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参院選、山本太郎「れいわ新選組」の人気は本物か?


 

いよいよ21日に迫った参院選。自公優勢が伝えられる中、山本太郎氏率いるれいわ新選組」の勢いが注目されています。

若者を中心に支持を集める同党は、今回の選挙で「驚くべき結果」を出すことができるのでしょうか。

元全国紙社会部記者の新 恭さんが『国家権力&メディア一刀両断』で、その可能性を探っています。

 

「若者よ、選挙に行くな」

 

「年金が破綻する?関係ないわ。だって私は貰えているもん」「でもあなたたちは選挙には行かない」

 「だから私たちが政治を動かしているの」

 「私たちは選挙に行く」

 

年配の人たちがそう言い切るネット動画   逆説的なセリフが秀逸だ。

 お笑いタレント「たかまつなな」さんのチャンネル。

選挙権を使わないで損するのはあなたたち若者だよ、という投票呼びかけだが、2018年のアメリカ連邦議会中間選挙で登場したキャンペーンのマネらしい。

非正規雇用、ブラック労働、低賃金で心身をすり減らす若年層に、政治への不信、不満がマグマのようにたまっているのは想像に難くない。
それなのに、選挙への関心が一向に高まる様子がうかがえないのは、なぜなのか。
2017年10月の衆院選では、全体の投票率が53.68%で、20歳代はわずか33.85%30歳代でも44.75%だった。
その前年の参院選も傾向はほぼ同じ。全体は54.7%だが、20歳代は35.6%、30歳代は44.24%だ。
この年、集団的自衛権の行使容認に反対する学生グループ「SEALDs」を中心に若者の政治参加の機運が盛り上がっていたにもかかわらず、である。
とはいえ、投票率が低迷しているのは、若者だけのせいではない。全ての年代で“虚無感”が広がっている。

政権交代への期待が高まった2009年衆院選の投票率は69%をこえたが、民主党政権の自滅は、社会の大きなトラウマとなって残った。

自民党は嫌だが、野党に政権交代しても、どうにもならない、と。
加えて、日本の選挙をつまらなくしている既得権構造がある。世襲候補者が今回も17人出馬した。その6割が自民党だ。「

地盤」「看板」「鞄」を相続できる身分が最初からアドバンテージを握っている。シラケるのも無理はない。
日本を覆うこの空気が第二次安倍政権を利してきた。組織選挙を繰り広げる自公両党にとって、近年の国政選挙で続く低投票率はこの上なく都合がいい。

今度の選挙もそうであるよう願っていることだろう。
だが、自公の思惑通りにさせたら、本当にこの国の民主主義は廃る。野党連合の頑張りで、浮動票を掘り起こし、“安倍独裁”を阻止する。

政治のバランスを取り戻す基本路線はそれしかない。
さてその上で、異色の候補者集団に注目してみたい。山本太郎氏が一人で立ち上げ、10人の候補者を揃えた「れいわ新選組」。
どこへ行っても驚くほどの数の老若男女を集め、熱量は日々上昇している。なぜ、人気があるのか。
予定調和がまかり通る政治の現場。山本氏は「空気を読まない」と宣言し、出れば当選確実の東京選挙区を捨てて、比例区の三番手に身を置きかえた。

落選のリスクをものともしない勇断に共感が集まったのは間違いない。
自民党の「合区」対策と思われた比例区の「特定枠」を逆手に取って、選挙戦略を組み立てたのも、面白い。
2016年の前回参院選から「合区」が導入された「鳥取・島根」と「徳島・高知」両選挙区。

2013年に旧選挙区で4議席を獲得した自民党は、合区で選挙区からはじき出される自民党候補者を救済する奥の手として、優先的に当選させる比例区の「特定枠」をひねり出し、公選法改正案を通過させた。
2013年の参院選、東京選挙区で67万票を集めて当選した山本氏は今回、比例区に移った。彼が東京選挙区に出馬すると、比例区の得票が多く見込めず、最悪の場合、山本氏一人の当選になってしまう。それでは、これまでと変わらない。
比例区なら、党の得票数に応じて議席が配分されるので、山本氏が出馬し全国的知名度で大量得票すれば複数名の当選も可能だ。
そこで比例区「特定枠」に難病ALS患者、舩後靖彦氏と重度障害者、木村英子氏をあてたのである。ただし、いくら「山本太郎」と書かれた票を集めようとも、「特定枠」の二人が優先されるため、山本氏自身が当選するためのハードルはきわめて高くなった。

自身が当選するには少なくとも300万票が必要と山本氏は支援を呼びかけている。
小沢一郎氏の自由党が国民民主党と合流したのを機に、山本氏は一人で「れいわ新選組」を旗揚げした。選挙のための寄付を募ると、みるみる資金が集まってきた。

これまでに寄せられた額は驚くなかれ約3億40万円(2019年7月12日時点)。自らを含め10人の候補者を立てることができたのも、そのおかげだ。
東京選挙区には沖縄の創価学会壮年部、野原善正氏を擁立して、山口那津男公明党代表に真っ向から戦いを挑むかたちにした。
野原氏は7月14日、創価学会本部前で演説。「公明党は自民党と連立を組むうちに権力のうま味に浸り、今や、池田先生の平和への思いを忘れてしまっている。立党の精神に戻ってもらいたい」と訴えた。
マイクを握る山本氏のパフォーマンスは聴衆の心をひきつけている。
「あまりにも壊れすぎている。今のこの国は。2万人の方が自殺されている。自分は胸を張って生きててもいい存在だと、心から自分を肯定できる方って、どれくらい、いますか」
「いつだって言われる。あなたが何の役に立っているのか、会社の役に、社会の役に立っているのかっていうことを、突きつけられる。生産性で人の価値を測るなんて、あまりにもえぐい世の中ですね。だからみんなが生きることを諦めたくなる。それを変えたい」
一人一人が価値を認められる社会に変えたい。理念を無駄のない短いフレーズでテンポよく伝えたあと、ひときわ声をはりあげた。

「それを変えるために選挙があるんじゃないのか!ってことなんですよ」
「れいわ新選組」の政策は究極のバラマキともいえる。奨学金チャラ、全国一律最低賃金1,500円、デフレ脱却給付金一人あたり月3万円…。

しかし、根底にあるのは弱者への目線だ。
財源をどうするんだと当然、突っ込まれる。その答えは「新規国債を発行する」と明快である。
「足りない分野と人々に大胆に、財政出動を行う。生活にカネをまわせば経済成長し、税収が増える」と主張する。ただし、国債発行はインフレ目標2%に到達するまでと、リミットをつけた。
財務省が目をむくだろう。これ以上国の借金を増やし続けたら、国家財政は破たんするという、従来からの論理で多くの経済学者やアナリストから攻撃されるのは必定だ。
山本氏の政策には、MMT(現代貨幣理論)の影響が色濃い。
自国通貨建てで政府がいくら国債を発行し、財源を調達しても、一定のインフレ率以上にならないようにコントロールすれば、財政赤字を気にする必要はないという主張だ。国債を乱発しながらも、インフレにならないどころか、デフレ状態が続く日本でそれが実証されているとして、ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授らが提唱している。主流経済学者や財務当局は異端視しているが、日本でも評論家の中野剛志氏や三橋貴明氏、藤井聡京大教授(前内閣官房参与)らこの理論の信奉者は少なくない。経済学のコペルニクス的転回が起こるのだろうか。
山本氏は、説明を要するMMTへの言及を選挙演説では封印し、儲かっている大企業や富裕層からの税収を増やすと、他の野党に足並みを揃えている。
れいわ新選組の人気がどこまで本物かはわからないが、安倍政治に不満を抱きながら黙してきた層の掘り起こしで、驚くべき結果が出ないとは限らない。
メディアの伝えるところでは、自公優勢は揺るがぬらしい。だが、最終盤の逆転はよくあることだ。

安倍政権のこれ以上の暴走を食い止めるには、野党勢力がこの選挙で予想を超える結果を出して衝撃を与えるしかない。


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