対中関税25%でもアップルがiPhoneの中国生産をやめられない理由


スティーブ・ジョブズが2011年に逝去して7年。
アップルは売上を2倍、株価を4倍に、そして2018年8月世界初の時価総額1兆ドル企業となった。
「ジョブズがいなくなったアップルはダメになる」とほとんどの専門家が悲観的予想をしていたにも関わらず、ジョブズ亡き後のアップルは好調に推移していた。
なぜ、ティム・クックはアップルを成長軌道に乗せることが出来たのか。


アップルがそう簡単に中国での生産をやめられない理由

 25%関税が課されるぐらいなら、いっそのことiPhoneの中国生産をやめて、インドやベトナムで生産すべきだという声がある。

しかし、事はそう簡単ではない。アップルと鴻海にとって、中国での生産は単に労働力が安いことだけが理由ではない。

工場を置く自治体から、アッと驚くような補助金や特別措置を受けているのだ。
 例えば、人口約600万人の鄭州市は、鴻海の工場と従業員用住宅の建設のために15億ドル(約1700億円)以上の補助金を鴻海に提供し、鴻海工場の操業開始から5年間は法人税と付加価値税を免除した。さらに次の5年間は、それらの税率の半分だけでいいという取り決めだ。
 そもそも鴻海は、鄭州市との工場誘致の協議段階で、アップル製品の出荷を効率的に行うために工場立地は空港から数キロ圏内にするよう要求。工場は保税特区にして、工場の出入口にはiPhoneの輸出をスピーディーに行うための税関を設けること、とした。

この高飛車な要求を鄭州市はすべて丸のみした。雇用が欲しいからだ。鄭州市は2億5000万ドル(約290億円)を鴻海に貸与し、工場近くの空港では、鴻海のために100億ドル(約1兆1000億円)を投じて大規模な拡張工事まで行った。
 こうしたハードだけでなく、人材供給の面でも破格の対応をしていた。

鴻海の工場で働く労働者の採用も、自治体が人材派遣会社に働きかけて行わせ、しかも、派遣会社が人材のあっせんをすると助成金を出し、さらに労働者の研修まで自治体が行っていた
 鴻海がiPhone製造の急激な立ち上げ時期でも、人手不足を心配しないで済んだカラクリはここにあった。

 経済強国を目指す一党独裁国家だからできる荒業といっても過言ではない。これと同等のものを民主主義国インドなどで簡単に構築できるとは思えない。
 だが、アップルは、簡単に「できないから」という理由で諦める企業ではない。

米中貿易戦争に左右されないサプライチェーンの構築を、クックCEOはしたたかに考えているに違いない。

まだ表に出てきてはいないだけで、これまで苦難を乗り越えてきたアップルとクックCEOは、暴君との接し方も距離の取り方も十分わかっている。

(経営コンサルタント 竹内一正)


メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。