AI導入で女性が職を失うリスクは日本が一番!


岩本晃一 :経済産業研究所/日本生産性本部 上席研究員
2019年6月4日
 *  以下、記事抜粋。 

銀行や自治体でRPA(Robotic Process Automation)導入~非正規の女性が削減対象に

今、日本ではどのようなことが起きているか。
企業では、3種類の職場で、急速にIoT、AIなどデジタル技術の導入が進んでいるが、このうち、女性の雇用に影響が出ているのは、事務部門で進む自動化だ。  AIなどの導入が進む部署の第一は、デジタル技術を用いた新しい製品・サービスやビジネスモデルなどの開発や将来に向けた研究を行っている、いわゆる「研究開発」の部署だ。ただこの部署では、雇用で男女差は一切ない。今、企業は、デジタル分野の研究開発ができる人材が喉から手が出るほど欲しい。それに男女差はない。

第二は、製造業 の現場だ。新しいデジタル技術の導入が進んでいるため、それらの技術を使いこなせる人材、例えば、データエンジニアやデータサイエンティストが強く求められている。なぜなら、今の日本にそうした人材はほとんどいないからである。大学に、データエンジニアやデータサイエンティストを育成する学部学科がないことが大きい。また、生産現場で、デジタル技術が導入されたからといって、人員削減は起きていない。むしろ現状は、現場作業員の負担の軽減、高齢化で不足する人員の補充など、現場にとっても歓迎する形で導入が進んでいる。

影響が出ているのは、RPAなどの導入が進む 事務部門 だ。RPAが代替する業務が、経理処理や帳票業務など高スキルのルーティン業務のため、その業務を担ってきた働き手に大きな影響が出ているのであり、それが主に女性 なのである。RPAによって代替された人のうち正規の一般職は、配置転換などで対応されているが、非正規は雇い止めなどが今後発生してくると予想される。RPA導入により人員削減が進んでいる代表例が、低金利などで業績が苦しい 銀行業界 だ。

3メガバンクは、2020年度の新卒採用を19年度の約2割減にする予定だ。各銀行は、店舗数も減らし、また店舗はデジタル化して人間がいない機械化された店舗を拡大する計画である。こうした人員削減の動きは学生にも敏感に伝わり、かつては人気就職先の1つだったのに、今ではAIやフィンテックに仕事を奪われる代表的な業種として、人気が低下している。
地方自治体 もRPAの積極導入が進められている分野の1つだ。
総務省の調査によれば、2016年4月時点で非正規雇用者数は約64万人であり、2012年度の調査に比べて約4万5000人増えている。
財政が厳しく、経費削減のため臨時・非常勤の職員を増やしているのだが、自治体で働く臨時・非常勤職員のうち女性が約48万人で74・8%を占める。また事務補助職員は約10万人である。今後さらに、自治体がRPAを導入する動きは加速すると予想され、置き換えられて職を失う人の大部分は女性である。

在宅勤務は増えるが多くは低賃金、不安定雇用

 一般にはデジタル技術が発展し、企業に導入が進めば 在宅勤務(テレワーク)が増え、女性にとってメリットが大きいと漠然と考えられている。
 しかし実際は少し違うのではないだろうか。
 デジタル技術が進めば、確かに技術的には在宅勤務はしやすくなる。だが一方で、デジタル技術が進むと、企業の秘密情報 が漏えいしやすくなるため、秘密を守る必要性が高まる。
 このことを考えると、在宅勤務に従事する人数は時代のニーズともに増えるかもしれないが、ある制約の下での増加であり、単純になんでもかんでも在宅勤務にということにはなりそうにない。
 まず、秘密情報を扱う人は、USBやパソコンの持ち込みや持ち出しを禁じられた部屋に出勤し、そこで仕事をするという形態が進むのではないか。
例えば、新商品の開発を行う技術者は、企業の秘密の持ち出しを防ぐために、そうした環境の下で働くことになると予想される。
これら技術者は、必ず機密が守られる空間に出勤して開発に従事することになり、在宅勤務などは考えられない。また男女の区別なく、優秀な才能だけが求められる。
 また、営業などの仕事も、新商品の開発情報ほどではないが、企業の外で機密情報を扱う仕事をする場合は、それなりに制約を受けるだろう。
 一方、漏えいしても構わないような情報を扱う簡単な業務が、外注(アウトソーシング)されたり、在宅勤務に回されたりするだろう。
そのため、在宅勤務簡単な仕事しか扱わなくなり、人数は増えるかもしれないが、賃金は安く、雇用が不安定になるのではないだろうか。
専門的なスキルを持つ一部の女性はフリーランスの在宅勤務で高収入を得るようになり、女性の稼げる仕事の1つになるかもしれない。
しかし子育て中の女性が在宅で仕事をすることが多い現状を考えると、デジタル化が進めば、テレワークが増え、女性にメリットを与えるという単純な図式にはならないと考えられる。
 最近の日本における論調は、AIが導入されれば、女性の働き方がより柔軟化・多様化され、テレワークの機会が増え、女性にとってメリットが大きいという意見が大勢を占める。
 だが、世界の研究ではこれからAIが代替していく「より高スキルのルーティン業務」は女性にとって厳しい雇用環境を生み出し、また在宅勤務もさほど女性にはメリットを与えないというものだ。
 日本ではこれまで長い時間をかけて女性の社会進出が進んできたが、AI時代になって、これが一気に逆戻りする可能性がある。筆者はこの問題を「AI時代のジェンダー問題」と独自に命名している。日本はAIなどの導入で職を失う女性に対する対策を早急に講じなければならいない。
AIが雇用に与える影響をよりきめ細かく研究し、漠然としたイメージや印象だけで物事を進めるのでなく、事実とデータに基づいた科学的な対策を打つ必要がある。


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