMI値23前後)に被験者になってもらい、次の条件で「HIIT」「持続的な運動」「普段通り」の3群に分け、15週間後の脂肪量を計測しました。

【HIIT】    自転車エルゴメーターで「オールアウト(全力)で8秒こぎ、12秒ゆっくりこいでリカバリー」を1セットとして、これを60セット(計20分間)。週3回実施。

 

【持続的な運動自転車エルゴメーターで最大酸素摂取量の60%の運動強度でこぎ続ける。最初は10~20分間から始め、徐々に運動時間を延ばして40分間。週3回実施。

 

【普段通り】  できるだけ日常の活動性を変えずに15週間過ごす。

 


いずれもHIITがほかのグループと比べて有意に減少

 その結果、グラフからも明らかなように、体全体の総脂肪量とお腹周りの脂肪量のいずれも、HIITがほかのグループと比べて有意に減りました。ただし、この論文の結果だけを見て「HIITは痩せて、持続的な運動は痩せない」とはいえません。おそらくこの研究で持続的な運動を行ったグループが痩せなかったのは(むしろ脂肪が増えたのは)、負荷が軽すぎたせいではないかとも推論できます。 

それはともかくここでお伝えしたいのは、「HIITには優れたダイエット効果がある。おまけにHIITはより短時間の運動で済む」ということです。 

HIITを続けていれば、確実に脂肪が筋肉に入れ替わっていきます。ですから2、3カ月続ければ明らかにシルエットが変わります。仮に体重は同じだとしても、体は筋肉質になり、引き締まるのです。 

脂肪だけを減らすダイエットと、脂肪を減らして筋肉をつけるダイエットでは雲泥の差があります。 

短時間だから挫折しないで続けられる

 見た目が変わることも大きなモチベーションになるかと思いますが、それよりも大きな意味を持つのは、「筋肉がつくことで、リバウンドしにくい体」が手に入ることです。 

筋肉量が増えると基礎代謝が上がります。そうすると、栄養分や酸素といった、体内に取り込まれた生産資源を無駄にしなくなります。肥満は、工場で使われなかった余剰な栄養分が原因ですから、HIITで筋肉をつけることで、同じ食事量を食べても体につきにくくなるわけです。 

ちなみに、HIITを行うことで食欲が抑えられる効果もあることがわかっています。もともと激しい運動をすると血中乳酸値と血糖値が上昇して、食欲が低下することはわかっていましたが、それに加えてHIITを行うと、食欲を刺激するグレリンという、胃で産生されるホルモンの濃度が下がることも判明しているのです。 

また、「家庭でできる」「短時間で済む」というところも途中で挫折しにくいポイントでしょう。実際、かつて出勤前のジョギングにチャレンジしたものの、「早起きがツラい」という理由で運動を挫折した私の知り合いにHIITを勧めたところ、いまだに続けられているそうです。もちろん、私自身も長年続けています。「太っているから運動がキツい……」という肥満体型の人でも、HIITなら体が悲鳴を上げる前に短時間でサクッと終わるため、無理なく続けられるでしょう。
季節柄、一時的に痩せたり筋肉をつけたりすることを目標にするのもよいのですが、せっかく運動をするなら「健康維持」を最上位の目的としてもらいたい、というのが医師としての本音です。
運動は続けることに意味がありますから、ぜひ、みなさんにも、歯みがきなどの生活習慣のように、日々の生活にHIITを取り入れてほしいと思っています。


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