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「日本の法人税は世界的に高額」という大嘘


2019.07.02

かねてから、日本の法人税は世界的に見ても高く、税率を下げなければ企業が海外に逃げてしまうなどと言われますが、果たしてそれは真実なのでしょうか。そんな疑問に答えるべく、元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、「法人税のからくり」を徹底検証。

 

「日本の法人税は世界的に高い」というウソ

これまで何度もご紹介してきましたが、消費税が増税とされると、必ずセットのようにして法人税の減税が行われてきました

消費税が導入された1989年、消費税が3%から5%に引き上げられた1997年、消費税が5%から8%に引き上げられた2014年。そのいずれも直後に法人税の引き下げが行われています。

その結果、かつては19兆円もあった法人税収は現在10兆円前後になっています。

現在の消費税の税収は17兆円程度ですので、消費税の半分以上は法人税の減税分の補填に充てられていることになります。
こういうことを言うと、「日本の法人税は世界的に見て高いから、下げられてもいいはず」と反論する人がいます。が、その考えは、財務省のプロパガンダにまんまとひっかかっているのです。

日本の法人税は、「名目上の税率」は非常に高く設定されていますが、「事実上の税率」は驚くほど

低いのです。現在、日本の法人税率は23.2(国税)です。この法人税率は、確かに先進国の中では決して安くはありません。イギリスやドイツの方が低く、アメリカも減税を行っているので日本よりも安くなっています。だからこれを根拠に「日本ではもっと法人税率を引き下げなくてはならない」と主張する御用学者も多いのです。
が、これは「名目の法人税率」の話です。

日本の場合、名目の法人税率は高く設定されていますが、様々な抜け穴があるために、実質の法人税率は著しく低いのです。不思議なことに日本の御用経済学者のほとんどは、この日本の法人税の抜け穴について言及したり、研究したりしている人はほとんどいません。

ただただ名目の法人税率だけを振りかざし、「日本の法人税は高い」と吹聴しているのです。
日本の実質的な法人税率は、本当に驚くほど低いのです。下の数値は、法人統計調査から抽出した日本企業全体の「経常利益」と法人税収を比較したものです。

2013年 経常利益72.7兆円  法人税収10.5兆円  実質法人税率14.4
2015年 経常利益80.9兆円  法人税収10.8兆円  実質法人税率13.3
2017年 経常利益96.3兆円  法人税収12.0兆円  実質法人税率12.5
 経常利益は財務省発表の法人企業統計調査より抽出、法人税収も財務省発表資料より抽出

これらはいずれも、政府が発表しているデータであり、誰でも簡単に確認することができます。

これを見ると、日本企業は経常利益に対して法人税は10%ちょっとしか払っていないことがわかるはずです。現在の日本の法人税の名目税率は23.4%なので、だいたい半分しか払っていないことになります。つまりは、日本の実質的な法人税率は10%ちょっとです。これは先進国では異常に安く、先進国以外の世界的に見ても非常に安い部類です。タックスヘイブンのレベルだといっていいでしょう。中国は「半タックスヘイブン」と言われていますが、だいたい中国と同じくらいの税率なのです。これを見ると、絶対に日本の法人税は高いなどとは言えないはずです。

 

日本の法人税には巨大な抜け穴がある

なぜ日本企業の実質的な法人税率がこれほど低いのかというと、日本の法人税には巨大な抜け穴が存在するからです。しかも、その抜け穴は、大企業にばかり集中しているのです。つまりは、日本では大企業の実質法人税負担率が異常に低いために、法人税収を大幅に引き下げているのです。

大企業の法人税の抜け穴は多々ありますが、代表的なのは2003年に導入された「研究開発費減税」と、2008年に導入された「外国子会社からの受取配当の益金不算入」という制度です。
「研究開発費減税」というのは、簡単に言えば、「試験開発をした企業はその費用の10%分の税金を削減しますよ」という制度です。限度額はその会社の法人税額の20%です。「試験開発のための費用が減税されるのはいいことじゃないか」と思う人も多いはずです。

しかし、この制度には大きな欠陥というか、カラクリがあります。

この研究開発費減税は、実質的には「研究開発費を支出する余裕のある大企業しか受けられない」のです。中小企業も、当然、研究開発を行っていますが、わざわざ別途に研究開発費を出す余裕はなく、日常の経費の中で賄っています。そういう研究開発については、減税の対象にはならないのです。

しかも、研究開発費の範囲が広く設定されているので、製造業の大企業であれば、だいたい受けられるという制度なのです。

つまり、大まかに言えば、この制度は「大企業の法人税を20%下げた」ということです。実際に、この減税を使っているのは、ほとんどが大企業です。試験開発減税は、全体の0.1%にも満たない資本金100億円超の企業への減税額の8割を独占しているのです。
次に「外国子会社からの受取配当の益金不算入」は、どういうことかというと、外国の子会社から配当を受け取った場合、その配当収入は課税対象からはずされる、ということです。
たとえば、ある企業が、外国子会社から1,000億円の配当を受けたとします。この1,000億円の配当収入は、親会社の益金(課税対象)には入れなくていいということなのです。つまり、1,000億円の収入については、無税ということになるのです。
なぜこのような制度があるのか?というと「現地国と日本で二重に課税を防ぐ」という建前で、そういう仕組みになっているのです。

外国子会社からの配当は、現地で税金が源泉徴収されているケースが多いのです。

もともと現地で税金を払っている収入なので、日本では税金を払わなくていい、という理屈です。
が、この制度には巨大な矛盾があります。

というのも、二重課税を防止するという意味ならば、外国で払った税金分だけを控除すればそれで足りるはずです。しかし、この制度では、「外国でいくら税金を払っているかにはかかわらず、配当金の全部を収入に換算しなくていい」ということになっているのです。
だいたい配当金の税金というのは、現在、世界的に非常に安くなっています。

2030%前後です。2030%の税金を引かれているからといって、収入全体を非課税にするのは明らかに不合理だといえます。この制度のおかげで、実質的にほとんどの多国籍企業が大幅に減税になっているのです。

トヨタなどは、この制度ができたおかげで、2008年から5年間も日本の法人税を払わずに済んだのです。トヨタはこの5年間ずっと赤字だったわけではなく、赤字だったのはリーマンショックの影響を受けた2009年と2010年だけです。それ以外の年は大きな黒字を出しています。

考えてみてください。世界中で稼いでいる日本一の大企業が、5年間も日本で法人税を払っていなかったのです。

そんな馬鹿なことがあるか!ということです。こういう馬鹿なことが生じた最大の理由は、「外国子会社からの受取配当の益金不算入」なのです。

これほど税金の抜け穴があるのは先進国では日本だけ

これらの「試験開発減税」や「外国子会社からの受取配当の益金不算入」以外にも、法人税には様々な抜け穴があります。それが、日本の税制を大きく歪めているのです。

日本の税制では「租税特別措置法」という変な法律があります。「租税特別措置法」というのは、当初は税負担が公平になるように、収入が少ない業種などに特別な恩恵を与えるということでつくられたものですが、現実には、大企業や圧力団体を持つ業界が、政治陳情を行い、特権をもらうという制度になってしまっているのです。
この「租税特別措置法」のような制度は、日本以外の先進国には見当たらず、日本特有の制度だといえます。

他の先進国も、一部の人たちに税制の優遇措置を講じるようなことはたまにありますが、日本のように税収に大きく影響するような「特別扱い」はありません。
この結果、日本では、大企業や富裕層の「名目の税率」は世界的に見て非常に高い状態になっているのですが、実質的な税負担率は非常に低い状態になっているのです。

「日本の法人税は世界的に高い」とさんざん吹聴してきた政府の御用学者の方々には、ぜひ「租税特別措置法」の影響までを含めたところでの法人税負担率を語っていただきたいものです。

日本の法人税が実質的に低いことは、日本企業の内部留保金を見てもわかります。

日本企業はバブル崩壊以降に内部留保金を倍増させ446兆円にも達しています。

また日本企業は、保有している手持ち資金(現金預金など)も200兆円近くあるのです。

これは、経済規模から見れば断トツの世界一であり、これほど企業がお金を貯め込んでいる国はほかにないのです。
アメリカの手元資金は日本の1.5倍ありますが、アメリカの経済規模は日本の4倍です。

だから経済規模に換算すると、日本の企業はアメリカ企業の2.5倍の手元資金を持っていることになるのです。

世界一の経済大国であるアメリカ企業の2.5倍の預貯金を日本企業は持っているのです!

だから、本来、増税するのであれば、消費税ではなく、法人税であるべきなのです。


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