「AIに仕事を奪われる」はウソ


2019年5月28日 

佐々木大輔 :freee株式会社 CEO

はっきり言ってこれからの時代、AIに仕事は奪われない。ただ、いつまでも「通用する人材」でいるためには、「変化に強い人材」である必要がある。

では、「変化に強い人材」とはどういう人を指すのか、どうすればなれるのか。
 アップルが世の中で初めてスマートフォンを売り出したときも、5年後か10年後かはわからないけれど、そのうちスマホの時代がくることは、世の中全体としてほぼ明らかだった。そういうときに、「そうなったときの恐ろしさやリスク」にばかり目を向けていては、成長の機会を逸してしまう。

キャリアパスという意味でも、「変化の波に乗るにはどうするか」を考えた方が、先々生き残れる確率は高い。
 そう考えると、これからの時代、いつまでも「通用する人材」とは変化に強い人材であるともいえる。
新しいことを始めるとき、特に今の日本人はリスクをすぐに考えがちではないだろうか。

だが好奇心があれば、ポジティブな面を据えて考えることができる。「面白い考え方だな」「もしかしたら別の考え方があるかもしれない」「それができたら面白そう」などと、好奇心は新しいことに飛び込むハードルをぐっと下げてくれる。
 日本は経済的に豊かになるにしたがって、世の中全体の教育や文化も政策的に整えられてきた部分がある。

国民性もあるかもしれないが、ルールには従順に従わなきゃいけないし、レールから外れるのは良くないといった価値観が、知らず知らず根付いた環境で生まれ育っている可能性は高いのだ。そのことを強く自覚してみる。これはグローバルに見たときのスタートラインに過ぎない。けれども、自分が生まれ育った環境や価値観を強く自覚するかどうかで、ものの捉え方は結構違ってくる。柔軟性も生まれやすい。

 変化に強い自分になるために、メンタルマネジメントも重要かもしれない。

人間だから、心の余裕がないとやはり新しいことは受け入れづらいものだ。

ハッピーなときには、「変なやつがいるけど面白いな」と思えても、イライラしているときは「なんだこいつ」と思ってしまうのも無理はない。変化に強い自分になるためには、変化できる自分を信じることもすごく重要だ。
「AIに仕事が奪われる」と不安を煽る報道や記事、書籍はたくさんあるが、はっきりいってこれからの時代、AIに仕事は奪われない。
 僕の足もとを見ても、AIに仕事が奪われたということはまずない。それは、基本的に世の中全体として人手が足りないから。会計分野においても、経理担当者の仕事がAIに取って代わられるというより、人手が足りなかったところをAIによって乗り越えられたという話しか聞かない。AIに仕事が奪われる以上に、世の中全体の仕事が増えている。これが実態じゃないだろうか。ただ、仕事自体は増えているものの、ある特定の業務だけを見れば仕事が減っているのはもちろん事実だ。

増えているのは、これまでとは質の違う仕事のニーズである。

ここで何が問題かというと、増えている仕事のニーズに対して「応えられる能力が自分にはない、身に付けられない」という思い込みではないだろうか。「私は変化できない」と多くの人が自分を過小評価していることが、社会の大きなボトルネックになっているように思う。
 変化に強い自分になるのと並行して重要なのが、自分の好き嫌いを大事にすることではないだろうか。

というのも、チャレンジを続けるためにも、好きという気持ちが原動力になることは間違いないからだ。

好きなことなら続けられるし、あと一歩を頑張れる。最後の踏ん張りだってきっと効く。好きなことをやっている人の方が、最終的にはやっぱり強いのだ。だからキャリアパスを描く前に、自分の好き嫌いに力点を置いて考える方が、結局はキャリアにも意味があるのではないか。

 盤石なキャリアを描くために、一昔まで重視されていたのは「金、コネ、権力」だったかもしれない。

けれども、今はそういう時代じゃない。お金は余っていてベンチャー投資は活発に受けられるし、何かを成したいという思いが本物なら、必要な人脈はSNSを活用することにより後からついてくる。コネがあるより本物であることが重要だ。

 チームづくりだって、メンバーの持てる力を最大化するために、リーダーが権力で周りを威圧するやり方はむしろ逆効果だろう。

それが今の時代だ。だからこそ余計に、自分は何をしたいのか、何を成し得たいのか、具体的にしておくことが欠かせない。そうして変化についていくために努力を続ける、先手を打つ。

変化を恐れずにそういうことを繰り返していくうちに、おそらく「変化の適応力」みたいなものはしっかり身に付くはずだ。そうなれば、きっといつの時代も「通用する人材」で現役を続けられる。

  * ダイヤモンド記事抜粋


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