多くの企業でデータサイエンスを活用できない本当のワケ


2019/07/16

 データサイエンティストが21世紀で最もセクシーな職業といわれて7年近い。その間にデータ活用を武器にサービスを成功させた企業はいくつも現れたが、国内の多くの企業ではこれからという状況だろう。その原因はデータサイエンティストといったプロフェッショナルの不足、というのがこれまでの定説だ。しかし、果たしてそれだけだろうか。

本稿では、企業がデータサイエンスを活用できない原因を改めて考えるとともに、その対策などを述べる。


データサイエンス人材を取り巻く概況
 日本において25万人不足するとも言われるデータサイエンティスト人材。現在の中途採用市場に目を向けると、事業会社、データ分析専業企業、コンサルティングファーム、SIerなど、多種多様な企業が採用活動を強化しており、完全なる売り手市場である。そのため、昨今はデータサイエンティストへのキャリアチェンジを考える人材も多い。
 彼らの多くは、データサイエンスを学ぶためのオンライン講座(Coursera、Udacity、Udemyなど)や、企業が提供するデータサイエンティスト育成プログラムを活用してスキルを獲得している。最近では総務省統計局が「社会人のためのデータサイエンス入門」を提供するなど、データサイエンスを手軽に学べる機会が増えている。
 また、文部科学省が「数理及びデータサイエンスに係る教育強化」拠点校や、「大学における数理・データサイエンス教育の全国展開」協力校を選定するなど、データサイエンスを学ぶ学部や講座が設立される動きが広まっており、大学教育においてもデータサイエンティスト育成が促進されている。
 今後、データサイエンス人材は年々増加し、数年後には大学から産業界に安定的に人材が輩出されるだろう。併せて、データ分析業務の自動化や、事業部門によるデータ分析のセルフ化が進み、あらかじめ作成・トレーニングされた分析モデルがAPIとして利用可能になるなど、様々な要因によって人材不足は解消に向かっていくに違いない。

 

データサイエンス活用の課題
 では、日本のデータサイエンティスト数が充足されるという前提に立ったとき、日本企業や日本社会におけるデータサイエンス活用は問題なく進むのであろうか。
 データサイエンスやアナリティクスという言葉が認知され始めておおよそ10年となるが、事業におけるデータサイエンス活用が進んでいると自信を持ってYESと言える企業はおそらく少ない。

もちろん、人材不足も大きな要因であろう。しかし、各社が公表する人材数を足すだけでも、日本には数千人規模のデータサイエンティストが存在していることになる。であれば、たとえ部分的だとしても、多くの事業会社でデータサイエンス活用が進んでいて然るべきだ。ただ、実態はそうではないわけだから、単純に人材数の問題ではなく、他にも根本的な問題がある。
 多くの事業会社で、自社の持つデータを活用した業務効率化や新規事業創出を目指し、様々な検討が行われてきた。私が所属するARISE analyticsもデータ分析事業社として、今まで数多くのPoC(Proof of Concept:概念実証)案件を受託し、その中で事業会社の期待値を上回るアウトプットを出してきたと自負している。それにもかかわらず、PoC以降の取り組みに発展する案件はかなり少ない。発注者である事業会社も、その状況を課題に感じてきたはずである。
 昨今、データサイエンス技術を持つベンチャーとの業務提携や資本提携、弊社のように事業会社とコンサルティングファームの合弁会社を設立するといった動きが活発化している。それらは、従来のような受発注の関係ではなく、事業側とデータサイエンティスト側が同じ目線で事業に取り組むことで、データサイエンス活用が進むことを期待したものだと考えられる。

データサイエンス活用促進に対する打ち手
 手前味噌ながら、弊社はKDDIが掲げるデータドリブン経営を推進する役割を担い、経営・事業判断に直結するデータ分析事業を数多く担当し、実績を積み上げてきた。

KDDIでは、トップがデータドリブン経営を実現するという全社目標を掲げている。そして、最も収益インパクトのあるau事業の解約抑止からデータサイエンス活用を試みた。弊社がその推進役を担い、当該領域で成果を出すことで、データサイエンス活用の有用性を示したのである。

その後は、自然と他事業領域に動きが広まり、各事業の中にデータサイエンスが組み込まれる流れができた。
 一方で、他社に目を向けてみると、多くの書籍やカンファレンスを通してデータサイエンスに関する教科書的な知識は十分に得ているものの、実際にどのように推進すればよいか分からない、という声を数多く耳にする。

データサイエンス活用が進まない状況を鑑みると、読者の皆さまも同様の感想をお持ちであろう。
 では、データサイエンス活用が進む企業と、活用が進まずに悩む企業の違いはどこにあるのだろうか。

まず、トップのデータサイエンスに関する理解とコミットメントが大きい要因となる。

トップダウンで推進するにせよ、ボトムアップで推進するにせよ、最終的にトップの決断とコミットメントは必須である。仮に想定期間で成果が出なかった場合に、そこで取り組みを打ち切ると、それまでの投資が無駄になるばかりか、再びデータサイエンス活用に向けた取り組みをする際のハードルが格段に高くなってしまう。

そのため、一度決めた領域で、忍耐強く、信念をもって、結果が出るまでやり切ることが求められる。
 そして、トップがデータサイエンス活用にコミットした後は、事業を担うリーダーの出番である。

データサイエンスは、当然ながらデータがなければ活用できないし、データがあってもデータの質・量が伴わなければ精度の高い分析結果を得ることはできない。また、いくらデータが揃っていても、100%の確率で正しい結果が得られることはない。過去数十年にわたり実施されている選挙速報においても、いまだに「当選確実」から「落選」に当落結果が変わることがあるように、データに基づく分析結果は外れるリスクを常に伴う。

事業を担うリーダーには、こうしたデータサイエンスの特性やリスクを鑑みた上で、活用対象領域を見極め、投資対効果を判断した上で、取り組みを推進することが求められる。

そのようなリーダーをどれだけ育成できるか、それこそがデータサイエンス活用の肝である。


データサイエンス活用を推進するリーダーに必要なスキル
 データサイエンス活用を推進するリーダーとして必要なスキルは、まずデータサイエンスの特性を正しく理解することである。前述の通り、データサイエンスにおいて、確率100%の分析結果を得ることはできない。

データに基づき、より確度の高い事業判断を行うために、データサイエンスを活用するのである。

従来の情報システムにおいては、正しいインプットがあれば確実に正しいアウトプットが得られるため、アウトプットを解釈・判断する必要性はなかった。

しかし、データサイエンスにおいては、どの程度の精度であれば業務に活用するのか、リーダーが自ら意思決定を行う必要がある
 また、データサイエンス活用における業務プロセスを理解するとともに、各業務プロセスにおいてどのように意思決定を行うかを明確にする必要がある。

その点で、PoC案件は非常に重要だ。

データ分析事業社に丸投げするのではなく、事業会社側で意思決定を含めた業務プロセスを確立することが求められる
 さらには、データサイエンスを活用する対象領域の選定も非常に重要である。

複数ある事業課題の中で、改善効果が大きく、データサイエンスが活用できる領域を見極め、どの程度の収益インパクトが見込めるのかを判断する必要がある。

データサイエンスを活用する場合、影響範囲が大きくない業務領域に対するPoCから始め、スモールスタート・クイックウィンを目指すアプローチが一般的だと考えられている。

しかし、そのようなPoC案件では、クイックウィン後の収益インパクトが小さく、投資額に見合わない可能性が高い。

本気でデータサイエンス活用に取り組むのであれば、メイン事業を対象とし、収益インパクトが大きい領域から着手することで、少しの改善で大きな効果を得ることを目指すべきである。 
 では、これらのスキルをどうしたら体系的に身に付けられるのか。

筆者の考えは、MBAと同様で「ケーススタディ」である。

どのような経営・事業課題に対して、データサイエンスを活用する領域をどのように定め、どのようなデータ・分析手法を使い、どのようなアウトプットを出し、どのように事業に活用したのか、そしてその中でリーダーがどのように意思決定を行ったかを理解する。

多くのケースをインプットし、自分で解釈していくことにより知識として蓄積され、最終的には現場での適切な判断としてアウトプットされるようになるだろう。
 そのためには、産学連携で対応することが望ましい。

前述のとおり、昨今大学教育においてデータサイエンスを学ぶための整備が進んでいる。

その中に、データサイエンスにおける技術面でのスキル育成のみならず、事業に活かすためのリーダーとしてのスキルを身に付けるプログラムも組み込む。そうすることで、リーダーの素養を持った人材が安定的に輩出されることが期待できる。

 ただし、当然ながら大学だけで教育コンテンツを作ることや、実際に教育することはできない。

企業が大学教育に入り込み、データサイエンス活用に成功した実事例を提供し、自ら教育を担う必要がある。データサイエンス活用に成功している企業は、日本全体のデータサイエンス活用を促進するために、積極的に情報開示するとともに、人材育成に参画していただきたい。


データサイエンス活用が進んだ未来
 大学でのデータサイエンス人材育成が加速し始めたいま、数年後には、大学教育において体系的に知識を身に付けた人材が安定的に輩出されるようになり、人材数不足は解消され、リーダーの資質を持った人材も充足されていくことだろう。
 もちろん、そのスピード感でよいかというとそうではない。

別の問題が生じてくる。人材が安定的に供給されるまでの数年の間に、テクノロジーを活用したイノベーションが爆発的に進み、多くの日本企業・事業がディスラプト (破壊) されていく可能性は十分にある。

そういったリスクがあることを考慮して、即効性のある打ち手も検討するべきだろう。大学教育への参画と並行して、リーダーを育成する教育プログラムを提供する企業が出てくることを期待したい。
 様々な企業でデータサイエンス活用が進み、新しい事業や新しいサービスが数多く生まれ、日本社会が抱える様々な課題に対してデータに裏付けられた打ち手が進んでいく。

その結果、実社会で起こる事象に対して、様々な角度からデータサイエンスを活用した予測・シミュレーションがなされ、あらかじめ対策を講じられるようになるだろう。

それはすなわち、Society5.0として提唱されるフィジカル空間とサイバー空間の高度な融合の姿だと考えられる。

リーダーの育成は、個社における事業の改革・改善に留まず、Society5.0という日本が掲げる大きな目標につながっていくだろう。


 

NEC 参考図

 

カギは「何のために」「どれを」「どう」分析し「定着」させるか

 ――AI活用を加速させる現実的な道筋とは?

他社との差別化の上で、もはや無視できない存在となっているのが「AI(人工知能)」だ。いま、労働力不足という状況のなかで顧客ニーズの多様化への迅速な対応も求められる製造業では、AIが今までのカイゼン活動をさらに高度化させると期待されている。だがAIはその特性から難題をいくつも抱え、そのことが特に利用経験のない企業にとってはネックとなっている。

「データは意思決定に寄与する経営資産」との考えから、企業ではその価値を引き出すための多様な分析活動が実施されてきたが、人手で行える範囲にはおのずと限界があった。また従来のシステムでは、頻繁に発生する変化に対して、柔軟に対応していくことは容易ではない。それをAIだと日々発生する膨大なデータを継続的に学習することができるので、日々のカイゼン活動や顧客ニーズの変化に合わせ、継続的に判断精度を磨いていくことができる。 だが、AI活用は一筋縄でいくものではない。AIを使いこなすには専門知識を備えたデータサイエンティストが欠かせないが、そうした人材を豊富に抱える企業は現時点では少ない。また、分析精度を高めるにはデータ間のつながり、つまり、どのデータがどこにどれほど影響を与えるかについての深い理解が不可欠なのだが、データサイエンティストは分析の専門家である一方で、分析のために必要な現場業務への理解については必ずしも十分でないのが実情である。とはいえAIが製造業のあらゆる場面に革新をもたらすことは紛れもない事実だ。

その実現に向け、どの業務にAIを適用するのかを見極め、現場の定着化までどう実現できるのか、というAIの実用に向けた課題の克服が急務となっている。



国内民間企業のAI導入率は? 

最も導入が進んでいる業種とそうでない業種は?

矢野経済研究所は、国内民間企業を対象に実施した、AIの導入状況に関する法人アンケート調査の結果概要を発表した。

2018年12月25日

 矢野経済研究所は2018年12月13日、国内民間企業を対象に実施した、AIの導入状況に関する法人アンケート調査の結果概要を発表。

機械学習やディープラーニング、自然言語処理、画像認識、機械翻訳、ロボット、チャットボット、RPAなどの導入状況や業種別の動向について明らかにした。


 

国内の民間企業515社に“AIの導入状況”を聞いた

 国内の民間企業515社に対して“AIの導入状況”を聞いたところ、現時点でAIを「すでに導入している」と回答した比率は全体のわずか2.9%にとどまり、注目度の割に導入率はまだ低いことが分かったという。「実証実験(PoC)を行っている」という回答は5.8%で、導入済みと合計しても8.7%と低い。さらに「関心はあるがまだ特に予定はない」が最多回答で52.2%、「今後も取り組む予定はない」という回答は15.0%を占める結果となった。 

AIの導入率を業種別に見てみると、金融業(n=16)が12.5%と最も高く、プロセス製造業(n=129)が3.9%、加工組立製造業(n=108)3.7%、サービス業(n=141)2.1%と続き、流通業(n=121)が最も低く0.8%。製造業は、全体よりやや高い傾向にあるという。 流通業におけるAI導入率の低さについて、矢野経済研究所は“流通業はITの活用に慎重な企業が多く、IT人材も少ないという実態があるため”とする。しかし、近年、流通業を取り巻く環境は大きく変化しており、特に労働力不足が深刻化。店舗スタッフの雇用難、ベテランスタッフの高齢化や退職増などへの対策が喫緊の課題となっている。 

こうした課題解決に向け、流通業を対象にしたAIソリューションの提供も始まっており、省力化や業務自動化の効果は大きいと期待されている。しかしながら、流通業でのAIの活用は大手企業に集中しており限定的である。今後、中小企業への普及を促進するためには、AIソリューションの低価格化や導入効果の明確な検証が求められると矢野経済研究所は指摘する。



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