中国、重要技術の輸出制限検討


2019年6月11日

日本経済新聞

中国政府がハイテク領域などで独自技術の輸出を制限する制度を検討する。

中国共産党機関紙の人民日報などが9日、政府が近く「国家技術安全管理リスト」と呼ぶ仕組みを設けると報じた。

米国との貿易戦争にからみハイテク摩擦も激しくなるなか、米側を揺さぶる狙いがあるとみられる。
ハイテク摩擦を巡っては中国が最近、電気自動車(EV)の部材などとして不可欠なレアアース(希土類)で新しい輸出管理システムを設ける方向で検討に入ったことが明らかになったばかり。
独自技術を巡る新制度の詳細は明らかでない。世界で競争力を持つ国内の技術をリストアップして研究開発を後押しするほか、国外への輸出を管理、制限する目的があるとみられる。国家事業として力を入れている航空宇宙分野や世界で大きなシェアを持つ鉄道関連などの技術がリストに加わる可能性がありそうだ。
新制度について中国国営の新華社は「特定の国が中国の技術を使い、かえって中国の発展を妨げることを防ぐ」と報じた。人民日報は「重要技術の発展を加速し、強力な『ファイアウオール』を構築する」と解説する一方、「中国の門戸が閉じられ、(他国との)協力の足取りが緩むわけではない」と説明した。
トランプ米政権が次世代通信「5G」分野から中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の排除を狙うなど米中摩擦は軟化の兆しがみえない。通信インフラの整備などに関しては米国の方針に一部の国・地域が同調する動きもみられる。中国はより広範な分野の技術の輸出規制をちらつかせることで、特定分野での中国企業排除を阻止する狙いがありそうだ。


 ハイテク製品に必要不可欠で、一方の国が完全に支配する材料の供給が、米中貿易紛争の新たな火種になりつつある。双方とも、この不均衡を交渉の切り札とみている。
 といっても、米国製マイクロチップと華為技術(ファーウェイ)のことではない。
 中国は別のカードを持っている。磁石から戦闘機までさまざまな生産に使用されるレアアースメタル(希土類金属)だ。実のところ、ランタンやセリウムをはじめ、この17元素の多くはとりわけ希少ではない。しかし、その採掘と加工著しい環境汚染を伴う。そもそも採掘が中国に移った一因もそこにある

 米国の2018年のレアアース輸入額は1億6000万ドル(約173億円)で、その80%が中国産だ。中国政府は現在、2010年に続いて再びレアアースの輸出を禁じる可能性をほのめかしている。これを受け、五鉱稀土(チャイナ・ミンメタルス・レアアース)などレアアース採掘会社の株価が5月初旬に50%近く急騰した。
 中国は、これが米国の軍事やハイテク企業にとって死活問題になりかねないと米交渉官がみなすことを期待している。禁輸は死活問題にはならないだろうが、混乱をもたらす可能性はある。
 米政府にとって朗報は、中国政府の前回の禁輸は首尾よく運ばなかったことだ。価格高騰により、外国資本は他国の採掘場に流れた。

 世界のレアアース生産に占める中国のシェア2010年は100%近くに達していたが、現在は70%前後に下がっている(ただ加工のシェアについては、もっと高い)。前回はハイテク企業が回避策を見いだした。再び価格が高騰すれば、今回も同じように対応策が取られるのは間違いない。
 さらに、米国の需要の多くは戦略的な性質のものではなく、ごくありふれた用途に対するものだ。例えば、レアアースはガソリン精製で触媒として使用されており、昨年の米国の需要の60%が触媒用だ。だが精製業者は大枚をはたくか、触媒を使用せずに済ますことができ、さほど混乱が生じることはない。

 一方、国防総省は代替品を見つけたり、レアアースの使用をやめたりするのは難しいかもしれない。しかし2016年の政府報告書によると、米国のレアアース需要に占める国防総省の割合は約1%だ。とはいえ、企業はやはり価格高騰に備えておいた方がいいかもしれない。2010年の禁輸があまり効果的でなかったのは、中国のレアアース業界が細分化されていたことと、密輸が横行していたためでもある。
 2014年の業界再編と習近平国家主席の権勢拡大により、いずれも状況が変わっている。習政権は石炭と鉄鋼の供給を強制的に抑制している。

したがって、今回は国境をひそかに越えるレアアースは前回ほど多くないと想定しておく方が賢明だ。

(The Wall Street Journal/Nathaniel Taplin)


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