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適材適所で見極めたいAI活用

今回は、過去の記事からのご紹介です♪ 

石井智宏(モビルス代表取締役社長)

 AIによる営業支援、マーケティング、バックオフィスの支援ーー。業務の効率化が期待できる様々なAIソリューションが世に出ています。

それだけビジネスの現場において、効率化などの課題解決は急務とされているのでしょう。AI製品の展示会には3日間で4万人以上が足を運ぶというのもうなずける話です。
さまざまな可能性があるAIソリューションですが、中にはAIによって増える業務もあることをご存知でしょうか。

情報不足のまま検討を進めてしまうことほどもったいないことはありません。ここ2〜3年で導入が加速している、チャットボットを例にお伝えします。


「機械学習」と「ルールベース」の違い

 チャットボットのトレンドは2016年頃から始まりました。

銀行やメーカー、小売りなどでは、これまで顧客からのFAQに対して、電話で対応したり、「よくあるご質問」ページをサイト上に用意するなどして対応してきましたが、この業務をチャットボットに置き換えようとする動きが活発になっています。背景には、こんな課題があります。
 「FAQページがあるのに電話が絶えない」
 「同じ問い合わせを何度も受ける」
 「対応できる人材の確保が難しい」

 こうした課題の救世主としてチャットボットは注目されてきました。

 「チャット」とは、PCやスマートフォンなどの画面上でのテキストコミュニケーション、「ボット」はロボットの略。

ですから、チャットボットを簡単に言えば、人間ではなくプログラムがコミュニケーションを自動で行うことを指します。

使う人のインターフェースはPCとは限りません。LINEを通じてチャットボットのサービスを展開するケースもたくさんあります。
 実はこうしたチャットボットは業務の効率化に貢献するだけではなく、「これまでと違う客層との接点をもてた」などという効果もあるようです。今や大企業から個人事業主まで、問い合わせにかかる工数を減らすためチャットボットの導入が進んでいます。


 しかし、実はすべてのチャットボットに昨今のAIが得意とする「機械学習」が組み込まれているとは限りません。「機械学習型」に対して、「ルールベース型」というものが存在します。この2つの違いをご存知でしょうか。
 ルールベース型のチャットボットとは、チャットボットの作り手が設定したルール通りに応答するもの。「A」と入力されたら「A'」と返答する。「こんにちは」と入力されたら「こんにちは!」と返答する。あくまで定められたルールに則った動作をし、こちらが想定しない動作はしません。


 一方、機械学習型のチャットボットは、何を聞かれているかを統計的に判断し、適した回答を算出する方法をとります。

ここで、冒頭でふれた「AIを利用することによって増える業務」が関連してきます。
 先ほど「統計的に判断し」と言いましたが、そうさせるためにはしかるべき量のデータが必要です。それを「教師データ」と呼びます。機械学習するAIはこの教師データを材料に、適した判断をするための学習をします。データの用意、学習、データの修正、再学習。この繰り返しをチューニングと呼びますが、この作業はもちろん人間が行います。


 一概にチャットボットと言ってもこのような種類が存在しますし、効率化が目的であっても新たに発生する作業もあります。

しかし、中にはこんな理解をされている方と出会うことも少なくありません。
 「機械学習によりAIが自動で賢くなる」
 「AIがなんでも答えてくれる」
 「すぐに始められる」
 果たしてチャットボットとは、AIが機械学習により自動で賢くなってくれるものなのでしょうか。簡単に導入できるものなのでしょうか。残念ながら、そうではありません。知っている方からすれば当たり前のことかもしれませんが、AIの裾野が大企業から中小企業まで急拡大しつつある現在、運用の実状を伝えることが追い付いていないのも現実です。与えるデータの量・質によってAIの精度も変わりますから、機械学習とはまさにわが子を育てるように面倒を見る必要があるのです。

これが見事に整備されていると、「あっぱれ!」と言われるチャットボットが誕生します。

しかし、企業の中にはこの重要なメンテナンスができず、サービスを中断してしまうケースもあると聞きます。

ルールベース型による圧倒的効率化

 AIとは機械学習があたりまえに組み込まれているわけではなく、しかも育てることが必要だとお伝えしました。とはいえ、機械学習か、そうでないか。

一見、機械学習をするAIの方が優れているように聞こえそうです。実際はどうなのでしょうか。

 ここでご紹介したいのが動物保険のアニコム損保のLINE公式アカウント「アニコム」。

このアカウントでは保険金請求の申し込み、そして加入手続きまでもLINE上のチャットボットで完結することができます。なんとこのサービス、現時点で機械学習は利用していません

よく作りこまれたルールベース型のチャットボットで成り立っています。

 自治体でも、チャットボットを利用した住民票の取得申請申し込みサービスが始まっています。

こちらも、もともとは窓口に足を運び、自分の手で用紙に記入し、職員が処理をしていたもの。

ルールベース型のチャットボットは、煩雑な作業をシンプルにすることを得意としています
 こうした業務をシンプルに効率化してくれるチャットボットですが、そもそも言葉から連想する「会話」ですらないことに驚かれましたか。ルールベース型のチャットボットは、こうした手続きなどのフローが固定している場合に大変活躍します。もしかしたら、皆さんの業務やサービスの中にも、機械学習を使わずしてより多くの人が喜ぶ設計に作り替えられるものがあるかもしれません。

 

機械学習型の「あっぱれ!」な適所

 それでは、機械学習型チャットボットの「あっぱれ!」な適所はどこでしょうか。
 一例は、墨田区の「ごみ分別案内ボット」です。

このチャットボットでは、捨てたいものの名称を入力すると、分別方法が返ってきます。利用者として便利なのは、「自転車」と入力しても「じてんしゃ」と入力しても「粗大ごみです、捨て方はこちら」と、正しい答えが返ってくる点です。

これは、言葉の“表記ゆれ”に強い機械学習型チャットボットならではの利便性です。
 それに、なんと言っても数あるゴミの項目の中からウェブサイトを見て探すのは大変です。自分が捨てたいものが「デスクライト」だと思って、いくらサイト内を探しても、「電気スタンド」という項目を見ない限りいつまで経っても分別方法が分からない……。チャットボットなら、そうした呼び名の違いも(結局は人が設定しているのですが)理解し、回答してくれます。
 まとめれば、AI型チャットボットは表記ゆれが想定される問い合わせ対応などに適していると言えそうです。「入会」と「加入」、「送料」と「配送料」など、幅広いサービスの問い合わせで活用されているのがこうした理由からです。


“適材適所”で最大限の効果を

 機械学習型チャットボットは表記ゆれが想定される問い合わせ対応などで、ルールベース型のチャットボットはフローが固定されている業務でそれぞれ効果を発揮しそうです。もちろん、ルールベースか機械学習か、どちらかしか選べないことはありません。

まずはルールベースで問い合わせ内容を絞り込み、そのあと一問一答形式で答える機械学習型のチャットボットに切り替える、といった組み合わせも可能です。

むしろ、組み合わせることでより顧客体験の向上につながるようなチャットボットが生まれるかもしれません。
 読者の皆さんが、いま改善しようとしている業務は、機械学習が必要そうでしょうか。ルールベースと組み合わせて顧客体験を向上できそうでしょうか。

ぜひ、“適材適所”で導入を成功させましょう。

 

いかがでしたか…??   AIについて、少しでも皆さんの理解が深まれば、うれしい限りです ♪ 


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