「利益剰余金」がトヨタを上回る超リッチな米国企業


決算書のなかの「利益剰余金」というたった1つの科目を確認するだけで、企業の経営成績をたちどころに把握することができます。利益剰余金とは、会社がスタートしてからの利益の蓄積を示すもの。決算書の貸借対照表(バランスシート)の資本の部に計上されます。いわゆる、内部留保です。
 計算はいたって単純。期首における利益剰余金に当期利益をプラスして求めます。

この利益剰余金は、会社の利益を計算する損益計算書(PL)とバランスシート(BS)を唯一つなぐものです。決算書における重要科目の1つです。
 基本的には、利益剰余金を右肩上がりで増やしている企業は、経営が順調に進んでいるといえます。それだけ利益を積み上げているからです。東芝やシャープは、利益剰余金がマイナスに転じた年度があります。巨額の赤字に陥り、それまで蓄積してきた利益剰余金を吐き出したわけです。東芝とシャープはその後、利益剰余金がともに黒字に転じていますが、利益剰余金のマイナスは経営状況の悪化、危険シグナルと読めます。

日本企業の利益剰余金の水準はどれくらいなのか?

 トヨタ自動車の利益剰余金は、2018年度で21兆9875億円。現在の豊田自動織機から分離独立、1937年に旧トヨタ自動車工業として出発してから八十余年分の利益の蓄積です。トヨタの凄さはこの指標に象徴される、といっていいでしょう。自動車業界では、ホンダは約8兆円、日産自動車は4.9兆円で、トヨタに続きます。急上昇しているは通信業界のソフトバンクグループ。4.1兆円のKDDIを上回り、NTTの5.9兆円に迫ってきました。電機大手ではソニー2.3兆円、日立製作所2.2兆円、パナソニック1.5兆円です。赤字転落など経営の低迷状態が続いたことで、3社の利益剰余金は8000億円前後まで落ち込んだ時期があります。このところ回復傾向にありますが、経営低迷の影響が残っており、電機大手3社の利益剰余金の水準は高いとはいえません。東芝は18年度の当期利益が1兆円を超えたことに加え、会計上の処理をしたことで、利益剰余金をパナソニックと同水準まで積み上げました。素材・エネルギーでは日本製鉄とブリヂストンが2.3兆円、JXTGホールディングス(HD)1.2兆円、三菱ケミカルHD1.0兆円です。商社・流通では三菱商事4.3兆円、三井物産3.0兆円、セブン&アイHD2.0兆円。イオンは5611億円にとどまります。金融では三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が10.6兆円です。他グループはやや引き離されており、三井住友FG5.9兆円、みずほFG3.9兆円、日本郵政3.7兆円です。

 主な米国企業の利益剰余金の推移をみていくと

 主な米国企業の利益剰余金についても確認しておきましょう。ここで1つお断りしておきたいのが金額表示。日本企業と比較しやすくするため、1ドル=110円で換算しています。世界的に著名な投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる世界最大の投資持株会社のバークシャー・ハサウェイは、トヨタを上回る35兆円超まで積み上げています。

グーグルを率いるアルファベットは15兆円弱、洗剤や紙おむつ、ヘアケア・スキンケア用品などを手がけるP&Gは11兆円に迫っています。ウォルト・ディズニーと小売り世界一のウォルマートは9兆円前後で推移しています。
 コカ・コーラとペプシコは6兆円台(2018年度)、マクドナルドと半導体のインテルが5兆円台。フェイスブックも5兆円が視野に入っています。フォード・モーターとGMは2兆円台です。これはトヨタはもちろん、ホンダ、日産をも大きく下回る水準です。
 

 新興企業の利益剰余金で注意すべき点は?
 多ければ多いほど経営成績がよく、マイナスへの転落は危険シグナルと判断できる利益剰余金ですが、注意したい点が2つあります。1つは、新興企業の場合です。
 例えばスマホアプリでおなじみのメルカリLINEです。両社の利益剰余金は赤字続きで、いずれも200億円前後のマイナスです。新興企業の場合、企業の成長を目指し、人材や設備に積極的に投資します。その結果、売上高が伸びたとしても、すぐに利益はついてきません。当期利益の赤字が続き、利益剰余金の赤字額も拡大するというパターンです。
 メルカリやLINEの先輩格ともいうべきヤフーや楽天はどんな推移だったのでしょうか。現在の利益剰余金は、ヤフーは8000億円を突破、楽天は4000億円台に乗せています。ヤフーの場合は、親会社ソフトバンクグループの援護もあり、早期の黒字転換が実現しました。一方、楽天が利益剰余金を黒字にするまでには時間を要し、1997年の会社設立から13年後のことでした。
新興企業の場合は、利益剰余金の黒字転換をチェックすることも、企業分析のポイントになるといえるでしょう。


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