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ファーウェイ排除の裏で「漁夫の利」を得る真の勝者は


掲載日時: 2019/05/31

トランプ政権がファーウェイを事実上米国から締め出す行政命令を出したことを受けて、多くの企業が同社との取引停止を発表し、同社は窮地に立たされている。その一方で、漁夫の利を得そうな企業もいるようだ。

先週、Googleが華為技術(ファーウェイ)に対して「Android」のサポートを停止することが報じられ、その後、一時的な猶予が認められることが発表された。それに加えて、Armもファーウェイとの取引を停止する企業群に名を連ね、最後のとどめとなるかもしれない強烈な一撃をお見舞いした。これらのことは、米国と中国の貿易戦争が悪化した場合、テクノロジー業界にどんな影響が及ぶか、という警告とみなすべきだろう。

 米大統領執務室からは脅し文句や大げさな言葉が発せられているが、事実は単純だ。両国間のサプライチェーンがあまりにも複雑に絡み合っているため、どちらの国も大きな痛みを感じずにそのもつれを解くことはできない、ということである。
 皆さんがどんなデバイスで本記事を読んでいるにせよ、それは米国企業の部品と知的財産を使って、中国で組み立てられたものである可能性が高い。
 設計と製造に必要なリードタイムを考えれば、このエコシステムの分離を求める米政府の命令は、実施までの期間を月単位ではなく年単位で考えるべきだろう。
 ファーウェイをソフトウェアやハードウェア、知的財産から切り離せば、多くの企業が倒産してしまうはずだ。

そのような命令から立ち直る能力を備える企業があるとしたら、それはファーウェイだろう。

 中国での成功だけを見ても、ファーウェイは世界最大級のメーカーの1つだ。

今回のような事態に備えて、秘密裏に代替ソフトウェアの開発も進めてきた。同社には、HiSiliconというチップ部門もある。
 今回の騒動の結果として、ファーウェイがAndroidを利用できなくなった場合、失う影響が最も大きいのは「Google Play」ストアだろう。

しかし、ファーウェイがすぐに独自のストアを開設したり、中国のほかのスマートフォンメーカーと協力して国家主義的な代替のストアを作り出したりすることは、想像に難くない。
 Androidの世界には、通常のAndroidのほかに、それとは大きく異なる中国製のバージョン(例えば、「ColorOS」)も存在する。

私たちが今、目の当たりにしているのは、ホワイトハウスによってもたらされたAndroidの分離なのかもしれない。
 重要なのは、ファーウェイには従業員以外の株主がいないため、証券取引所への説明責任なしに、姿を消す、自社の利益のために行動する、組織を刷新するといった厳しい決断を下せるということだ。Armのチップ設計を利用できなくなって、独自チップの開発に着手する必要が生じた場合、これは極めて重要なポイントになってくる。
 米政府が中国政府との取引を有利に運ぶために禁止措置を断念した場合、すべての禁止措置が無駄に終わる可能性もある。
 これまで言及していなかったが、確実にこの問題に強い関心を持っており、現状を見て笑っているのがサムスンだろう。ソウルで蜜の味を感じているに違いない。
 サムスンはGoogleのモバイルOSを利用してスマートフォン分野で優位に立ったにもかかわらず、サムスンとGoogleは、よく言っても崩壊した結婚生活を続けているような、友人を装った敵対者同士だ。

世界第2位のAndroidスマートフォンメーカーであるファーウェイが一定期間無力化された場合、それがサムスンの利益になることは間違いない。
  だが、サムスンが得られるかもしれないものは、スマートフォン分野での優位だけではない。同社は世界の主要5Gネットワーク機器メーカーの一角としての地位を確立したいと考えている。
 サムスンは白物家電や造船、半導体など、多くの事業分野を支配できるかもしれないが、同社のネットワーク事業は幾度となく成功をつかみ損ねている。
 ファーウェイ製5G機器の禁止措置によって空いた隙間に、サムスンが素早く滑り込むチャンスがあることについて、オーストラリアの第29代首相で2018年に失脚したMalcolm Turnbull氏がうまく要約している。
 Turnbull氏は2019年3月、次のように述べていた。

「西側の首脳陣と議論を重ねる中で、私は、われわれ、特にUKUSA協定締結国の間で、5Gシステムの主要なベンダーが事実上4社に絞られる段階まで達してしまったことへの懸念を提起してきた。2社は中国のファーウェイとZTEで、残りの2社は欧州のEricssonとNokiaだ」
 「今思い返してみると、無線技術を先導した米国と英国、ドイツ、日本、そして、Wi-Fiを先導したオーストラリアの中で、自国の電気通信会社を、国家、またはUKUSA協定締結国を代表する主要5G企業として提示できる国が1つもないのは、信じられないことだ」(Turnbull氏)
 サムスンは2020年までに少なくとも20%の市場シェア獲得を目指して、220億ドルを5Gネットワーク事業に投資している。
 これまでのところ、サムスンは自国では成果を上げている。ファーウェイに暗雲が立ち込めているおかげで、サムスンは切望してきた機器販売台数の増加を今後も達成できるはずだ。
 それと同時に、ファーウェイのスマートフォン事業へのいかなる打撃も、サムスンのモバイル事業にとってプラスの要素でしかない。サムスンはこのところ、5年前のような巨額の利益を上げるのに苦労している。

この記事は海外CBS Interactive発のを朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。


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